弁護士とマッチングできます
企業法務弁護士ナビでは完全非公開で相談可能です。貴社の課題に最適解を持つ弁護士、最大5名とマッチングできます。
従業員は、業務上の必要性から在籍出向を命じた場合でも、状況によっては拒否することが可能です。
ただし、このような問題は従業員とのトラブルになりかねません。
この記事では、どのようなケースで従業員の在籍出向拒否が認められるのかについてご紹介します。
在籍出向とは、「労働者が使用者(出向元)との間の雇用契約に基づく従業員たる身分を保有しながら第三者(出向先)の指揮監督の下に労務を提供するという形態」(最高裁二小昭和60年4月5日) をいい、各企業において人事交流(人材援助・人材育成等)、業務提携、雇用調整等を目的として広く行われています。
民法625条1項に「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」との定めがありますので、会社が在籍出向を命じる際に、どの程度の承諾・同意が必要となるか問題となりますが、現在の裁判実務では、事前の包括的な同意(入社時の誓約書等)や就業規則・労働協約上に出向の取扱いに関する定めがあれば、出向を命じることできると考えられています(最判平成15年4月18日、最判平成4年1月24日、大阪高判平成2年7月26日)。
もっとも、出向は出向先によって労働条件が変わり得ることから、個別同意なしに出向を命じるためには、就業規則等に単に「業務の必要により出向を命じることがある」と定めているだけでは足りず、出向先の労働条件・処遇、出向期間、復帰条件(復職後の処遇や労働条件の通算等)に関する規定が整備され(通常の実務では出向規程や出向協定)、その内容も労働者に著しい不利益を被らせるものではないことが必要と考えられます(最判平成15年4月18日)。
また、上記のとおり出向を命じる根拠(包括的同意)があったとしても、「当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」されておりますので(労契法14条)、権利濫用と判断されないように留意する必要があります。
具体的に出向が有効か権利濫用に該当して無効となるかの判断については、①出向を命じる業務上の必要性、③人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等の合理性)、③出向による職業上又は生活上の不利益の内容・程度、④出向命令に至る手続きの相当性などの要素を考慮して判断されています(例えば、東京地裁平成25年11月12日)。
会社に出向命令権限がある場合、従業員に対して一方的に命じることができます。
しかし、その命令が権利濫用と評価される場合、従業員は拒否することができます。
例えば、下図のような場合が考えられます。

ここでは、各ケースについて詳しく解説します。
在籍出向の必要性が全く無いのに出向を命じることはできません。
この場合、高度な必要性(必要不可欠など)までは求められませんが、必要性が全く基礎づけられない命令は権利濫用となります。
在籍出向を命じたことで、労働者が通常甘受すべき範囲を超えた不利益を被る場合も、在籍出向の相当性がないとして権利濫用となる場合があります。
例えば、対象者が出向により賃金・待遇が著しく低下するような場合です。
何の手当もなく在籍出向を命じても、その効力は否定される可能性が高いでしょう。
また、対象者に病気の家族がおり、介護が必要という状況のなかで単身赴任を強いるような在籍出向は相当性がないと評価される可能性があります。
従業員を退職に追い込む目的や、嫌がらせを目的に在籍出向を命じることは当然許されません。
このような場合も権利の濫用となります。
例えば、会社の違法行為を内部告発したり、セクハラやパワハラを会社に報告されたりした従業員を嫌がらせや報復として在籍出向をさせるようなケースはこの典型例です。
出向命令が適法かつ有効であるのに、従業員が断固として拒否する場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
まず、使用者による有効な業務命令に従業員が従わない行為は業務命令違反として、重大な債務不履行になります。
また、このような行為は、企業秩序を著しく害する行為として懲戒処分の対象にもなり得ます。
そこで、まずは在籍出向の必要性や人選理由について丁寧に説明し、従業員の不安や懸念等についても配慮して協議を行い、それでも従業員が応じない場合には、業務命令として在籍出向を命じた上で、正当な理由なく拒否する場合には、業務命令違反であることを理由に指導・警告を行いつつ、是正を求めましょう。
それでも是正されない場合は、懲戒処分を科すことで是正を促すことになります。
それでも是正がなければ、普通解雇などを検討せざるをないでしょう。
なお、このようなステップを踏むことなく、いきなり懲戒解雇などの深刻な処分を下すと、懲戒権の濫用と判断されることもあるので、注意しましょう。
懲戒解雇は最後の手段であり、普通解雇では解決しないという極めて限定的なケースに限り行うべき処分です。
ここでは、在籍出向拒否をめぐる裁判例について見ていきましょう。
まずは、従業員の出向拒否が認められなかったケースを見ていきましょう。
1つ目の裁判例は、新日本製鐵事件(最判平成15年4月18日労判847号14頁)です。
この事案では、従業員の同意がなくとも子会社への出向命令を行うことができるのかが争われました。
裁判所は、
|
などを理由に、従業員の同意なしでも出向命令ができる(出向拒否は無効)と判断しました。
従業員の出向拒否が認められなかった2つ目の裁判例は、興和事件(名古屋地判昭和55年3月26日労民集31巻2号372頁)です。
この事案では、3社一括で採用を行っている会社間での在籍出向をめぐり、争われました。
当該会社では就業規則に出向に関する規定があり、社内の手続も制度として確立し、また多くの社員が3社間を異動(出向)していた実績がありました。
裁判所は、この事案で、3社が密接不可分の関係にあり、このような基本構造であることを採用時に説明されていたことなどを理由に、会社の出向命令権を認め、また就業規則に出向に関する規定が定められていることから、従業員の包括的同意があったとして、出向命令を有効(出向拒否は無効)と判断しました。
次に、従業員の出向拒否が認められた裁判例を見ていきましょう。
1つ目は、東海旅客鉄道事件(大阪地決平成6年8月10日労判658号56頁)です。
本件では、会社が従業員に対し、出向を命じましたが、裁判所は、出向先で予定されていた作業は、腰痛の持病がある従業員にとって困難であり、出向を命じられれば退職に追い込まれるおそれがあると判断しました。
そのため、出向元の会社が、変形性脊椎症、腰椎椎間板症、椎間板ヘルニアなどの腰痛の持病がある従業員に対し、モップがけなどの清掃業務を主な内容とする出向を命じることは、権利の濫用に当たり無効であると判断しました。
2つ目は、JR東海事件(大阪地決昭和62年11月30日・労判507号22頁)です。
本件では、就業規則の出向規定や新会社との契約内容などから、関連会社への出向について包括的な合意があったと認められました。
もっとも、運転士・車両係等として勤務していた従業員に対し、車両清掃や物品の運搬・積込み作業を主な業務とする関連会社への出向が命じられた点が問題となりました。
裁判所は、出向先での職務が従前の業務と著しく異なることや、当該従業員らを出向対象者として選定した合理的な理由が示されていないことなどを踏まえ、この出向命令は権利濫用に当たり無効であるとして、その効力を停止しました。
在籍出向は、一般的に従業員に負担を課すものなので、労使間でトラブルが生じやすく、労働問題に発展するケースは少なくありません。
特に、出向拒否を理由に、一方的に懲戒処分を行ってしまうと、訴訟に発展し、無用な時間と労力を強いられることになりかねません。
従業員が断固として在籍出向を拒否する場合、まずは労働問題が得意な弁護士に相談して、一緒に対応を考えていきましょう。
交渉のプロである弁護士に依頼すれば、双方が納得いくような解決を図ることができ、トラブルを回避できます。
編集部
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
※企業法務弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。
本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。