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患者による医療費の未払いは、病院の経営に大きな影響を与える深刻な問題です。
少し古いデータではありますが、2021年に厚生労働省が公表した医療施設に関する調査結果によると、2021年11月単月における未収金の合計は7億1,490万円となっており、単純計算すると1病院あたりの未収金は119万9,000円にのぼります(令和3年度 医療施設経営安定化推進事業 病院経営管理指標及び医療施設における未収金の 実態に関する調査|厚生労働省研究 )。
最近では訪日外国人による医療費の未払いなども大きな問題となっており、さまざまな視点から対策を講じる必要があります。
たとえ一人あたりの未払い金が少なくても、回収対応を放置しているといつの間にか金額が膨れ上がったり、時効により回収できなくなってしまったりする可能性があります。
本記事では、未払い医療費の回収方法や督促状などの文書の記載例、未払い医療費の時効や未払いを発生させないための対策などを解説します。
医療費の未払いが発生したら、放置せずに速やかに回収に動きましょう。
まずは、医療費の未払い問題について知っておくべきポイントを解説します。
警察には「民事不介入」の原則があり、民事上の紛争には関与しません。
基本的に医療費の未払いトラブルは「民事上の紛争」として扱われるため、警察に相談しても対応は望めません。
このようなケースでは、病院は患者に対して、任意的手段や法的手段などで医療費の支払いを求めていくことになります。
ただし、例外として「はじめから医療費を支払う意思がなく、嘘の住所を申告して未払いにした」というようなケースでは、詐欺罪が成立して警察が動くこともあります。
医療費には消滅時効があり、時効期間を経過して時効が成立した場合、請求権が消滅して医療費を回収できなくなります。
医療費の未払いが発生した際は、時効が成立する前に速やかに回収手続きを進める必要があります。
債権回収に強い弁護士なら、時効を考慮した債権回収戦略を考えてくれるほか、請求対応を代行してもらうこともでき、全額回収に向けて的確なサポートが望めます。
自力で回収できるか不安な場合は、一度相談してみることをおすすめします。
未払い医療費の回収方法に関しては、任意での支払いを求める「任意的手段」と、裁判所を介して支払いを求める「法的手段」の2種類に大きく分けられます。
任意的手段 |
法的手段 |
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まずは任意的手段で医療費の回収を目指し、相手が応じない場合は法的手段に移行するというのが基本的な流れです。
ここでは、各回収方法について解説します。
メールや電話などで医療費の支払いを催促する場合、感情的なやり取りをしても意味がありません。
医療費の支払いを求める根拠を端的に示しつつ、冷静に請求することが重要です。
なお、「相手に催促した」という事実はのちのち裁判などで証拠として使う場合もあるため、たとえば電話で催促する場合はやり取りを録音するなどして、何らかの方法で記録しておきましょう。
電話やメールを送っても反応がない場合は、督促状を送付して支払いを求めましょう。
督促状には、支払いを求める根拠・請求金額・支払い期限などを端的かつ具体的に記載し、もし保証人・連帯保証人がいる場合はそちらにも送付しましょう。
記載方法や用紙などに厳密な決まりはありませんが、一般的には以下のように作成します。
令和7年5月7日 〒000-0000 〒000-0000 医療費のお支払いについて アシロ 花子様 拝啓 ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 さて、令和7年5月3日付でご請求申し上げました医療費(○○円)につきまして、現時点でまだご入金を確認できておりません。 つきましては、令和7年5月30日までに同封のお振込用紙にてご送金くださいますようお願い申し上げます。 なお、本状と行き違いですでにご送金いただいておりました場合には、何卒ご容赦賜りますようお願い申し上げます。 ご不明な点がございましたら、(03-1234-○○○○)までご連絡ください。 まずは取り急ぎお願い申し上げます。 敬具 |
督促状を作成する際は以下の項目を記載しておきましょう。
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できるだけわかりやすく、必要な情報を過不足なく記載することが重要です。
当初決めた支払い期日を過ぎているにもかかわらず支払いがなかったりした場合、内容証明郵便で催告書を送付することも検討しましょう。
内容証明郵便とは、いつ・誰が誰に対して・どのような内容の文書を送ったのかを郵便局が証明してくれるサービスのことです。
内容証明郵便自体に特別な効力があるわけではありませんが、相手に対してそれなりの心理的プレッシャーを与えられる可能性があります。
なお、弁護士に依頼すれば弁護士名義で送付してもらうこともでき、相手に対してより大きなプレッシャーを与えられる可能性があります。
以下は催告書の記載例です。
令和7年6月5日 〒000-0000 催告書 アシロ 花子 様 貴殿におかれましては、当院にて令和7年5月1日から同年5月3日までの間に受診された際の医療費(○○円)が未だにお支払いいただけておりません。 本来、令和7年5月30日までにご入金をお願いしておりましたが、これまでに複数回ご案内を差し上げたにもかかわらず、現在に至るまでご入金が確認できておりません。 つきましては、本書面の到達日より10日以内に、下記口座へ医療費○○円のお支払いをお願いいたします。 なお、上記期限を過ぎてもご対応がない場合には、やむを得ず法的措置(少額訴訟等)を含めた対応を検討せざるを得ませんので、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。 記 金融機関名:○○銀行○○支店 〒000-0000 |
なお、内容証明郵便を利用する場合、以下のような規定に則って作成する必要があります。
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【参考元】内容証明 | 日本郵便株式会社
患者が健康保険に加入しているケースでは、健康保険の強制徴収制度が利用できます。
これは「一定の回収努力をおこなったものの、患者が治療費などを支払わない」というような場合、保険者・保険組合が代わりに徴収してくれるという制度です。
強制徴収制度に関しては、国民健康保険法第42条第2項にて以下のように規定されています(健康保険法第74条第2項にも同旨の規定あり)。
2 保険医療機関等は、前項の一部負担金(第四十三条第一項の規定により一部負担金の割合が減ぜられたときは、同条第二項に規定する保険医療機関等にあつては、当該減ぜられた割合による一部負担金とし、第四十四条第一項第一号の措置が採られたときは、当該減額された一部負担金とする。)の支払を受けるべきものとし、保険医療機関等が善良な管理者と同一の注意をもつてその支払を受けることに努めたにもかかわらず、なお被保険者が当該一部負担金の全部又は一部を支払わないときは、市町村及び組合は、当該保険医療機関等の請求に基づき、この法律の規定による徴収金の例によりこれを処分することができる。
引用元:国民健康保険法第42条第2項
ただし、この制度を利用するためには一定の回収努力を果たしていることを認めてもらう必要があり、催告などを継続して何度もおこなっている事実をメールや書面の記録などで証明していくことになります。
上記の方法では医療費の回収が難しい場合、法的手段に移行します。
民事調停とは、調停委員の仲介のもと、債務の支払いについて裁判所で協議をおこなう手続きのことです。
ただし、民事調停はお互いの合意によって成立するため、相手が支払いに応じなかったりそもそも調停に来なかったりした場合は不成立となります。
民事調停が成立した場合は、双方の合意内容が記載された調停調書を取得できます。
調停調書は確定判決と同一の効力をもっており、もし相手方が調書内容どおりに対応しない場合は強制執行に移行できます。
支払督促とは、簡易裁判所を介して支払いを督促してもらう手続きのことです。
簡易裁判所による督促後、一定期間を経過しても異議が申し立てられない場合は強制執行に移行することが可能です。
支払督促の手続きは書類審査のみで進むため、実際に裁判所に出向く必要がありません。
また、費用についても訴訟の半額で済むなどのメリットもあります。
訴訟とは、医療費の支払いなどについて、最終的に判決によって解決を図る手続きのことです。
裁判で勝訴し、こちら側の主張が認められた場合は強制執行へ移行できます。
なお、請求金額が60万円以下の場合、一般の民事訴訟よりも費用や時間をかけずに手続きを進行できる「少額訴訟」を利用することも可能です。
強制執行とは、強制的に相手方の保有財産を差し押えることで債権を回収する手続きのことです。
「法的手段による回収を試みたものの、債務者が支払いに応じてくれない」というようなケースでの最終手段になります。
強制執行では、主に給料や口座預金などを差し押さえることになりますが、状況によっては自動車や不動産などを差し押さえることもあります。
なお、強制執行をおこなうためには、以下のような債務名義を取得している必要があります。
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ここでは、未払い医療費の時効や、時効の中断方法などについて解説します。
未払い医療費の時効期間は、以下の①・②のうち早いほうが適用されます(民法第166条1項)。
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時効の起算点は「支払期限の翌日」であるため、たとえば支払期限が2025年6月1日の場合は2025年6月2日から数え始めます。
なお、医療費が2020年4月1日よりも前に発生したものであれば旧民法が適用され、時効期間は3年となります。
時効には、これまで進行していた時効期間をリセットして一からカウントを始める「更新」や、時効成立を一定期間先延ばしにする「完成猶予」などの制度があります。
以下では、時効成立を阻止する方法について解説します。
民事調停・支払督促・訴訟などの手続きをおこなう場合、一時的に時効の完成が猶予されます(民法第147条1項)。
その後、こちら側の主張が認められたりして権利が確定した場合、その時点で時効の更新となり、新たに時効のカウントが始まります(民法第147条2項)。
なお、手続きの途中で取り下げたりして権利の確定がなかった場合でも、手続き終了後6ヵ月間は時効の完成が猶予されます(民法第147条1項)。
債務者に対して内容証明郵便を用いて債務の履行を催告した場合、時効の完成が6ヵ月間猶予されます(民法第150条1項)。
なお、内容証明郵便による催告で時効の完成が猶予されるのは1度だけです。
あくまでも一定期間先延ばしになるだけであるため、この間に訴訟などの手続きをおこなって回収を図ることになります。
仮差し押さえ・仮処分とは、差し押さえの実施にあたって債務者が財産処分などをおこなわないよう、あらかじめ財産を固定する手続きを指します。
仮差し押さえ・仮処分をおこなった場合、手続き終了後6ヵ月間は時効の完成が猶予されます(民法第149条)。
債務承認とは、債務者が債務の存在を認める行為のことを指します。
たとえば、以下のような行為が該当します。
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債務者による債務承認があった場合、その時点で時効の更新となり、新たに時効のカウントが始まります(民法第152条1項)。
未払い医療費の時効期間を過ぎたからといって、必ずしも回収できなくなるわけではありません。
時効成立のためには、時効期間の経過後に債務者が債権者に対して「時効のため支払いません」という意思表示をおこなわなければならず、これを「時効の援用」と呼びます(民法第145条)。
時効期間を過ぎていても時効の援用がおこなわれていない場合は、諦めずに請求を続けましょう。
医療費を支払っていない患者が再診を受けに来た場合、病院側としては拒否したくなるのも当然です。
しかし、医師には医師法第19条で「診察を求める患者に対し、正当な理由なく拒否してはならない」という応召義務が定められています。
「十分な支払能力があるにもかかわらず支払いを拒否している」というようなケースでないかぎり、医療費の未払いを理由に診察を拒否することはできません。
1949年に厚生労働省が通達した「病院診療所の診療に関する件」でも、「医療費が未払いであっても、これによって診察拒否することはできない」との旨が示されています。
医療費の未払いはいつ発生するかわからないものであり、事前に対策を取っておくことが大切です。
ここでは、医療費の未払い対策について解説します。
医療費を支払わない方の中には、医療費を踏み倒すために虚偽の住所や氏名などを記載する方もいます。
必ず保険証を提出してもらって身元を確認しましょう。
「保険証がない」「保険証を忘れた」というような方に対しては、運転免許証やパスポートなどの身分証明書の提出を求めましょう。
「たまたま今は手持ちがない」「あとで必ず支払う」などと言われたとしても、誓約書を作成して署名してもらいましょう。
誓約書を作成しておくことで、未払いの状態が続いて裁判などに発展した場合には証拠として利用できます。
以下は誓約書の記載例です。
誓約書 アシロ病院 御中 私は、貴病院にて令和7年5月1日から令和7年5月3日まで治療を受けましたが、本日現在、下記の医療費を支払っておりません。 つきましては、下記の支払期限までに、下記の方法でお支払いすることをお約束します。 1.未払い医療費:5万円 ※振込先口座 年 月 日 住所 |
医療費を支払えない人に対しては、連帯保証人をつけてもらうのも有効です。
連帯保証人をつけてもらうことで、医療費の未払いが発生した際は連帯保証人に対して支払いを求めることが可能です。
なお、連帯保証人を設定する際は、住所・氏名・電話番号・保証限度額・保証の対象範囲などを記載した「連帯保証契約書」を交わして署名してもらいましょう。
患者さんによっては、普段はキャッシュレス決済を利用することが多く、あまり現金を持ち歩いていないという方もいるでしょう。
スマホ決済・クレジットカード・デビットカード・交通系ICカード払いなど、支払方法を増やしておくことで未払いを防止できることもあります。
最近では、訪日外国人による医療費の未払いなども問題になっています。
訪日外国人の場合、医療費が未払いのまま帰国してしまったりして回収が困難になることもあります。
医療費の未払いトラブルの対策としては、主に以下のようなものがあります。
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医療費の未払いが発生した際は、速やかに回収に動きましょう。
回収方法としては任意的手段や法的手段などがありますが、直接連絡しても支払ってくれない場合は早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士なら、回収戦略のアドバイスが望めるだけでなく、患者とのやり取り・催告書や督促状の作成・裁判手続きなどの回収対応を一任でき、早期解決が望めます。
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