内部統制報告書とは、「財務報告にかかる内部統制の機能状態」について評価結果などを記載した書類で、内部統制報告制度である「J-SOX」の対応時に必要となります。
J-SOXはすべての上場企業が対象となるため、上場企業であれば内部統制報告書を作成・提出しなければなりません。未提出の場合や重要事項について虚偽記載がある場合などは、一定のペナルティが科される可能性もあるため、企業は適正な手順に則って作成する必要があるでしょう。
この記事では、内部統制報告書の記載事項や必要書類など、作成時のポイントについて解説します。
内部統制報告書を作成するまでの流れ
内部統制報告書はJ-SOXの対応時に必要となる書類です。
J-SOXについては以下①~⑦の流れで対応するのが一般的で、内部統制報告書を作成するためには①~⑤の手続きを経る必要があります。
- 内部統制に関する整備状況の把握
- 把握された不備の対応・整備状況の評価
- 内部統制に関する運用状況の把握
- 把握された不備の対応・運用状況の評価
- 最終的な不備の集計・「開示すべき不備」にあたるか判断
- 内部統制報告書の作成
- 監査法人などによる監査・書類提出
内部統制報告書に記載する事項
内部統制報告書では以下5つの事項について記載します。
ここでは、各記載事項について解説します。
- 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
- 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
- 評価結果に関する事項
- 付記事項
- 特記事項
財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
ここでは、以下の事項について記載します。
- 財務報告や財務報告にかかる内部統制における責任者氏名
- 財務報告にかかる内部統制について整備・運用する際に用いた基準
- 代表者・責任者が財務報告にかかる内部統制の整備・運用について責任を有している旨
評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
ここでは、以下の事項について記載します。
- 財務報告にかかる内部統制における評価手続きの概要
- 財務報告にかかる内部統制における評価を実施した時点
- 財務報告にかかる内部統制における評価範囲や評価範囲の決定方法・根拠
- 財務報告にかかる内部統制における評価を実施する際、一般において公正妥当と認められる、内部統制における評価基準に則った旨
評価結果に関する事項
記載事項は評価結果ごとに異なり、以下4つのうちいずれかを記載します。
- 「財務報告にかかる内部統制は有効である」と評価した場合…その旨を記載
- 「一部の評価手続きは実施できていないが、財務報告にかかる内部統制は有効である」と評価した場合…その旨、実施できていない評価手続き、実施できていない理由を記載
- 「重要な欠陥があるため、財務報告にかかる内部統制は有効でない」という場合…その旨、重要な結果の内容、是正されない理由を記載
- 「重要な評価手続きが実施できていないため、財務報告にかかる内部統制について評価結果が表明できない」という場合…その旨、実施できていない評価手続き、実施できていない理由を記載
付記事項
ここでは、以下の事項について記載します。
- 財務報告にかかる内部統制の有効性を評価する際、重要な影響を及ぼすもの
- 期末日以降に実施した、重要な欠陥への是正措置
特記事項
特別に記載しておくべき事項がある場合は記載します。
特記事項がない場合は「該当事項なし」と記載する必要があります。
内部統制報告書のひな形
内部統制報告書は「内部統制報告書に記載する事項」で解説した事項のほか、企業情報なども盛り込んだ上で、以下のような形式で作成します。
第一号様式 |
参考元:内部統制報告書|金融庁
内部統制報告書の作成に必要な書類
内部統制報告書を不備なく適正に作成するためには、内部統制に関する検証・評価の内容や過程などについて、目に見える形で文書化しておく必要があります。
作成にあたっては、「業務記述書」「フローチャート」「リスク・コントロール・マトリックス」などの書類を用いるのが一般的で、これら3つの書類は総称して3点セットと呼ばれています。ここでは、3点セットの概要や作成例などについて解説します。
業務記述書
業務記述書とは、財務報告にかかる業務概要や業務の流れなどについて、文章で明確化した書類を指します。一般的には以下のような形式で作成します。
フローチャート
フローチャートとは、部門ごとが担当する業務フローについて、図で明確化した書類を指します。一般的には以下のような形式で作成します。
リスク・コントロール・マトリックス
リスク・コントロール・マトリックスとは、「業務ごとにかかるリスク」と「リスクに対応するコントロール」について、比較して一覧化した書類を指します。一般的には以下のような形式で作成します。
内部統制報告書に関する罰則
J-SOXの対象企業である上場企業は、内部統制報告書を事業年度ごとに財務局へ提出する必要があります。また新規上場企業については、上場して最初の決算日から3ヶ月以内に提出しなければなりません。
もし提出しなかった場合や、重要事項について虚偽記載があった場合には、5億円以下の罰金が科される可能性があります(金融商品取引法第207条)。
内部統制報告書の作成は弁護士に相談
内部統制報告書は自力で作成することもできますが、十分な知識・経験がないまま作成手続きを進めてしまうと、記載内容に不備が生じる恐れがあります。
内部統制報告書が適正に作成されていない場合、罰金が科されたり、企業としての社会的信用に悪影響が及んだりする可能性もゼロではありません。
もし作成手続きなど少しでも不安を感じる方は、問題になる前に弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談することで「作成内容に問題はないか」といったチェックが受けられるため、スムーズに作成手続きを進めることができるでしょう。また、企業法務分野に注力している弁護士であれば、作成手続きに至るまでのプロセスに関するサポートやアドバイスも期待できます。
まとめ
すべての上場企業は、内部統制報告書を作成・提出する義務があります。作成時は「3点セット」と呼ばれる書類を準備した上で、「財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項」や「評価結果に関する事項」など、必要項目について不備なく記載する必要があります。
未提出の場合や、重要事項について虚偽記載があった場合などは、5億円以下の罰金が科されるだけでなく、社会的信用にも悪影響が生じる可能性もあるため、企業は適正に作成しなければなりません。
内部統制報告書の作成にあたって「適正に作成できるか不安」という場合は、弁護士に相談すると良いでしょう。弁護士であれば、作成内容の適正性についてチェックが受けられ、自力で作成するよりもスムーズな手続きの進行が望めます。