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医療業界でM&Aをおこなうことで、事業承継や経営の安定化を図れます。
ただし、医療法人のM&Aは、一般的なM&Aとは異なり、法律上の規制が厳しく行政手続きも複雑です。
また、医療法人には2種類があり、それぞれで選択できるM&Aのスキームも異なります。
適切なスキームを選ばなければ、思わぬリスクや手続きの遅れが発生してしまうかもしれません。
医療法人のM&Aの仕組みや手続きを理解しておけば、不測の事態を回避しやすくなるでしょう。
本記事では、医療法人や主要なスキームの種類、M&Aのメリット、医療法人M&A実施の際の注意点などを詳しく解説します。
基礎知識として、まずは医療法人の種類について理解しておきましょう。
医療法人には、「社団医療法人」と「財団医療法人」 の2種類があります。
どちらも医療機関の運営を目的としていますが、組織の成り立ちや運営方法などに違いがあります。
項目 | 社団医療法人 | 財団医療法人 |
---|---|---|
設立の成り立ち | 複数の人が出資して設立 | 無償寄付された財産をもとに設立 |
社員の有無 | あり(法人も社員になれる) | なし(代わりに評議員が存在) |
意思決定機関 | 社員総会 | 評議員会 |
役員 | 理事長・理事・監事など | 理事長・理事・監事など |
なお、医療法人の約99%は社団医療法人に分類されます。
財団医療法人の数は非常に少ないです。
社団医療法人は、病院や診療所を運営するために集まった複数の社員が運営する医療法人です。
ここでいう「社員」とは、一般企業の従業員を指すものではなく、法人の運営に関わる出資者を意味します。
社員は、病院や診療所の開設資金として、現金や土地、建物、医療機器などを提供しており、出資額に応じた権利を持っています。
また、社団医療法人の設立にあたっては、役員の設置が必要です。
理事が社員を兼務する場合、最低4名(理事3名(うち1名が理事長)、監事1名)を設置すれば設立できます。
財団医療法人は、寄付された財産をもとに設立される医療法人です。
社団医療法人のような社員が存在せず、代わりに評議員が法人の運営を監督します。
評議員は、医療従事者や病院経営の経験者など、医療に関する専門知識を有していることが求められます。
社団医療法人と同様に役員の設置が必要ですが、評議員の人数は理事よりも多く置かなければなりません。
そのため、評議員4名と、医療法人を運営する理事3名(うち1名が理事長)、監事1名の設置が必要です。
医療法人には 「出資持分あり」 と 「出資持分なし」 の2種類があります。
医療法人の設立に出資した人が、法人に対して財産権を持つかどうかにより分類されます。
両者の区分は設立時期によって、以下のように決まります。
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なお、財団医療法人と社団医療法人は出資持分の有無によって、以下のように区別されます。
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出資持分ありの医療法人は、設立時に資金を提供した社員が、その医療法人に対して財産権(持分)を持っています。
医療法人の解散時には、社員は持分に応じた財産の払い戻しを受けられます。
出資持分なしの医療法人では、出資者が法人の財産に対する権利を持ちません。
法人の資産は法人自体に帰属するので、たとえ解散したとしても出資者に対して財産が分配されることはありません。
医療法人のM&Aでは、主に5つのスキームを活用できます。
どのスキームを選ぶべきかは、売り手と買い手の形態や、取引対象により異なります。
状況に応じて最適なM&Aスキームを選びましょう。
売り手の形態 | 買い手の形態 | 取引対象 | スキーム |
---|---|---|---|
個人 | 法人 | 事業 | 事業譲渡 |
持分ありの法人 | 個人 | 事業 | 事業譲渡 |
持分ありの法人 | 個人 | 法人格 | 出資持分譲渡 |
持分なしの法人 | 法人 | 事業 | 事業譲渡 分割 |
持分なしの法人 | 法人 | 法人格 | 社員・評議員の入替え 合併 |
ここから、それぞれのスキームについて詳しく解説します。
事業譲渡とは、医療法人が運営する病院や診療所の権利・義務の一部または全部をほかの法人に譲渡する方法です。
医療法人の種類に関係なく実施できるので、比較的柔軟なスキームといえるでしょう。
一方で事業譲渡では包括的な承継をおこなえず、許認可まで譲渡することができません。
そのため買い手が事業のひとつとして病院を買収するような際は、廃院手続き後に再び都道府県知事の許可を得て開院することになります。
出資持分譲渡とは、医療法人の社員が保有する出資持分を買い取って経営権を譲渡する手法です。
売り手に出資持分がある場合に利用できます。
出資持分譲渡では売り手側が持つ権利・義務を包括的に承継でき法人格も維持されるため、権利や契約には影響がありません。
許認可や取引先との契約などもそのまま引き継ぐことになり、手続きが簡便となります。
一方で簿外債務や訴訟リスクといったリスクについても、全て引き継ぐことになる点は注意が必要です。
出資持分譲渡をえらぶ際は、売り手側医療法人に想定外のリスクがないか入念な調査が求められます。
また経営権の取得にあたり定款を変更するため、都道府県知事の認可を受けなくてはなりません。
法人名・理事長を変更する場合は、登記をおこなう必要もあります。
分割とは、医療法人が運営する事業の一部を、別の医療法人へと承継させる手法です。
売り手に出資持分がない場合に利用できます。
一部の事業に限って継承が可能なので、運営方針などに応じて柔軟に取引をおこなえるのがメリットです。
分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2種類があります。
|
社員・評議員の入替えによる経営権の譲渡出資とは、買い手が売り手側の社員・評議員に代わって就任することにより、過半数の議決権を得て経営権を移転する手法です。
持分なし社団医療法人と財団医療法人との間でM&Aをおこなう際に用いられます。
本手法では、出資持分譲渡と同様に許認可や登記の手続きが必要です。
合併とは、複数の医療法人をひとつに統合する手法です。
合併には 「吸収合併」 と 「新設合併」 の2種類があります。
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合併によって経営基盤の強化や、法人間の連携による医療サービスの充実などが期待できます。
医療法人M&Aをおこなうと、売り手・買い手の双方にメリットが生じます。
売り手 | 買い手 |
---|---|
・経営の安定化が期待できる ・後継者不在による廃業を回避できる ・ 地域医療を継続し、患者を守ることができる ・ スタッフの雇用を継続できる ・ 個人の連帯保証、資産の担保提供から解放される |
・事業展開のコスト・手間を削減できる ・ スタッフと患者を確保できる ・ 病床過剰地域で病床を確保できる |
ここから、売り手と買い手に分けて、メリットをそれぞれ詳しく解説します。
売り手のメリットとして、次の5点が挙げられます。
M&Aをおこなうと、医療法人の経営がより安定する可能性があります。
大手法人や経営資源の豊富な法人と統合すれば、設備投資や人材確保の負担が軽減されます。
資金繰りの不安が軽減され、より質の高い医療サービスを提供し続けられるでしょう。
M&Aを活用すれば、後継者不在による廃業を回避できます。
医療法では、原則として医師または歯科医師でなければ、医療法人の理事長には就任できないと定められています。
医師や歯科医師ではない人が実質的に医療法人を支配することで、医学的知識の不足に起因する問題の発生を防ぐためです。
なおケースによっては、医師・歯科医師以外でも医療法人の理事になることはできます。
ただし都道府県知事の許認可を取るのが困難などハードルも高く、株式会社と比べ後継者問題が深刻なのは否めません。
適切な後継者がいない場合は、M&Aによって問題を解決できる可能性があるのです。
地域医療を継続して患者を守るために、M&Aが活用されるケースもあります。
病院や医療法人は地域住民の健康を支える重要な存在です。
経営者や医師の都合だけで、簡単に廃院を決められないでしょう。
医療機関が少ない地方では、ひとつの医療法人がなくなるだけでも、地域の医療体制に深刻な影響を与えかねません。
M&Aを活用して新たな医療法人へ引き継げば、地域の医療サービスを継続できる可能性があるのです。
スタッフの雇用の確保を目的として、医療法人のM&Aを選択するケースも少なくありません。
病院が閉院すると、スタッフの雇用が失われてしまいます。
スタッフは、新しい勤務先を見つけなくてはなりません。
しかし、M&Aをおこなえば、スタッフの雇用を継続できる場合があります。
たとえば、出資持分譲渡のスキームを選べば、基本的にはスタッフの雇用はそのまま継続されます。
従業員の生活を守る上でも有効な手段となるでしょう。
一方で事業譲渡などのスキームでは、労働契約は引き継がれません。
既存のスタッフが同じ職場で働き続けるには、再雇用の手続きが必要です。
M&Aを実施すれば、個人の連帯保証や資産の担保提供の義務から解放されます。
医療法人が金融機関から融資を受けやすくするため、理事長個人が連帯保証人となったり資産を担保として提供したりすることが多いのです。
これが理事長にとって、大きな負担となることはいうまでもありません。
こういった負担から解放される点は、売り手側にとってのメリットといえます。
また創業者が出資者である場合は持分譲渡や退職金によって対価を受けて、創業者利益を確保することも可能です。
買い手のメリットとして、次の3点が挙げられます。
M&Aをおこなえば、事業展開のコストや手間を削減できます。
法人が新たに診療所や病院を設立する場合、開業にかかるコストや準備の手間が大きな負担となります。
しかし、すでに診療所や病院を運営している医療法人をM&Aで買収すれば、負担を抑えながら短期間でグループの規模を拡大することが可能です。
スタッフと患者を確保するためにも、M&Aは有効です。
医療法人の経営を成功させるには、立地や設備といった環境面だけでなく、医師・看護師・事務スタッフといった人材の質も重要な要素となります。
しかし、新規で求人を出しても、必ずしも優秀な人材が集まるとは限りません。
M&Aによって医療法人を買収すれば、すでに売り手の医療法人で勤務している経験豊富なスタッフを確保できます。
採用コストや時間をかけずに即戦力となる人材を確保できるため、スムーズな経営の継続や医療サービスの質の向上につながるでしょう。
さらに病院を開設する際は、地域住民に認知され患者を確保するまでの時間もかかります。
M&Aで医療法人を買収する際は、基本的には売り手側の医療法人に通っていた患者も引き継げることが多いです。
そのため比較的短期間で収益を確保することも望めます。
M&Aをおこなえば、病状過剰地域でも病床を確保できます。
既存の病床が医療圏ごとに定められた基準病床数を上回る場合、厚生労働省の許可が得られない可能性があるのです。
そのため増床が難しい病床過剰地域でも、その地域に病床を持つ医療法人をM&Aで買収することにより増床が見込めるのです。
そのほかのM&Aと同様に、医療法人のM&Aでも絶対的な評価手法があるわけではありません。
たとえば医療法人のM&Aにおける価格を簡単に算出する方法として、以下のような例があります。
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ただ医療施設・医療機器のような特殊な資産は評価が難しいなどの問題もあります。
そのため買い手側・売り手側間で交渉し、両者が納得する落としどころを探ることになるのです。
M&Aでは、取引価格が公開されることはほとんどありません。
具体的な相場を知りたい場合は、医療法人のM&Aを数多く手掛ける仲介会社などの専門家に聞くとよいでしょう。
一般的なM&Aと比較して、医療法人M&Aを進める際にはいくつかの注意点があります。
トラブルを防止するためにも、事前に内容をしっかりと確認しておきましょう。
医療法人のM&Aを実施する際には、さまざまな行政手続きが必要になります。
具体的には、以下のような行政手続きがあります。
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実際にどのような手続きが必要になるかは、医療法人の種類などによって異なります。
必要な行政手続きを洩れなくおこなうには専門的な知識が必要です。
医療法人は、必ず非営利性を確保しなければならない点に注意が必要です。
営利目的での病院や医療機関の開設であるとみなされた場合、開設は許可されません。
病院が営利を目的に開設されると、利益を優先する経営によって患者の利益が損なわれる可能性があるからです。
そのため営利を目的とするような一般企業は、病院を開設できないことになります。
また非営利性を確保する目的から、剰余金の配当も同様に禁止されています。
近年では、少子高齢化の進行や医療業界の競争激化を背景に、経営基盤の強化や事業継承の手段としてM&Aの活用が増えています。
ここでは、代表的なM&A事例を紹介します。
2015年、NTT東日本はNTT東日本東北病院を、学校法人東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)へ事業譲渡すると発表しました。
本譲渡は、東北地方における医師不足や医療過疎の解消を目指すための取り組みとしておこなわれたものです。
譲渡後、東北薬科大学は医学部を設立するとともに病院を運営する予定でした。
2016年4月1日に譲渡が正式におこなわれ、現在は東北医科薬科大学の附属病院として運営されています。
医療法人沖縄徳洲会は、2018年8月に医療法人湯池会を吸収合併しました。
この合併により、医療法人湯池会が運営していた北谷病院の経営権が沖縄徳洲会へと移りました。
北谷病院は沖縄県北谷町に所在する内科・外科・整形外科・泌尿器科などの診療科目を備える病院です。
北谷病院では、医療スタッフの高齢化や後継者不足といった課題がありました。
また、近隣の中部徳洲会病院が移転し両病院の距離が近くなったことも、統合を進める要因となりました。
本吸収合併により、両病院の医療体制が強化されて地域医療が発展したと考えられています。
石川県金沢市にある藤井病院を運営していた医療法人社団博洋会は、2021年6月に、同じ金沢市で病院経営をおこなう医療法人社団竜山会に対し、藤井病院の事業を譲渡しました。
事業譲渡の背景には、博洋会による診療報酬の不正請求が発覚し、保険医療機関としての指定を取り消される事態となったことが挙げられます。
病院の運営継続と従業員の雇用維持を図るため、譲渡先を探した結果、医療法人竜山会とのM&Aが成立しました。
本事業譲渡により、藤井病院の医療提供体制が維持され、地域の医療サービスが継続されました。
ここでは、医療法人のM&Aに関してよくある質問をまとめました。
似たような疑問をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
原則として、株式会社は医療法人を買収できません。
医療法により医療法人は非営利法人とされており、営利目的の株式会社による経営権の取得が認められていないことが理由です。
しかし、株式会社がM&Aを通じて医療法人の経営に関与し、実質的に医業を運営している事例は数多く見られます。
その際は、以下のような手法が活用されています。
出資持分ありの医療法人を、M&Aで買収する際のスキームです。
このスキームでは、たとえば買収対象となる医療法人の社員にかわって、株式会社を辞めた役員・従業員が社員となります。
このように株式会社の関係者を買収対象の社員とすることによって、株式会社が間接的に経営権を掌握するわけです。
メディカルサービス法人(MS法人)とは、病院の売店運営や医薬品購入、人材管理など医療機関経営に関連する周辺業務をおこなう法人です。
医療法人は医療による収益の一部を、MS法人と取引をすることで移転させられます。
そこで株式会社がMS法人へ投資をおこない、MS法人経由で医療法人の収益を得ることで、医療法人を間接的に経営することになるのです。
前述のとおり、株式会社は医療法人の社員にはなれません。
一方で一般社団法人は医療法人と同じく非営利法人ですが、株式会社も社員や開設者になることができます。
一般社団法人は非営利法人であることから、医療法人の社員となることも可能です。
そこで株式会社は新たに一般社団法人を設立し、その一般社団法人を医療法人の社員とします。
これによって、株式会社が一般社団法人を経由したかたちで医療法人の経営に関与できるようになるわけです。
医療法人のM&Aにかかる期間は、規模や状況によって大きく異なります。
一般的には数ヵ月~1年程度を見込まれることが多いですが、それより長い期間が必要となることも少なくありません。
たとえば過疎化がすすみ赤字経営が続く地方の病院であれば、買い手を見つけるだけで1年以上かかることもあります。
買い手が見つかってからも、条件交渉や監査、契約書作成などの手続きに時間がかかることも多いです。
条件交渉の開始から契約締結まで早くて半年、長ければ2年以上かかることも想定されます。
一方で医療法人のM&Aにかかる費用も、規模や状況で大きな差があり一概に相場はいえません。
一般的に医療法人のM&Aにかかる費用の項目や、それぞれの相場は以下のとおりです。
項目 | 費用相場 | 負担者 |
---|---|---|
買収費用 | 買収対価 | 買い手 |
仲介手数料・アドバイザリー費用 | 数百万円〜数千万円程度 | 買い手・売り手 |
デューデリジェンス費用 | 数十万円~数百万円程度 ※規模によっては数千万円程度かかることもも |
買い手 (売り手が負担する場合もあり) |
税金 (※買い手には消費税など・売り手には法人税など) |
ケースにより異なる | 買い手・売り手 |
商業登記や所有権移転登記などの手続き費用 | 数万円~数十万円程度 | 買い手 |
株券発行費 | 数万円〜数十万円程度 | 売り手 |
医療法人のM&Aでは、法人の種類に応じた適切なスキーム選定や、複雑な行政手続きへの対応が求められます。
通常のM&Aと比較すると手続きが一層難しくなるので、弁護士に相談して手続きを代行してもらうのがおすすめです。
M&Aを手がける弁護士は多く存在しますが、医療業界に精通した弁護士は限られています。
医療分野は専門性が高いため、医療業界に関する深い知識が欠かせません。
そのため、M&Aの知識に加え、医療機関ならではのルールや運営ノウハウを理解している弁護士を選ぶのが重要です。
医療業界のM&A実績も確認して、信頼できる弁護士を見つけましょう。
なお、「企業法務弁護士ナビ」を活用すれば、M&Aに強い弁護士を簡単に検索して、各法律事務所の実績や取り扱い事例も確認できます。
医療法人M&Aを検討しているのであれば、ぜひご活用ください。
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
※企業法務弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。
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