よりよい会社を目指し、配置転換したのに従業員から「パワハラ」と受け取られてしまうケースも珍しくありません。パワハラ問題は訴訟や会社自体のイメージ悪化につながるなどさまざまなトラブル招きます。
そのような事態を回避するためにも、この記事では配置転換によってパワハラになるケースや配置転換が無効になってしまうケースについて解説します。
配置転換がパワハラとなるケース
配置転換の方法によってはパワハラとなるケースも考えられるでしょう。そもそもパワハラには、
- 殴る・蹴るなどの暴力や立ったまま電話営業させる「身体的侵害」
- 暴言や侮辱などの「精神的侵害」
- 仲間はずれや仕事を教えないといった「人間関係からの切り離し」
- とても達成できないようなノルマを課すといった「過大な要求」
- 仕事を任せず単調な作業ばかりやらせるような「過小な要求」
- 人のプライベートに過剰に踏み入るような「個の侵害」
の6種類が存在しており、上記のうちのどれかに当てはまればパワハラと見なされます。これらを踏まえた上で、配置転換がパワハラになるケースについて解説します。
1:妊娠や出産を機に閑職へ追いやる
従業員の結婚や妊娠・出産を機に、一方的に閑職へ追いやるのは、転換が「権利濫用」にあたるため、パワハラになり得ます。一方的ではなく、必ず当該従業員と相談し、従業員の意思を尊重するようにしましょう。
2:配置転換を拒否した従業員への嫌がらせ
従業員には、配置転換の打診を受けた際に、不当と思えば配置転換を拒否できる場合もあります。
そのため、配置転換の拒否した従業員へ執拗に配置転換を要求したり、嫌がらせをしたりすることはパワハラに該当します。
3:配置転換を無理に要求する
配置転換の内容によっても、パワハラかどうか判断されます。通勤に長時間を必要になったり給与削減などが発生したりするような、無理な配置転換をされたときはパワハラになる可能性があるでしょう。
また、仕事で失敗したなど、上司が「恥をかかされた」と逆恨みしてするような配置転換は、「報復人事」としてパワハラにあたります。
4:従業員の個々の事情に配慮せずに配置転換をする
会社だけでなく、従業員にもさまざまな都合があります。親の介護が必要になったり、子供の育児をしなければならなかったり、場合によってはどうしてもその場所にいなければならないケースもあるでしょう。
そうした従業員の事情を把握せずに、地方に異動させるような配置転換もパワハラにあたるといえます。
その他配置転換が無効となるケース
ご紹介した以外の状況でも配置転換が無効になるケースが存在します。ここでは、配置転換が無効になるようなケースについて解説します。
就業規則に配置転換命令が明記されていない場合
配置転換するとき、就業規則に配置転換命令が出せることが書かれている場合であれば、社員の同意なく配置転換の命令が出せることになっています。
ですが就業規則に配置転換命令が明記されていないと、従業員は配置転換に対し、拒否することが可能です。配置転換をする前に、まず就業規則を確認し、明記されていない場合は追記する必要があります。
配置転換が権利濫用にあたる場合
もし配置転換命令に明記されているような場合であっても、職権濫用にあたる場合は配置転換が無効になることもあります。職権濫用にあたるかどうかについては、
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などを考慮して判断されます。ちなみに、②の「従業員への通常甘受すべき程度を著しく超えるような不利益があるかどうか」については、
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などが基準になると考えてください。
育児休業法の規定も関わってくる!
子育てに関しては育児休業法の規定も大きく関わってくることもあります。
育児介護休業法26条では、労働者が配置転換などによって子供の養育や介護が困難になる場合、そうした状況を会社は配慮しなければいけない決まりになっています。
<育児介護休業法26条>
事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。
専門職として雇われたのに他の職種に配置転換された場合
従業員がもつ専門性から程遠い職種に配置転換した場合、無効になる可能性も考えられます。
たとえばトラックのドライバーとして雇った従業員を、就職後すぐに事務職に配置転換した場合、配置転換として認められない可能性が高いでしょう。
不当な配置転換に対し損害賠償請求が認められた判例
実際に、不当な配置転換に対し損害賠償が認められた判例をご紹介します。
オリンパス事件
原告が、勤務先の不当な人事について、勤務先のコンプライアンス室に内部通報を行ったところ、配置転換された事件。
裁判所は、内部通報を行ったことに対して反感を抱き、業務上の必要性とは無関係に配置転換したと認定し、動機が不当なものであると判断しました。結果として、約220万円の損害賠償請求が認められました。
裁判年月日 平成23年 8月31日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決 事件番号 平22(ネ)794号 |
親和産業事件
会社からの退職勧奨を拒み続けた原告は、営業部の管理職から倉庫業務に降格させられ、給料が2分の1になった事件。原告は大卒でしたが、これまで大卒者が誰も就業したことのない倉庫業務に就かされました。
会社からの配置転換は社会的相当性を逸すると見なし、降格命令後の差額分の給与の支払い、さらには賞与の下限額のおよそ8割を支払うよう命令。さらに原告の精神的苦痛も考慮して、50万円の慰謝料の支払いも課されました。
これまで大卒者が就業したことのない倉庫業務に大卒である原告を就かせたことは、「過小な要求」型に分類されるパワハラだと考えられます。
裁判年月日 平成24年12月19日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決 事件番号 平23(ワ)11808号 |
まとめ|配置転換でトラブルが発生する前に弁護士へ
今までいた部署から転換することに対し、従業員は大きな不安を抱えているかもしれません。
たとえ、期待を込めた配置転換でも「何か失敗してしまったんじゃないか…」「この上司は自分が嫌いで配置転換したんじゃないのか…」などと感じている可能性があります。
パワハラと受け取られる前に、従業員の心境を配慮することが重要です。また、不要なトラブルを回避するためにも、配置転換の前に必ず就業規則の見直しと弁護士チェックを受けることを推奨します。
配置転換などの人事異動を拒否された場合の対応についてご紹介します。