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2026年5月25日、デットファイナンスに大きな変革をもたらす「事業性融資の推進等に関する法律」(以下「事業性融資推進法」といいます。)が施行されます。同法の目玉として創設されるのが、無形資産を含む事業全体を担保とする「企業価値担保権」制度です。
これまで、デットファイナンスの実務においては、不動産等の有形資産を担保とするか、経営者保証に依存した融資が中心でした。しかし、企業価値の源泉が「モノ」から「サービス」や「デジタル資産」へと移行する中、有形資産に乏しいスタートアップや、知的財産・ブランド価値等の無形資産を事業の中核とする企業にとって、従来の融資慣行は大きな障壁となってきました。
企業価値担保権は、こうした課題を解決し、事業の実態や将来性に基づく融資を後押しする制度として期待されています。
本稿では、事業性融資推進法の制定背景から企業価値担保権の法的構造、他の担保権との相違点、そして実務上の重要論点まで、包括的に解説します。
本記事のポイント事業性融資推進法は、どのような法律でしょうか。制定の背景と法律の全体像をみていきましょう。
事業性融資推進法の制定背景を理解するには、融資慣行がこれまで抱えてきた構造的課題に目を向ける必要があります。
従来、企業が金融機関から融資を受ける際には、不動産や機械設備等の有形資産を担保として提供するか、経営者が個人保証を提供することが一般的でした。しかし、現代の企業価値の源泉は大きく変化しています。
特にスタートアップ企業やIT企業、サービス業等においては、ブランド価値、知的財産権、顧客基盤、ノウハウといった無形資産が競争力の中核を担っている側面が大きくあります。
金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」の報告書(2023年2月)によれば、こうした問題意識が明確に示されているところです。同報告書は、有形資産に依存した融資慣行により、以下のような課題が生じていると指摘した。
政府は、骨太の方針2023等においても、経営者保証等に依存しない事業性に着目した融資の推進を掲げており、2023年12月には閣議決定により、金融庁が事業性融資の推進に関する企画立案及び総合調整を担うこととされました。
これらの経緯を経て、2024年3月に事業性融資推進法案が国会に提出され、同年6月7日に成立、公布されたのです。
出典:金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」報告
事業性融資推進法は、単に企業価値担保権という新たな担保制度を創設するだけでなく、事業性融資の推進に関する包括的な枠組みを定めています。同法の主要な構成要素は以下のとおりです。
| 基本理念の明確化 | 同法第3条は、事業性融資の推進に関する基本理念として、「事業者と金融機関等の緊密な連携の下、事業の継続及び発展に必要な資金の調達等の円滑化を図る」ことを掲げています。 |
|---|---|
| 企業価値担保権の創設 | 事業性融資推進法のコアとなる部分です。無形資産を含む事業全体を担保とする新たな担保権として、企業価値担保権を創設しました(同法第2章)。 |
| 事業性融資推進本部の設置 | 金融庁に特別の機関として「事業性融資推進本部」を設置し(同法第6章)、事業性融資の推進に関する政策の企画立案や関係行政機関との連絡調整等を行う体制を整備しました。 |
| 認定事業性融資推進支援機関制度 | 企業価値担保権の利用促進・支援を行う機関を主務大臣が認定する制度を設けられたものです(同法第7章)。この認定支援機関は、事業者や金融機関に対する指導・助言等を行います。 |
| 経営者保証の利用制限 | 企業価値担保権が設定されている場合、被担保債権に係る債務について経営者が保証を行っているときは、原則として当該保証の履行請求が禁止されます(同法第12条)。これにより、経営者保証に過度に依存しない融資慣行への転換を促すことを企図しています。 |
施行日は、公布日(2024年6月7日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされ、2024年7月には2026年5月25日と正式に決定されました。
企業価値担保権とはどのような概念でしょうか。基本的なコンセプトを解説します。
企業価値担保権は、事業性融資推進法により新たに創設される法定担保権です。その本質的特徴は、担保目的財産として「担保権設定者の総財産」を対象としていることと、将来キャッシュフローを含む事業全体を流動的な価値把握の対象とし、包括的に担保化できる点にあります。
従来の個別資産への担保設定とは異なり、企業価値担保権は、土地・建物等の有形資産はもちろん、知的財産権、ブランド、ノウハウ、顧客基盤、契約上の地位、さらには「のれん」に至るまで、企業の事業価値を構成するあらゆる資産を担保の対象とすることができる点が特徴です。
加えて、企業価値担保権は単純な包括担保ではなく、信託スキームを活用した特殊な法的構造を有している点が重要です。具体的には、債務者(設定者)を委託者、企業価値担保権信託会社を受託者、債権者を受益者とする「企業価値担保権信託契約」を締結することにより設定されることとされます。

受託者である信託会社が担保財産を信託財産として管理することで、担保の対象範囲や価値の把握が容易になります。
信託により、担保財産は委託者(債務者)の固有財産から分離されるため、債務者が倒産した場合でも、担保財産は他の債権者による差押え等から保護されることになります。
担保実行時には、裁判所の監督の下、管財人による事業譲渡等を通じた換価が行われる仕組みとなっています。これにより、事業価値の毀損を防ぎつつ適正な換価を図ることができます。
企業価値担保権の実務的理解のためには、(1)設定と効力、(2)借主・貸主の権限、(3)実行手続、という3つの局面を正確に把握することが重要です。
企業価値担保権の設定について、以下のプロセスを経て行われる。
商業登記簿に登記されることから、取引の相手方は企業価値担保権の設定の有無を容易に確認できます。これは、従来の根抵当権等と同様、登記による公示制度を採用することで、取引の安全を図ったものです。

前記のとおり、企業価値担保権の担保目的財産は、原則として設定者の「総財産」です。ただし、以下の財産は一部除外対象とされます。
そして、重要な点として、企業価値担保権の対象には「将来取得する財産」も含まれる点です。設定時点では存在しない財産であっても、設定後に債務者が取得した財産は、当然に担保の目的となります。これにより、事業の継続・成長に伴って増加する資産も担保でカバーされることになるのです。
既存担保権との優劣関係
前記のとおり、登記制度が採用されています。そのため、企業価値担保権と既存の担保権(抵当権、質権、譲渡担保等)が競合する場合、原則として登記・登録の先後により優劣が決まることになります。ただし、企業価値担保権設定前に設定された担保権は、企業価値担保権に優先します。
そこで、実務上は、企業価値担保権を設定する際に、既存担保権の状況を詳細に調査し、担保価値の評価を行うことが不可欠です。
企業価値担保権が設定された後、債務者(借主)と債権者(貸主)の間には、通常の融資とは異なる特殊な権利義務関係が生じます。
1つが、債務者の事業継続権限です。
企業価値担保権の重要な特徴は、担保設定後も債務者が通常の事業活動を継続できる点にあります。具体的には、以下の行為が認められています。
これは、企業価値担保権が「事業継続を前提とした担保」として設計されているためです。事業を継続することで将来キャッシュフローが生み出され、それが担保価値の源泉となるからです。
ただし、通常の営業の範囲を超える行為、特に以下の行為については、受託者(信託会社)の同意を要する場合があります。このコンセプトは、集合動産譲渡担保権とも通ずる議論が含まれています。
これらの制限は、信託契約において具体的に定められる。
債権者の情報取得権限とモニタリング
債権者(および受託者)は、担保価値を適切に把握し、債務者の経営状況を監視するため、債務者に対して各種の報告を求めることができることが定められてます。
事業性融資推進法第11条は、受託者に対し、委託者から定期的に事業及び財産の状況に関する報告を受ける義務を課しています。また、同法第82条以下は、受託者による調査権限を定めています。

実務上は、これらの法定の権限に加えて、信託契約や金銭消費貸借契約において、以下のような条項(コベナンツ)を設定することが想定されるでしょう。
全銀協の「企業価値担保権の活用に向けた報告書」(2025年3月)では、コベナンツの設定により、「従来型融資よりも事業に関するコミュニケーション機会が向上し、機動的なサポートの実現につながる」ことが期待されるとしています。
期限の利益喪失事由
企業価値担保権付き融資においても、債務者が一定の事由に該当した場合には期限の利益を喪失し、債権者は残債務の一括返済を請求できます。期限の利益喪失事由としては、以下のようなものが考えられます。
しかし、企業価値担保権制度の趣旨に鑑みれば、単なる一時的なコベナンツ違反等で直ちに期限の利益を喪失させるのではなく、債権者と債務者が対話を重ね、経営改善や事業再構築の機会を設けることが望ましいと思われます。
企業価値担保権の実行手続は、従来の担保権の実行手続とは大きく異なる、裁判所が関与する特別な手続です。破産や民事再生における事業譲渡などにも似ています。
実行手続の開始
債権者(受益者)は、債務者が債務の履行を怠った場合等に、裁判所に対して企業価値担保権の実行手続開始の申立てを行うことができます(事業性融資推進法第138条)。これを受け、裁判所は、申立てが適法であり、かつ、被担保債権の存在及び債務不履行の事実が疎明されたときは、実行手続開始の決定をします。
管財人の選任と事業の継続
裁判所は、実行手続開始の決定と同時に、管財人を選任します(同法第140条)。管財人は、裁判所の監督の下、以下の職務を行います。
重要な点は、管財人が「事業の継続」を行うことができる点である。これは、企業価値担保権の対象が「事業全体」であり、事業を継続することで価値が維持・向上するという前提に基づいているのです。
換価の方法
管財人は、担保目的財産を換価するため、以下の方法を用いることができます。
| 1事業譲渡 | 事業の全部または一部を第三者に譲渡する方法。企業価値担保権の実行における中心的な換価方法です。 |
|---|---|
| 2株式譲渡 | 債務者が株式会社である場合、その株式を譲渡する方法です。 |
| 3清算 | 事業譲渡等が困難な場合、個別の資産を売却して換価する方法です。 |
事業譲渡を行う場合、裁判所の許可を得る必要がありますが(同法第157条)、会社法上の株主総会決議は不要とされています(同法第157条第6項)。これは、迅速な事業譲渡を可能とし、事業価値の毀損を防ぐための特則です。
配当
換価により得られた金銭は、以下の順序で配当されます。
| 1実行手続の費用 | 管財人報酬、裁判所手続費用等 |
|---|---|
| 2一般の先取特権 | 税金、給与債権等 |
| 3企業価値担保権者 | 優先弁済的効力に基づく配当 |
| 4その他の債権者 | 残余財産からの配当 |

企業価値担保権にも優先弁済的効力が認められているため、原則としては、価値把握の対象となる事業財産に対して全体的に及びます。一方で、国税・地方税、社会保険料、従業員の給与債権等があります。これらは、政策的配慮から、企業価値担保権に優先して弁済を受けることができることとされています。
出典:デロイト トーマツ「事業性融資推進法が問う―金融機関の創意工夫と実務対応」
ここで、企業価値担保権が今までの担保権とどのような点で違うのか、企業価値担保権の実質的な理解のため、解説していきます。
主な担保権・類似する担保権と、企業価値担保権を比較すると、次のとおりのイメージです。
| 担保権の種類 | 対象財産 |
|---|---|
| 不動産担保(抵当権) | 不動産(土地・建物) |
| 動産譲渡担保 | 動産(機械設備・在庫等) |
| 債権譲渡担保 | 債権(売掛金等) |
| 知的財産担保 | 知的財産権(特許・商標等) |
| 企業価値担保権 | 事業全体(有形資産+無形資産+将来取得財産) |
最大の相違点は、企業価値担保権が「事業全体」を包括的に担保化できる点にある。従来の担保権では、知的財産権やノウハウ、顧客基盤等の無形資産を担保化することは困難であったが、企業価値担保権ではこれらも担保の対象となる。
企業価値担保権の設定には、信託契約の締結が必須です。これは、従来の担保権(抵当権、質権等)が債権者と債務者の直接の合意により設定されるのとは大きく異なる構造です。
こうした信託スキームを採用することにより、以下のメリットが考えられます。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 担保財産の管理の適正化 | 受託者(信託会社)が中立的な立場で担保財産を管理 |
| 倒産隔離機能 | 担保財産が委託者の固有財産から分離され、倒産時も保護 |
| 柔軟な実行手続 | 裁判所の監督の下、事業価値を維持しつつ換価が可能 |
一方、信託スキームを採用することによるコストもあります。信託会社への報酬、信託契約締結に伴う手続コスト等が発生するため、これらを勘案した上で制度を利用するか否かを判断する必要があります。
被担保債権の範囲についても、従来の担保権とはやや異なる特徴があります。
| 比較項目 | 根抵当権 | 企業価値担保権 |
|---|---|---|
| 性格 | 包括根担保 | 特定債権担保 |
| 極度額 | あり(上限額を設定) | なし(特定債権ごと) |
| 被担保債権 | 一定範囲の不特定債権 | 特定の債権 |
企業価値担保権は、根抵当権のような「包括根担保」の性格は有していません。特定債権を保護している点が特徴です。これは、担保権の範囲を明確化し、債務者保護を図るためです。
企業価値担保権の大きな特徴の一つは、担保権存続中における債権者と債務者の継続的なコミュニケーションが制度的に組み込まれている点です。
従来の不動産担保等では、担保設定後は、債務者が返済を継続する限り、債権者との間で密接なコミュニケーションが行われることは必ずしも多くありません。これに対し、企業価値担保権では、以下の理由から、継続的なコミュニケーションが不可欠です。
担保価値の源泉が「事業継続・成長」であること
企業価値担保権の担保価値は、将来キャッシュフローに依存します。このため、債権者は、債務者の事業状況を継続的にモニタリングし、事業が計画通りに進捗しているかを確認する必要があります。
コベナンツの設定
前記のとおり、企業価値担保権付き融資では、財務コベナンツ等が設定されることが一般的です。債務者は、定期的に財務情報を提供し、コベナンツ遵守状況を報告する義務を負います。
早期の経営改善支援
コベナンツ等により、経営悪化の兆候を早期に把握できるため、債権者は債務者に対する経営改善支援を機動的に行うことができます。
全国銀行協会の報告書でも、「コベナンツの設定により、従来型融資よりも事業に関するコミュニケーション機会が向上し、機動的なサポートの実現につながる」と指摘されています。
権利の実行手続においても、不動産担保権と比較すると特徴がみえてきます。
| 比較項目 | 不動産担保権 | 企業価値担保権 |
|---|---|---|
| 実行方法 | 競売(個別資産の売却) | 事業譲渡・株式譲渡等 |
| 裁判所の関与 | 競売手続 | 管財人選任・事業譲渡許可 |
| 事業継続 | 考慮されない | 管財人による事業継続が可能 |
| 換価の方針 | 個別資産の処分 | 事業価値の維持・最大化 |
端的には、裁判所の関与が色濃く出るという点です。企業価値担保権の実行手続の最大の特徴は、「事業価値を維持しつつ換価を図る」ことを重視しているためです。これは、個別資産の処分では事業価値が毀損し、結果として回収額が減少する可能性があるためです。
企業価値担保権について、ポイントを解説してきました。ここからは、実務上問題となりうる論点について、いくつか解説していきます。
担保価値の評価
企業価値担保権を設定する際の最大かつ根本的な実務的課題は、担保価値をどのように評価するかです。
従来の不動産担保であれば、不動産鑑定評価等の確立された手法が存在しますが、企業価値担保権の場合、「事業全体の価値」を評価する必要があり、評価手法が複雑化します。
実務上、以下のような評価手法の組み合わせが考えられる。
| 評価手法 | 概要 |
|---|---|
| DCF法 | 将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法。事業計画の合理性が鍵となる。 |
| 類似会社比較法 | 同業他社の企業価値倍率(EV/EBITDA等)を参考に評価する方法。 |
| 時価純資産法 | 貸借対照表上の純資産を時価評価する方法。ただし、無形資産の評価が課題となる。 |
金融機関としては、債務者から提出された事業計画の合理性・実現可能性を慎重に審査し、保守的な評価を行うことが求められます。また、定期的に担保価値の再評価を行い、必要に応じて流動的に、追加担保の提供や融資条件の見直し等を検討する必要があるでしょう。

企業価値担保権を設定する際、既に不動産担保や動産譲渡担保等が設定されている場合、これらとの調整が必要となる。まさに包括担保権と個別担保権の衝突が生まれます。
この場合、金融機関側としては、既存の担保権が企業価値担保権に優先するため、実質的な担保余力がどの程度あるかを精査する必要があるでしょう。場合によっては、既存担保権の解除や、順位の変更等を交渉することも考えられます。
信託契約の内容
企業価値担保権信託契約において定めるべき重要事項としては、以下が挙げられます。
これらの条項については、債権者・債務者・受託者の三者で協議の上、個別案件ごとに適切に設計する必要があります。
企業価値担保権者は、ある一時点ではなく、継続的な収益状態に関心があると考えられますが、この点に配慮した権限も一定定められています。
継続的なモニタリング
企業価値担保権付き融資においては、債権者による継続的なモニタリングが不可欠です。
具体的には、以下のような情報を定期的に取得・分析する必要があると考えられます。
金融庁の「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方」(2025年7月)では、債権者による適切なモニタリングの重要性が強調されています。
実地調査
債権者(または受託者)は、必要に応じて、債務者の事業所への実地調査を行うことができることとされています。これにより、書面だけでは把握できない事業の実態を確認することができます。
ただし、過度な調査は債務者の事業活動を阻害する恐れがあるため、適切な頻度・方法で実施することが求められます。

事業価値の評価やモニタリングには、高度な専門性が要求されます。このため、金融機関は、以下のような専門家を活用することが考えられる。
特に、スタートアップ企業等、評価が困難な案件については、外部専門家の知見を活用することが有益です。
実行のタイミング
企業価値担保権を実行するか否かの判断は、極めて重要である上に、困難な点があります。
早期に実行すれば、事業価値が維持されている段階で換価できる可能性がありますが、一時的な業績悪化であれば、経営改善により回復する可能性もあります。
実務上は、以下のような要素を総合的に勘案して判断することになるでしょう。
管財人の選任
企業価値担保権の実行においては、裁判所が管財人を選任しますが、債権者としては、事業再生や事業譲渡の経験・知見を有する専門家が管財人に選任されることを期待します。
実務上、弁護士、公認会計士、事業再生の専門家等が管財人に選任されることが想定されます。この辺りについて、どの程度債権者側からのアプローチや提案をしていけるか、また汲んでもらえるかの交渉も、債権者視点では重要なポイントになります。
事業譲渡先の選定
管財人は、事業譲渡を行う場合、適切な譲渡先を選定する必要があります。譲渡先の選定においては、以下の要素が考慮されると考えられます。
実務上は、複数の候補先から提案を受け、比較検討の上で決定することが一般的です。
参照:金融庁「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について」

企業価値担保権の実行時には、事業譲渡等が行われる可能性があり、その際の労働者保護が重要な課題となります。
事業性融資推進法のガイドライン等では、担保権実行時における労働者保護に関する留意事項が示されています。具体的には、事業譲渡の際には、原則として雇用を維持し、事業を分断しないことが求められます。また、管財人は労働者や労働組合と協議を行うことが必要とされています。
出典:厚生労働省「事業性融資の推進等に関する法律の成立について」
最後に、企業価値担保権の活用を含め、事業性融資を支援する仕組みについて解説していきます。
企業価値担保権制度が効果的に機能するためには、金融機関と事業者双方が制度を正しく理解し、適切に活用することが不可欠です。
金融庁の「2025事務年度金融行政方針」(2025年8月)では、企業価値担保権が活用されるよう、金融機関や事業者等に対する周知・広報を行うこと、および、モデルケースとなるような金融機関の取組みを後押しすることが掲げられています。
全銀協も、会員銀行向けに「企業価値担保権の活用に向けたポイント」(2025年9月版)を作成し、制度の概要、実務上の留意点、想定される活用事例等を整理しています。
制度の普及においては、以下の点が重要になると考えられます。
金融機関の体制整備
企業価値担保権を活用するためには、金融機関において以下のような体制整備が必要です。
特に、事業性評価は従来の財務分析とは異なるアプローチが必要であり、行職員のスキル向上が課題となります。PEファンド出身者、コンサルティングファーム経験者、VCのバックグラウンドのある人材採用などがカギとなるでしょう。
事業者への説明・啓発
事業者側にとっても、企業価値担保権は新しい制度であり、その内容や効果を正しく理解することが重要です。また、金融機関は、企業価値担保権を提案する際、以下の点について丁寧に説明する必要があります。
事業性融資推進法は、企業価値担保権の利用促進・支援を行う機関として、「認定事業性融資推進支援機関」制度を設けています。
認定支援機関の役割
認定支援機関は、主務大臣(金融庁長官等)の認定を受け、以下の業務を行います。
認定要件
そして、認定支援機関となるためには、以下の要件を満たす必要がある。
認定支援機関の活用
事業者や金融機関は、認定支援機関を活用することで、以下のメリットを得ることが期待できます。
認定支援機関として想定されるのは、信用保証協会、政府系金融機関、商工会議所・商工会、中小企業診断士協会、公認会計士協会等の団体が考えられます。
2026年5月25日に施行される事業性融資推進法は、わが国の融資慣行に大きな転換をもたらす可能性を秘めています。その中核をなす企業価値担保権は、無形資産を含む事業全体を担保とする画期的な制度であり、有形資産に乏しいスタートアップ企業や、経営者保証により事業展開を躊躇している企業にとって、新たな資金調達の選択肢となることが期待されています。
他方で、企業価値担保権は信託スキームを活用した複雑な法的構造を有しており、その設定、モニタリング、実行の各段階において、従来の担保権とは異なる実務対応が求められます。特に、事業価値の評価、継続的なモニタリング、担保実行時の手続等については、金融機関・事業者双方において十分な理解と準備が必要です。
実務家・法務担当者としては、以下の点に留意しつつ、制度の活用を検討すべきです。
企業価値担保権制度が適切に活用され、わが国企業の成長と金融の円滑化に資することを期待したいと思います。施行まで残された期間において、金融機関・事業者・支援機関が協力し、制度の円滑な立ち上げに向けた準備を進めることが肝要です。