公益通報者保護法とは、事業者内部や外部の法令違反行為を発見した労働者・退職者・役員等が、そのことを通報したために解雇や不利益な取扱いを受けないよう保護するとともに、事業者に通報対応体制の整備を義務付ける法律です。国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律違反を早期に是正し、事業者の自浄作用を高めることを目的としています。
公益通報者保護法が定める主な制度
公益通報者保護法は、単に通報者を守るだけでなく、通報の対象となる行為の範囲や通報先ごとの保護要件、事業者が整えるべき体制まで幅広く定めています。主な制度は以下のとおりです。
- 通報対象となる法令違反行為:国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律のうち、罰則(刑事罰・過料)の規定がある法律として政令で個別に指定されたものに違反する犯罪行為や、法令に基づく処分の理由となる事実が対象です。刑法、食品衛生法、金融商品取引法、個人情報保護法、独占禁止法など、事業活動に関わる幅広い法律が含まれます。
- 保護される通報者の範囲:正社員やパート・アルバイト、派遣労働者、公務員などの労働者に加え、通報の日から1年以内に退職した退職者、役員も対象に含まれます。取引先や委託先で働く労働者・役員等についても、契約に基づく業務に従事している者や1年以内に従事していた者は保護の対象です。
- 通報先ごとの保護要件の違い:通報先は事業者内部、権限を持つ行政機関、報道機関等のその他の外部という3類型に分かれ、外部への通報になるほど保護を受けるための要件は厳しくなります。事業者内部への通報は法令違反が生じている、または生じようとしていると思料すれば足りるのに対し、行政機関への通報では相当の理由があることや所定事項を記載した書面の提出などが求められ、報道機関等への通報ではさらに、内部通報をすると不利益を受けるおそれがあることなど所定の要件のいずれかを満たす必要があります。
- 事業者の体制整備義務:常時使用する労働者数が301人以上の事業者には、内部公益通報を受け付けて調査・是正する体制の整備と、公益通報対応業務に従事する担当者(従事者)を指定する義務が課されています。300人以下の事業者では、この整備は努力義務にとどまります。この義務は、2022年6月に施行された令和2年改正で導入されました。
参考:消費者庁|公益通報者保護法と制度の概要
2026年改正の主なポイント
公益通報者保護法は、2025年6月11日に公布された「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和7年法律第62号)により改正され、2026年12月1日に施行されます。施行までのスケジュールや実務対応の全体像については、公益通報者保護法の改正はいつから?―2026年12月1日施行の改正法を見据え企業が取り組むべき実務対応を解説でも詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。今回の改正では、主に次の点が見直されています。
保護対象の拡大
フリーランスや業務委託先として働く人(特定受託業務従事者等)が、新たに公益通報者として保護の対象に加わります。通報の日から1年以内に業務委託関係にあった人も対象に含まれるため、雇用契約のない取引先の担当者からの通報にも注意が必要です。
不利益取扱いの推定規定
公益通報をした日、または事業者が公益通報の事実を知った日から1年以内に行われた解雇や懲戒は、公益通報を理由としたものと推定されるようになります。戒告のような軽微な懲戒処分も対象に含まれるため、通報後の人事上の措置には従来以上に慎重な検討が求められます。
刑事罰の対象となる行為
保護要件を満たす公益通報を理由に労働者を解雇または懲戒した場合、行為者個人には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が、法人には3,000万円以下の罰金が科される直罰規定が新設されます。あわせて、正当な理由なく公益通報をしない旨の合意を求める行為や、公益通報者を特定する目的で調査・探索する行為も禁止され、こうした合意は無効となります。
消費者庁の監督権限強化
従事者指定義務等への違反に対して、消費者庁長官による事業者への立入検査権と、勧告に従わない事業者への命令権が新設されます。立入検査の拒否や命令違反にも罰則が設けられており、行政の監督機能が強化されます。
参考:消費者庁|公益通報者保護法と制度の概要
企業に求められる実務対応
2026年改正への対応として、企業には次のような取り組みが求められます。
- 内部通報規程・運用フローの見直し:保護対象の拡大や推定規定の新設を踏まえ、フリーランス等からの通報も受け付けられるよう規程や窓口の対象範囲を見直します。
- 従事者の指定と教育の徹底:公益通報対応業務従事者の指定状況を点検し、守秘義務や調査手順について研修を実施します。
- 解雇・懲戒プロセスの記録整備:通報後の人事上の措置が公益通報を理由としないことを説明できるよう、判断過程や根拠資料を記録に残しておきます。
- 通報者探索の防止体制の構築:調査担当者以外が通報者を特定しようとする行為を防ぐため、情報共有の範囲を限定します。相談窓口の設計や体制づくりについては内部通報窓口とは?メリット・設置時のポイント・通報時の対応を解説もご参照ください。
- 社内外への周知:改正内容や新しい通報先・手続きについて、労働者だけでなく取引先の担当者にも周知します。窓口の設計や運用に不安がある場合は、内部通報窓口について弁護士ができることや依頼時の費用を解説を参考に、弁護士への相談も検討します。
関連法令
公益通報者保護法は、以下のような法律とあわせて理解しておくことが重要です。
- 労働基準法:解雇や懲戒処分の手続き・要件を定める法律で、公益通報を理由とする不利益取扱いの禁止と密接に関わります。
- 個人情報保護法:通報内容や通報者を特定する情報を取り扱う際の管理義務に関わります。
- 会社法:役員による公益通報や、内部統制システムの整備義務との関係で参照されます。
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