
近年、経営者の高齢化や後継者不足を理由に、会社を手放す中小企業が多くなっています。
帝国データバンクの調査によると、2024年に全国で休廃業・解散した企業は過去最多の約6万9,000件と発表されており、前年比でも1万件以上増加しています。
このような状況のなか、新たな事業機会を模索している法人や、経営未経験ながら独立を目指す個人が、後継者不在の企業を買収し、経営を担うケースが増えています。
とはいえ、「どうやって会社を探すのか」「何から始めるべきか」など、最初のステップが見えずに迷う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、個人・法人どちらの立場にも対応できるよう、後継者のいない会社を買うための具体的な流れや注意点を、わかりやすく解説します。
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後継者のいない会社を買うことは経営の経験がない個人でもできる?
結論から言えば、経営の経験がなくても、後継者のいない会社を買うことは可能です。
実際、近年では「スモールM&A」と呼ばれる小規模な会社の買収が活発になっています。
これにより、会社経営とは無縁だった会社員や個人事業主、さらには副業として事業を持ちたいと考える人たちが、買い手として市場に参加するケースが増えてきました。
以前であれば、会社の買収といえば大企業や資金力のある投資家がおこなうもので、一般の個人にとっては縁遠い選択肢でした。
しかし現在では、M&Aマッチングサイトや事業承継支援機関の整備が進み、情報の非対称性が大きく緩和されています。
誰でもオンライン上で案件情報を検索できる環境が整っており、個人でも自分に合った会社を探しやすくなっているのが実情です。
後継者のいない会社を買うときに知っておくべき3つのポイント
後継者のいない会社を買うにあたり、金額や条件だけで判断してしまうと、思わぬ落とし穴にはまることがあります。
ここでは、事前に知っておきたい3つの重要な視点を紹介します。
1.「後継者がいない」だけを買収の理由にしない
まず「後継者がいない」という理由だけで会社を買うのは危険です。
なぜなら、これはあくまで売り手側の事情であり、買い手にとっての明確な目的にはならないからです。
たとえば、買収前と後で「思っていたより利益率が低かった」「自分に合わない業界だった」といったギャップが生じると、買収後の経営がうまくいかなくなる可能性があります。
そのため、「自分がどんな目的で事業を持ちたいのか」「どんな分野に関心があるのか」といった軸を持って案件を選ぶことが大切です。
事業を引き継ぐ意味や将来像を描いたうえで、「後継者不在」はその条件のひとつとして捉えるようにしましょう。
2.買収はゴールではなくスタートだと理解しておく
会社を買うという行為自体は、経営のスタート地点にすぎません。
契約を交わして終わりではなく、買収後にどのように事業を維持・発展させるかが本当の勝負です。
たとえば、引き継いだあとに従業員との関係性がうまく築けなかったり、顧客離れが起きてしまったりするケースもあります。
そのため、経営方針や改善策を早い段階で定めておくことが大切です。
会社を買うと同時に、「どのように経営していくか」という視点も持っておくことで、買収後のギャップを最小限に抑えられます。
3.妥協せずに本当にいいと思える会社の買収をする
スモールM&Aの案件数は多く、情報も豊富に出回っていますが、「早く決めたい」という気持ちから妥協してしまうのは危険です。
売上や条件だけを見て決めてしまうと、自分の価値観や強みに合わない会社を選んでしまい、買収後の後悔につながりかねません。
実際、赤字経営や債務超過など、注意が必要な案件も少なくないのが現状です。
焦らずに複数の案件を比較し、「この会社なら自分が育てられる」と思える案件に出会えるまで、しっかり検討を重ねましょう。
【候補が見つかっていない】後継者のいない会社を探す3ステップ
「会社を買いたい」と考えたとき、最初にぶつかる壁は「どこで探せばよいのかわからない」という点です。
特に、経営やM&Aの経験がない場合、情報の集め方そのものがハードルになることもあります。
ここでは、後継者不在の会社を見つけるまでの基本的な流れを3つのステップに分けて紹介します。
1.条件や予算などを決める
まずは、自分がどのような会社を求めているのかを明確にすることが、M&Aの第一歩です。
この段階があいまいなままだと、膨大な情報の中から案件を比較検討するのが難しくなり、意思決定に時間がかかるだけでなく、ミスマッチを引き起こすリスクも高まります。
以下のような視点から、希望条件を具体的に整理しておくとよいでしょう。
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望条件を整理しておくことで、マッチングサイトや仲介業者とのやりとりもスムーズになり、効率的に候補を絞り込むことができます。
「なんとなく良さそう」という感覚ではなく、譲れない条件と柔軟に調整できる部分を自覚しておくことが、後悔しない買収につながるポイントです。
2.候補となる会社を見つける
希望条件が決まったら、実際に案件を探していきます。
情報収集には、以下のような手段があります。
手段 | 特徴 | 注意点 | 代表例 |
---|---|---|---|
M&Aマッチングサイト | 検索性が高く、豊富な情報にアクセスできる。 オンラインで売り手とのやり取りが可能。 |
案件の質や信頼性がさまざま。 必ずしも詳細な情報が公開されているとは限らない。 |
Batonz(バトンズ)、トランビ、M&Aサクシードなど |
公的機関 | 信頼性の高い中小企業が多く、売り手側も経営者の真剣な意向がある。基本的に無料。 | 紹介できる案件数が限られていたり、やや時間を要することがある。 | 日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援、各地の商工会議所・商工会 |
金融機関や税理士などからの紹介 | 売り手企業との信頼関係が築かれているため、紹介後の交渉がスムーズに進みやすい。 | 積極的に意向を伝えなければ案件を紹介してもらえない場合もある。 | - |
このように、情報収集の手段にはそれぞれメリットと特性があります。
「オンラインで広く探しながら、信頼できる士業や金融機関にも相談する」など、複数ルートを並行して活用するのがおすすめです。
ひとつの手段に偏らず、多角的に情報を得ることで、より自分に合った企業と出会える可能性が高まります。
3.買収したい会社を絞り込む
複数の候補が見つかったら、次のステップは「どの会社を本格的に検討するか」を絞り込むフェーズです。
ここでは、表面的な情報だけで判断せず、できるだけ客観的かつ多角的に評価することが重要です。
とくに、以下のような視点を意識して検討しましょう。
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一定の基準を定めたうえで、「譲れない点」と「妥協できる点」を整理し、現実的な選択肢に落とし込んでいきましょう。
最終的には1社〜2社に絞り込み、面談や現地訪問などの次の段階へ進むのがおすすめです。
焦らず、納得感のある選定が、買収成功への土台になります。
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【候補が見つかっている】後継者のいない会社を買う7ステップ
後継者がいない会社の候補が見つかったら、いよいよ具体的な買収プロセスに進みます。
ここでは、実際のM&Aで一般的におこなわれている以下7つのステップを紹介します。
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それぞれの手順について、詳しく見ていきましょう。
1.候補先の経営者と面談する
最初のステップは、売り手企業の経営者と直接面談することです。
面談では、売却を決めた背景や、会社が現在抱える課題、業績推移、将来の展望など、表面上の情報だけではわからない情報を得ることができます。
また、従業員の雰囲気や企業文化、経営者の人柄といった「数字では見えない部分」も、この機会に感じ取ることが重要です。
さらに、買収する側としても自分がなぜこの会社を引き継ぎたいのか、どんなビジョンを描いているのかを伝えることで、売り手からの信頼を得やすくなります。
単なる条件交渉ではなく、パートナーとして誠実に向き合う姿勢が、今後の手続きを円滑に進める鍵となります。
2.秘密保持契約書を作成する
面談の後、売り手からより詳細な情報を受け取るには「秘密保持契約(NDA)」の締結が必要です。
この契約により、財務情報・顧客情報・契約内容などの機密を外部に漏らさないことを法的に約束します。
秘密保持契約が交わされることで、売り手は安心して社内資料や数値データを開示できるようになり、ひいてはより正確な判断材料を得られるようになります。
なお、NDAは書面で交わされるのが一般的です。
内容については両社で精査し、交渉や協議をおこないながら調整しましょう。
3.買収条件について交渉する
次に、具体的な買収条件の交渉をおこないます。
ここでは、譲渡金額だけでなく、引き継ぐ資産・負債の範囲、従業員の雇用維持、経営者の退任時期、退職金の支払い方法など、細部までを取り決めなければなりません。
交渉前までの流れが一見スムーズに思えても、条件面でのすれ違いが後々のトラブルにつながるケースも多くあります。
とくに、引き継ぎ期間を設けるかどうか、在庫や什器備品の扱いなどは、事前に認識を合わせておくべきポイントです。
買収側が不利にならないよう、税理士や弁護士などの専門家と連携しながら、丁寧に条件を固めていきましょう。
4.基本合意契約書を作成する
条件が大まかにまとまったら、「基本合意契約書(LOI)」を取り交わします。
これは、買収の前提条件を記載した覚書のようなもので、契約ではあるものの法的拘束力は限定的です。
主に、今後の交渉を独占的に進める「独占交渉権」や、買収の基本的な方向性を整理する役割があります。
この段階で、売り手も買い手も「本気で進める」という意思を確認し合うことになります。
5.買収先に関する調査をする
基本合意を結んだあとは、「デューデリジェンス」という詳細調査の工程に入ります。
これは、公認会計士、税理士、弁護士などの第三者である専門家が、財務・税務・法務・労務など多角的な観点から、企業の健全性やリスクを調べるプロセスです。
たとえば、未払いの税金や法的リスク、架空在庫の存在、特定取引先への依存度などを確認します。
この調査でリスクが判明すれば、買収価格の見直しや契約条件の修正が求められることもあります。
「買ってから気づく」では遅いため、慎重かつ客観的な視点でのチェックが不可欠です。
6.最終合意契約書を作成する
デューデリジェンスの結果をふまえて最終条件を調整したあとは、「最終契約書(譲渡契約書)」を交わす段階に進みます。
この契約によって、売買が法的に成立し、会社の経営権が正式に移転することになります。
契約書には、譲渡対象となる資産や株式、支払いスケジュール、引き渡し日、補償に関する条項などが明記されます。
条件の食い違いが発生しないよう、契約内容は細部まで確認し、必要に応じて弁護士のサポートを受けましょう。
7.株式譲渡などの手続きをおこなう
契約締結後、実際に会社の所有権を移転させる「クロージング」へと移ります。
クロージングでは、株式の名義変更や代金の支払い、登記手続き、関係書類の受け渡しなど、法的・実務的な作業が発生します。
また、取引先への通知や金融機関との手続き、社内への周知などもこの段階でおこなわれるのが一般的です。
これらをスムーズに進めるには、事前に工程とスケジュールを整理しておく必要があります。
全ての手続きが完了した時点で、買収が正式に成立し、新たなオーナーとしての経営が始まります。
さいごに|後継者がいない会社を買いたいならまずは専門家に相談を!
後継者のいない会社を買うという選択肢は、ゼロから事業を立ち上げるよりも効率的で、すでに実績のあるビジネスを引き継げるという点で非常に現実的です。
また、地域経済の担い手がいなくなるのを防ぐという意味でも、社会的に大きな価値を持つ取り組みといえるでしょう。
しかし、会社を買うという行為には、事業の継続性や従業員の雇用、財務状況の把握など、幅広い責任が伴います。
とくに、契約書に盛り込まれる内容や、引き継ぐ資産・負債にまつわる法的リスクは見落としが許されない領域です。
条件交渉を有利に進めるうえでも、法的知識に基づいた判断が不可欠となります。
そのため、M&Aに対応した弁護士に早い段階で相談しておくことは非常に有効です。
秘密保持契約や譲渡契約書の確認だけでなく、デューデリジェンスの段階からアドバイスをもらうことで、トラブルの芽を未然に防ぎ、より安心して買収手続きを進められるようになります。
「自分に経営ができるのか」「失敗したらどうしよう」と不安に感じている方こそ、まずは一歩踏み出してみてください。
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