カスハラ被害に悩む企業へ ― 弁護士が解説する法的対応と予防策

専門家執筆記事
カスタマーハラスメント(カスハラ)に悩む企業必見。弁護士が法的対応から予防策まで徹底解説。相談のタイミングや実例も紹介します。
旭合同法律事務所
川村将輝
執筆記事
クレーム・不祥事

カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は、顧客の過度な要求や暴言・威圧的言動によって従業員の心身を疲弊させ、企業の事業継続にも深刻な影響を与える社会問題です。

厚生労働省が2022年に提示したカスハラ対策マニュアルの公表以降、企業規模を問わず「顧客だから」という理由で不当な要求を受け入れてきた慣行を見直す動きが加速しています。

本記事では、企業法務に精通した弁護士の視点から、カスハラの実態と法的リスク、そして弁護士を活用した実効的な対策を詳しく解説します。

本記事のポイント

  1. カスハラの定義と代表的な類型、社会的背景を整理
  2. 労務・人事・レピュテーションの三位一体リスクを可視化
  3. 「問題顧客対応・従業員ケア・社内フロー整備」という三つの軸で対応指針を提示
  4. 予防策と発生後の対応策を体系的に紹介
  5. 弁護士の関与方法別(顧問・受託・社内)のメリットを比較
  6. 実際の対応事例を基に、弁護士活用の具体的効果を示す

カスハラとは?主な類型と社会的背景

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そもそもカスハラとは何か、どのようなパターンやカテゴリーがあるのか、これまでの法整備の背景などを解説します。

カスハラの定義

カスハラの定義について、厚生労働省の取りまとめた「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によれば、次のように示されています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

出典:厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』7ページ(以下、同マニュアルを「カスハラ対策企業マニュアル」と表記)

ポイントとして、①顧客等からのクレーム・言動を広く射程範囲としている点です。

厚労省の示す定義の中で、「顧客等」には商品・サービスを現に利用した・している者だけでなく、今後サービスを利用する可能性がある潜在顧客を含むものとしています。

2つ目に、②当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らし、顧客等が事業者などサービスの提供主体に対して要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であることが行為としての成立要件とされています。

顧客等による要求の内容が著しく妥当性を欠く場合には、手段・態様に関わらず社会通念上不相当になる可能性が高く、一方で要求内容の妥当性がある場合でも実現手段や態様が悪質なものであれば社会通念上不相当であると評価されうると考えられています。

3つ目に、③手段・態様により労働者の就業環境が害されるという害悪の存在が定められています。

ここにいう就業環境への阻害性は、労働者が人格や尊厳を侵害する言動によって身体的・精神的に苦痛を与えられたことで就業環境が不快なものとなり、個人能力の発揮に重大な悪影響があり就業環境として看過できない程度の支障が生じることを指すものとされます。

また、日本においてカスハラに関する規制の先駆け的に、東京都が定めたカスタマーハラスメント防止条例が今年、令和7年4月1日に施行されました。

その中で示されている定義が、次のとおりです(太字部分は筆者による)。

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 事業者 都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人をいう。

二 就業者 都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)をいう。

三 顧客等 顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係する者をいう。

四 著しい迷惑行為 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。

五 カスタマー・ハラスメント 顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。

定義がいくつかの用語によって組み合わされていることから、複数の用語が定義されています。

ポイントとしては、主体と客体(顧客等から就業者に対する行為であること)、業務関連性(業務に関して行われた行為であること)、行為の態様・性質(著しい迷惑行為)、そして就業環境の阻害性という4つの点です。

厚労省による定義との違いとして、2つ挙げられます。

1つが、「顧客等」の概念についてです。

既存のサービス利用者はもちろんその周辺部分を含む点は共通しますが、就業者の業務との密接関連性という規範を立てていることが違いとして挙げられます。

2つ目として、行為要件を「著しい迷惑行為」と定め、暴行、脅迫その他これらに類するような違法性を帯びる行為か、正当な理由のない過度な要求や暴言などの不当性という規範を立てている点です。

このように、厚労省によるカスハラ対策企業マニュアル及び東京都のカスハラ防止条例の規範とで形式的な差異はあるものの、行為の態様・性質や顧客等による要求の妥当性を客観的に判断する枠組みであって、特に「常軌を逸している」と評価されるべきものを対象としている点は共通すると考えられ、帰結として実質的な差異は生じにくいといえるでしょう。

なお、企業や業界により、顧客等の層や性格、それによって想定されるクレームや要求・言動の内容も異なると考えられ、それによっても企業側のカスハラに対する認定や対応策としても自ずと違いが生じてくる可能性があります。

そのため、カスハラは、一義的な概念ではありません。

そこで、カスハラとして想定される行為にも、いわゆるセクハラやパワハラなどの他のハラスメント概念と同様に、類型的な整理が有用であると考えられます。

カスハラの主な類型

カスハラの主な類型として、次のようなものが考えられます。

暴言・威圧型は、最も一般的なカスハラの形態です。

従業員に対する人格攻撃、差別的発言、大声での威嚇、長時間の拘束などが含まれます。

「バカ」「クズ」といった人格否定の言葉を浴びせたり、「責任者を出せ」「謝罪しろ」と執拗に要求したりする行為が典型例です。

この類型は、従業員の精神的健康に深刻な影響を与えることが多く、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病の原因となることもあります。

不当要求型は、社会通念上受け入れ難い過度な要求を行うものです。

無料でのサービス提供、規則や法律に反する対応、商品の無償交換や返品、金銭的補償の要求などが含まれます。

たとえば、軽微な不備に対して法外な損害賠償を請求したり、企業の規定を無視した特別対応を強要したりする行為です。

物理的威嚇型は、暴力的な行為や物理的な威嚇を伴うものです。

従業員への暴行、器物破損、土下座の強要、店舗での騒乱行為などが該当します。

この類型は刑事事件に発展する可能性が高く、企業としては警察への通報も含めた迅速な対応が求められます。

執拗要求型は、同じ内容の要求を何度も繰り返したり、長時間にわたって要求を続けたりするものです。

解決済みの問題を蒸し返す、複数の部署や担当者に同じ要求を行う、営業時間外や休日にも連絡を取り続けるといった行為が含まれます。

SNS拡散脅迫型は、近年増加傾向にある新しい類型です。

「SNSで拡散する」「動画を投稿する」「マスコミに訴える」といった脅しを用いて、企業に不当な要求を受け入れさせようとする行為です。

デジタル社会の特徴を悪用した悪質な手法として問題となっています。

このように、カスハラには、犯罪に該当しうるものから、犯罪には当たらないものの民事上不法行為に該当しうるもの(違法性があるもの)、違法性があるとまでは断定できないものの商品・サービス及び契約内容にないことや社会通念上妥当性を欠くものなど、様々です。

カスハラに関する法整備の進展

カスハラ問題に対する法整備は、近年急速に進んでいます。

厚生労働省は、2022年2月に先に紹介したカスハラ対策企業マニュアルを策定し、企業が取るべき対応策を具体的に示しました。

このマニュアルでは、カスハラの定義から予防策、対応策まで包括的にカバーされており、企業の実務担当者にとって重要な指針となっています。

地方自治体レベルでも対策が進んでおり、東京都では2023年10月に「カスタマーハラスメント対策推進事業」を開始し、企業向けの相談窓口設置や啓発活動を行っています。

そして、既に述べたように、今年4月1日からカスハラ防止条例が東京都で施行されています。

大阪府や愛知県などでも同様の取り組みが展開されており、全国的な対策強化の流れが見られます。

カスハラに伴うリスクとは?

カスハラに伴い、事業者にはどのようなリスクがあるでしょうか。

労務、人事、商品やサービスのレピュテーションの3つの観点からみていきます。

労務面のリーガルリスク

カスハラが企業にもたらす労務面のリーガルリスクは多岐にわたり、その影響は深刻です。

最も重要なリスクの一つが安全配慮義務違反による損害賠償責任です。

企業は労働契約に基づき、従業員が安全で健康的な環境で働けるよう配慮する義務を負っています。

この安全配慮義務は、物理的な安全だけでなく、精神的な健康についても及ぶとされています。

カスハラによって従業員が精神的な疾患を発症した場合、企業が適切な対策を講じていなかったと判断されれば、治療費、休業損害、慰謝料などの損害賠償を請求される可能性があります。

裁判例(甲府地裁平成30年11月13日)では、市立の小学校の教師がいわゆるモンスターペアレントのような保護者からの理不尽な言動を受けたのに対し、校長が教師側を一方的に非難し、事実関係の正確な把握や教師側への配慮をすることなく、教師に保護者への謝罪を要求したことについて国家賠償が問われた事案において、学校側の賠償責任が認められました。

また、カスハラによる精神的疾患が業務起因性ありと認定されれば、企業は労災保険料率の上昇やメリット制の悪化といった経済的負担を負うことになります。

労災認定された事案は労働基準監督署による調査の対象となり、職場環境の改善命令が出される可能性もあります。

労働組合が組織されている企業では、カスハラ問題が労使交渉の争点となることもあります。

従業員の安全と健康を守るための具体的な対策について、労働組合から団体交渉を申し入れられる可能性があり、適切な対応策を用意していない場合は交渉が長期化するリスクがあります。

人事面のリスク

最も直接的な影響は従業員の離職率上昇です。

カスハラを受けた従業員は、精神的ストレスから職場への不信感を抱き、転職を選択するケースが多くなります。

優秀な人材の流出は企業にとって大きな損失です。

経験豊富な従業員が離職することで、業務の継続性が損なわれ、新人研修や引き継ぎコストが発生します。

また、カスハラ問題で話題となった企業は求職者からの評価も下がり、新たな人材の確保が困難になる可能性があります。

従業員のモチベーション低下も深刻な問題となります。

カスハラを受けた従業員だけでなく、同僚や部下も職場環境への不安を感じ、業務に対する意欲が減退します。

このような状況では、サービス品質の低下、生産性の減少、チームワークの悪化といった問題が連鎖的に発生します。

メンタルヘルス不調による休職者の増加も人事面の重要なリスクです。

カスハラによってうつ病や適応障害を発症した従業員が長期休職に入ることで、人員不足が発生し、残された従業員の負担が増加します。

これにより、さらなるメンタルヘルス不調者が発生するという悪循環に陥る可能性があります。

レピュテーションリスク

SNSでの炎上リスクは特に深刻です。

カスハラ加害者が自らの行為を正当化するために、企業の対応を一方的に批判する投稿を行うケースが増えています。

このような投稿が拡散されることで、事実と異なる情報が独り歩きし、企業の評判が大きく損なわれる可能性があります。

一度炎上した情報はインターネット上に長期間残存し、企業ブランドに長期的な悪影響を与え続けます。

マスメディアによる報道リスクも重要な要素です。

カスハラ問題が社会的な関心を集める中、企業の不適切な対応は報道機関の注目を集めやすくなっています。

従業員への配慮を欠いた対応や、カスハラ加害者への過度な迎合は、「ブラック企業」としてのレッテルを貼られるリスクを高めます。

顧客離れのリスクも無視できません。

カスハラ問題への対応を通じて企業の価値観や従業員に対する姿勢が明らかになるため、適切な対応を行わない企業に対して良識ある顧客が離れていく可能性があります。

特に若い世代の消費者は企業の社会的責任を重視する傾向が強く、従業員を守らない企業の商品・サービスを敬遠する傾向があります。

さらに上場企業の場合、カスハラ問題による企業イメージの悪化は株価の下落要因となる可能性があります。

投資家は企業の持続可能性を重視するため、従業員の離職率上昇や生産性低下につながるカスハラ問題は、投資判断に負の影響を与えることが予想されます。

カスハラへの適切な対応における3つの軸

カスハラに対し、企業側がどのように対応すべきかについて、問題顧客への対応対応した社員へのケア、そして社内での対応フローの整備の3つの観点から解説します。

問題顧客への対応

問題顧客への効果的な対応のためには、段階的かつ体系的なアプローチが必要となります。

初期対応の段階では、まず冷静さを保ちながら顧客の話を聴くことが重要です。

ただし、これは無制限に要求を受け入れることを意味するものではなく、事実関係を正確に把握し、要求内容の妥当性を冷静に判断することを目的とします。

この段階で重要なのは、感情的にならず、記録を残すことです。

次に、要求内容の分析と線引きです。

顧客の要求が正当なものか、それとも社会通念上不相当なものかを客観的に判断する必要があります。

正当な要求に対しては誠実に対応する一方で、不当な要求に対してはきっぱりと断る姿勢が必要です。

この判断基準を明確にし、全社で共有することで、一貫した対応が可能になります。

対応の記録化と証拠保全も欠かせません。

カスハラ事案では、後日事実関係が争われることが多いため、会話の内容、日時、担当者、顧客の態度や発言などを詳細に記録する必要があります。

可能な場合は録音も検討すべきですが、事前に相手方の同意を得るか、法的な要件を満たす形で実施する必要があります。

組織的な対応として、エスカレーション体制の構築も重要です。

目的は、窓口として対応した現場の担当者を1人にしないことです。

対応が困難な場合には、速やかに上司や専門部署に報告し、組織的な対応に移行する仕組みが必要とされます。

エスカレーションの基準を明確にし、担当者が躊躇なく報告できる環境を整備することが重要です。

対応した社員へのケア

カスハラ対応において、実際に対応にあたった社員へのケアは極めて重要です。

適切なケアを怠ることで、従業員の精神的健康に深刻な影響を与え、企業の安全配慮義務違反にもつながる可能性があります。

まず、即時のメンタルヘルスケアが最優先事項です。

カスハラを受けた従業員は、強いストレスや不安を感じているため、事案発生後は速やかに従業員の心理状態を確認し、必要に応じて専門的なカウンセリングを提供する必要があります。

産業医や外部のEAP(従業員支援プログラム)サービスとの連携体制を事前に構築しておくことが重要です。

上司や同僚からのサポート体制も不可欠です。

カスハラを受けた従業員が孤立感を感じないよう、チーム全体でサポートする環境を作る必要があります。

ただし、この際に「お客様だから仕方ない」「もっと我慢すべき」といった従来型の対応は絶対に避ける必要があります。

従業員の人権を尊重し、カスハラは決して許されない行為であることを明確に示すことが重要です。

業務負担の軽減も、重要な配慮の1つです。

カスハラを受けた従業員は、精神的な負担から通常の業務にも支障をきたす可能性があります。

一時的に業務量を調整したり、顧客対応から外したりといった配慮を行うことで、従業員の回復を支援できます。

社内での対応フローの整備

カスハラ問題に組織的に取り組むためには、明確な対応フローの整備が不可欠です。

まず、カスハラ事案の定義と判断基準を明確にする必要があります。

どのような行為がカスハラに該当するのか、どの程度の要求が不当とみなされるのかについて、具体例を交えながら基準を設定します。

この基準は現場の担当者が迷わず判断できるよう、できる限り具体的で分かりやすいものにする必要があります。

報告体制の構築も重要な要素です。

カスハラ事案が発生した場合の報告先、報告方法、報告期限を明確に定める必要があります。

報告を受ける部署や担当者を指定し、24時間体制での対応が必要な場合は緊急連絡体制も整備します。

また、報告者が不利益を受けないよう、守秘義務や報復防止の仕組みも併せて整備することが重要です。

対応レベルの分類と対応方針の策定もポイントです。

カスハラの程度や内容に応じて対応レベルを分類し、それぞれのレベルに応じた対応方針を事前に定めておきます。

軽微なケースから深刻なケースまで、段階的な対応ができるよう詳細なマニュアルを作成します。

関係部署との連携体制も重要です。

人事部、法務部、広報部、セキュリティ部門など、カスハラ対応に関わる可能性のある全ての部署との連携体制を構築します。

それぞれの役割と責任を明確にし、スムーズな情報共有と対応ができる仕組みを作ります。

カスハラへの予防策・対応策

カスハラに対する予防策と対応策について、具体的にはどのようなものが考えられるでしょうか。

予防策

カスハラの対策においては、実際の対応策以上に、従業員の心理的安全確保の観点から、予防策が重要です

例えば、CSなど顧客対応部門とのケーススタディの実施は、極めて効果的な予防策の一つです。

実際に発生したカスハラ事案や他社の事例を基に、ケーススタディを定期的に実施することで、現場担当者の判断力向上と対応スキルの向上を図ることができます。

ケーススタディでは、事案の背景、顧客の心理状態、対応の選択肢、それぞれの対応がもたらす結果などを多角的に分析します。

参加者がロールプレイを通じて実際の対応を体験することで、理論だけでは得られない実践的なスキルを身につけることができます。

前記のとおり、社内でのカスハラ対応の仕組み化として、カスハラ事案発生時の対応フローやマニュアルの整備は、組織的な予防策として不可欠です。

明確で実用的なマニュアルがあることにより、現場担当者は迷うことなく適切な対応を取ることができ、カスハラの拡大を防ぐことにつながります。

マニュアルには、カスハラの定義と判断基準、対応の基本原則、段階別の対応方法、エスカレーション基準、記録の取り方、関係部署への連絡方法などを具体的に記載することが重要です。

とりわけ、カスハラは一様ではなく、具体的な場面で社員が「こんなパターンでどうしたらよいか」など実際に直面したときにパニックになってしまう恐れもあります。

そこで、よくある質問と回答集(FAQ)でケースレベルに落とし込んだものを構築し、現場担当者が即座に参照できるようにする工夫も考えられます。

社内での定期的な研修実施やロールプレイは、従業員のスキル向上と意識啓発の両面で重要な役割を果たします。

年1回以上の定期研修を実施し、カスハラに関する基礎知識、対応技術、法的知識などを体系的に学習する機会を提供します。

研修では、講義形式だけでなく、グループディスカッションやロールプレイを積極的に取り入れることで、参加者の相互的な理解度向上と実践的なスキル習得を図ります。

複数人で知恵を出し合うことで、心理的な共感や安心感も生まれてきます。

特にロールプレイでは、様々なパターンのカスハラ事案を想定し、参加者が実際に対応を体験することで、現実的な対応能力を身につけることができます。

対応策

実際にカスハラが起きた際の対応策は、従業員が顧客への真摯な対峙により疲弊しないよう、システマティックで形式的な対応をできるようにすることが重要です。

そのため、マニュアルに沿った対応は、対応策の基本となります。

事前に整備されたマニュアルに従って一貫した対応を行うことで、対応品質の標準化と担当者の負担軽減を実現できます。

マニュアルには、初期対応から最終解決まで、各段階での具体的な行動指針を明記します。

マニュアル対応だけでは解決が困難な特殊なケースについては、速やかにエスカレーションする判断基準も明確にしておく必要があります。

現場担当者が一人で抱え込まず、組織的な対応に切り替えるタイミングを明確にすることで、問題の深刻化を防ぐことができます。

「対応する」範囲の線引きと形式的な対応は、カスハラ対策において極めて重要な要素です。

企業として対応すべき範囲を明確に定義し、その範囲を超える要求に対しては毅然とした態度で断ることが必要です。

対応範囲の線引きでは、法的義務、契約上の義務、社会通念上の合理性などを基準として判断します。

これらの基準を超える要求については、たとえ顧客からの強い圧力があっても応じないという姿勢を明確にします。

録音などの証拠保全は、後日の紛争に備えて不可欠な対応策です。

カスハラ事案では、事実関係が争点となることが多いため、客観的な証拠の保全が重要になります。

録音を行う場合は、法的な要件を満たす形で実施する必要があります。

そこで、原則として相手方の同意を得ることが望ましいですが、業務上の必要性がある場合や、従業員の安全確保のために必要な場合は、事前に録音する旨を告知した上で実施することも可能です。

録音以外にも、会話の詳細な記録、メールやSNSでのやり取りの保存、防犯カメラの映像保全など、様々な形での証拠保全を検討するのが有用でしょう。

カスハラへの対応における弁護士の必要性と役割

カスハラへの対応においては、弁護士による対応が効果的です。

その必要性と役割について、解説していきます。

カスハラ事案発生時の対応

事案発生直後の初期対応段階では、弁護士は事実関係の法的整理を行います。

顧客の要求内容や行為態様を法的観点から分析し、カスハラに該当するか否かの判断を行います。

この判断は、その後の対応方針を決定する上で極めて重要な基礎となります。

法的リスクの評価も弁護士の重要な役割です。

カスハラ事案では、企業側の対応によって様々な法的リスクが生じる可能性があります。

安全配慮義務違反、不法行為責任、労働契約上の責任など、多角的な観点からリスクを評価し、適切な対応策を提示します。

証拠保全の指導も弁護士の専門領域です。

どのような証拠をどのような方法で保全すべきか、法的証拠能力を確保するためにはどのような手続きが必要かなど、専門的な知識に基づいたアドバイスを提供することができます。

そして、適切な証拠保全により、後日の紛争において企業の主張を裏付けることが可能になります。

さらに、対応方針の策定に際しては、どこまでが企業の責任範囲で、どこからが顧客の不当な要求なのかを明確に区分し、企業として取るべき対応と取るべきでない対応を具体的に示すことができます。

行きつくところ、交渉代理や法的手続きの実施も弁護士の重要な役割です。

カスハラ加害者との直接交渉、内容証明郵便の送付、調停や訴訟手続きの実施など、法的な専門知識と経験が必要な業務を代理で実施することができます。

顧客対応におけるリスクマネジメントの設計

カスハラ問題の根本的な解決には、事後対応だけでなく、予防的なリスクマネジメント体制の構築が不可欠です。

弁護士は法的専門知識を活用して、包括的なリスクマネジメント体制の設計を支援します。

リスク評価と分析では、弁護士は企業の業種、規模、顧客層の特性を踏まえて、想定されるカスハラリスクを体系的に分析します。

過去の判例や他社事例を参考にしながら、企業固有のリスクプロファイルを作成し、優先度に応じた対策の優先順位を決定することも弁護士の専門性が発揮される場面です。

法的コンプライアンス体制の構築も弁護士の専門領域です。

労働関連法規、消費者保護法、個人情報保護法など、カスハラ対応に関連する法令を総合的に把握し、法的コンプライアンスを確保した対応体制を設計します。

法改正への対応も含めて、継続的なコンプライアンス体制の維持を支援します。

社内研修の実施

弁護士による社内研修は、カスハラ対策の効果的な推進において重要な役割を果たします。

法的専門知識に基づいた研修により、従業員の理解度向上と実践的なスキル習得を図ることにつながります。

特に、実際の裁判例を題材として、どのような事案でどのような判断が下されたのか、企業としてどのような点に注意すべきかを解説することも、弁護士の判例知識など専門性が活かされる場面です。

成功事例と失敗事例の両方を紹介することで、適切な対応の重要性を理解することにつながるでしょう。

カスハラ対応で弁護士を活用するメリット

カスハラへの対策・対応に対して弁護士を活用するメリットは、多岐に渡ります。

この記事では、弁護士の関与形態別に解説していきます。

顧問弁護士

顧問弁護士を活用したカスハラ対策には、客観的な立場によりトラブルシューティングレビュアーとしての役割、そして訴訟など専門的な法的手続をアウトソースする形での支援というメリットがあります。

顧問弁護士は、社内に常勤・常駐するわけではないので、受動的な対応になる特質があります。

また、完全に社外での独立した立場であることから、客観的なリスク分析と対応がなされることが最大のメリットです。

もちろん、そうした客観かつ独立の立場から予防法務的なアドバイスも顧問弁護士の重要な価値です。

月次の定例会議などを通じて、潜在的なリスクについて継続的に検討できます。

そして、迅速な初期対応も顧問弁護士の強みです。

カスハラ事案が発生した際には、既存の関係性により迅速に相談・対応を行うことができます。

事案ごとに新たに弁護士を探す時間的ロスがなく、初動対応の質とスピードが向上します。

社内弁護士

社内弁護士(インハウスローヤー)によるカスハラ対策は、外部弁護士とは異なる独特のメリットを提供します。

企業内部にいるからこそ可能な、より密接で継続的な支援が特徴です。

即座の動的な対応とリアルタイムな意思決定が最大のメリットです。

社内弁護士は企業内部にいるため、カスハラ事案が発生した際には即座に対応でき、経営陣や関係部署と連携してリアルタイムな意思決定を行うことができます。

外部弁護士への連絡や説明に要する時間的ロスがなく、迅速な初期対応が可能になります。

ビジネス視点と法的視点の統合も社内弁護士の重要な価値です。

企業の事業戦略や経営方針を現場で深く理解している社内弁護士は、単なる法的対応にとどまらず、ビジネス上の影響も考慮した総合的な解決策を提案できます。

そのため、法的リスクとビジネスリスクのバランスを取った最適な判断が可能になります。

組織文化への深い理解も社内弁護士ならではのメリットです。

企業の組織文化、価値観、従業員の特性などを深く理解しているため、企業の実情に即したカスハラ対策を設計できます。

画一的な対策ではなく、企業固有の特性を活かした効果的な対策を構築できます。

法務受託・法務アウトソーシング

顧問弁護士と社内弁護士の中間的な関与形態として、法務受託・法務アウトソーシングの場合が考えられます。

特に中小企業において、社内に法務部門や社内弁護士を持たない(持つためのリソースが無い)企業にとって有効な選択肢となります。

主に外部法律事務所がチームを組成して法務機能を受託するサービスですが、例えばカスハラ問題に精通した専門チームが対応することで、単独の弁護士では対応が困難な大規模案件や複雑な事案にも適切に対処できます。

複数の専門家の知見を活用することで、より質の高い解決策を提供できます。

標準化されたサービス品質も重要なメリットです。

法務受託サービスでは、過去の豊富な経験に基づいて標準化された対応プロセスが構築されているため、一定の品質が保証されたサービスを受けることができます。

担当者による品質のばらつきが少なく、安定したサービスを期待できます。

まとめ

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カスタマーハラスメント問題は、現代企業が直面する重要な経営課題の一つとなっています。

単なる顧客対応の問題ではなく、従業員の人権保護、企業の法的責任、社会的信用に関わる包括的な問題として捉える必要があります。

本記事で詳述したように、カスハラ問題への適切な対応には、予防策の構築から実際の事案対応まで、体系的かつ専門的なアプローチが不可欠です。

特に、法的専門知識を持つ弁護士の関与は、問題の適切な解決と企業リスクの最小化において極めて重要な役割を果たします

弁護士との連携形態については、顧問弁護士、法務受託、社内弁護士それぞれに異なるメリットがあり、企業の規模、業種、リスクプロファイルに応じて最適な選択を行うことが重要です。

いずれの形態であっても、継続的な関係性に基づく予防的な取り組みと、事案発生時の迅速な対応が成功の鍵となります。

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