SHARE

コーポレートガバナンス・コードとは?基本原則・最新改訂動向・不祥事事例から学ぶ実務対応などを弁護士が解説

2026.3.17
2026.3.17
コーポレートガバナンス・コードについて、弁護士が実務上の観点も交えながら解説します:①各種原則の概要、②コンプライ・オア・エクスプレインの実務、③第三次改訂の動向、④不祥事事例にみられるガバナンス不全のポイント、⑤弁護士相談が必要な場面まで多角的に解説します。
執筆弁護士
旭合同法律事務所の弁護士のポートレート画像
旭合同法律事務所
弁護士 川村将輝
コーポレートガバナンス・コードとは?基本原則・最新改訂動向・不祥事事例から学ぶ実務対応などを弁護士が解説というタイトルの記事のサムネイル画像

上場企業をはじめとする株式会社において、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化は、今や経営の根幹をなす最重要課題の一つです。とりわけ、2015年に東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)は、日本の上場会社が守るべきガバナンスの基準を体系的に示したソフトローであり、その影響力は上場企業の実務を大きく左右しています。

本記事では、CGコードの基本的な定義や適用範囲から、5つの基本原則の内容、コンプライ・オア・エクスプレインという独自の仕組み、そして現在進行中の第三次改訂に向けた議論まで、コーポレートガバナンスの専門家かつ弁護士の視点から実務上のポイントを詳しく解説します。また、ガバナンス不全が招いた不祥事事例を取り上げることで、法的リスクの深刻さを具体的に示すとともに、弁護士への相談が必要な場面についても整理しています。

本記事のポイント
  • コーポレートガバナンス・コードは東証上場企業に適用されるソフトローであり、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場によって適用原則数が異なります
  • 5つの基本原則(株主の権利・平等性、ステークホルダーとの協働、情報開示と透明性、取締役会等の責務、株主との対話)がガバナンスの柱となっています
  • 「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原則により、原則を実施しない場合は実質的な説明が求められます
  • 現在、第三次改訂に向けた議論が金融庁・東証の有識者会議で進行中であり、CGコードの「スリム化」が主要な方向性とされています
  • ガバナンス不全は民事・刑事・行政上の法的責任を招くため、弁護士による予防的な法務体制の整備が不可欠です
この記事に記載の情報は2026年03月17日時点のものです
目次

コーポレートガバナンス・コードとは?

定義

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)とは、2015年6月に東京証券取引所(東証)が制定した、上場会社のコーポレートガバナンスに関する原則・指針の集成体です。同コードは、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」としてのコーポレートガバナンスを実現するために策定されました。

法的性格としては、金融商品取引法会社法のような強制規範(ハードロー)ではなく、「ソフトロー」に位置付けられます。すなわち、その違反が直接的な法的制裁を招くものではありませんが、東証の上場規程に基づいてコーポレートガバナンス報告書への記載が義務付けられており、原則の実施状況を開示しなければならない実務上の規律を伴っています。2015年の制定後、2018年と2021年に改訂が行われ、現在は2021年6月改訂版が最新版として運用されています。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 CGコードの実質的な位置づけ

CGコードはソフトローですが、その実施状況は東証の上場審査・上場維持管理において確認されるほか、機関投資家の議決権行使判断にも直結します。「ソフトローだから守らなくてよい」という認識は大きな誤りであり、形式的な対応にとどまると投資家からの信頼を失い、株価・資本コストに悪影響を及ぼすリスクがあります。ガバナンス体制の構築・見直しに際しては、法的義務と自主的な実践の両面を整理したうえで、弁護士とともに実効的な対応策を検討することをお勧めします。

市場区分ごとの適用範囲の違い

2022年4月の東証市場再編に伴い、CGコードの適用範囲は市場区分ごとに異なる構造となりました。プライム市場上場会社には、全原則(基本原則5項目、原則31項目、補充原則98項目)が適用されます。機関投資家や海外投資家が多く集まるプライム市場においては、より高度なガバナンスが求められるため、独立社外取締役の比率(取締役会の3分の1以上)や英語での情報開示など、スタンダード市場よりも厳格な要請が課されています。

スタンダード市場上場会社には、プライム市場向けの補充原則を除いた原則が適用されます。グロース市場上場会社には基本原則のみが適用され、原則・補充原則については「参照することが期待される」という位置付けに留まります。新興企業が多いグロース市場では、過剰なガバナンス要請が成長の妨げにならないよう、柔軟な運用が認められています。

市場区分別CGコード適用範囲
市場区分 適用範囲 特記事項
プライム市場 全原則(基本原則5項目、原則31項目、補充原則98項目) 独立社外取締役の比率(取締役会の3分の1以上)、英語での情報開示
スタンダード市場 プライム市場向けの補充原則を除いた原則
グロース市場 基本原則のみ 原則・補充原則は「参照することが期待される」
弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 市場区分ごとに適用の密度や範囲が異なる理由

市場区分ごとに適用原則が異なる点は、法的リスクの所在も変わることを意味します。プライム市場上場会社においてプライム向け補充原則への対応を怠った場合、投資家からの厳しい議決権行使(取締役選任反対等)や、コーポレートガバナンス報告書の記載の不備を問う法的指摘を受けるリスクがあります。市場区分をまたぐ変更(降格・自主的な変更)を検討する際にも、CGコードの適用範囲の変化を含む法的な整理を弁護士に依頼することが重要です。

スチュワードシップ・コードとの関係

CGコードと対をなすのが、2014年に金融庁が策定した「スチュワードシップ・コード」(SSコード)です。SSコードは、機関投資家が投資先企業の持続的成長を促す責任ある株主行動(エンゲージメント)を求めるものであり、CGコードが企業側の行動規範であるのに対し、SSコードは投資家側の行動規範という関係にあります。

両コードは「車の両輪」として機能し、企業と投資家の建設的な対話(エンゲージメント)を通じて中長期的な企業価値の向上と持続可能な経済成長を実現することを共通の目的としています。企業経営者はSSコードに基づく機関投資家からの対話要求・議決権行使に真摯に向き合う姿勢が、実務上求められています。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 SSコードの位置づけ

SSコードに基づく機関投資家との対話(エンゲージメント)においては、未公表の重要事実の伝達がインサイダー取引規制(金融商品取引法166条)に抵触するリスクに常に注意が必要です。対話の場での発言内容・資料については、公平開示ルール(同法27条の36)との整合も含め、弁護士が事前に内容を確認する体制を整えることを強くお勧めします。対話記録を適切に保存しておくことも、後日の法的紛争への備えとして重要です。

コーポレートガバナンス・コードにおける5つの基本原則のポイント

1:株主の権利・平等性の確保

第1基本原則は、上場会社が株主の権利を実質的に確保し、少数株主および外国人株主を含む全株主が平等に取り扱われることを求めています。具体的には、株主総会における適切な情報提供や議決権の実質的な行使機会の確保、政策保有株式の縮減に向けた方針の策定・開示などが求められます。

法的観点からは、会社法上の株主平等原則(会社法109条)と整合するものですが、CGコードはそれをさらに一歩進め、少数株主の意見が経営に反映される実質的なメカニズムの整備を求めています。議決権行使の電子化・英文招集通知の整備など、実務対応の幅は広くなっています。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 政策保有株式について

政策保有株式の縮減をめぐっては、売却先・売却タイミング・売却価格に関する取締役の善管注意義務(会社法330条・民法644条)が問われるケースがあります。また、政策保有先との取引を継続する合理性についても、関連当事者取引に関する事項として、取締役会で毎年報告ないし検証することが求められており、この検証プロセスが不十分な場合はガバナンス上のリスクや実際に上場に際しての指摘事項につながります。縮減方針の策定や個別の売却判断においては、弁護士による法的チェックを受けることをお勧めします。

2:ステークホルダーとの適切な協働

第2基本原則は、株主のみならず、従業員・顧客・取引先・地域社会・環境などのステークホルダーとの適切な協働を求めています。近年のサステナビリティ経営の潮流を受け、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取組みやSDGsとの整合も含め、企業の社会的責任を果たすことが強調されています。

2021年改訂では、気候変動リスクをはじめとするサステナビリティ課題への実効的な対応、および企業文化・風土の醸成(いわゆる「内部通報制度」の実効的な整備など)が新たに強調されました。弁護士の立場からは、特に内部通報制度の整備・運用が不祥事の早期発見と法的リスクの軽減に直結することを強調したいと思います。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 内部通報制度について

内部通報制度については、公益通報者保護法(2022年改正)により、常時使用する労働者数が300人超の事業者に対して内部通報への対応体制の整備が義務付けられています。通報者への報復・不利益取扱いは同法違反となり、行政指導・企業名公表の対象となり得ます。CGコードが求める「実効的な」内部通報制度とは、法的要件を満たすのみならず、従業員が実際に利用できる環境を整備することを意味しています。公益通報者保護法は、2026年10月の改正法施行も予定されており、業務委託社員などにも適用範囲が拡大されるなど拡充が予定されています。こうしたアップデートへの対応を含め運用実務に応え得るサポートが重要ですが、これには社内弁護士を経験した実務に精通した視点を持つ専門家による制度設計のサポートが有効といえるでしょう。

3:適切な情報開示と透明性確保

第3基本原則は、財務情報および非財務情報の適切な開示と透明性の確保を求めています。財務情報については有価証券報告書・決算短信等の法定開示が基軸となりますが、CGコードはそれに加え、経営戦略・リスク管理・コーポレートガバナンスに関する非財務情報の充実した開示を求めています。

2021年改訂以降、プライム市場上場会社においてはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)等の枠組みに基づくサステナビリティ情報の開示が強く求められており、英語による開示も実務上の重要課題となっています。開示の不備や虚偽記載は金融商品取引法上の民事・刑事責任にも直結し得るため、弁護士の関与のもと法的リスクを適切に管理することが不可欠です。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 情報開示における制裁リスク

有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書における虚偽記載・重要な事項の不記載は、金融商品取引法上の課徴金(同法172条の4等)刑事罰(同法197条の2)の対象となります。また、開示情報を信頼して株式を取得した投資家からの損害賠償請求(同法21条の2)リスクも生じます。特にサステナビリティ開示については、「グリーンウォッシング」に該当するような誇張表現が景品表示法や不正競争防止法上の問題を招くリスクもあり、開示前の弁護士レビューが不可欠です。

4:取締役会等の責務

第4基本原則は、取締役会が企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上に向けた役割を果たすべきことを求めています。具体的には、独立社外取締役の実効的な活用、指名委員会・報酬委員会の設置または機能強化、後継者計画の策定、取締役の多様性確保などが求められます。

プライム市場上場会社には取締役会の3分の1以上を独立社外取締役とすることが求められ、実質的な経営監督機能を果たすことが期待されています。監査役会設置会社・指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社の三類型のいずれを採用する場合も、実質的なガバナンス機能の発揮が問われます。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 「独立性」について

独立社外取締役の「独立性」については、東証が定める独立性基準(上場規程436条の2等)に加え、CGコードが求める実質的な独立性の確保が重要です。過去の取引関係・人的つながりが残る候補者を形式的に「独立」と判断した場合、後日の不祥事を契機に独立性の実態が問われ、取締役選任決議の瑕疵や、場合によっては取締役解任の訴えなどの紛争に発展するリスクがあります。独立役員の選定プロセスおよび独立性判断の記録化については、弁護士の助言のもとで行うことを推奨します。

5:株主との対話

第5基本原則は、株主との建設的な対話(エンゲージメント)の促進を求めています。IR活動の充実のみならず、機関投資家との個別対話においてインサイダー情報管理を適切に行いながら、経営課題に関する双方向のコミュニケーションを行うことが求められます。

法的観点では、インサイダー取引規制(金融商品取引法166条・167条)公平開示ルール(同法27条の36等)との整合を図りながら対話を実施することが不可欠であり、弁護士によるアドバイスが実務上の安全弁として機能します。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 現代の株主対応のあり方

株主提案権(会社法303条・305条)の行使が増加する中、株主提案への対応は単なるIR上の問題にとどまらず、取締役の善管注意義務・忠実義務の観点からも適切な対応が求められます。株主提案を不当に拒絶した場合、株主総会決議取消訴訟(会社法831条)に発展するリスクがあります。一方、提案内容が法令・定款に違反する場合や株主権の濫用に当たる場合は拒絶できますが、その判断には高度な法的判断が必要であり、弁護士との対話を通じた検討が重要です。

コーポレートガバナンス・コードのコア概念は?~コンプライ・オア・エクスプレイン~

原則の意義と「説明の質」が問われる背景

CGコードの最大の特徴は、「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」という原則に基づく点です。これは、①原則を実施する(コンプライ)か、②実施しない場合はその理由を十分に説明する(エクスプレイン)かのいずれかを選択できる仕組みです。

この仕組みは、企業の規模・業態・ガバナンス上の成熟度の多様性を踏まえ、一律の強制ではなく自律的な取組みを促すものとして設計されています。しかし、形式的な「実施」や抽象的・定型的な「説明」では投資家の信頼を得られないため、近年は説明の質が強く問われるようになっています。東証も各原則の実施・不実施に関するモニタリングを公表しており、説明が不十分と判断される場合には投資家から厳しい評価を受けるリスクがあります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 遵守の表明が持つ意味

「コンプライ」と表明しているにもかかわらず実態が伴っていない場合、開示の虚偽性・誤解を招く記載として法的問題となり得ます。特に、CGコード報告書の記載内容が実際の取締役会運営・内部統制の実態と大きく乖離している場合、証券取引等監視委員会による情報収集・検査や、株主による説明責任の追及につながるリスクがあります。「形式的コンプライ」の弊害は単なるガバナンス上の問題にとどまらず、法的責任の問題でもあることを強く意識してください。

実践的な「説明」の書き方

原則を実施しない場合の説明(エクスプレイン)は、単に「当社の規模・体制に照らして現時点では実施していない」といった定型文では不十分とされています。実務上求められるのは、①当該原則を実施しない合理的な理由②現状の代替措置・補完措置の内容③将来的な実施に向けた検討状況または実施時期の見通し、の三点を具体的に記載することです。

また、説明の内容は毎期見直すことが望ましく、環境変化や体制強化に伴って「コンプライ」に移行した場合は速やかに更新する必要があります。弁護士の立場からは、説明文の記載内容が虚偽・誤解を招く表現でないか、法的観点から事前にレビューすることを推奨しています。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 説明責任の内容とプロセスの重要性

エクスプレインの内容は、後日の株主代表訴訟における取締役の経営判断の合理性を示す証拠にもなり得ます。「なぜその原則を採用しなかったのか」という判断プロセスと根拠を取締役会の議事録にも明確に残しておくことが、法的防衛の観点から非常に重要です。説明文の作成にあたっては、弁護士が内容の合理性・表現の適切さをレビューし、取締役会の意思決定と連動した記録化を支援することが有効です。

コーポレートガバナンス報告書作成の留意点

コーポレートガバナンス報告書(CG報告書)は、東証の上場規程に基づき、定時株主総会後遅滞なく提出が義務付けられる重要な開示書類です。CG報告書の記載にあたっては、以下の点に留意する必要があります。

第一に、各原則の実施状況を正確に記載し、不実施の場合は質の高いエクスプレインを行うことが求められます。第二に、政策保有株式の状況、役員報酬の仕組み、独立役員の独立性に関する判断基準など、投資家が重視する開示事項を網羅することが重要です。第三に、記載内容と実態の乖離は株主代表訴訟や証券取引等監視委員会の検査対象になりうるため、法的リスク管理の観点から弁護士によるレビューを受けることを強くお勧めします。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 コーポレートガバナンス報告書における変更事項への対応

CG報告書の提出後に重要な変更(役員構成の変更、内部統制上の重大な問題の発覚等)が生じた場合、速やかに訂正報告書を提出することが上場規程上求められます。訂正を怠った場合には、上場契約違約金の賦課や改善報告書の提出命令といった東証による措置の対象となり得ます。また、重大な虚偽記載があった場合には金融商品取引法上の民事・刑事責任も生じ得るため、報告書提出前後の法的管理を弁護士と連携して行うことが重要です。

第三次改訂に向けた議論の動向

改訂が検討されている経緯

2024年末から2025年にかけて、金融庁および東証は「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(令和7年度)を設置し、第三次改訂に向けた議論を開始しました。この背景には、①2021年改訂から約4年が経過し実務の定着状況を再評価する必要があること、②過剰な「形式主義(フォームオーバーサブスタンス)」への批判が高まっていること、③持続的成長とガバナンス改革の両立を図る観点からの見直し要請があること、などが挙げられます。

第三次改訂の方向性:CGコードの「スリム化」

現在の議論では、CGコードの「スリム化」(量的な削減・整理)が主要な方向性として浮上しています。現行コードは原則・補充原則合わせて130項目超に及び、「チェックリスト化」「形式的コンプライ」の弊害が指摘されています。スリム化によって、各企業が真に重要なガバナンス課題に集中し、実質的なガバナンス向上を実現できる環境を整えることが目指されています。

主な論点

現在検討されている主な論点は以下のとおりです。第一に、独立社外取締役の比率要件のあり方(3分の1以上の維持か過半数への引き上げかなど)。第二に、サステナビリティ開示に関する原則のあり方(ISSBやSASBとの整合)。第三に、政策保有株式の縮減に関する要請の強化。第四に、後継者計画・指名プロセスの透明化に関する要請の具体化。第五に、スタンダード市場・グロース市場向け原則の見直しです。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 後継者計画・指名プロセスの透明化について

後継者計画・指名プロセスの透明化は、近年の株主代表訴訟や仮処分申請において争点になりやすい領域です。CEOの解任・後継者選定プロセスが恣意的であったと株主から主張される事例も増えており、指名委員会(または指名委員会に相当する機関)の審議過程・判断根拠を適切に文書化することが法的リスク管理の観点から不可欠です。弁護士が指名プロセスの設計・文書化を支援することで、後日の紛争リスクを大幅に低減できます。

実務担当者に求められる準備は?

改訂の方向性が確定する前であっても、実務担当者は現行の実施状況を棚卸しし、各原則の実施・不実施の根拠を文書化しておくことが求められます。改訂後に求められる追加対応を早期に把握し、取締役会・経営陣への説明資料を準備することが重要です。弁護士・コーポレートガバナンスアドバイザーとの連携により、改訂前後の移行期リスクを最小化することをお勧めします。

コーポレートガバナンス・コードとIPOプラクティスとの関係

上場審査基準との関係

IPO(新規上場)を目指す企業にとって、CGコードへの対応は上場審査の重要な評価要素となります。東証の上場審査においては、コーポレートガバナンスの整備状況(取締役会・監査役会・内部統制・リスク管理体制等)が審査基準に組み込まれており、実態を伴ったガバナンス体制の構築が求められます。特に、グロース市場への上場においては基本原則のみが直接適用されるものの、審査基準においては上場後の持続的な成長とガバナンス向上に向けた体制整備が重視されます。IPO準備段階から弁護士・公認会計士・内部統制コンサルタント等の専門家チームを組成し、ガバナンス体制の構築と法的コンプライアンスを並行して進めることが不可欠です。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 ガバナンス上の指摘事項に対する早期対応の重要性

IPO審査において「ガバナンス上の懸念事項」として指摘される典型例として、①創業者への権限集中と取締役会の形骸化、②監査役・社外取締役の実質的な独立性の欠如、③関連当事者取引の不透明さ、④内部通報制度の未整備、が挙げられます。これらは、場当たり的な対応ではなく継続的な体制の構築と運用の実績が重要視されるため、上場延期や申請の取り下げにつながるリスクがあり、申請の2〜3年前から弁護士とともにガバナンス体制の法的整備を計画的に進めることが、IPO成功の重要な鍵となります。

上場維持基準との関係

上場後においても、東証の上場維持基準(時価総額・流動性・コーポレートガバナンス上の要件等)への継続的な適合が求められます。CGコードの各原則への対応が不十分な場合、東証からの指導や市場区分の見直し要請が行われるケースもあります。2022年の市場再編以降、プライム市場の上場維持基準(流通時価総額100億円以上等)を満たさない企業に対する経過措置が講じられていますが、この期間中もCGコードへの適切な対応は求められており、ガバナンス上の懸念が株主価値に直結することに留意が必要です。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 上場廃止のリスク

上場廃止となった場合、契約上、早期フェーズでの参画をした少数株主に対して投資契約上株式買取請求権の問題が生じる場合があります。買取価格をめぐる裁判所への申立が行われることがあります。また、上場廃止に至る経緯においてガバナンス不全が関与していた場合には、経営陣の責任を問う株主代表訴訟や、情報開示上の問題から金融商品取引法上の責任が問われることもあります。上場維持に困難が生じている局面では、速やかに弁護士に相談し、法的な選択肢と対応策を整理することが重要です。

J-SOXとの関係

J-SOX(日本版SOX法)は、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度であり、上場企業に対し財務報告に係る内部統制の評価・報告を義務付けるものです。CGコードが経営レベルの「ガバナンス構造」を規律するのに対し、J-SOXは業務プロセスレベルの「内部統制の有効性」を保証する仕組みであり、両者は相互補完的な関係にあります。

実務上は、CGコードに基づく取締役会のリスク管理・内部統制への監督機能と、J-SOXに基づく内部統制評価が有機的に連携する体制が求められます。内部統制の重大な欠陥(マテリアル・ウィークネス)の開示は企業信用に重大な影響を与えるため、弁護士・会計士との連携による予防的な体制整備が重要です。

コーポレートガバナンス不全が招いた不祥事事例4選

東芝事件

東芝は2015年に発覚した組織的な利益水増し問題により、歴代3社長が辞任する前代未聞の経営危機に陥りました。社内調査委員会(後に第三者委員会)の調査により、経営幹部が長年にわたり「チャレンジ」と称する利益目標の強制を行い、各部門が不適切な会計処理を行っていた実態が明らかになりました。この事例は、取締役会の実質的な監督機能の欠如、社外取締役・監査役による牽制機能の不全、内部通報制度の形骸化という多重のガバナンス不全が重なった典型例です。法的には、有価証券報告書の虚偽記載として証券取引等監視委員会の調査を受け、巨額の課徴金が課されたほか、株主代表訴訟においても取締役らの責任が問われました。

損保大手によるカルテル問題

2023年に発覚した大手損保会社による保険料カルテル問題は、企業向け保険の入札において、競合他社間で保険料率等の情報を共有・調整していたという独占禁止法違反事案です。財界各社との持合株式関係や旧来的な企業間関係が温床となり、コンプライアンス意識の形骸化が生じていました。この事案では、取締役会によるリスク管理・法令遵守体制の監督機能の欠如が問われ、公正取引委員会による独占禁止法上の排除措置命令・課徴金納付命令のみならず、金融庁による業務改善命令が複数社に発令されました。CGコードが求める透明性確保の観点から、典型的なガバナンス不全事案として記録されています。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 独禁法関連のイシューの影響度と弁護士対応

独占禁止法上の課徴金減免制度(リニエンシー)を活用するか否かの判断は、会社にとって重大な法的・経営的決断であり、早期の弁護士への相談が不可欠です。また、競合他社との情報交換が独占禁止法に抵触するリスクがある場合、事前に弁護士による競争法コンプライアンス研修や社内ルールの整備を行うことで、違反リスクを大幅に低減できます。取締役会はこうしたコンプライアンス体制の整備状況を定期的に確認する義務を負っており、懈怠は善管注意義務違反に問われ得ます。

元行員による貸金庫窃盗事件

2024年に発覚した大手銀行の元行員による貸金庫内現金の長期窃盗事案は、内部統制の重大な欠陥を露呈させました。複数年にわたる窃盗行為が内部監査・管理体制によって発見されなかったことは、業務プロセスレベルの内部統制の機能不全を示しており、J-SOXおよびCGコード双方の観点から重大な問題を内包しています。法的には業務上横領罪が成立するほか、銀行の使用者責任(民法715条)に基づく顧客への損害賠償責任も生じ得ます。経営陣に対しても、内部統制体制の整備義務(会社法348条・362条)の履行が問われる事案です。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 危機管理対応における初動の重要性

この種の内部不正事案が発覚した際の初動対応は、その後の法的責任の範囲を大きく左右します。発覚直後に弁護士を関与させ、①被害の全容把握(社内調査の設計)、②証拠保全、③監督当局(金融庁等)への報告方針の決定、④被害顧客への対応方針の策定、を迅速かつ適切に進めることが不可欠です。事後対応の遅れや不適切な対応は、監督当局による行政処分や顧客からの集団訴訟リスクを高めるため、弁護士への即時相談を強くお勧めします。

オルツ事件

2024年、AI関連スタートアップ企業オルツ(当時グロース市場上場)において、創業者・代表取締役による資金の私的流用・横領疑惑が発覚し、同社は上場廃止となりました。この事案は、スタートアップ企業において創業者への権限集中とガバナンス体制の未整備が引き起こすリスクを典型的に示しています。監査役・社外取締役によるチェック機能が実質的に機能しておらず、IPO後もガバナンス体制の実質化が達成されていなかった点が問題の核心です。グロース市場においてもCGコードの基本原則は適用されており、実効的なガバナンス体制の整備が求められることを改めて確認させる事案です。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 創業株主による経営に対する監視の重要性

創業者・オーナー経営者が支配株主である場合、少数株主保護の観点からCGコードが定める独立役員の実質的機能確保はとりわけ重要です。支配株主と少数株主の利益が相反する取引(関連当事者取引)については、独立役員が主体となって実質的な審査を行い、その過程を記録化することが会社法上の責任回避のために不可欠です。弁護士が独立役員の審査プロセスを支援し、適切な記録・報告体制を構築することが、上場企業としての法的義務の履行につながります。

弁護士への相談が必要な場面と法的リスクの整理

ガバナンス不全の法的責任

ガバナンス不全は、複数の法的責任を同時に惹起し得ます。第一に、会社法上の役員の損害賠償責任(会社法423条:任務懈怠責任、429条:第三者への責任)があります。取締役は、法令・定款の遵守と善管注意義務・忠実義務を負い、内部統制体制の整備義務(会社法362条4項6号)を怠った場合には株主代表訴訟による追及を受けます。第二に、金融商品取引法上の責任として、有価証券報告書等の虚偽記載(同法197条の2)や相場操縦・インサイダー取引(同法157条・166条)に対する刑事罰・民事責任があります。第三に、独占禁止法景品表示法不正競争防止法等の各種規制法令違反による行政処分・刑事責任も生じ得ます。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 役員の法的責任の重さ

取締役の責任軽減制度(会社法425条・426条・427条)役員賠償責任保険(D&O保険)は、ガバナンス不全によるリスクを完全にカバーするものではありません。特に、故意または重大な過失がある場合は責任軽減の適用がなく、D&O保険も免責事由が適用されるケースがあります。ガバナンス体制の不備を放置することの法的リスクは役員個人にも及ぶため、定期的な弁護士によるガバナンス診断を受け、問題点を早期に特定・是正することが役員自身のリスク管理としても重要です。

専門家関与が必要な具体的場面

弁護士への相談・関与が特に必要となる具体的場面として、以下が挙げられます。

  • ①コーポレートガバナンス報告書の記載内容のレビュー
  • ②内部通報制度の設計・運用支援
  • ③不祥事発覚時の危機対応・第三者委員会設置
  • ④株主代表訴訟・株主提案への対応
  • ⑤M&A・経営権争いにおけるガバナンス対応
  • ⑥独立社外取締役の選任・解任プロセスのサポート
  • ⑦市場区分変更・上場廃止リスクへの対応

いずれも事後的な対応では手遅れになりやすい場面であり、顧問弁護士による継続的な体制整備が求められます。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 弁護士ワンポイントアドバイス

不祥事発覚時の第三者委員会の設置・運営においては、調査の独立性・客観性が法的評価の分岐点となります。委員の選定(利益相反のない弁護士・会計士等)、調査範囲の設定、調査手法(関係者のヒアリング・デジタルフォレンジック等)、報告書の開示範囲について、弁護士が主体的に設計・管理することが、後日の訴訟における企業・役員の防衛に直結します。第三者委員会の設置は対外的な信頼回復のための手段でもありますが、その前提として法的に適正な調査プロセスを確保することが最重要です。

上場企業におけるリーガルリスクマネジメントとISO31022

近年、上場企業においては、リスク管理の国際標準であるISO31000(リスクマネジメントの指針)に加え、法的リスク管理の国際規格であるISO31022(リーガルリスクマネジメント)への注目が高まっています。ISO31022は、組織が法的リスクを体系的に識別・評価・対処するためのフレームワークであり、コーポレートガバナンスとの親和性が高い規格です。

上場企業においては、法的リスクの棚卸し(法令遵守状況の定期的レビュー)、リーガルリスクマップの作成、契約管理・訴訟管理の整備、コンプライアンス教育の実施、内部通報制度の実効化という一連のリーガルリスクマネジメント体制を構築することが求められます。これらは単にCGコード対応に止まらず、持続的な企業価値向上と法的リスクの最小化を同時に実現するための経営インフラとして位置付けるべきものです。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 ISO31022とそれに基づく合理的な経営×法務の実装ポイント

ISO31022に基づくリーガルリスクマネジメントを実効的に機能させるためには、法務部門と弁護士が連携してリーガルリスクマップを定期的に更新し、取締役会・監査役会に報告する仕組みが不可欠です。CGコードは取締役会がリスク管理の実効性を監督することを求めており、リーガルリスクの報告ラインを明確化することはその要請に直接応えるものです。顧問弁護士を活用したリーガルリスクの定期的な棚卸しと報告体制の整備を、ガバナンス強化の具体的な一歩としてぜひご検討ください。

まとめ

コーポレートガバナンス・コードは、上場企業が健全な企業統治を実現するための重要なソフトローです。本記事で解説したとおり、CGコードは市場区分に応じた多層的な適用構造を持ち、コンプライ・オア・エクスプレインという独自の仕組みにより、形式的な遵守ではなく実質的なガバナンス向上を求めています。現在進行中の第三次改訂では「スリム化」が主要な方向性とされており、実務担当者には改訂内容の早期把握と先行的な体制整備が求められます。

東芝事件やオルツ事件に代表されるガバナンス不全事案は、経営陣に対する深刻な法的責任と企業価値の毀損をもたらしました。これらの教訓を踏まえ、CGコードの各原則を形式的にこなすだけでなく、実質的なガバナンスの向上を通じて持続的な企業価値創造を実現することが、今日の経営者に求められている本質的な課題です。弁護士によるガバナンス支援は、単なるコンプライアンス対応に止まらず、企業が直面する法的リスクを未然に防ぎ、健全な経営を持続するための予防的インフラとして機能します。コーポレートガバナンスに関する経営課題には、ぜひ専門家への早期相談をご検討ください。

企業法務の解決実績が豊富な
弁護士に問い合わせる
弁護士法人長瀬総合法律事務所 水戸支所
茨城県水戸市城南1−7−5第6プリンスビル7階
【初回相談無料】顧問契約歓迎◎180社以上の顧問経験あり!人事労務や契約書、口コミ削除など問題に尽力/オンライン・電話相談可当事務所の弁護士が貴社の企業法務に全力で対応します!<詳しい料金はページ下部にて>
電話で面談を予約する
電話番号を表示
Web問合せ24時間受信中 LINE問合せ24時間受信中
弁護士 大辻 大佑(岡田・今西・山本法律事務所)
東京都千代田区神田司町2-2-12神田司町ビル6階
経営者の方が事業に集中するためのサポートスタートアップ企業中小企業の企業法務はお任せください◆経営におけるメリットやリスクを的確に判断し、企業の良き伴走者としてお力になります【月3万円(税別)~応相談|顧問契約
電話で問合せる
電話番号を表示
Web問合せ24時間受信中
弁護士齋藤 健博【銀座さいとう法律事務所】
東京都中央区銀座4-5-1聖書館ビル602
【対話を重視したきめ細やかなサポート】年中無休の対応による迅速なレスポンス◆ご依頼者様とのコミュニケーションを大切に、法的リスクを最小限に抑えて問題を適切に対処します【企業の内部問題に注力】
電話で問合せる
電話番号を表示
Web問合せ24時間受信中 LINE問合せ24時間受信中
執筆者
旭合同法律事務所の弁護士のポートレート画像
旭合同法律事務所
川村将輝
2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。
貴社の課題解決に最適な
弁護士とマッチングできます
契約書の作成・レビュー、機密性の高いコンフィデンシャル案件、M&A/事業承継など、経営者同士でも話せない案件も、
企業法務弁護士ナビでは完全非公開で相談可能です。貴社の課題に最適解を持つ弁護士、最大5名とマッチングできます。
弁護士の方はこちら