
アルバイトやパート社員も正社員と同じ労働者であり、解雇するには民法・労働基準法・労働契約法などにしたがって、適切に手続きを進めなければいけません。
また、アルバイトやパート社員を解雇するためには正当な理由が必要です。
アルバイトやパート社員を突然解雇したり、正当な理由なく解雇したりすると、不当解雇として賠償金の支払いなどを求められるおそれがあります。
解雇トラブルを避けるためにも、本記事で解雇に関する正しい知識や手続きの進め方を押さえておきましょう。
本記事では、アルバイト・パート社員の解雇条件や解雇手続きの流れ、不当解雇になるケースや不当解雇してしまった場合のリスクなどを解説します。
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アルバイト・パート社員を解雇するには正当な理由が必要
アルバイト・パート社員を解雇するには、正社員の場合と同じく、正当な理由がなければいけません。
正社員ではないからといって、会社側が一方的に解雇することは基本的に認められません。
労働契約法では解雇について以下のように定めており、解雇に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない場合は無効となります。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法第16条
なお、解雇が正当かどうかは、事案に応じて慎重に検討する必要があります。
弁護士であれば解雇の正当性を判断してくれますので、もし判断に迷った場合は相談してみることをおすすめします。
アルバイト・パート社員の解雇が認められるケース
以下のようなケースでは、アルバイト・パート社員の解雇が認められる可能性があります。
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就業規則の解雇事由に該当している場合
アルバイト・パート社員が就業規則で定めている解雇事由に該当している場合、解雇が認められる可能性があります。
解雇事由に該当するものがない場合でも、必ずしも解雇できないわけではありませんが、明記されている場合に比べるとハードルは高くなります。
アルバイト・パート社員の解雇を考えている場合は、就業規則でどのように定めているのか確認しておきましょう。
横領や窃盗などの不正行為があった場合
アルバイト・パート社員が不正行為・犯罪行為をおこなった場合も、解雇が認められる可能性があります。
たとえば、横領罪(刑法第252条)・背任罪(刑法第247条)・窃盗罪(刑法第235条)・器物損壊罪(刑法第261条)などに該当する行為があった場合は、解雇理由となり得ます。
このような行為は、会社と従業員の信頼関係を著しく毀損するものであるうえ、場合によっては会社自体に悪影響が及ぶおそれもあるため、速やかに対処する必要があります。
バイトテロなどで会社が損害を被った場合
以下のようなアルバイト・パート社員の行為によって会社が損害を被った場合も、解雇が認められる可能性があります。
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ただし、会社側に被害が生じたからといって、必ずしもただちに解雇が認められるとはかぎりません。
行為態様・動機・会社側の注意指導の有無など、さまざまな事情を踏まえたうえで総合的に判断する必要があります。
経営不振に陥った場合(会社都合の整理解雇・リストラ)
経営不振に陥った場合は、アルバイト・パート社員の解雇が認められる可能性があります。
解雇は以下の3種類に大きく分けられ、経営不振による解雇は「整理解雇」にあたります。
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なお、整理解雇には要件が定められており、以下の4つを満たしていなければいけません。
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【関連記事】整理解雇とは?整理解雇の4要件と解雇との違いを解説
アルバイト・パート社員の解雇が不当解雇に該当するケース
アルバイト・パート社員の解雇に関して、特に以下のようなケースでは不当解雇になるおそれがあります。
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ここでは、それぞれのケースについて解説します。
数回の遅刻や能力不足などを理由に解雇した場合
数回の遅刻や欠勤、成績不良や仕事上でのミスなどがあったとしても、必ずしもただちに解雇が認められるわけではありません。
このようなケースでは「会社側が適切な指導をおこなったかどうか」という点も考慮されるため、十分な指導もなく解雇した場合は不当解雇となるおそれがあります。
なお、過去には「男性アナウンサーが宿直勤務中に2度にわたって寝過ごしてしまい、早朝のラジオニュースが放送できず、放送事故を理由に解雇された」という事件があります。
これは高知放送事件と呼ばれており、男性アナウンサーは不当解雇を主張して解雇の取り消しを求める裁判を起こし、最高裁判所まで争われました。
裁判所では、会社側が最初の放送事故発生時に対策を講じなかったことや、男性アナウンサーの日頃の勤務成績は別段悪くなく、ほかに放送事故歴がないことなどを総合的に考慮したうえで「当該アナウンサーの解雇は解雇権の濫用にあたる」と判断し、解雇は無効となっています。
【参考元】最判 昭和52年1月31日 高知放送事件|公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会
契約期間の途中で解雇した場合
契約期間の途中で解雇した場合も、不当解雇となるおそれがあります。
有期雇用契約の場合、原則として契約期間が終了するまで雇用を続ける必要があります。
労働契約法では契約期間中の解雇について以下のように定めており、労働者側や会社側にやむを得ない事由がないかぎり、解雇することはできません。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
引用元:労働契約法第17条1項
実際にやむを得ない事由によって解雇が認められたケースは少なく、基本的に契約期間の途中で解雇するのは困難です。
アルバイト・パート社員を不当解雇した場合のリスク
アルバイト・パート社員を不適切な形で解雇してしまった場合、直接交渉・労働審判・訴訟などの手段で不当解雇を主張してくる可能性があります。
アルバイト・パート社員側の主張が認められて不当解雇となった場合は、損害賠償金・解決金を支払ったり、弁護士に対応を依頼した場合は弁護士費用なども支払ったりすることになります。
また「労災で休業中に解雇した」「突然解雇して解雇予告手当を支払っていない」というようなケースでは、労働基準法違反として拘禁刑や罰金刑などの刑事罰が科されることもあります。
ほかにも、訴訟対応などのために時間を取られて業務が止まってしまったり、不当解雇トラブルが世間に知られて企業イメージが悪化したりするおそれもあります。
このように、不当解雇によって会社側に生じるリスクはさまざまあり、アルバイト・パート社員を解雇する際は適切に対応する必要があります。
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アルバイト・パート社員を解雇する方法・流れ
アルバイト・パート社員を解雇する場合、基本的には以下のような流れで進めます。
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ここでは、アルバイト・パート社員の解雇手続きの流れを解説します。
1.退職勧奨をおこなう
解雇手続きを進める前に、まずは退職勧奨をおこないましょう。
退職勧奨では、アルバイト・パート社員と面談をおこなったりして自主退職を促します。
アルバイト・パート社員が退職勧奨に応じてくれれば、解雇するよりも穏便かつスムーズに問題が解決します。
注意点として、アルバイト・パート社員に対して強引に退職を迫るような対応をすると、不法行為となるおそれがあるため避けてください。
面談回数は1回~3回程度、面談時間は1回30分~1時間程度に抑えて、ほかの社員の目につかない会議室などで少人数でおこない、圧迫感を与えないように、対面の距離や口調などにも十分に配慮しましょう。
2.退職勧奨を拒否されたら解雇を検討する
アルバイト・パート社員が退職勧奨に応じない場合は、解雇に向けて動きます。
不当解雇トラブルを避けるためにも、主に以下のような点を確認しましょう。
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3.解雇予告通知書を作成する
アルバイト・パート社員を解雇する場合、解雇予告通知書を作成するのが一般的です。
解雇予告は口頭でも問題ありませんが、のちのち「言った言わない」などのトラブルに発展するおそれがあるため、書面で通知しておくことをおすすめします。
解雇予告通知書には、主に以下のような内容を記載します。
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4.解雇日の30日以上前に解雇予告をする
アルバイト・パート社員を解雇するためには、原則として解雇日の30日前までに解雇を予告しておかなければいけません(労働基準法第20条1項)。
解雇日を決定したら、アルバイト・パート社員に解雇予告通知書を速やかに交付して、解雇する旨を伝えておきましょう。
5.解雇予告手当を支払う(30日以上前に解雇予告できない場合)
解雇日の30日前までに解雇予告できない場合、足りない日数分について解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法第20条2項)。
たとえば「解雇日の25日前に解雇予告をおこなった」というケースでは、解雇予告手当として「平均賃金×5日分」の金額を支払うことになります。
基本的に平均賃金は「直近3ヵ月間の賃金総額 ÷ その3ヵ月間の日数」で計算します。
6.解雇後は事務手続きを済ませる
アルバイト・パート社員を解雇したあとは、貸与品の返還対応や保険関係の手続きなどをおこないます。
特に、以下のような保険関係の手続きについては期限が短く設定されているため、解雇後はなるべく速やかに対応しましょう。
提出先 | 提出書類 | 提出期限 | 提出後の対応 |
---|---|---|---|
①ハローワーク | ・雇用保険被保険者資格喪失届 ・雇用保険被保険者離職証明書 |
解雇日の翌日から10日以内 | ハローワークから届く離職票を、解雇したアルバイト・パート社員に送付 |
②年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届 | 解雇日の翌日から5日以内 | 資格喪失証明書を、解雇したアルバイト・パート社員に送付 |
アルバイト・パート社員が有期雇用契約の場合は雇止めも検討する
「アルバイト・パート社員の解雇が不当解雇に該当するケース」で触れたとおり、契約期間の途中で解雇するのは困難です。
アルバイト・パート社員が有期雇用契約の場合、契約期間満了まで待って契約を更新せずに「雇止め」にするというのが現実的です。
雇止めの場合、契約期間の満了とともに雇用契約が終了するため、解雇とは異なります。
ただし、これまで何度も契約を更新している場合や、普段の勤務で契約更新を期待させるようなやり取りがあった場合などは、正当な理由がないと雇止めが無効になることもあります。
状況によっては適切な判断や対応が難しいこともあるため、少しでも不安な場合は一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
アルバイト・パート社員の解雇に関するよくある質問
ここでは、アルバイト・パート社員の解雇に関するよくある質問について解説します。
アルバイトは解雇できる?解雇条件は?
アルバイトを解雇するためには正当な理由がなければいけません。
解雇に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない場合は無効となります(労働契約法第16条)。
たとえば、以下のようなケースであれば解雇が認められる可能性があります。
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アルバイトを突然解雇するのは違法ですか?
解雇予告もなくアルバイトを突然解雇する場合、解雇予告手当として「30日分以上の平均賃金」を支払わなければ労働基準法違反となります(労働基準法第20条1項)。
アルバイトを即日解雇し、解雇予告手当が未払いの場合、6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑が科されるおそれがあります(労働基準法第119条1項)。
アルバイトを解雇する場合、退職金の支払いは必要ですか?
退職金の支払いに関しては、会社が定めている就業規則に則って対応するのが通常です。
アルバイトも支給対象に含まれている場合は、退職金の支払いが必要になります。
アルバイトが試用期間中の場合、解雇予告手当の支払いはどうなりますか?
試用期間中の場合、試用期間の開始から14日を過ぎているかどうかで対応が異なります。
試用期間が始まってから14日以内の場合、解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要です。
一方、すでに14日を過ぎている場合、解雇予告や解雇予告手当の支払いが必要です。
なお、試用期間の開始から14日以内であっても、解雇するには正当な理由がなければいけません。
さいごに|アルバイト・パート社員の解雇を検討する際は、まずは弁護士に相談を
アルバイト・パート社員を解雇するためには、その正当性を慎重に判断する必要があります。
解雇したアルバイト・パート社員が不当解雇を主張してきた場合、裁判に発展して損害賠償金の支払いが発生したり、企業イメージが悪化したりするおそれもあります。
弁護士なら、解雇の正当性や解雇手続きのアドバイスが望めるほか、解雇したアルバイト・パート社員との交渉や裁判などを依頼することもできます。
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「勤務態度が悪い」「能力不足」だけでは解雇理由として不十分。
正社員との違いを理解していないと大きなリスクに。
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● 実際のトラブル事例から学ぶ教訓
● すぐ使える解雇チェックリスト・相談窓口一覧
を実務に即して解説。
今すぐ無料でダウンロードして、安全な労務管理を!
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