不動産売買契約書とは|作成の流れや記載内容を分かりやすく解説

不動産売買契約書とは|作成の流れや記載内容を分かりやすく解説

不動産売買は、非常に高額な費用がかかるため、あらかじめ不動産売買契約書を売主側と買主側で交わすのが通常です。

もちろん不動産売買契約書を交わさなくてはならないという義務はありません。

しかし、実務的には不動産取引に契約書を作成しないということは基本ありません。

ここでは、不動産売買に必要となる売買契約書について、契約書の見方と作成時の注意点について解説します。

この記事を監修した弁護士
梅澤 康二
梅澤 康二弁護士(弁護士法人プラム綜合法律事務所)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。

不動産売買契約書とは?

不動産売買契約書の基礎知識について紹介します。

不動産売買契約書とは

不動産売買契約書とは、不動産売買における合意・取決めの内容を盛り込んだ契約書です。

売主側と買主側が契約内容に相違がないかを確かめる意味でも重要ですし、契約後のトラブルを回避する意味でも重要な書類になります。

不動産売買契約書の締結は義務ではありませんし、法律上は口約束でも締結可能ですが、実務的にそのような取引はまずありません。

したがって、不動産取引をする際は、まずはきちんとした契約書が作成されるのかどうかを確認してください。

契約書を作成しないという時点で信頼できる取引ではありませんので、そのような取引をおこなうべきではありません。

不動産売買契約の成立日

不動産売買契約の成立日ですが、一般的には売主と買主の双方の意思が合意した時点です。

不動産売買契約書を締結する場合は、売買契約書の作成および締結があった時点で、売買契約が成立したと評価するのが通常でしょう。

不動産売買契約書の必要性

ここでは、不動産売買契約書を交わすことで、どのようなリスクを回避できるのか具体的に不動産売買契約書を交わさないことによりリスクを紹介します。

権利義務が不明瞭

売主と買主との間で、不動産売買契約書を作成する最大の目的は、「権利義務の明確化」が挙げられます。

権利義務とは、売主・買主が不動産売買を交わすとどのような権利が生まれるのか、もしくはどのような義務を負うのかを明確化したものです。

たとえば、一般的には売主は「売買代金を受け取る」という権利が発生し、「売買目的物(不動産)をあらかじめ約束した状態で引き渡す」という義務があります。

一方で、買主側には「売買目的物(不動産)をあらかじめ約束した状態で受け取る」という権利があり、「売買代金を支払う」という義務が存在します。

また、これ以外に不動産取引を巡っては誰が費用を負担するのか、契約違反があった場合どうするのか、対象不動産に問題があったらどうするのかなど取り決めるべき事項は多岐にわたります。

契約書がなければこのような事項について明確なルールがないということになり、トラブルのもととなります。

売主側、買主側ともにやるべきこと、取り決めるべきことについて明確なルールを置くことで、その後のトラブルを防止できます。

契約の証拠が残らない

不動産契約書を買主側と売主側とで、交わすことでその証拠を保全することが可能です。

不動産契約書で契約を締結しなければ、証拠が残りません。

証拠が残らないということは、万が一裁判に発展するトラブルが生じた場合、裁判で事実を立証できなくなります。

このような事態を避けるため、不動産売買契約書を交わし双方で合意した内容はすべて、契約書に追記すべきです。

不動産売買契約書のコピーでも効力はある?

非常に気になることに「不動産売買契約書はコピーでも良いのだろうか?」という点です。

これについては、原本もコピーも、契約の効力は原則として変わりません。

不動産売買契約書の締結は、契約当事者同士の合意によって作成されるものであり、たとえコピーであっても契約当事者の合意を証明できます。

そのため、不動産売買契約書の原本は1通作成し、そこへ収入印紙を貼り、売主には原本のコピーを交付するという方法を用いれば、収入印紙税を節約することも可能です。

しかし、不動産取引のような重要な取引では当事者双方が原本を保持することが通常ですし常識です。

そのため、原本がないということ自体が不利益に働くことはあり得ます。

そのため、不動産売買契約書を2通用意して、双方が原本を保持するようにしましょう。

不動産売買契約を作成する流れについて

ここでは、不動産売買契約を作成する流れについて説明します。

といっても、通常の不動産取引は宅建業者が仲介に入り、当該業者が契約書を作成して提示するのが一般的です。

したがって、以下はそのような流れを想定して簡単に説明します。

1:売買契約書を作成する事業者を選ぶ

不動産売買契約書を作成するにあたっては、まず作成する事業者を選定するところからスタートします。

売買契約書を作成する事業者については、不動産仲介業者が1社のみの場合には、その事業者に作成を依頼するのが一般的です。

また、売主側と買主側の仲介業者が別で、不動産仲介業者が2社いる場合には、双方の業者が取り決め、売買契約書を作成します。

2:売買契約書を作成する

不動産売買契約書を作成する業者が決まったら、次に売買契約書の作成をします。

売買契約書の作成期間特に決まりはありません。

きちんとした業者であれば、契約書や重要事項説明書の作成スケジュール等について十分な説明があると思いますので、適宜確認しましょう。

なお、売買契約書を作成する上では物件の販売図面や最新の登記簿謄本を参考にしたり、必要に応じて法務局や区役所、水道局などの関連機関に確認する必要が生じます。

きちんとした業者であればこの当たりも抜かりなく対応するはずです。

3:売買契約書の内容を確認してもらう

不動産売買契約書の作成は、案として一度作成し、仲介業者が2社の場合は、相手業者にも契約内容を確認してもらいます。

もし、契約条項について疑義が生じたり、文言でもめるような場合は相手と協議が必要です。

4:売買契約書の最終確認をする

双方の業者によって売買契約書の案に合意し、確認が取れたら最終的な契約書を作成し、最終確認をします。

これにて、最終盤の不動産売買契約書として完成です。

不動産売買契約書の作成したい方へ
不動産売買契約書は、トラブルに発展しても権利を証明できるように記載したり、環境によって特例を記載したりしなければなりません。そのため、自身で作成した場合でも相手から契約書を渡された場合でも、そのまま契約せず、一度弁護士にリーガルチェックしてもらうようにしましょう。

不動産売買契約書に記載すべき内容

ここでは、不動産売買契約書に記載するべき内容について紹介します。

あくまで基本的な項目となりますので、契約内容によっては別途追記項目が必要です。

一般的には、不動産会社は、「全国宅地建物取引業保証協会」や「(財)不動産適正取引推進機構」の作成した標準契約書のフォーマットを参考に業者が用意したものを使用することが通常です。

そのため、通常の不動産取引では契約書の内容について当事者双方が入念な協議・交渉をするということはほぼありません。

基本項目は以下のとおりとなります。

<不動産売買契約書の基本項目>

  1. 売買物件の表示
  2. 売買代金、手付金等の額、支払日
  3. 所有権の移転と引き渡し
  4. 公租公課の清算
  5. 反社会的勢力の排除
  6. ローン特約
  7. 負担の削除
  8. 付帯設備等の引き渡し
  9. 手付解除
  10. 引き渡し前の物件の滅失および毀損
  11. 契約違反による解除
  12. 瑕疵担保責任
  13. 特約事項

参考元:公益社団法人 全国宅地建物取引業保証協会

不動産売買契約書の見方について

ここでは、不動産売買契約書の見方について具体的に説明します。

売買の目的物の表示に関する項目

売買の目的物の表示とは、売買契約の対象として、所有権移転をおこなう土地の特定を明確にする記載欄となります。

ここでは、登記簿(全部事項証明書、法務局で取得可)の表題部に記載されたとおりの「所在地」「地番」「地目」「地積」を記載するのが通常です。

悪徳業者の場合、この目的物が当初予定していたものと全く違うというケースもあるそうです。気を付けましょう。

注意点としては、地域によって地番と住所が異なる場合もありますので、入念な確認が必要です。

なお、1つの地番の土地のうち、その土地の一部のみを売却とする場合は、売却対象となる土地部分を明らかにした測量図面を契約書に添付して特定をするのが通常です。

また、売買対象の土地が1つだけでない場合は、すべての土地を記載しなければなりません。

「他〇〇筆」とはせず、1つ1つ正確に「所在」「地番」「地目」「地積」を記載しましょう。

売却対象の土地が複数あり、契約書に明記しきれない場合には、「別紙のとおり」と記入し、別紙に詳細を記入します。

売買代金、手付金の額および支払日に関する項目

売買代金、手付金の額および支払日の項目には、「売買代金の総額」、「土地代金」、「建物代金」、「手付金」を記入してください。

残代金とは、売買代金の総額から手付金を差し引いた額のことです。

手付金を通常5〜20%くらいの間で、当事者の合意に基づき決定します。

なお、宅建業者が土地の売主となる場合には、受領できる手付金の上限が、売買代金の20%以内でなければならないと宅地建物取引業法によって定まっているため、注意が必要でしょう。

なお、残代金の支払い時期ですが、基本的には所有権移転や引き渡し、登記手続きの日と同じ日にすべきです。

これは、所有権の移転や引き渡しをおこなったのに、代金が支払われないなどのトラブルを防止する役割があります。

土地の実測、土地代金の清算の単価に関する項目

対象の不動産に対して、土地の実測売買をおこなう場合には、契約書に実測清算の対象範囲や、代金清算の単価をあらかじめ決定し、明記しなければなりません。

たとえば、「〇〇番〇〇(登記簿面責180㎡)」の土地売買においては、すべての土地を実測清算にする場合、「私道負担のない場合」の項目に「180㎡」と記載します。

その他約定事項について

その他約定事項には、「所有権移転・引き渡し・登記手続きの日」「年度公租・公課負担の起算日」「手付解除の期限」「違約金の額」「融資利用の場合」などの項目があります。

所有権移転・引き渡し・登記手続きの日

「所有権移転・引き渡し・登記手続きの日」は、土地や建物などの売却対象の不動産の所有権移転をおこない、引き渡す際の日付となります。

通常は代金を支払う時期と同じ時期に設定します。

年度公租・公課の起算日

「年度公租・公課の起算日」における不動産売買契約書の公租・公課は、固定資産税と土地計画税等の土地建物にかかる税金のことを指します。

固定資産税と都市計画税は、その年の1月1日時点での所有者に対して、1年分の課税がされるのです。

ただし、通常売買の場合には固定資産税等の決算日に引き渡しがおこなわれるわけではありませんので、通常所有権が移転して、引き渡しがおこなわれた日以降は、買主が支払い、それ以前は売主が負担するのが一般的となります。

起算日の通常は、1月1日起算か、4月1日起算となります。

手付解除の起源

「手付解除の起源」は、民法によると「契約の相手方が契約の履行に着手するまでの間」と明記されています。

しかし、履行に着手するまでの間という表現では、その時期が非常にわかりにくいです。

そこで、こういった契約の不安定な状態を解消するべく区切りとなる時期を決定します。

この手付解除の起源を設けることで、この起源を過ぎると手付解約ができなくなります。

違約金の額

「違約金の額」は、契約の相手方が明確な契約違反をしたときに契約を解除する場合に、違反をされた側は違反した側へ損害賠償請求をおこなえます。

ただ、通常は損害賠償請求をする場合、損害額を証明する必要があり、すごく大変です。

ですので、不動産売買契約ではあらかじめ損害賠償の予定額を定めておき、契約書に記載します。

違約金の額は、売買代金の20%までで設定することが通常です。

なお、宅建業者が売主の場合には、この額が20%を超えてはいけないと、宅地建物取引業法によって定められています。

融資利用の場合

「融資利用の場合」住宅ローンの融資を利用して、不動産を購入する場合には、「ローン特約」「ローン条項」といわれる特約を契約に盛り込むが通常です。

「融資利用の場合」の項目には、万一、ローンの審査に通らなかった場合、代金を支払われない事態を防止するため、金融機関からの融資を受けられない場合には、契約を解除できるという特約事項が盛り込まれています。

融資を利用して、不動産を購入する場合には、必ず契約書に盛り込まなくてはいけない項目です。

ローン特約を利用するには、「融資利用の場合」の項目に、「融資の申し込み先」「融資承認予定日」「融資金額」「融資未承認の場合の契約解除期限」「融資利用に必要な書類の最終提出期限」を記載してください。

瑕疵担保責任、建物状況調査等について

「瑕疵担保責任、建物状況調査等について」は、売買対象となる不動産に、「瑕疵」が見つかった場合、どの程度売主が責任を負うのかを定める欄になります。

たとえば、建物に手抜き作業があり通常の安全性を有していなかったとか、土地に法律上の制限があり予定していた建物を建てられないなどが「瑕疵」に当たります。

ここでは、瑕疵担保責任を負う期間等を明確に定めましょう。

署名・捺印について

ここまで説明した内容を対象となる不動産の売主と買主双方が承認し合意をした場合は、それぞれ指定の欄に住所を記載し、署名捺印をおこないます。

また、宅地建物取引業者が仲介をおこなう場合には、「媒介業者」の指定欄に、必要事項を記入し、押印をおこないます。

約款および特約

不動産の売買契約書の累計として「約款」があります。

約款は売買に関する定型条項を定めたものです。

不動産業者の中には、このような取引約款を設けておりこれを一律に適用して処理するというケースもあります。

約款の内容はその内容について包括的な合意があれば権利義務の根拠となりますので、細かいかもしれませんが、内容をよく確認しましょう。

また、不動産取引について特別に取決めておくべき事項は「特約」として契約書に定めておくのが通常であることは上記のとおりです。

たとえば、売主は対象となる土地にある倉庫を引き渡しまでに撤去するなどの約束事などは特約事項として契約書に明確な形で定めておけば、のちのちこのような費用負担や責任を巡ってトラブルを予防できると思われます。

印紙税の支払い義務は当事者双方にある

不動産取引では、売主・買主の双方が1通ずつ契約書の原本を保有するのが通常です。

印紙は作成した契約書ごとに納付する必要があるため、原本を2通作った場合は、売主・買主それぞれが印紙税を収める(具体的には必要な印紙を契約書に添付する)ことになります。

そのため、不動産取引で契約書を作るという場合、印紙税は売主・買主共に負担することになります。

もっとも、実際の費用負担を誰がおこなうかは合意があればそれに従うことになりますので、必要があれば印紙費用の負担者を契約書で取決めておくのも良いと思われます。

なお、印紙税を納付しているかどうかはあくまで税務上の問題であって、売買契約の効力には一切影響しません。

そのため、印紙がはっていないから契約が無効となるということはありませんので、その点も留意してください。

まとめ

不動産売買契約書は、法律上の義務ではありません。

しかし、契約書を交わさないことで本文にも記載のとおり、多くのリスクを伴います。

対象不動産のトラブルを防止する意味でも、不動産売買契約書を締結しましょう。

この記事の調査・編集者
みーさん
2017年にライターとしてアシロに入社し、主に交通事故とIT分野の執筆に携わる。2019年によりIT媒体の専任ディレクターになり、コンテンツの執筆・管理などを行っている。
    弁護士の方はこちら