休職している従業員の社会保険料の支払義務はある?立替えた場合の請求方法

専門家監修記事
休職中している従業員にも社会保険料が発生するため、当然支払い義務があります。会社が立て替えるか、本人が支払うかは会社次第ですが、会社が立て替えた場合、従業員へ支払いを求めることになります。この記事では休職中している従業員の社会保険料についてご紹介します。
弁護士法人東京スタートアップ法律事務所
中川浩秀
監修記事
人事・労務

休職中の従業員に対しても社会保険料は発生します。会社が社会保険料を立て替えた場合、休職中の従業員がそのまま退職してしまうケースも考え、どのように支払ってもらうか決めておかなければなりません。

 

この記事では、休職中の従業員に対する社会保険料の基礎知識と、請求方法をご紹介します。

 

 

【アンケートに答えて無料モニター応募!】2022年4月施行のパワハラ防止法についてのアンケートにご回答いただいた企業様へ、抽選で「パワハラ防止法対策ツール(当社新サービス)」の無料モニターへご案内させていただきます。アンケートはこちら

休職中している従業員の社会保険料について

休職中の従業員へ給料を支払うかは会社次第ですが、無給の場合、社会保険料はどのように変化するのでしょうか。

無給でも社会保険料の支払義務は発生する

従業員の休職中は、無給としている会社も多いですが、厚生年金や健康保険等の社会保険料の負担額は本人負担、会社負担ともに変更はありません。これは、休職に関する定めが法的なものではなく、あくまで各会社の就業規則によるものだからです。

 

通常、給与から社会保険料が天引きとなるケースが多いですが、無給の場合、従業員が社会保険料を支払い続けるのは難しいかもしれません。

 

だからといって、会社が立て替えればよいというわけではありません。もし従業員の体調が休職期間中に回復せず、万が一退職となってしまった場合、立て替えた社会保険料を回収できない事態に陥る可能性があります。

 

このような場合に備えて、会社側は休職期間中の社会保険料の支払いについても就業規則等に事前に検討をした上で、明記しておきましょう

社会保険料の金額は変動しない

休職期間中の社会保険料の支払い額ですが、その金額に変動はありません。というのも、社会保険料は給料の額を元に算出した「標準報酬月額」に沿って算出されているからです。

 

標準報酬月額とは、会社と従業員が折半で負担する健康保健や介護保険、厚生年金保険等の社会保険料の計算を行う仕組みのことで、毎年1回7月に、4月・5月・6月に支払われた給与の平均額から割り出しています。

 

これだけを見ると「この標準報酬月額を引き下げれば社会保険料も下げられるのでは?」と考えるかもしれません。しかし、標準報酬月額を引き下げるには、いくつかの条件が指定されており、「休職」については、この条件に含まれないのです。

 

つまり、休職によって社会保険料を引き下げることはできません。

 

休職中の従業員から社会保険料を支払ってもらうには?

休職期間中の従業員から社会保険料を徴収するとなると、無給の状態で収入がないため、支払えないという状況が予想されます。

 

しかし、会社側が立て替えるにはリスクが大きいのも現実です。ここでは、従業員から社会保険料を支払ってもらうにはどうしたら良いのかを詳しくご説明します。

 

重要なことは、会社側が事前に従業員との間で取り決めを交わしておくことです。就業規則等によりしっかりと明記しておけば、休職中の従業員とのトラブルなく保険料を請求できます。

毎月支払ってもらう

休職期間中の従業員との間で、社会保険料の支払いについてトラブルにならないためには、事前に支払い方法について就業規則等で取り決めを交わしましょう。

 

その中でも重要なことは、従業員に毎月社会保険料を支払ってもらうということです。

 

というのも、休職期間中の従業員による社会保険料の未払いが問題となり、訴訟に発展するケースもありますので、あらかじめ休職期間に入る前に、支払い方法の確認をしておきましょう。

 

もし、無給な状態のため支払いが厳しいという従業員には、対応策として「傷病手当金」を案内するとよいでしょう。

傷病手当金から支払ってもらう

先程紹介した「傷病手当金」とは、病気や怪我で一時的に仕事に就くことが困難な労働者に対して、会社が加入している保険者(協会けんぽ、健康保険組合)に「継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30」(健康保険法99条4項)の3分の2に相当する額を支給するものです。

 

従業員に、このような制度があることを伝えておき、未然に社会保険料の未払いに関するトラブルを避けることが重要です。

 

傷病手当金が支給されれば、従業員による社会保険料の支払いを毎月行ってくれる可能性も高まります。なお、傷病手当金にも支給要件がありますので併せてお伝えください。

 

傷病手当金の支給要件について

①健康保険の被保険者である

傷病手当金の支給要件の1つ目は、勤務先の健康保険に加入している被保険者が対象となります。なお、扶養に入っている家族や国民健康保険に加入している方は対象外です。

 

②病気や怪我により仕事に就くことが困難な場合

この場合の病気や怪我とは、業務外の事由により、医師より労務不能と診断された場合のことを言います。

 

③傷病により連続する3日間を含み4日以上仕事に就けない場合

従業員が傷病手当金を受給するためには、医師から労務不能と診断された後に、3日間連続で会社を休まなくてはいけません。この期間を「待機期間」と呼び、待機期間は有給や公休、欠勤などどのような休みでも該当します。

 

待機期間については、傷病手当金は支給されませんが、4日目以降会社を休んだ期間に支給されます。

 

④会社を休んだ期間の給与支払いがない場合

傷病手当金を従業員が支給するためには、会社を休んだ期間に給与の支払いがないことが条件です。また、給与の支払いがあっても傷病手当金の額よりも少ない場合は、差額分が支給対象になります。

 

なお、傷病手当金の支給期間については、支給開始日から最長で1年6ヶ月となります。期間の途中で労務に就くことができ、支給がされない期間があっても、延長されません

 

会社側としては、従業員の休業に関して、このような傷病手当金の案内も行い、社会保険料の支払いが滞ることがないよう配慮することが望ましいでしょう。

 

傷病手当金の受取先を会社にしておく

休業中の従業員から社会保険料の支払いが滞ってしまうなどのトラブルを未然に防ぐためには、従業員に支払われる「傷病手当金」をいったん会社側が受領し、社会保険料を差し引いた上で、従業員に支給するという方法が考えられます。

 

いったん会社側が傷病手当金を受領することで、確実に社会保険料を徴収できますし、従業員との間で生じるトラブル防止にもつながります。

 

会社側が、傷病手当金を一時的に受領するためには、「傷病手当金支給申請書」の受取代理人欄に、従業員ではなく、会社の口座に振り込むことを記載しておきましょう。

 

こうすることで、会社側は振り込まれた傷病手当金から社会保険料を控除した上で、従業員に支給できます。また、傷病手当金から社会保険料を控除した際には、明細書と共に従業員へ通知しましょう。

 

会社で立て替えておき、復職後に支払ってもらう

休職期間中の従業員から、社会保険料を徴収するには会社で立て替えておくというのも方法の1つです。

 

しかし、この方法にメリットはほとんどありません。というのも、会社側が立て替えた社会保険料を従業員が支払い拒否した場合や、休業明けに退職となるケースも多く、未払いのまま対応してもらえないことも考えられるからです。

 

もし、そのような事態が発生してしまったら、従業員と連絡が取れる場合では、会社の立て替え明細を添付した支払依頼書を交付し、本人の自筆署名や押印をしてもらう必要があります。

 

従業員本人と連絡が取れない場合には、内容証明を利用し、通知をするなど多くの労力を要します。身元保証人の有無を確認し、保証人へ請求を行う方法もありますが、これにも応じてもらえない場合は、訴訟も視野に入れなければいけません。

 

ただ、このような場合でも未払い分を回収するためには、多くの費用や労力がかかることから、できることなら避けたいところです。

 

休職中の社会保険料の関連知識

ここでは、休職期間中の従業員に関する社会保険料の支払いについて関連知識をまとめてご紹介します。

育児休業中は社会保険料は発生しない

育児・介護休業法により3歳までの子を養育するための育児休業期間については、社会保険料の支払いは被保険者分、事業主分ともに免除と規定されています。

 

また、平成26年4月より産前産後休業期間中の社会保険料についても免除を受けられるようになりました。

休職期間中であっても社会保険料の受給資格は喪失しない

これまでお伝えしている通り、休業期間中であっても社会保険料の受給資格は消失しません。

 

会社側から見ると、無給の従業員に対して社会保険料を立て替える措置を講じる場合も見受けられますが、この場合従業員が休業明けにそのまま退職となり、社会保険料を回収できないことも考えられます。

 

そのような事態を避けるため、休業期間中の従業員には傷病手当金を利用してもらい、傷病手当金を一時的に会社が受領し、その中から社会保険料を天引きした上で、従業員へ支給する形が望ましいでしょう。

 

また、従業員の休業に関する傷病手当金の取り扱いに関しては、事前に就業規則に明記した上で、全ての従業員に共有しておくと良いでしょう。

 

社会保険料以外の税金はどうなる?

ここでは、社会保険料以外の税金についての支払いはどうなるのかご紹介させて頂きます。

雇用保険料

雇用保険料については、働いた給料が発生した場合のみの支払いです。つまり、傷病手当金などを利用し1ヶ月会社を欠勤した従業員に関しては、支払う必要がありません。

 

もちろん、1日でも勤務期間があってその分の給料が発生した場合には、お給料に保険料率を掛け合わせた分がお給料から天引きとなります。

所得税

所得税も雇用保険と同様に、その会社に勤務し給料が発生した場合に支払うものです。当然のことですが、お給料の支払いがない休業期間中は、支払い義務は生じません。

住民税

住民税については、多くの会社員がお給料から天引きとなっているかと思います。住民税そのものは、前年の所得によって金額が決まるため、たとえ休業期間で従業員が働いてなくても、請求されます。

 

しかし、これはあくまで従業員の住民税ですので、会社側には支払い義務は生じません。通常、会社が従業員の住民税をお給料から天引きしているのは、事務の簡素化のために、従業員に代わって会社が天引きしているだけです。

 

従業員が休職中は、従業員自ら住民税を支払うことになります。

 

まとめ

従業員が休職期間中の社会保険料については、会社が立て替えている場合も多いです。しかし、このような状況だと万が一従業員が、休職期間明けに退職となった場合は、社会保険料の未払い分を回収できない事態に陥ります。

 

このような事態を避けるために、就業規則に従業員が休業となった場合には、どのように対処すれば良いのかをあらかじめ検討しておきましょう。

 

また、会社内での検討が難しい場合には、あらゆる事態を想定できる労務に詳しい弁護士に相談するのも良い方法の1つです。ぜひ参考にしてください。

ページトップ