中小企業の多くは、コストのかかる顧問弁護士はまだ必要ないと考えているかもしれません。
しかし中長期的な会社の発展を見据えると、早い段階で顧問弁護士を付けておくことは、中小企業にとって有益といえます。顧問弁護士が何をしてくれるのか、どのようなメリットがあるのかなどについて、イメージが湧かない経営者の方も多いでしょう。
そこでこの記事では、
- 中小企業にとって顧問弁護士を付けるメリット
- 顧問弁護士を付けるタイミング
- 顧問弁護士の選び方
などについて解説します。
顧問弁護士を付けるとなぜ安心?中小企業にとってのメリット
中小企業では、事業の拡大・発展を急ぐあまり、バックオフィスの整備が遅れる傾向にあります。しかし、企業が社会の中でビジネスを行う以上、立ち上げ段階から法律問題に深く関与することになります。
そのため、特にリーガルチェックの体制を整えることは、中小企業にとって急務です。顧問弁護士を付けてリーガルチェック体制を整えることには、中小企業にとって以下のメリットが存在します。
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気軽に法律相談ができる
契約・労務管理・債権回収など、企業が日常的に取り扱う業務の多くは、潜在的に法律と密接な関連性を有しています。普段は業務が順調に回っているように見えても、ふとした瞬間に法律上の問題が生じることはよくあります。顧問弁護士を付けておくと、日常の業務の中で発生した法律問題を気軽に相談できるので安心です。
社内のコンプライアンスを強化できる
自社のビジネスが法令に従って運営されているかどうかは、「コンプライアンス」の観点からきわめて重要なポイントです。コンプライアンスの脆弱な企業は、法的なトラブルに巻き込まれるリスクが高く、突然事業が頓挫してしまうおそれを常に抱えています。
顧問弁護士に相談すると、会社のオペレーションの隅々まで行き届くので、会社全体のコンプライアンス強化に繋がります。
法律トラブルが発生した場合でもスムーズに対応可能
顧問弁護士は、クライアント企業と長く付き合う中で、その企業の社内事情にも精通するようになります。企業が法律トラブルに巻き込まれた場合、あまり面識がない弁護士にいきなり相談するよりも、自社のビジネスに通じた顧問弁護士に相談する方がスムーズに対応できるメリットがあります。
法務担当者を増員するよりもコストが安い
中小企業のリーガルチェック体制を強化する方法には、顧問弁護士を付ける方法以外に、自社の法務担当者を新たに雇用する方法も考えられます。しかし、従業員を新たに雇用すると、賃金・社会保険料などが固定費用として大きな負担になってしまいます。
さらに、「解雇権濫用の法理(労働契約法16条)」が存在する関係で、一度雇用した従業員を解雇できる場合はきわめて限定されています。これに対して顧問弁護士を付けるケースでは、基本的には数万円から数十万円程度の月額報酬だけを負担すれば良いため、従業員を新たに雇用するよりもコストが安く済みます。
また顧問弁護士の必要性が薄いと判断した場合、顧問契約を終了するためのハードルは、雇用契約に比べて格段に低いのも大きなメリットです。
顧問弁護士を付けるべき中小企業の特徴は?検討のタイミングについても
中小企業が顧問弁護士を付けることを検討する場合、何らかのきっかけがあることが多いでしょう。たとえば以下に挙げるタイミングは、中小企業が顧問弁護士を付ける好機といえます。
従業員が増えてきた
会社が従業員を雇用する場合、労働基準法などの法令に従った労務管理を行うことが必要です。従業員の数が増えれば増えるほど、当然ながら労務管理は煩雑になり、その分ミスや見落としも増えます。
時間外労働の管理やハラスメント対策など、会社として実施すべき労務管理に漏れが生じていると、労働者との間でトラブルが発生してしまいかねません。したがって会社の従業員が増えてきた段階で顧問弁護士を付け、労務管理についてのアドバイスを受けることは、労働者との紛争を防止する観点から有益といえます。
契約書を日常的に取り扱うようになった
取引先が拡大し、契約書を日常的に取り扱うようになった場合、契約内容のチェックがおろそかになりがちです。特に相手方からひな形を提示された場合には、契約書の内容をきちんと確認しないと、自社にとって思わぬ不利益が生じてしまうおそれがあります。
顧問弁護士を付けておけば、契約書の作成・レビューをその都度依頼することができます。契約書チェックの手間を省き、かつ内容面での慎重な検討を行いたい場合には、顧問弁護士を付けるのが便利でしょう。
ビジネスの拡大を目指している
ビジネスが拡大すればするほど、会社がステークホルダーとの間で法律問題に巻き込まれるリスクは上がります。また、会社が新規ビジネスにチャレンジする際には、スキームが法的に問題ないかのチェックが不可欠です。
このようにビジネスが軌道に乗って拡大路線へとシフトするタイミングでは、あらかじめ法律トラブルに備える観点から、顧問弁護士を付けておくのが安心です。
売掛金の回収に苦労している
中小企業にとって、売掛金が期限どおりに支払われるかどうかは、資金繰りの観点から死活問題といえます。しかし、売掛金の支払いが滞りがちな取引先がいたとしても、実際に支払督促や訴訟などの方法で債権回収を行うには大変な手間がかかります。
顧問弁護士は債権回収も代行してくれるので、売掛金不払いのトラブルが発生した際も、会社自身が労力を割くことなくスムーズな対応が可能です。
最初から付けておくのもお勧め
会社を加速度的に成長させることを目指す場合、その過程で法律問題に直面した際には、きわめて迅速に処理する必要があります。したがって会社をできるだけ早く大きくしたいと考えている場合は、当初から顧問弁護士を付け、会社のトラブル耐性を高めておくことが有益といえるでしょう。
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顧問弁護士に依頼できる業務の内容は?
顧問弁護士に依頼できる業務の内容は、弁護士によっても異なりますが、非常に多岐にわたります。
顧問弁護士の業務の具体例
顧問弁護士に依頼できる業務の具体例は以下のとおりです。
- 契約書の作成、レビュー、契約交渉
- 債権回収
- 労働問題への対応(不当解雇、残業代未払いなど)
- 新規ビジネスのスキーム検討
- 経営者の個人的な法律相談 など
弁護士は法律に関する業務を制限なく取り扱うことができるため、上記はあくまでも一例です。具体的な業務内容については、依頼を検討している弁護士にご確認ください。
どの範囲の業務が顧問料に含まれているかを要確認
ただし顧問弁護士は、「顧問料を払ったら何でもやってくれる」というわけではないことに注意が必要です。顧問契約は月額報酬制を採用していることが多いですが、顧問料に比べて負担が重い業務は別料金としている法律事務所もよくあります。
たとえば複雑な契約交渉や訴訟対応などは、顧問契約とは別料金になりがちな業務の典型例です。顧問弁護士との間でトラブルを生じないためにも、当初の依頼時に業務範囲を明確化しておくことをお勧めいたします。
中小企業が顧問弁護士を付けるための費用は?
顧問弁護士の顧問料は、一律の基準があるわけではなく、法律事務所によって大きく異なります。大まかな金額相場としては、数万円から30万円程度の範囲に収まることが多いでしょう。
なお、どの範囲の業務を依頼するかによって、顧問料を変えている弁護士事務所もあります。この場合、自社が必要とするサービスに絞って顧問契約を設計することにより、顧問料を抑えることが可能です。
また、法律事務所が提示している報酬テーブルは、あくまでも目安という位置づけであることがほとんどです。したがって、ある程度の価格交渉が可能な場合もあります。
詳しくは弁護士に確認・相談してみましょう。
【関連記事】顧問弁護士の費用・顧問料相場|内訳と顧問料を安く抑えて良い弁護士を選ぶには
中小企業が顧問弁護士を選ぶ際のポイントは?
中小企業が顧問弁護士を付ける場合、当然ながらきちんと仕事をしてくれる弁護士に依頼したいところです。適切に仕事をしてくれる顧問弁護士を選ぶための着眼点としては、おおむね以下のポイントが挙げられます。
スピーディに連絡が取れる
顧問弁護士は日常的な法律アドバイザーなので、相談してすぐに回答が返ってくることは重要です。仮に相談内容が複雑で返答に時間を要する場合であっても、検討状況をまめに報告してくれる弁護士は、クライアント企業にとっても信頼に値します。
弁護士が「クライアント・ファースト」の意識を持っていれば、クライアントに対するレスポンスは自然と早くなります。スピーディに連絡が取れることは、弁護士としての基本的な素養の一つであり、顧問弁護士を選ぶ際にも注目すべきポイントといえるでしょう。
文章が丁寧
契約書などの法的文書は、文章表現が少し変わるだけで条項の意味が大きく変わってしまうため、レビューの際には文言を一言一句慎重に確認しなければなりません。
この点、契約書のレビューやその他書類のチェックは、文章表現に敏感な弁護士ほど丁寧に行う傾向があります。そのためきちんとした丁寧な文章を書く弁護士は、きめ細かな仕事によって、企業をリーガルリスクから守ってくれる頼りになる存在になる可能性が高いでしょう。
たとえば公式HPの文章や、打ち合わせに関するメールの文章などを見るだけでも、その弁護士がマメに仕事をするタイプかどうかがある程度わかります。顧問弁護士を選ぶ際には、弁護士が書く文章にも注目してみると良いでしょう。
企業法務を専門的に取り扱っている
中小企業の顧問弁護士には、企業法務に関する土地勘も求められます。たとえば契約書のレビューであれば、契約類型ごとに問題になりやすいポイントはどこなのかを、実務経験に基づいて理解していることが重要です。
労務管理の問題であれば、単に労働法の規定がどうなっているかの点だけでなく、労働者側の心理傾向なども踏まえて対応するのが望ましいでしょう。こうした企業法務に関する「ノウハウ」を集積している弁護士は、顧問弁護士としても非常に頼りになる存在といえます。
ビジネスに対する理解がある
中小企業の顧問弁護士には、法律を杓子定規に適用するだけでなく、クライアントのビジネスをともに発展させていくという態度が求められます。そのためには、クライアントのビジネスを理解している、理解しようとする姿勢があることが重要です。
実際に弁護士と会話をしてみて、自社のビジネスに興味がありそうか、経営者と同じ目線で相談に乗ってくれそうかを判断すると良いでしょう。
顧問弁護士がいたことで問題解決に繋がった事例3つ
最後に、筆者が経験した案件の中から、顧問弁護士の存在が法律トラブルの解決に繋がった事例をいくつか紹介します。
問題社員対応の紛争事例
事案の概要
社内でハラスメントを働く問題社員について、周囲の従業員からマネジメントに対して多数の苦情が寄せられていました。会社としては懲戒解雇を含めた対応を検討していましたが、法律上解雇のハードルは高いことから、事前に顧問弁護士にアドバイスを求めました。
顧問弁護士が行った対応
まず、問題行動の悪質性を考慮すると、懲戒解雇が適法と判断される可能性は十分あるという見通しを伝えました。その一方で、懲戒解雇をすると問題社員とのトラブルは避けられないという懸念を併せて指摘しました。
トラブルが発生した場合のコストを考えると、できる限り退職勧奨による合意退職を目指すのがよい旨を提案し、退職勧奨の方法についてもアドバイスを行いました。
結果
問題社員が退職勧奨を受け入れ、円満な合意退職が実現しました。会社側は一定の上乗せ退職金を支払うことになりましたが、訴訟などに発展した場合の想定コストを踏まえると、比較的低コストで問題を解決できました。
契約トラブルの紛争事例
事案の概要
ソフトウェア開発の業務を受注しているクライアントが、親事業者との間で、納品物の検収に関する契約条項の解釈について揉め事を生じました。親事業者が検収未了を主張して報酬の支払いを拒絶する中、資金繰りに困ったクライアントが、顧問弁護士に対処法のアドバイスを求めました。
顧問弁護士が行った対応
クライアントの相談を受ける中で、親事業者が、検収に関する方針を最近突然変更していたことが判明しました。これを受けて、合理的な理由のない検収ルールの変更は下請法で禁止されている違法な受領拒絶に当たることを指摘して、早急に報酬を支払うべき旨の内容証明郵便を弁護士名で送付しました。
結果
親事業者が態度を軟化させ、ほどなくして報酬が支払われました。さらに、検収に関する契約条項を明確化した方が良いとの点で合意に至ったため、顧問弁護士が契約の変更についてもサポートを行いました。
売掛金不払いの紛争事例
事案の概要
工業製品の原材料の輸入販売業者であるクライアントが、納品先による売掛金の不払いへの対処法について、顧問弁護士にアドバイスを求めました。不払いとなっている売掛金の金額が高額であるため、できるだけ早く回収したいとの要望をクライアントから受けました。
顧問弁護士が行った対応
迅速な債権回収を図るためには、内容証明郵便などによる支払い催告と並行して、裁判所に対する支払督促の申立てを並行して進めるべきであるとアドバイスしました。債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議申立てがなければ、仮執行宣言を得て速やかに強制執行に移行できるからです。
そのうえで、万が一支払督促に対する異議申立てが行われた場合に備えて、訴訟の準備も並行して進めておく必要があることも指摘しました。支払督促の申立てや訴訟提起の準備は、すべて顧問弁護士が代行しました。
結果
支払督促に対する異議申立てが行われなかったため、仮執行宣言を得て強制執行に着手し、相談から2か月弱で売掛金の回収に成功しました。
まとめ
中小企業が持続的・安定的に成長を続けていくには、さまざまな面で顧問弁護士のサポートを得ることが有効です。顧問弁護士を付けておけば、いざ法律トラブルに巻き込まれてしまった際にも、スムーズな対応により危機を回避できる可能性が高まります。
各弁護士が独自に多様な顧問契約プランを用意しているので、自社のニーズに合った弁護士・プランを選択しましょう。