取締役を解任するには|正当な理由や手続き・議決権比率によるプロセスの違いと退任後の契約内容まで

専門家監修記事
取締役を解任するための具体的な流れや解任にあたり気をつけるべきことについて説明。株主総会での議決権をコントロールできる場合とできない場合での解任のしやすさや解任までのプロセスの違いについても解説します。
弁護士法人東京スタートアップ法律事務所
中川浩秀
監修記事
クレーム・不祥事

会社の経営陣となる取締役ですが、考え方や方向性が違ったり、会社にとって不利益な行動を取られたりしたら「辞めてほしい」と感じてしまうこともあるでしょう。

 

そんな時は取締役を解任することができますが、解任をするためにはさまざまなプロセスを経る必要があります。

 

また、解任のしやすさは株主としての議決権比率によっても変わりますが、手続全体の流れはどのようなものになるのでしょうか。

この記事に記載の情報は2021年03月05日時点のものです
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取締役の解任と辞任の違い

取締役を任期満了まで務めた後に退任する形が理想ですが、なんらかの事情により任期中に辞めなくてはならなくなる場合もあるでしょう。

 

たとえば、

  1. 会社の方針と考えが合わなかったり
  2. 力不足と思われたりして辞めさせられることがある

これを「解任」といいます。

 

また、病気や他の経営陣と考え方が合わないなどの理由で、取締役自身の都合により「辞任」することもあるでしょう。このように、自らの意思で辞めることを「辞任」株主に辞めさせられることを「解任」と区別します。

取締役解任の具体的な流れ

次に取締役を解任する場合の具体的な流れを、取締役会設置会社を例として紹介します。

 

取締役会で株主総会の招集を決定する

株式会社において、取締役の選任・解任の権限を持つ機関は株主総会です。そのため、取締役を解任するには株主総会を招集する必要があります。

 

株主総会を招集するためには、まず取締役会で株主総会の招集を決定します。株主総会を開く1週間前に(公開会社については2週間前)、書面で招集通知を発送します。

 

招集通知には、取締役会の開催日時、場所、総会の目的事項等を記載する必要があります。

取締役会での決議

会社法369条1項には以下のような文言が記されています。

 

1 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。 引用元:会社法第369条

取締役会で取締役を解任するための株主総会を開くことを決定するには、少なくとも議決に加わることのできる取締役の過半数が出席して、その内の過半数からの賛成を得る必要があります。

 

取締役会への参加は、テレビ電話などを利用して遠隔からの参加は認められますが、代理人の出席は認められていません

 

また、会議の内容は取締役会議事録を作成しておく必要があります(会社法369条3項)。解任される取締役は、取締役会議事録への署名押印を拒否するかもしれませんが、当該取締役の署名・押印がない場合でも、他の出席取締役の過半数の署名・押印があれば、解任される取締役の署名・押印は必要ありません。

 

株主総会の招集

株主総会の招集は、代表取締役の名義で招集通知の書面を送ります。(会社法299条1項及び2項)。株主総会の招集通知の発送日と株主総会の開催日の間は、公開会社の場合は14日、公開会社ではない場合は7日以上空けなければいけません。

 

株主総会の決議

取締役を解任する株主総会決議では、議決権の過半数を有する株主に出席してもらう必要があります。

 

出席した株主の議決権の過半数の賛成となれば取締役を解任することができるので、50%を超える議決権をコントロールできる場合は確実に解任することができるのです。 (普通決議、会社法339条1項、309条1項)

解任について気をつけること

取締役を解任するために気をつけたいことにはどんなことがあるでしょうか。

 

当該の取締役へ解任通知をする

取締役を解任するようなケースでは、会社と取締役の仲が上手くいっていない場合も多々あります。そのため、解任される取締役が、解任を目的とする株主総会の招集を決定する取締役会等へ参加していない場合も少なくはありません。

 

このようなケースで当該の取締役へ解任が決まったことを知らせるために、絶対に必要というわけではありませんが、取締役ではないにもかかわらず会社として行動されることを避けるためにも、解任通知をしておいた方がベターです。

 

正当な理由がなくても解任できる

取締役を解任する場合、正当な理由は必要ありません。ただし、「不当に解任させられた」と、解任される取締役から損害賠償を請求される可能性があります。 会社法339条2項は次のように規定されています。

2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。 引用元:会社法第339条

 

損害賠償を請求される範囲は、残存任期中に得られたはずの役員報酬と任期満了時に得られたはずの退職慰労金(ただし、退職慰労金について定款の定めや株主総会決議などがある場合)になっています。

 

取締役に職務執行上の不正行為や、法令または定款違反行為がある場合に限られず、経営判断に失敗したときも、正当な理由が認められることがあります。他方で、取締役の経営判断を尊重する必要もあるため、実際には個々の具体的な事案によって判断が分かれることになります。

 

株主総会で否決でも解任の訴えもできる

取締役が不正行為をしていたのに、これを解任するための株主総会決議で議決権のコントロールができないために、解任議案が否決されてしまうこともあるでしょう。

その場合、少数派の株主であっても、不正行為をした取締役を放逐するための制度として、役員の解任を裁判所に訴えることもできます(会社法854条1項)。

 

この訴えは、取締役に職務執行に関する不正行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があったときで、株主総会で当該取締役を解任する旨の議案が否決された場合に、一定の株式を有する株主等が請求できるものです。

 

株主総会で否決となったら諦めるのではなく、このような手段があることも覚えておくとよいでしょう。 解任の訴えについては、後ほど詳しく説明します。

議決権をコントロールできる場合の取締役解任の進め方

株主総会での議決権をコントロールできるかどうかで解任のしやすさは変わります。まず、議決権をコントロールできる場合について説明します。

 

辞任を促す

議決権をコントロールできる場合では、株主総会で過半数の承認を得られることが決まっているため解任すること自体は容易です。

 

しかし、本人の辞任を促した方が損害賠償請求などのリスクもなくなり、手続きもスムーズなうえ、取引先に対して与える印象を悪くしないなどのメリットがあります。 解任すると、登記上も役員を解任した旨が記載されてしまうので、見栄えも良くありません。

 

そのため、解任したいと思っている取締役と話し合い、辞任してもらう方向に持って行った方が良いといえます。交渉がうまくいかない場合は、辞任すれば退職時報酬を上積みするなどのインセンティブを与えるというのも一つの方法です。

 

辞任届を書いてもらう

辞任することが決まった後は、当該の取締役に辞任届を書いてもらう必要があります。辞任届には特に様式はありませんが、代表取締役向けに辞任する旨を書き、提出する日にちや当該取締役の名前・住所などの情報を記載します。

 

辞任の登記を行う

辞任届を受理したら、辞任した旨の登記変更が必要です。この登記は辞任から2週間以内に行わなくてはいけません。退任理由の確認するために、辞任届と株主総会議事録を添付して登記申請をします。

 

株主総会で解任決議を行う

取締役に辞任を促したものの拒否された場合は、株主総会にて解任決議を行います。株主総会の決議では、議決権を50%を超えて持っている場合は自らの意見を通すことができます

 

そのため、たとえば代表取締役で過半数の議決権を持つ場合や、親族の株主で意見が同じ人の議決権が半分を超える場合などは議決権のコントロールができます。ただし、取締役を解任した場合、退任登記には退任の理由を記載する必要があり、解任したことが登記上明らかになります

 

そうなると、経営方針を巡ったトラブルや当該取締役に問題があったのではないかなどという印象を持たれる可能性があることに留意が必要です。取締役を解任する場合も、解任から2週間以内に登記します。

取締役解任で議決権をコントロールできない場合の進め方

次に、議決権が少なくコントロールができない場合の解任方法を紹介します。

 

取締役解任の訴えにより解任を目指す

議決権が少なく、コントロールができない場合は株主総会での決議で否決になってしまうことがあります。その場合は、裁判所に訴えることにより解任の判決を得るという方法を試してみてください。

 

解任の訴えとして判決を得るためには、会社法854条1項の内容をクリアにすることが必要です。854条1項1号に規定されている要件を抽出すると次にようなものになります。(同項2号は②の点において議決権ではなく発行済株式の3%以上の数を要求)

 

  • 取締役の職務執行に関して、不正行為、法令・定款に違反する重大事実があったこと
  • ①にもかかわらず、株主総会において、解任議案が否決されてしまったこと
  • 解任の訴えを提起する者が、総株主の議決権の3%(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の議決権を6か月前(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)から引き続きを保有していること
  • 解任議案を否決した株主総会開催日から、30日以内に解任の訴えが提起されること
参考:会社法854条

 

ただし、解任議案について議決権を有していない株主や、当該解任請求にかかる取締役である場合には、訴えによる解任請求をすることはできません。

 

解任の訴えの提起・仮処分の申立て

解任の訴えを提起したとしても、判決が出るまでは当該取締役は引き続き業務を遂行することができてしまいます。

 

それを止めるためには「仮処分」の申し立てをすることが通常です。裁判所より、仮処分を認める決定が出れば、判決が出る前でも当該取締役の職務の執行を停止させることができます

 

株主総会で解任決議を行う場合に気をつけること

株主総会の決議は、一定の要件のもとで取り消されることがあります。 会社法831条(株主総会等の決議/取消しの訴え)には次のように規定されています。

次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から3箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第346条第1項(第479条第4項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。  一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。 二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。 三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。 2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。 引用元:会社法第831条

 すなわち、株主総会の決議で解任が決定したとしても、株主総会の手続きや決議の内容が定款に違反する場合などには、当該取締役が訴えを起こし、勝訴すれば解任を取り消することができてしまうというわけです。

 

このようなこともあるので、株主総会によって解任をする場合には、株主総会の招集、開催および決議等の手続きが法令等に則ったものであることを慎重に確認する方が良いといえます。

代表取締役を解任したい場合|極めて困難な解任手続きと退任後に結ぶべき契約

代表取締役を解任する場合も、基本的には取締役を解任する場合と同じく株主総会での決議が必要です。そのため、代表取締役が議決権を50%を超えて保有している場合には、株主総会での決議をするのは難しいでしょう。

 

代表取締役を株主が裁判所を通して解任の訴えを起こす

多くのオーナー企業・中小企業では、代表取締役や親族でほとんどの議決権を持つケースが多いため、その場合は代表取締役を解任するのは極めて困難と言えるでしょう。解任の方法として、株主が裁判所で取締役解任の訴えを起こすということは考えられます。

 

ただし、裁判で勝訴しても、解任対象となった元代表取締役が株主としての権利を行使して、株主総会決議を取ることにより自分自身を取締役に選任することが可能なのです。

 

他方で、代表取締役でも議決権が半数を超えない場合は、半数を超える株主が当該代表取締役を解任することに賛成していれば、株主総会決議で解任することは容易です。 大企業などのサラリーマン社長で、株式保有割合が少ない場合などがこれにあたります。

 

重要な情報を明かさないよう退職時に秘密保持契約は必須

解任する取締役が、解任後に他社で働く場合、解任された会社の重要な情報を漏らしてしまえば、会社は大きな損害を被る可能性があります。

 

たとえば、重要な情報としては、得意先の名称・担当者・連絡先などが挙げられますが、それらの情報が漏れたことにより、解任した会社が顧客から信頼を失う可能性もありますし、顧客を横取りされるという可能性も考えられます

 

そのため、退職時には秘密保持契約の取り決めをしておいたほうが良いでしょう。そうすれば、万が一解任した取締役が情報漏洩などをして不利益を被る場合に、訴訟などの場面で解任した取締役の義務違反を主張することができ、有利な要素になります。

 

競業禁止・開業等の禁止措置も検討する

また、秘密情報を漏らさないとしても、解任された会社で取締役を務めていたとのノウハウを用いて同じ業種で仕事を始められると、会社としては顧客を奪われる可能性があり、そのようなことはしないように約束させたい場合があります。

 

その場合には、競業への転職や開業等を禁止する「競業行為の禁止などに関する合意書」を作成し、サインしてもらった方が良いでしょう。

 

取締役退任時に株式を買い取っておく

取締役になるために株式を保有することは必須ではありませんが、取締役が株主を保有している会社も多く存在します。株主は個人の財産となるため、解任に伴い勝手に回収するということはできません。

 

まず、合意に基づく株価を支払い、株式を買い取る交渉をしましょう。 また、解任する取締役が保有する株式の議決権比率が10%を超えている場合は回収が難しくなることもあります。解任後にも株式を持ち続けられると、会社運営に支障をきたしてしまう可能性もあるでしょう。

 

そのため、株式を付与する時に「解任後には速やかに株を売却する」などが記された株主間契約を締結しておいた方が安心です。

 

まとめ

取締役を解任するのは株主総会での決議が必要であるため、決議のコントロールができるかどうかで解任のしやすさが決まります。解任の決議は、株主総会での過半数以上の賛成により決まるので、株式保有が50%を超えている場合は比較的容易です。

 

ただし、解任したことは登記する必要があり、社内トラブル等を疑われる可能性が出てきます

 

取締役が不当に解任されたと感じた場合、当該取締役から損害賠償請求される可能性もあり、一方的に解任するよりは、辞任を促したり、退任を待ったりした方が良いといえるでしょう。

 

逆に株式保有比率が過半数を超えない場合は、株主総会で否決になる可能性が高く解任を決議することは非常に難しいです。しかし、解任するための正当な理由があれば、裁判所に訴えを起こすこともできます。

 

解任が決まった場合は、役員変更登記や取締役からの株式の回収、企業秘密を漏らされて不利益を被るようなことがないよう秘密保持契約の締結などを忘れないようにしてください。

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