会社法監査とは|実施内容やスケジュールなど基礎知識を解説

専門家監修記事
会社法監査は株主や債権者への不利益を回避するために行われ、大会社に当たる企業には監査が義務付けられています。会社監査は会社の信用にも関わる重要なものです。この記事では、会社法における監査について、実施内容やスケジュールなどを解説します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
人事・労務

企業の監査制度では、大会社(※)に該当する企業に対して、「会社法監査」が義務づけられています。これは会計監査人として公認会計士もしくは監査法人といった外部の人間に監査を依頼する『外部監査』にあたります。

 

会社法監査は、会社の信頼に大きく関わる需要なものです。この記事では、会社法監査に関する基礎知識についてご紹介します。

※大会社とは

資本金が5億円以上もしくは、負債が200億円以上の株式会社が対象です。

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会社法監査の基本概要

会社法監査とは、会社法第436条2項1号に規定される「計算書類及びその附属明細書」が適正に作成されているかどうかについて、会計監査人たる公認会計士または監査法人が行う監査業務のことです。

会社法監査の目的

計算書類は、会社の運営状況や財務状況を数字的に示す資料で、事業報告書とともに定時株主総会で株主に提供する書類です。そのため、計算書類が適正に作成されていない場合、会社の運営状況や財務状況を正しく判断することができず、株主・債権者の利益を著しく害する可能性があります。

 

会社法監査はこれを回避し、株主や債権者などの利害関係者の保護を目的とし、計算書類の監査を義務づけています。そのためにも、計算書類の内容の適正性・信頼性は、第三者の視点から検証され、担保されている必要があります。

会社法監査の対象になる会社

会社法監査は、すべての株式会社に監査の実施を義務づけているわけではありません。

 

会社法監査の目的に鑑みて、利害関係者に大きな影響力を有すると考えられる「大会社」に関してのみ、会計監査人による監査を義務づけています(会社法328条)。「大会社」とは、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上、または、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(会社法2条第6項)。

 

逆に、半分個人経営であり株主もオーナー一人会社であるとか、取引量が非常に小規模な零細的な会社では、そもそも計算書類により影響を受ける利害関係者が少なく、計算書類の適正を確保すべき要請は相対的に低いといえます。

会社法に関する罰則

会社法上の大会社は、会社法の規定により会計監査人を設置しなければならなりません。したがって、会計監査人を選任せずに不作為のまま放置すれば法令違反となります。

 

会計監査人の選任を懈怠した場合には、100万円以下の過料が科される可能性があります(会社法976条22号)。

 

また、大会社には会計監査人の設置義務に加え、内部統制の基本方針を決定する義務があり、事業報告書の記載事項です。会計監査人を不設置のままで放置する行為は、事業報告書における「基本方針」の不記載や虚偽記載につながるかもしれません (会社法976条7号)。

 

会計監査人を選任しない行為は、このような法令上の義務にも違反している可能性があります。

金融商品取引法監査との違い

金融商品取引法監査は会社法監査と同様に外部監査へ分類されますが、会社法監査と金融商品取引法監査は、監査対象となる会社の範囲及び書類に違いがあります。

 

金融商品取引法監査とは、金融商品取引法第193条の2に基づき、公認会計士または監査法人によって行われる監査業務のことをいいます。同条第1項では財務諸表監査が、同条第2項では内部統制監査が定められています。

 

財務諸表監査は、有価証券報告書等の提出会社である、上場会社、店頭登録株発行会社、有価証券届出書提出会社、株主数が500名以上かつ資本金5億円以上の会社をその対象範囲です。監査対象は有価証券報告書の「経理の状況」に掲げられる財務諸表となり、その適正性について会計監査人が意見表明をします。

 

会社法監査に必要な4つの書類

会社法463条2項1号の「計算書類」とは、「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算表」「個別注記表」の4つを指します(会社法435条2・4項、会社計算規則59条1項)。

 

これに加えて、有価証券報告書を提出する大会社においては、連結計算書類(連結貸借対照表・連結損益計算書)の作成義務があるため、これについても監査の対象となります(会社法444条第3項)。

 

会計監査を受ける際には、以上4つの計算書類に加えて、その附属明細書をそろえる必要があります。また、会社の形態に応じて、連結計算書類も準備しておきます。

 

また、会計監査人設置会社では、連結計算書類を作成は任意でですが、会計監査人(監査役でも可)の監査を受けなければなりません(会社法444条第4項)。

賃借対照表とは

賃借対照表とは、負債も含めた会社の財産状態を一覧にしたものです。監査の際には、資産の実在性や資産評価の妥当性、負債の網羅性についての正確性が求められます。

損益計算書とは

損益計算書とは、会社の一会計期間の経営成績を表す決算書のことです。費用と収益を比べ、その差額を利益として表します。監査の際には、売上高の正当性や販売費・一般管理費、営業外損益・特別損益などの計算に整合性がとれているかどうか、その数字は妥当なものかなどに注意を払います。

株主資本等変動計算表とは

株主資本等変動計算表とは、貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を表した決算書のことをいいます。監査の際には、各項目の当期首残高と全事業年度の当期末残高が一致していることや、貸借対照表や損益計算書と照合して、整合しているかを確認します。

個別注記表とは

個別注記表とは、重要な会計方針に関する注記、貸借対照表に関する注記、損益計算書に関する注記等、各計算書類に記載された注記を一覧にして表した決算書をいいます。

 

監査の際には、会計方針や表示方式などの変更点について、その内容を確認します。また、保証債務や担保設定などの注記事項についても確認します。

 

会社法における監査のスケジュール

会社法監査のスケジュールは、以下のように進行していきます。

 

1:決算日に関係書類の作成

多くの会社は、3月31日または12月31日を決算日としており、取締役はそれに向け会社法に必要な4つの書類と附属明細書を作成します(会社法435条2項、会社法施行規則116条2号、会社計算規則59条1項)。

2:監査

取締役は、会計監査人に計算書類とその附属明細書を提供し(会社法436条2項)、会計監査人は会計監査を行います(会社計算規則126条)。会計監査人の会計監査と同時並行して、事業報告書およびその附属明細書の監査を監査役または監査役会が行います。

 

なお、会計監査人は、

 

  1. 計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日
  2. 計算書類の附属明細書を受領した日から1週間を経過した日
  3. 特定取締役、特定監査役および会計監査人の間で合意により定めた日があるときはその日

 

以上のうち最も遅い日までに特定監査役および特定取締役に対し、会計監査報告の内容を通知します(会社計算規則130条1項1号)。会計監査人の報告後、計算書類およびその附属明細書について、監査役または監査役会が監査を行います。なお、特定監査役は、

 

  1. 会計監査報告を受領した日から1週間を経過した日
  2. 特定取締役および特定監査役の間で合意により定めた日があるときはその日

 

以上までに特定取締役および会計監査人に対し、監査報告の内容を通知します(会社計算規則132条1項1号)。

3:取締役会の承認(取締役会設置会社の場合)

取締役会設置会社においては、計算書類等およびそれらの附属明細書について承認が必要となります(会社法436条3項)。

 

また、取締役会の招集には、原則として1週間の期日を要します(会社法368条1項)。

4:定時株主総会における承認(会社法438条2項)

原則として、2週間前の招集通知を経て(会社法299条1項)、定時株主総会を開催します。

 

会計監査人設置会社で、取締役会設置会社の一会計期間における計算書類は、

 

  1. 会計監査人の会計監査報告において無限定適正意見が得られる
  2. 監査役会監査報告で会計監査人の意見を相当でないとする意見がない
  3. 監査役会監査報告に付記されている異なる意見にも、相当でないとする意見がない

 

場合には、株主総会での承認が不要となり、報告にとどまる事項となります。

 

会社法監査について弁護士に相談するメリット

会社法第337条に規定されるように、会計監査人は、公認会計士または監査法人でなければなりません。それでは、会社法監査について弁護士に相談するメリットはあるのでしょうか。

 

前述の通り、公認会計士は、会社法監査によって、会社が作成した計算書類や附属明細書が適正であるかどうかを確認します。例えば、対象会社が外部との間で紛争状態にあるとします。すると和解金や損害賠償金の支払いによって、会社の会計が異なってきます。公認会計士としては、事件や訴訟の進行具合に応じた会計処理がきちんとなされているかを確認する必要があります。

 

その際、公認会計士は、訴訟事件の内容や進捗状況、今後の見通しについて、代理人である弁護士に弁護士確認状を送付することで相談・確認します。また、外部との紛争状態にない場合であっても、訴訟事件等の網羅性を担保するために、弁護士確認状を送付して弁護士に確認をとるのが一般的です。

 

さらに、定時株主総会の開催にあたっても、運営方法の指導、決議手続き等の法的アドバイス、英文議事録作成の依頼など、さまざまな場面において、弁護士に相談することができます。そのため、会社法監査においても、弁護士の存在は重要です。

 

まとめ

会社法監査は、法で義務化されているだけでなく、大会社の社会的信用を担保するために必要な業務であるといえます。

困った際には、公認会計士や監査法人に相談することをおすすめします。

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