【弁護士監修】ストックオプション発行時の手続きと注意点を徹底解説

専門家監修記事
ストックオプションは、役員・従業員に対するインセンティブとして近年注目を集めています。ストックオプションを発行する際には、法令上の手続きを踏む必要があるほか、制度設計に関してもいくつかの注意点があります。
富士パートナーズ法律事務所
福本直哉
監修記事
IPO

ストックオプションは、役員や従業員の会社貢献へのモチベーションを高めるインセンティブとして、多くの企業で導入されています。ストックオプションを導入する際には、会社法に定められる手続きを踏む必要があるほか、『税制その他の観点からいくつかの注意点』が存在します。

 

自社がストックオプションを導入する目的・狙う効果などを踏まえて、どのような形でストックオプションを導入するのが良いか、事前に十分な検討をすることが必要です。この記事では、ストックオプション発行時の手続きと注意点について弁護士が解説します。

 

ストックオプションの種類を紹介

まずは、株式会社が発行するストックオプションにはどのような種類があるのかについて概観していきます。

有償型ストックオプション

有償型ストックオプションは、割り当て時に、権利者から金銭の払込を要するタイプのストックオプションです。有償型の場合、ストックオプションに関する税務上の取り扱いがシンプルになるメリットがあります。

 

すなわち有償型の場合、払込価格の設定が適切である限り、権利行使時(株式取得時)の給与所得課税が行われません。したがって、ストックオプションに関する課税は株式譲渡時の譲渡所得課税のみとなり、権利者の税負担が軽減されます。

 

ただし、株価が権利行使価格を上回らなかったり、行使条件を満たさなかったりすると、権利者が損をするというデメリットも存在します。

無償型ストックオプション

無償型ストックオプションは、有償型とは異なり、割り当て時に権利者からの払込が不要のストックオプションです。無償型ストックオプションには、税制非適格型と適格型の2つのタイプがありますので、それぞれについて解説します。

税制非適格ストックオプション

ストックオプション(=新株予約権)にも財産的価値があるため、無償で付与する場合は、税務上給与とみなされるのが原則です。税制非適格ストックオプションは、この原則どおりに給与所得課税が行われることになります。すなわち、ストックオプションを行使して株式を取得した段階で、行使価格と株価の差額に対して給与所得課税が行われます。

税制適格ストックオプション

しかしストックオプションの行使時に給与所得課税が行われると、権利者の税負担が増えてしまい、ストックオプションのインセンティブが削がれてしまうデメリットがあります。そこで、一定の要件を満たすことにより、無償型ストックオプションであっても行使時の給与所得課税を回避できる特例が設けられています。

 

それが「税制適格ストックオプション」です。

 

税制適格ストックオプションの特例が適用されるための主な要件は以下のとおりです(租税特別措置法29条の2)。

 

無償型ストックオプションであること

②行使期間がストックオプションの付与決議の2年後から10年後までの範囲内であること

③年間権利行使価額が1200万円以下であること

④ストックオプションの譲渡が禁止されていること

⑤行使価額が付与時の株価以上であること

発行会社またはその子会社の取締役・執行役・従業員に対して付与されるものであること(ただし、一定の条件を満たす場合には社外の人材に対しての付与も対象)

⑦付与決議日において、大口株主(3分の1以上)またはその特別関係者でないこと

 

税制適格ストックオプションを用いれば、無償型であっても有償型と同様に、行使時の給与所得課税を回避できるメリットがあります。

信託型ストックオプション

信託型ストックオプション』は、会社が発行したストックオプションを受託者が引き受け、信託期間中に役員・従業員が獲得したポイントに応じてストックオプションが受託者から割り当てられる制度です。

 

詳しい説明は別稿に譲りますが、信託型ストックオプションには以下のメリットがあります。

 

新株予約権の発行回数を抑えられる

②役員・従業員の入社後の貢献を考慮できる

行使価格を固定できる

給与所得課税が行われない(株式譲渡時の譲渡所得課税のみ。有償型ストックオプションと同じ)

 

ストックオプションを発行する際の手続きは?

ストックオプションを実際に発行する際には、会社法に則った手続きを踏む必要があります。具体的にどのような手続きが必要となるかについて見ていきましょう。

 

なお、以下の解説は「取締役会設置会社・非公開会社・種類株式不発行会社」であることを前提としています。

報酬決議

会社の役員に対してストックオプションを与える場合には、会社法上の報酬等の付与に該当するため、報酬決議(株主総会の普通決議)を経る必要があります(会社法361条1項)。

 

(取締役の報酬等)
第三百六十一条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

引用元:会社法361条1項

 

会社の従業員に対してストックオプションを与える場合には、その従業員が会社の役員の地位にある場合でない限り、上記のような報酬決議は不要となります。

取締役会でストックオプションの発行を決議する

ストックオプション発行についての議題を株主総会に提出するため、取締役会で募集事項の決議を行います。ストックオプション(新株予約権)の募集事項は会社法238条1項各号に規定されているので、所定の事項について漏れなく取締役会で決定しておきましょう。

 

(募集事項の決定)
第二百三十八条 株式会社は、その発行する新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集新株予約権(当該募集に応じて当該新株予約権の引受けの申込みをした者に対して割り当てる新株予約権をいう。以下この章において同じ。)について次に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)を定めなければならない。

引用元:会社法238条

株主総会の招集通知を発送する

ストックオプションの発行が取締役会で決議されたら、次は株主総会を招集します。株主総会の招集通知は、株主総会の1週間前までに株主へ発送する必要があります(会社法299条1項)。ただし、株主全員の同意がある場合には、招集通知を省略することが可能です(会社法300条)。

 

(株主総会の招集の通知)
第二百九十九条 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
引用元:会社法299条

 

(招集手続の省略)
第三百条 前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。ただし、第二百九十八条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない。
引用元:会社法300条
 

株主総会でストックオプションの発行を決議する

株主総会の場では、実際にストックオプションを発行して良いかを審議・決議します。ストックオプション(新株予約権)の募集事項の決定は、株主総会の特別決議によることが必要です(会社法238条2項309条2項6号)。したがって、発行決議には議決権の3分の2以上(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合)の賛成が必要になります。

募集新株予約権の申込み・割当てまたは総数引受契約の締結

ストックオプションの募集事項が株主総会で決議されたら、申込み・割当ての手続きに移行します(会社法242条、243条)。

 

(募集新株予約権の申込み)
第二百四十二条 株式会社は、第二百三十八条第一項の募集に応じて募集新株予約権の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
引用元:会社法242条

 

(募集新株予約権の割当て)
第二百四十三条 株式会社は、申込者の中から募集新株予約権の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集新株予約権の数を定めなければならない。この場合において、株式会社は、当該申込者に割り当てる募集新株予約権の数を、前条第二項第二号の数よりも減少することができる。
引用元:会社法243条

 

ストックオプションを取得しようとする者は、会社の募集に応じて引受けの申し込みを行います。会社はそれに対して割当てを決定し、実際にストックオプションを申込者に割り当てます

 

ただし、一人が全部の募集新株予約権を引き受ける旨の契約(総数引受契約)を締結する場合は、申込み・割当ての手続きを省略することが可能です(会社法244条)。

ストックオプションの発行・新株予約権原簿への記載

上記の手続きが完了したら、割当てスケジュールに従って、実際に会社が付与対象者に対してストックオプションを発行します。この時、有償型の場合は金銭の払込が必要です。なお、会社は新株予約権を発行した日以後遅滞なく、新株予約権原簿を作成しなければなりません(会社法249条)。

 

新株予約権原簿には、以下の内容が記載されます。

 

・新株予約権者の氏名(名称)、住所

・新株予約権の内容、数

・新株予約権の取得日

・新株予約権証券の番号(証券が発行されている場合のみ)

新株予約権発行の登記

新株予約権の発行は、株式会社の登記事項とされています(会社法911条3項12号)。そのため、会社がストックオプション(新株予約権)を新たに発行した場合、発行から2週間以内にその旨を登記することが必要です(会社法915条1項)。

 

(変更の登記)
第九百十五条 会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
引用元:会社法915条

 

ストックオプションを発行する際の注意点は?

ストックオプションは役員・従業員のモチベーションを上げる目的で発行されるものです。そのため、ストックオプションの設計は、できるだけ役員・従業員のモチベーションを効果的に高めるような内容にすることが大切です。

 

また、実際にストックオプションが行使された後の株式保有状況も念頭に置いて設計しないと、経営に関する意思決定に支障が生じてしまう可能性もあります。これらの点を踏まえて、ストックオプションを発行する際に注意すべきことについて見ていきましょう。

給与所得としての課税が行われないように注意する

ストックオプションの行使時に給与所得課税が行われてしまうと、役員・従業員が得られる経済的メリットが減殺され、インセンティブを削いでしまうことに繋がりかねません。そのため、役員・従業員のインセンティブが削がれてしまわないように、給与所得課税が行われないように設計するのが普通です。

 

すでに解説したように、行使時に給与所得課税が行われないストックオプションは、以下の3種類です。

  1. 有償型ストックオプション
  2. 税制適格ストックオプション(無償型)
  3. 信託型ストックオプション

よって、基本的にはこれらのパターンからストックオプションの種類を選択することをおすすめいたします。

権利行使の結果として起こる株式の希釈化に注意する

新株予約権が行使された場合、新たに新株が発行されるため、既存の株式に希釈化が生じます。したがって、経営に関する意思決定に影響が出ないよう、新株予約権により新たに発生する株式の割合を一定以下に抑える必要があります。

 

特に、会社に関する重要事項の決定については、多くの場合株主総会特別決議が要求されます。株主総会特別決議の可決ラインは議決権の3分の2なので、このラインを意識しつつ、ストックオプションの発行数などを調整しましょう。

ストックオプションの行使要件を適切に設定する

ストックオプションを設計する際には、役員・従業員に対して、できるだけ長く会社に貢献してもらえるようなインセンティブを与えるような内容にしたいところです。

そのため、フリーハンドでの行使を認めるのではなく、一定の行使要件を設けるのが良いでしょう。

たとえば、以下のような制限を設けることが考えられます。

①在職要件

会社の役員または従業員でなくなった人には、ストックオプションの行使を認めないことをいいます。

②行使期間要件(ベスティング)

付与から一定期間はストックオプションの行使を認めないことをいいます。期間に応じて段階的に行使を認めるパターンも考えられます(2年経過後に20%まで行使可能、4年経過後に100%行使可能など)。

 

ストックオプションを発行する際、弁護士に相談・依頼すべき理由

ストックオプションを発行することを検討している場合は、弁護士に相談することをおすすめいたします。ストックオプションの発行には複雑な検討や手続きを必要としますが、弁護士に相談すれば、全般的なサポートを受けることが可能です。

会社法上の手続きを適切に踏むことができる

ストックオプションを実際に発行するまでの手続きは、会社法の規定に則る必要があります。会社法の規定は非常に細かいので、会社内部だけで対応しようとすると、どうしても見落としが生じがちです。この点、法律の専門家である弁護士に依頼をすれば、必要となる手続きを漏らさず適切に踏むことができるので安心でしょう。

税理士や会計士との連携により税務面もケア可能

また、ストックオプションの設計にあたっては税務面の考慮も不可欠です。役員・従業員に対して適切なインセンティブを与えるためには、権利者の税負担ができるだけ軽くなるようにストックオプションを設計しなければなりません。

 

弁護士は、税理士や公認会計士と連携しているため、ストックオプションに関する複雑な税務についても対応することができます。

 

まとめ

ストックオプションの設計については、会社がどのような狙いでストックオプションを発行するのか、税務上の取扱いはどうなっているのかなどを複合的に検討した上で決定することが必要です。

 

また、ストックオプションの発行手続きについても、会社法に規定された非常に複雑なルールに従う必要があります。

 

こうした難しいストックオプションの発行手続きは、企業法務を専門に取り扱う弁護士に依頼をすることをおすすめいたします。企業法務を取り扱っている弁護士であれば、会社法に関連する手続きに精通しているため、依頼者の会社のニーズに合わせた最適なストックオプションの設計を提案してくれるでしょう。

 

また、実際の発行手続きについても、弁護士に任せておけば安心です。ストックオプションの発行を検討している会社経営者の方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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