売掛金が回収不能な場合の対応とは?企業が取るべき行動を解説

専門家監修記事
相手方が倒産した場合や、任意回収に応じない場合など、売掛金の回収が困難なケースはさまざまです。企業は売掛金の放棄や法的手段の実行など、状況ごとに適切な対応を判断する必要があります。この記事では、売掛金が回収不能な場合に企業が取るべき対応について解説します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
債権回収

売掛金の支払いが行われないケースはさまざまあります。

例えば、自社で請求漏れがあった場合や相手方が支払期限を忘れていた場合など、単純なミスによって生じたものであれば、再チェックや任意回収の実施などによってスムーズに解決できるでしょう。

 

しかしなかには、相手方が倒産した場合や任意回収に応じない場合など、売掛金の回収が困難なケースもあります。売掛金の回収が難しい場合は、以下のような4つの対応が考えられます。

 

  1. 売掛金の放棄・損金処理
  2. 公的融資の活用
  3. 法的手段による回収
  4. 強制執行による回収

 

企業状況に応じて「どの対応が適切か」を判断し、最適な手段を選ぶ必要があります。

この記事では、売掛金が回収不能な場合に企業が取るべき対応について、具体的にどのようなことができるのか、どのような状況で検討すべきか解説します。

売掛金が回収不能な場合の対応

売掛金が回収不能な場合の対応としては、主に以下のものがあります。

・売掛金の放棄・損金処理

・公的融資の活用

・法的手段による回収

・強制執行による回収

ここでは、それぞれの対応内容について解説します。

売掛金の放棄・損金処理

相手方から売掛金を回収できる見込みがない場合の対応として、「売掛金の放棄・損金処理」があります。

 

売掛金はたとえ回収できない場合でも、売上として計上されますのでそのままでは税金が科されます。しかし、売掛金について事実上回収見込みがないという場合、売掛金について権利放棄することで損金として処理できます。

 

当該損金処理を行うと課税所得が処理を行った分について課税を回避することができます。放棄する際は、売掛金を放棄する意思を記載した書類(債権放棄通知書)を作成し、債務者に通知するのが一般的です(必ずしも内容証明郵便である必要はありませんが、権利放棄を行ったことは明確にする必要があります。)。

 

【弁護士監修:記載例】

株式会社××

代表取締役:○○殿

住所:東京都新宿区南

 

債権放棄通知書

株式会社○○(以下「甲」)は、株式会社××(以下「乙」)に対し、令和〇年〇月〇日より令和〇年×月×日現在まで、以下売掛金債権を有しておりましたが、諸般の事情を照らし、本書面を持って以下債権全額(一部の場合は「債権一部」と記載)を放棄致します。

 

 

契約開始日:令和〇年〇月〇日

業務内容・商品:

売掛金額:金1,000万円

納品日・引渡日:令和〇年△月△日

売掛金支払い期限:令和〇年×月△日

 

令和〇年×月×日(放棄する日)

株式会社○○

代表取締役:○○

住所:東京都台東区浅草橋

売掛金の放棄を検討すべき状況

放棄を検討すべき状況は、売掛金の回収が明らかに見込めない時です。また 、「一部のみ放棄」という方法もありますので、放棄にあたっては、自社や相手方の企業状況を十分考慮した上で「本当に回収できる見込みはないか」を判断する必要があります。

 

判断方法としては、弁護士に相手の財産調査を頼むことをおすすめします。また、その後の税金や寄附金に該当するかに関しては、税理士にサポートを受けた方が良いでしょう。

公的融資の活用

相手方から売掛金を回収できず事業に悪影響が生じる場合は、「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」という公的融資を活用するのも有効でしょう。

 

これは日本政策金融公庫が実施している融資制度であり、規定要件に該当する企業は最大1億5,000万円まで融資を受けることができます。あくまで融資であるため返済義務は生じますが、一時的に金銭的・時間的猶予を確保することができます。詳細については「取引企業倒産対応資金」にて確認できます。

 

取引企業倒産対応資金の融資を検討すべき状況

取引企業倒産対応資金では、倒産した企業に対し、50万円以上の売掛金債権を有している場合に利用できます。この他にも利用に当たり5つの条件があり、いずれかに当てはまる場合は利用を検討しましょう。

 

また、返済期間が8年以内になりますので、返済計画を立てた上で利用しましょう。

法的手段による回収

「相手方が任意回収に応じないため回収できていない」という場合であれば、「法的手段による回収」を行うことで回収できる可能性があります。法的手段による回収とは、債務者に対して売掛金を支払うよう求める訴訟を提起したり、この前段階として民事保全手続を行うことを意味します。これらは裁判所の行う法的手続です。

 

裁判所にて請求手続きを行ったのち請求が認められた場合、債権の存在・範囲を記した債務名義を獲得することができます。債務名義を獲得することで、次に解説する強制執行に移ることもできます。

 

主な請求手続きとしては以下のものがあり、それぞれ獲得できる債務名義は異なります。

・訴訟…債務者に対して裁判を行う方法。債務名義に「確定判決」や「仮執行宣言付判決」などがある。

・支払督促…簡易裁判所を介して、債務者に対して金銭などを支払うよう督促する方法。債務名義に「仮執行宣言付支払督促」がある。

・民事調停…調停委員による仲介のもと、債権者と債務者が話し合いをする方法。債務名義に「調停調書」がある。

法的手段による回収を検討すべき状況

法的手段による回収を検討すべき状況とは、相手に支払う資産があるにもかかわらず支払いを回避している場合です。法的手段には、証拠が必要になりますので、証拠の保全から行うようにしましょう。

強制執行による回収

法的手段による回収を行ったものの回収に応じない場合は、「強制執行による回収」を行うこともできます。強制執行による回収とは、相手方の財産などを強制的に差押える方法です。

 

強制執行の実施にあたっては、「確定判決」や「調停調書」などの債務名義を取得している必要があります。ただし強制執行の手続きには一定の時間・費用がかかる上、相手方の状況によっては望み通りの結果が得られないこともあります。

 

強制執行による回収を検討すべき状況

法的手段を行ったのに返済してくれなかったり、あらかじめ債務名義を持っていたりする場合に検討しましょう。相手の口座に残高があれば、一括で回収できる可能性も高まります。

売掛金の時効

特に法的手段による回収を行う場合などは、時効期間についても注意する必要があるでしょう。

売掛金には時効期間が定められており、一定期間が経過して時効が成立すると債権の効力が消滅し、原則回収することはできません。各対応をスムーズに済ませなければ、時効が成立して回収不可能になる可能性もあります。

 

ここでは、売掛金の時効期間や中断方法などについて解説します。

時効期間

売掛金の時効は原則5年と定められており、支払期限の翌日から時効期間を数えます(商法第522条)。ただし、一部の売掛金については個別に時効期間が定められており、以下のように1~3年に定められているものもあります。

 

時効期間

債権種類

根拠条文

1年

運送費

宿泊料

飲食代金

民法第174条

2年

製造業・卸売業・小売業の売掛金

月謝・教材費

民法第173条

弁護士報酬

民法第172条

3年

診療費

建築代金・設計費・工事代金

民法第170条

5年

上記以外の売掛金

商法第522条

中断方法

時効期間は、以下の手段を行うことで中断することもできます。なお、対応内容や中断期間は手段ごとに異なるため、ケースに応じて適切に選択する必要があるでしょう。

 

  • 請求
  • 差押え(仮差押え・仮処分)
  • 債務承認

 

請求

請求は、民事調停・支払督促・訴訟など裁判所を介して行う裁判上の請求のほか、裁判所を介さずに、債務者に対して直接請求を行う裁判外の請求があります。

 

消滅時効の中断効果があるのは裁判上の請求です。裁判上の請求を行い、一定の債務名義が取得することができれば、債務名義で確定した権利については消滅時効が中断し、以降、10年間の新たな消滅時効がスタートします。他方、裁判外の請求にはこのような消滅時効の中断の効力はありませんが、当該請求を行うことで時効完成時期を半年間に限り停止することができます。

 

したがって、時効完成間際であるが、裁判上の請求まで行う時間がないという場合、まずは内容証明郵便などで裁判外の請求を行い、時効完成時期を遅らせつつ、裁判上の請求を行うという処理が一般的です。

 

差押え(仮差押え・仮処分)

債務者の財産などを強制的に回収して金銭に換える差押えや、差押えの前段階である仮差押え・仮処分などを実施することでも、時効を中断できます。

 

この場合、書類提出などの裁判手続きを行ったのち申立てが許可されることで、裁判所によって指定された期間だけ、時効を延長することができます。

 

債務承認

債務者が債務があることを認める行為を行った場合も時効を中断できます。

例として、債務の一部弁済を行った場合や返済延長などの支払猶予を求めた場合、「債務承認書」などの債務支払いに関する文書作成に応じた場合などが挙げられます。

 

債務承認が行われた場合、時効は振り出しに戻り、はじめから数え直すことになります。

なお債務承認は、すでに時効期間を過ぎている場合でも効果を発揮しますので、例えば既に時効が完成しており裁判上の請求をしても時効消滅を主張されてしまうというケースでも、債務者が債務を承認すれば時効は中断し、以後、債務者は「消滅時効が完成した」という主張ができなくなります。

 

そのため、既に時効が完成していても、ダメ元で債務者の債務承認を得られるよう努力することはあり得ます。

消滅時効の効力

債権の消滅時効が完成した場合でも、債権は当然に消滅するものではなく、債務者が時効を援用することで権利消滅の効果が生じます。したがって、上記のとおり、時効完成後、時効援用前に債務者が債務承認を行えば、消滅時効の効力が生じる前に時効中断効果が生じますので、債権回収の余地があります。

 

他方、裁判上の請求については、時効完成後にこれを行っても、債務者は手続内で時効を援用することができますので、時効完成後に請求を行っても、債権回収の余地は乏しいです。したがって、裁判上の請求により時効を中断させたいのであれば、援用の有無・時期に拘わらず、必ず時効完成前にこれを行う必要があります。

売掛金が回収不能な場合は弁護士に相談

売掛金が回収不能な場合の対応はさまざまあります。対応内容によっては望ましい結果が得られず、企業経営に大きな悪影響が生じる可能性もあります。今後の対応については、自社や相手方の企業状況を踏まえた上で、よく考える必要があるでしょう。

 

債権回収に注力している弁護士であれば、現在の企業状況を考慮した上で、「どのような対応を取ればよいのか」について効果的なアドバイスが望めます。さらに弁護士は法律知識・経験も豊富であるため、対応時の法的リスクも軽減できる上、出廷や書類作成などの裁判手続きも任せられます。

 

また時効が迫っている場合など、ケースによってはスピーディな対応が求められることもあります。そのような場合も弁護士に相談することで、これまでの知識・ノウハウを活かした上での対応が期待できるため、スムーズな問題解決が期待できます。「自力で対応することに不安がある」という場合は、弁護士に依頼することをおすすめします。

まとめ

売掛金の回収が困難な場合の対応としては、「売掛金の放棄・経費処理」や「公的融資の活用」などがあります。また、相手方が任意での支払いに応じてくれない場合は、法的手段による回収強制執行による回収などによって回収できる可能性もあります。

 

対応時は、自社だけでなく相手方の状況なども考慮する必要があり、ケースごとに取るべき対応は異なります。また法的手段を実施する際は、必要書類を不備なく準備した上で、出廷などの裁判手続きにも対応しなければなりません。

 

弁護士であれば、ケースごとに適した対応方法に関するアドバイスや、書類作成や出廷など裁判手続きの代理などの幅広いサポートが望めます。特に回収対応に慣れてない場合や、トラブルなくスムーズに進められるか不安な場合などは、債権回収に注力している弁護士に依頼すると良いでしょう。

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