従業員の在籍出向拒否が認められるケース|会社側ができるその後の対応

専門家監修記事
従業員は、状況によっては在籍出向を拒否することが可能です。ただ、会社としては在籍出向を拒否されてしまうと、今後運営にも関わってくるかと思います。この記事では、在籍出向拒否が認められるケースやその後の対応についてご紹介します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
人事・労務

従業員は、業務上の必要性から在籍出向を命じた場合でも、状況によっては拒否することが可能です。ただし、このような問題は従業員とのトラブルになりかねません。

この記事では、どのようなケースで従業員の在籍出向拒否が認められるのかについてご紹介します。

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会社側の出向権限とは?在籍出向を命令できる場合

「在籍出向」とは、雇用先の企業と労働契約関係を維持しながら、一定期間、他の企業との間でも雇用契約を締結して、働くことをいいます。

 

このような働き方は、従業員にとって負担となる場合もあります。例えば、出向先が遠方の会社の場合、転居や単身赴任をしなければならないでしょうし、労働条件や待遇が低下してしまうということもあり得ます。

 

このような場合、従業員は在籍出向命令を拒否できるのでしょうか。

 

会社と労働者の雇用契約において、出向権限があると認められれば、会社は一方的に命じることができますし、従業員は正当な理由なくこれを拒否できません

 

会社に出向命令権限があるかどうかは、一次的には雇用契約書又は就業規則で判断されるべきものであるため、就業規則に出向命令権限がある旨明記されていれば、会社には権限ありということになります。

 

他方、そのような規定が一切ない場合は、会社に出向を命じる権限がないと評価される可能性もあります。したがって、上記問題を検討する上では、まずは雇用契約書及び就業規則の内容を精査する必要があります。

従業員の在籍出向拒否が認められる3つのケースとは?

会社に出向命令権限がある場合、従業員に対して一方的に命じることができます。しかし、その命令が権利濫用と評価される場合、従業員は拒否することができます。例えば、下図のような場合が考えられます。

ここでは、各ケースについて詳しく解説します。

在籍出向の必要性が認め難い場合

在籍出向の必要性が全く無いのに出向を命じることはできません。この場合、高度な必要性(必要不可欠など)までは求められませんが、必要性が全く基礎づけられない命令は権利濫用となります。

在籍出向の相当性がない場合

在籍出向を命じたことで、労働者が通常甘受すべき範囲を超えた不利益を被る場合も、在籍出向の相当性がないとして権利濫用となる場合があります。

例えば、対象者が出向により賃金・待遇が著しく低下するような場合です。何の手当もなく在籍出向を命じても、その効力は否定される可能性が高いでしょう。

また、対象者に病気の家族がおり、介護が必要という状況のなかで単身赴任を強いるような在籍出向は相当性がないと評価される可能性があります。

在籍出向命令の動機・目的が不当な場合

従業員を退職に追い込む目的や、嫌がらせを目的に在籍出向を命じることは当然許されません。このような場合も権利の濫用となります。

例えば、会社の違法行為を内部告発したり、セクハラやパワハラを会社に報告されたりした従業員を嫌がらせや報復として在籍出向をさせるようなケースはこの典型例です。

在籍出向を拒否した従業員に対しては懲戒処分が可能

出向命令が適法かつ有効であるのに、従業員が断固として拒否する場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

まず、使用者による有効な業務命令に従業員が従わない行為は業務命令違反として、重大な債務不履行になります。また、このような行為は、企業秩序を著しく害する行為として懲戒処分の対象にもなります

そこで、このような場合、従業員に対して労働義務違反であることを理由に指導・警告を行いつつ、是正を求めましょう。それでも是正されない場合は、懲戒処分を科すことで是正を促すことになります。それでも是正がなければ、普通解雇などを検討せざるをないでしょう。

なお、このようなステップを踏むことなく、いきなり懲戒解雇などの深刻な処分を下すと、懲戒権の濫用と判断されることもあるので、注意しましょう。懲戒解雇は最後の手段であり、普通解雇では解決しないという極めて限定的なケースに限り行うべき処分です。

在籍出向の拒否に関する判例

ここでは、在籍出向拒否をめぐる裁判例について見てきましょう。

在籍出向の拒否が無効だとされた判例①

まずは、従業員の出向拒否が認められなかったケースを見ていきましょう。

1つ目の裁判例は、前述した新日本製鐵事件(最判平成15年4月18日労判847号14頁)です。この事案では、従業員の同意がなくとも子会社への出向命令を行うことができるのかが争われました。裁判所は、

  1. 出向元の就業規則に出向命令ができる根拠規定がある
  2. 労働協約である社外勤務協定において、社外勤務の定義や、出向期間、出向中の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定など、労働者の利益に配慮した詳細な規定が定められている

などを理由に、従業員の同意なしでも出向命令ができる(出向拒否は無効)と判断しました。

在籍出向の拒否が無効だとされた判例②

従業員の出向拒否が認められなかった2つ目の裁判例は、同じく前述した興和事件(名古屋地判昭和55年3月26日労民集31巻2号372頁)です。

この事案では、3社一括で採用を行っている会社間での在籍出向をめぐり、争われました。当該会社では就業規則に出向に関する規定があり、社内の手続も制度として確立し、また多くの社員が3社間を異動(出向)していた実績がありました。

裁判所は、この事案で、3社が密接不可分の関係にあり、このような基本構造であることを採用時に説明されていたことなどを理由に、会社の出向命令権を認め、また就業規則に出向に関する規定が定められていることから、従業員の包括的同意があったとして、出向命令を有効(出向拒否は無効)と判断しました。

在籍出向の拒否が有効だとされた判例①

次に、従業員の出向拒否が認められた裁判例を見ていきましょう。

1つ目は、東海旅客鉄道事件(大阪地決平成6年8月10日労判658号56頁)です。

この事案で、出インの会社への出向を命じました。裁判所は、出向先の作業は腰痛の持病がある従業員にとっては難しく、出向を命じられれば退職に追い込まれるおそれがあるとして向元の会社は腰痛の持病(変形性脊椎症・腰椎椎間板症や、椎間板ヘルニア)がある従業員に対し、モップがけなどの清掃業務がメインになるような出向命令は権利の濫用として、無効と判断しました。

在籍出向の拒否が有効だとされた判例②

2つ目は、JR東海事件(大阪地決昭和62年11月30日労判507号22頁)です。

裁判所は、運転士・車両係等として働いていた従業員に、車両清掃や物の積み込み作業を主な業務とする会社へ出向を命じた事案について、権利濫用として出向命令を無効と判示しました。

まとめ|在籍出向に関するトラブルでお困りの方へ

在籍出向は、一般的に従業員に負担を課すものなので、労使間でトラブルが生じやすく、労働問題に発展するケースは少なくありません。特に、出向拒否を理由に、一方的に懲戒処分を行ってしまうと、訴訟に発展し、無用な時間と労力を強いられることになりかねません。

従業員が断固として在籍出向を拒否する場合、まずは労働問題が得意な弁護士に相談して、一緒に対応を考えていきましょう。交渉のプロである弁護士に依頼すれば、双方が納得いくような解決を図ることができ、トラブルを回避できます。

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