株式等売渡請求とは?メリット・デメリットや手続きの流れをわかりやすく解説

専門家監修記事
株式等売渡請求は、M&Aや相続の際に株主構成を整理し、経営の効率化や意思決定の迅速化を図る手段として利用されます。ただし、訴訟リスクもあるため注意が必要です。本記事では、制度の利用条件、手続きの流れ、メリット・デメリットをくわしく解説します。
M&A・事業承継

M&Aや相続などで会社の株式を整理したいとき、「株式等売渡請求」という制度を活用できます。

この制度を利用すれば、株主の構成を整理し、経営の意思決定を迅速に進めやすくなるなど、会社運営の効率化が可能です。

ただし、利用するためには一定の条件を満たす必要があります。

また、場合によっては少数株主から訴訟を起こされるリスクもあるため、制度の内容や注意点をきちんと理解したうえで、計画的に進めることが重要です。

本記事では、株式等売渡請求を利用できる条件、実際の手続きの流れ、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。

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株式等売渡請求とは? | 少数株主から株式を強制的に買い取るための手続き

株式等売渡請求とは、総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が、ほかの株主(少数株主)などが有する株式を全て取得できる制度をいいます。

一定の手続きを経れば、少数株主の合意がなくても持株全てを売り渡すよう請求できる点が大きな特徴です。

会社法改正により株式等売渡請求制度が創設された背景

株式等売渡請求制度は、2015年の会社法改正によって新たに設けられた制度です。

創設された背景には、当時の企業を取り巻く経営環境の変化がありました。

そもそも企業経営においては、迅速な経営判断が求められます。

しかし、株主の構成が分散していることで意思決定に時間がかかるという課題が生じていました。

とくに、少数株主の反対によって合併や事業再編といった重要な判断がスムーズに進まないケースもあり、ビジネスチャンスを逃すリスクが指摘されていたのです。

従来では、少数株主から株式を取得するために、個別に株式の買い取りを申し出て、同意を得たうえで取得する手法も取られていました。

しかし、売却そのものを拒まれたり、代金の額で折り合いがつかなかったりすることも多く、話し合いだけでの解決には限界がありました。

また、「全部取得条項付種類株式」という制度を利用して、少数株主から株式を強制的に買い取る方法もありましたが、利用のためには株主総会の特別決議が必要となり、準備や手続きに大きな手間がかかるという課題がありました。

このような問題を踏まえ、会社の経営判断を迅速におこなえるようにするために創設されたのが株式等売渡請求制度です。

本制度により、一定の条件を満たす特別支配株主は、少数株主が保有する株式を一括して取得できるようになったため、会社としての意思決定をスムーズに進められるようになりました。

株式等売渡請求がおこなわれる主な2つのシーン

株式等売渡請求は、主に以下の2つの場面で利用されるケースが多いです。

  • 対象会社を完全子会社化する目的で「スクイーズアウト」するため
  • 相続によって会社にとって好ましくない人が株主であり続けるのを避けるため

それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。

対象会社を完全子会社化する目的で「スクイーズアウト」するため

ひとつ目は、「スクイーズアウト」するときです。

スクイーズアウトとは、少数株主から株式を強制的に買い取って、会社の株式を一人の株主(特別支配株主)にまとめることをいいます。

たとえば、ある企業が別の会社を100%買収して完全支配したいと考えている場合、わずかでもほかの株主がいると目的を達成できません。

その際、株式等売渡請求をすれば、特別支配株主が残り全ての株式を取得できるので、対象会社を完全子会社化できます。

スクイーズアウトにより、株主総会などで少数株主の意見に配慮することなく、迅速な意思決定ができるようになるのです。

相続によって会社にとって好ましくない人が株主であり続けるのを避けるため

2つ目は、株主の相続が発生したときです。

会社の株式は、亡くなった人の財産として相続されるため、経営とまったく関係のない人物が株主になるケースもあります。

たとえば、創業者が亡くなって家族が相続人として株を受け継いだ場合、相続人が経営に無関心だったり、経営にふさわしくなかったりすることもあります。

そうなれば、会社経営が不安定になりかねません。

その際、株式等売渡請求をすれば、特別支配株主は裁判所の許可なしに相続人から株式を強制的に買い取れます。

つまり、相続によって会社の経営に支障をきたす前に、株式を整理する手段として使えるのです。

株式等売渡請求をおこなうメリット

株式等売渡請求をおこなうメリットは、以下の3点です。

  • 少数株主の同意なしに経営権を集約できる
  • 迅速かつ容易に株式の買い取りを実現できる
  • 軽い税負担で自社株を取得できる

それぞれのメリットについて、詳しく解説します。

少数株主の同意なしに経営権を集約できる

会社を親族に引き継ぐときに、株式が複数の親族に分散してしまうと、後継者が経営の主導権を握れなくなるおそれがあります。

しかし、株式等売渡請求をおこなえば、全ての経営権を自分に集められるので、企業運営を円滑に進めることが可能です。

また、会社の方針を決めるときにほかの株主の意見を聞く必要がなくなるので、経営のスピード感も向上するでしょう。

迅速かつ容易に株式の買い取りを実現できる

株式等売渡請求以外の方法で少数株主から株式を取得しようとすると、株主総会での特別な決議が必要だったり、裁判所の許可が必要だったりするケースもあります。

しかし、株式等売渡請求では基本的に株主総会や裁判所による許可は不要なので、短期間かつ簡単に株式を買い取ることが可能です。

軽い税負担で自社株を取得できる

非上場企業の経営者が自社株を買い戻すと、「みなし配当」として扱われ、高い税率がかかることがあります。

みなし配当の税率は最大で約50%なので、買い戻す側にとっては大きな負担となるでしょう。

しかし、株式等売渡請求をおこなえば、株式の取得は「譲渡所得」として扱われます

この際にかかる税率は一律で20.315%と、税金の負担が大幅に軽くなるため、コストを抑えて株を買い戻すことが可能です。

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株式等売渡請求をおこなうデメリット

株式等売渡請求をおこなうデメリットは、以下の3点です。

  • 要件が厳しい
  • 税務上、非効率で余分な負担が生じる可能性がある
  • 不服がある株主から訴訟を起こされる可能性がある

それぞれのデメリットについて、詳しく解説します。

要件が厳しい

特別支配株主になるには、自分自身が持っている議決権と、完全に支配している子会社が持っている議決権を合わせて、全体の90%以上の議決権を持っている必要があります。

しかし、90%という割合を満たすのは簡単ではありません。

とくに株式が多くの株主に分散している会社では、議決権を集めること自体が困難です。

また、議決権の割合を計算する際には、新株予約権の行使状況や単元未満株式の買い取り・買い増しといった細かい点まで確認しなければなりません。

場合によっては、証券保管振替機構に対して情報提供をするなど、専門的で手間のかかる対応が必要になります。

税務上、非効率で余分な負担が生じる可能性がある

株式を一度全て買い取ったうえで、特定の株主に再度譲渡する場合、税金が二重に発生するリスクがあります。

たとえば、スクイーズアウトによって全株式を特別支配株主が取得したあと、「この株主だけは残しておきたい」として、あらためて株主に株式を譲渡すると、買い取り時と再譲渡時とでそれぞれ課税される可能性があるのです。

再譲渡の必要がある場合は、事前に税務上の影響をよく確認しておきましょう。

不服がある株主から訴訟を起こされる可能性がある

株式等売渡請求に対して少数株主が不満を持てば、訴訟を提起されるリスクがあります。

株式等売渡請求をすれば特別支配株主が一方的に株を買い取ることができますが、価格を自由に決定できるわけではありません。

少数株主が価格に納得しない場合、取得予定日の20日前から前日までの間に、裁判所に価格決定の申し立てができます。

申し立てがあれば、最終的には裁判所が適正な価格を判断します。

つまり、会社側が意図的に安い価格で買い取ることはできなくなるのです。

また、本制度では、いわゆる「少数株主だから安く買える」といったディスカウント評価(配当還元法など)は認められず、時価純資産法や収益還元法などの通常の株価評価方法が使われる傾向にあります。

そのため、裁判所の判断によっては、株価が想定以上に高額になるおそれがあるでしょう。

株式等売渡請求をおこなう大まかな流れ

株式等売渡請求は、主に以下のような流れで進みます。

  1. 会社への株式等売渡請求の通知
  2. 会社の承認
  3. 特別支配株主・少数株主への通知
  4. 事前開示手続き
  5. 株式の移転
  6. 事後開示手続き

それぞれのステップについて、以下で簡単に解説します。

①会社への株式等売渡請求の通知

特別支配株主が株式等売渡請求をおこなうには、まず会社に対して売渡請求を承認するよう通知を出します。

通知には、取得したい株式の価格または価格の算定方法、取得日、対価の支払い方法などを明記します。

②会社の承認

通知を受けた会社は、内容を審議して承認します。

取締役会設置会社であれば取締役会決議が必要で、取締役会設置会社でなければ取締役の過半数による同意が必要です。

特別支配株主が90%以上の議決権を持つとはいえ、取締役は少数株主の利益に配慮する責任があります。

あまりに不公平な条件で承認すると、のちに善管注意義務を問われる可能性もあります。

③特別支配株主・少数株主への通知

会社が株式等売渡請求を承認した場合、その旨を特別支配株主に対して通知します。

また、少数株主に対しても、株式取得日の20日前までに通知を送付します。

通知には、特別支配株主の情報や取得価格、取得日など会社法が定める項目を記載する必要があります。

なお、少数株主が多い場合には、通知に代えて公告も可能です。

④事前開示手続き

会社は少数株主への通知または公告をおこなった日から、株式取得日後6ヵ月(非公開会社の場合は1年)までの間、特別支配株主による売渡請求の内容に関する書類や電磁的記録を本店に備え置く必要があります。

これは、少数株主に手続きの透明性を確保するための措置です。

⑤株式の移転

取得日になると、少数株主の株式は自動的に特別支配株主へ移転します。

対価が支払われる前でも移転するので、取得日以降は特別支配株主が対価を支払う義務だけが残ります。

⑥事後開示手続き

取得が完了したあと、会社は遅滞なく取得した株式数や関連事項を記載した書面や電磁的記録を作成し、本店に6ヵ月間(非公開会社は1年間)備え置く必要があります。

これは、事後的に手続きの内容を確認できるようにするための措置です。

さいごに | 株式等売渡請求で不安な点があれば弁護士へ相談を!

株式等売渡請求を利用すれば、少数株主が保有する株式をスピーディーに取得できます。

ただし、少数株主の意思にかかわらず進められる側面もあるため、場合によっては訴訟などに発展する可能性がある点に注意が必要です。

株式等売渡請求を実施する際には、制度の内容や手続きの進め方を十分に理解し、リスクを見極めたうえで適切におこなわなければなりません。

そのため、事前の準備や方針の検討にあたっては、企業法務を得意とする弁護士に相談するのがよいでしょう。

「企業法務弁護士ナビ」では、株式等売渡請求をはじめとする企業法務分野を得意とする弁護士を、地域や相談内容に応じて簡単に検索できます。

信頼できる弁護士を見つけるためにも、ぜひご活用ください。

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