事業承継を弁護士に依頼するメリットと必要性|その役割から実績のある弁護士の選び方まで

専門家監修記事
事業承継を弁護士に相談・依頼するメリットや、意外と知られていない必要性に関する知識をご紹介します。事業承継にあたっては専門家のサポートが必要不可欠です。本記事では事業承継の方法についてもご紹介します。
ベンチャーラボ法律事務所
淵邊 善彦
監修記事
M&A・事業承継

事業承継は、今後の会社の行く末を左右する大きな決断です。そのため、さまざまな不安や課題が出てくるかと思います。中小企業における事業承継に関するアンケートでは、事業を引継ぐ上で苦労した点として、以下のような回答が集まりました。

引用:事業承継支援マニュアル 32P

引継ぎ後に問題なく会社を運営してもらうには、会社の経営方針や今まで築き上げてきたさまざまな資産をスムーズに引き継ぐことがポイントになります。そのためには、専門知識を持つ弁護士や税理士のサポートが必要不可欠です。

事業承継を成功させることは、あなたの会社を守るだけではなく、後継者や従業員、さらには取引先などを守ることにつながります。この記事では、弁護士に依頼する場合のメリットや具体的な役割、費用、状況別の進め方などをご紹介します。

まずは、事業承継の全体像を知るために、中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」、「中小M&Aガイドライン」その他の広報冊子を参考にしてみるのもよいでしょう。

 
ベンチャーラボ法律事務所
淵邊 善彦 (第一東京弁護士会)
ベンチャー・スタートアップ・中小企業のサポート、国際取引、IPOなどに注力しております。弁護士歴30年、これまで積み上げたキャリアと幅広い人脈から、法律をビジネスに生かすためのサポートを行います。
この記事に記載の情報は2024年05月25日時点のものです
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事業承継における弁護士の具体的な役割

事業承継において弁護士の具体的な役割は以下の通りです。

基本的な弁護士の役割

事業承継に関する法律相談

事業承継の計画・進行

社内のリスク管理

各種契約書の確認

役員・従業員への対応

事業承継に関する書類の作成

各種手続きの代行・申請

相続・節税に関する対応

M&Aに関する相談 など

事務所によっては対応できない部分もあるかと思います。相談する際に、どのようなことに対応してくれるかをあらかじめ確認しましょう。

取引先に対する弁護士の役割

取引先や支店などへの説明文の作成・送付

契約書や関連書類の再確認

引継ぎ後に取引先や支店などと上手に付き合っていけるよう、説明などが必要になるでしょう。どのような説明をすべきかを相談できます。また、引継ぎ後に契約書の不備などのトラブルを解決するために、弁護士に再確認してもらうことも可能です。

金融機関や各種機関に対する役割

個人保証契約などの解消・変更

各種名義の変更

現経営者名で個人保証している契約書はすべて保証人を変更する必要が出てくるでしょう。これらの手続きも弁護士に依頼することでスムーズに行うことが可能です。

事業承継を弁護士に依頼する5つのメリット

事業承継を弁護士に依頼するメリットは多々あります。ここでは、主な4つのメリットについてご紹介します。

事業承継の方法や計画を明確にできる

事業承継には、「親族への承継」「従業員への承継」「M&A」と主に3つの方法があります。どの方法が最適なのか迷っている人は、弁護士に相談することで最善の方法が明確になるでしょう。

事業承継に重要な計画も、弁護士に相談しながら立てることで、現実的で適切な期間で実現できるものを作成できます。「事業承継を引き継いだ際の問題」に関するアンケートでは、引継ぎの際に問題になったことを以下のとおり回答しています。

引用元:中小企業白書2017

参考:みずほ情報総研株式会社 「平成30年度中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査に係る委託事業」(2019年3月22日)

後継者のためにも、しっかりと計画を立て準備期間を十分にとった上で実行する重要性が分かるかと思います。期間・費用・全体の流れを明確にできるのは弁護士に相談する大きなメリットです。

M&Aへの対応サポートが期待できる

買い手の選定

M&Aは買い手企業がなければ成立しません。M&A仲介会社は買い手候補に対して売却対象会社を紹介し、M&Aの条件について提案してくれます。この際、「ノンネームシート」「案件概要書」などと呼ばれるごく簡易な資料が買い手候補に対し提供されます。通常はM&A仲介会社が秘密保持契約書を用意しますが、不安であればこの段階で弁護士への依頼を検討してもよいかもしれません。

デューデリジェンス対応

デューデリジェンスとは、買い手企業が売却対象企業のリスク把握・評価のために行う企業調査です。このデューデリジェンスによって発見された、事業に存在・内在するリーガルリスク、会計リスクなどを踏まえて企業価値を算定し、M&Aの対価を決定していくことが通常の流れです。仮に、デューデリジェンスの結果、致命的なリスクが発見されたような場合、この段階でM&Aを中止することもあり得ます。

そこまで大きなリスクではなくても、M&Aの契約上で前提条件や表明保証条項としてリスク回避のための規定を設けたり、対価の調整条項を設けたりします。そのため、デューデリジェンスは弁護士や会計士などの専門家に依頼してこれを実施するのが適切です。

事業承継にかかる時間を短縮できる

事業承継するには、一般的に5~10年の期間が必要とされています。このように長期間になる要因として、後継者の育成が必要になるからです。現経営者に対するアンケートでは、約5割近くが後継者決定後実際に引継ぐまでに1年以上は必要と回答しています。

参考:令和3年度版 事業承継支援マニュアル 23P

また、後継者の育成以外にも、書類の作成・各機関への手続き・社内外への説明などが必要です。弁護士に依頼することで、後継者の育成はできませんが、書類作成や諸々の手続き、社内外へどのように説明するかなどを代理・サポートしてくれます。

その結果、後継者育成に専念できるため適切な期間でスムーズに事業承継することが可能です。また、引継ぎの途中で都度起こるトラブルにも対応してもらえるため、対応に時間を割くこともありません。

相続争いを避けるための対策を講じることできる

事業承継では「会社」という財産を相続するため、親族間や役員間で相続争いが起きる可能性があるでしょう。あらかじめ弁護士に依頼しておけば、そのような相続問題が起こらないよう、予防策を講じてくれます。また、万が一起こってしまった場合でも、解決するための対応を行ってくれるので、ご安心ください。

引き継ぐ前に自社問題を発見できる

事業を引き継いだ後に、今まで見えなかった問題点が発見され、新経営者が大変苦労することもあります。自分の代で整備・解決できる部分は解決してしまうに越したことはありません。弁護士への相談では、自社にどのような問題があるのかを第三者の視点から評価してもらえます。早期に問題が抽出されれば、事業承継の準備とともに、解決に向けて取り組むことも可能です。

事業承継を弁護士に依頼した場合の費用相場

事業承継を弁護士に依頼した場合の費用相場もあらかじめ確認しておきましょう。事業承継に関する費用は、会社の規模や存在的なリスク、どのような方法で事業承継するのかなどによって変動します。

相談料

事業承継相談料は、最初の30分は無料の事務所もありますが、事務所の規模や担当する弁護士の経験年数にもよりますが、基本的に1時間1万円~3万円になります。

着手金

着手金は30万円~が相場になりますが、会社の規模や顧問になっているかどうかなどにより大きく変わります。あらかじめ事務所に確認するようにしましょう。

報酬金

親族・従業員に事業承継する場合

親族・従業員に事業承継する場合、事業承継によって得た利益により報酬が決まる場合と、会社の総資産により報酬金が決まる場合と2通りあります。タイムチャージで受任する事務所もあります。具体的な金額は事務所に異なりますので、依頼前に必ずご相談ください。

M&Aで事業承継する場合

M&Aの場合の弁護士の報酬金は事務所によって大きく異なるので、依頼の際によく相談しましょう。ある程度の大きな規模の会社をM&Aで事業承継する場合、弁護士のほかに、M&A仲介会社やフィナンシャルアドバイザー(FA)に依頼することが望ましいといえます。FAの報酬金の相場(レーマン方式)は以下の通りです。

株式譲渡(売却)価格

報酬金

5億円以下

〜2,500万円

5億円超~10億円以下

2,500万円超〜4,000万円

10億円超~50億円以下

4,000万円超〜1億5,000万円

50億円超~100億円以下

1億5,000万円超〜2億円

100億円超

2億円超

【種類別】弁護士相談から事業承継が完了するまでの流れ

では、「親族・従業員に事業承継する場合」と「M&Aで事業承継する」の2つの流れについてご紹介します。

親族・従業員へ事業承継する場合

親族や従業員へ事業承継する場合、一般的に以下のような流れで進みます。

  1. 事業承継を検討
  2. 弁護士に相談
  3. 現状の分析
  4. 相続財産を評価
  5. 後継者の選定:役員や取引先への説明
  6. 承継方法の決定
  7. 事業承継計画の作成
  8. 計画実行
  9. 事業承継の完了

できるだけ早い段階で弁護士に相談できれば、より多くの選択肢から最善の計画を立てることが可能です。また、事業承継を進めて行くうちに、会社の業績や税制などに変化が起きた場合は、都度軌道修正していくことになります。

M&Aで事業承継する場合

M&Aを利用して事業承継する場合、一般的に以下のような流れになります。

  1. 事業承継を検討
  2. 弁護士に相談
  3. 事業評価
  4. 秘密保持契約の締結
  5. 基礎情報の開示・事前交渉
  6. 基本合意の締結
  7. デューデリジェンス
  8. 条件交渉・最終契約締結
  9. クロージング

M&Aは後継者を育成する必要がないため、親族や従業員に承継するより短期間で成立することがほとんどです。また、後継者の育成がない代わりに双方の合意の上、事業承継後の一定期間、現経営者が顧問などとして会社に残ることも検討する必要があります。従業員の雇用の確保も買い手企業に約束させましょう。

事業承継を依頼する弁護士の選び方

事業承継を弁護士に依頼する場合、どのような弁護士を選べばよいのかについてご紹介します。

対応が早い事務所

依頼する弁護士の対応の速さも重要です。メールを送っても数日以上返信がないなど、対応が遅い事務所はその後の対応も遅いと考えられるため、おすすめできません。事務所の規模や、弁護士・事務員の人数ではなく、電話・メール対応の速さ、説明内容のわかりやすさで事務所を決めることをおすすめします。

事業承継・M&Aの実績がある事務所

企業法務にはさまざまな実務があり、「企業法務が得意」と言っている事務所でも「事業承継やM&Aはしたことがない」こともあり得ます。そのため、企業法務の中でも「事業承継やM&Aに多くの実績がある事務所」を選ぶことが重要です。

各事務所のHPなどで、事業承継やM&Aに対応できるか確認しましょう。企業法務弁護士ナビでは、事務所ごとに確認しなくても、簡単に事業承継やM&Aに得意な弁護士を探すことができます。

M&A・事業承継に実績のある弁護士一覧

自社業界の企業法務の実績がある事務所

業界ごとに適用される法律や商慣習が変わってくるため、弁護士を選ぶ際は、あなたの会社の業界に実績のある弁護士へ依頼することが望ましいでしょう。どのような業界に精通しているかは、各事務所HPやサイト内の解決事例で確認できます。

企業法務弁護士ナビでは、特定の業種に実績のある弁護士を簡単にさがすことができます。

M&A・事業承継に実績のある弁護士一覧

相性が合う・話を聞いてくれる事務所

事業承継は終わるまでに数年といった長い時間がかかるため、弁護士との相性も事務所を選ぶ大きなポイントになります。話を聞いてくれる、親身になってくれる弁護士はもちろんですが、感覚的な部分で相性が合うか合わないかも判断してみてください。

実績があっても相性の合わない弁護士とのやり取りは、ストレスや不満につながりますし、トラブルになる可能性もあります。そのようなことがないよう、依頼前にしっかり話をしてみましょう。

まとめ

事業承継には、長い準備期間がかかる上に、、会社の現状の整理や、後継者の育成、相続の問題など課題は非常に多々あります。不安を抱えながら事業承継することは望ましくありません。

少しでも事業承継を検討した場合、「いつから始めたらよいか」から弁護士にご相談ください。

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