独占禁止法の違反事例とは|過去に起きた違反事例を禁止事項ごとに紹介

専門家監修記事
企業による健全な市場競争を確保するための法律に、独占禁止法があります。同法では、私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法といった禁止事項が定められており、罰則も設けられています。この記事では、独占禁止法の違反事例について、禁止事項ごとに紹介します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
取引・契約

独占禁止法は、企業による健全な市場競争を確保するために制定された法律で、『私的独占』・『不当な取引制限』・『不公正な取引方法』などを禁止事項に定めています。 この記事では、独占禁止法の違反事例について、こうした禁止事項ごとに取り上げてご紹介します。

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独占禁止法の違反事例

独占禁止法に関する事件は毎年一定数発生しています。公正取引委員会に寄せられた平成29年度の申告数は5,578件でした。また、平成29年度の審判事件数は245件あり、このうち123件が排除措置命令、122件が課徴金納付命令に関するものでした。

引用元:(平成30年5月23日)平成29年度における独占禁止法違反事件の処理状況について|公正取引委員会

以下では、2000年以降に発生した代表的な事件とその審決を見ていきます。

私的独占

私的独占とは、『競合他社の締め出しや新規参入の妨害を目的に、極端な価格設定を行うなどして、市場を独占する行為』を指します。

参考:独占禁止法第2条5項、独占禁止法第3条

2007年3月26日の審決

2002年6月より、通信サービス事業者である被審人が、新サービスの導入にあたり、内容を偽って認可をうけるなどして、他社よりも低価格でサービスを提供をした事件です。 公正取引委員会は、『被審人の行為は、他社の競争を実質的に制限するものであり、独占禁止法第2条5項で定める私的独占にあたる』との判断を下しました。

なお、該当行為は2004年3月をもってなくなっており、これに関する特別な措置は取られていません。

参考元:事件番号:16(判)2|公正取引委員会

2006年6月5日の審決

1995年から1999年の間、ガラス医療製品の原材料の取引において、その大手販売代理店である被審人が、同エリアでガラス製品の製造販売を行うA社とその子会社B社に対して受注の拒絶や販売価格の引き上げや特別値引きの取り止めなどを行い、販売を独占しようとした事件です。

公正取引委員会は、『被審人の行為は、他社の競争を実質的に制限するものであり、独占禁止法第2条5項で定める私的独占にあたる』との判断を下しました。なお、該当行為はすでになくなっており、これに関する特別な措置は取られていません。

参考元:事件番号:12(判)8|公正取引委員会

2005年4月13日の審決

2002年5月より、半導体素子製品の取扱いを行う被審人が、国内のパソコンメーカー5社に対して、他社製品の採用制限や採用禁止などを強制した事件です。 公正取引委員会は、『被審人の行為は、他社の競争を実質的に制限するものであり、独占禁止法第2条5項で定める私的独占にあたる』として、被審人に対して排除措置命令を下しました。

参考元:事件番号:平成17年(勧)第1号|公正取引委員会(報道発表資料)

不当な取引制限

不当な取引制限とは、『競争の回避を目的に、複数の事業者がカルテルや入札談合などの不当な手段を用いて、取引を制限する行為』を指します。

参考:独占禁止法第2条6項、独占禁止法第3条

2018年5月30日の審決

2002年7月から2011年12月の間、自動車部品の受注について、予定者が受注できるよう、被審人である複数の事業者が共同して調整を行った事件です。

公正取引委員会は、『被審人の行為は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであり、独占禁止法第2条6項で定める不当な取引制限にあたる』として、被審人に対して、排除措置命令および課徴金納付命令(34億2,859万円)を下しました。

参考元:事件番号:25(判)11~20|公正取引委員会(報道発表資料)

2017年10月4日の審決

2006年4月から2010年3月の間、土木一式工事の受注について、予定者が受注できるよう、被審人である建設会社ら10社が共同して調整を行った事件です。

公正取引委員会は、『被審人の行為は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであり、独占禁止法第2条6項で定める不当な取引制限にあたる』として、被審人に対して、排除措置命令および課徴金納付命令(計2億511万円)を下しました。

参考元:事件番号:23(判)53~57,59~69,71~75|公正取引委員会(報道発表資料)

2017年6月15日の審決

2006年4月より、土木一式工事の受注について、予定者が受注できるよう、被審人である建設会社ら23社事業者が共同して、調整を行った事件です。

公正取引委員会は、『被審人の行為は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであり、独占禁止法第2条6項で定める不当な取引制限にあたる』として、被審人に対して、排除措置命令および課徴金納付命令(計5億1,810万円)を下しました。

参考元:事件番号:23(判)8~52|公正取引委員会(報道発表資料)

不公正な取引方法

不公正な取引方法とは、『競争の妨害を目的に、取引拒絶や不当廉売などの不当な手段を用いて、他社の競争機能を制限する行為』を指します。

参考:独占禁止法第2条9項1~5号、独占禁止法第19条

2015年6月4日の審決

2009年1月から2011年1月までの間、子供・ベビー用品の取扱いを行う被審人が、納入業者に対して取引対価の減額や商品の返品を不当に行うなどして、優越的地位を濫用した事件です。

公正取引委員会は、『被審人の行為は、市場における公正かつ自由な競争を阻害するおそれがあるものであり、独占禁止法第2条9項1~5号で定める不公正な取引方法にあたる』として、被審人に対して、排除措置命令および課徴金納付命令(2億2,218万円)を下しました。

参考元:事件番号:24(判)6・7|公正取引委員会(報道発表資料)

2010年6月9日の審決

2005年9月より、手芸用品の取扱いを行う被審人が、小売業者に対して、値引き限度価格の維持を条件として、手芸材料を供給した事件です。 公正取引委員会は、『被審人の行為は、市場における公正かつ自由な競争を阻害するおそれがあるものであり、独占禁止法第2条9項1~5号で定める不公正な取引方法にあたる』として、被審人に対して、排除措置命令を下しました。

参考元:事件番号:20(判)23|公正取引委員会

2009年2月16日の審決

2002年11月より、音源・映像に関する権利を保有する被審人が、他社に対して、楽曲の使用承諾をしないよう告知した事件です。

公正取引委員会は、『被審人の行為は、市場における公正かつ自由な競争を阻害するおそれがあるものであり、独占禁止法第2条9項1~5号で定める不公正な取引方法にあたる』との判断を下しました。なお、該当行為はすでになくなっており、これに関する特別な措置は取られていません。

参考元:事件番号:15(判)39|公正取引委員会

独占禁止法に違反した際の罰則と制裁

独占禁止法の違反行為に対する措置としては、行政処分・刑事処分・民事訴訟があります。 行政処分としては、公正取引委員会による『排除措置命令』や『課徴金納付命令』の実施などが挙げられます。 『排除措置命令』は、違反行為を行なった事業者に対して、コンプライアンスの徹底など必要な措置を命じることを指します。

『課徴金納付命令』は課徴金の国庫納付を命じる措置で、その具体的な納付額は、違反行為にかかる期間の売上額や購入額に、以下の算定率を適用することで計算できます。違反行為の内容や事業者の対応によっては、50%の増額措置が取られたり、20%の減額措置が取られたりすることもあります(独占禁止法第7条の2)。


引用元:課徴金制度|公正取引委員会

刑事処分については、法人と個人それぞれに罰則が設けられています。

私的独占や不当な取引制限などの違反行為を行った場合、法人であれば『5億円以下の罰金』(独占禁止法第95条)、個人であれば『5年以下の懲役または500万円以下の罰金』(独占禁止法第89条1項1号、2号)が科される可能性があります。

また、排除措置命令に応じなかった場合についても、刑事処分として罰則が設けられています。 法人であれば『3億円以下の罰金』(独占禁止法第95条)、個人であれば『2年以下の懲役または300万円以下の罰金』(独占禁止法第90条3号)が科される可能性があります。

民事手続きとしては、『差止請求訴訟』(独占禁止法第24条)や『損害賠償請求訴訟』(独占禁止法第25条)などが挙げられます。

なお、損害賠償請求訴訟を行うためには、排除措置命令や課徴金納付命令が確定している必要があり、確定後3年が経過すると、時効によって権利が消滅します。

参照元:独占禁止法第26条1項、2項

独占禁止法について弁護士に相談するメリット

独占禁止法には、違法と適法の明確な境界がありません。そのため、当事者だけでは違法性に関する判断が困難なケースもあります。そのような場合は、弁護士による法的視点からのサポートを得ることで、スムーズな問題解決が見込めます。

法的なアドバイスと内部体制の構築が期待できる

弁護士に相談することで、取るべき対応に関するアドバイスや、問題発生時の法的手続きに関するサポートを得られることが期待できます。他にも、独占禁止法の遵守にかかるマニュアルの作成や、社内研修の実施などといった、コンプライアンス体制の構築に関するサポートなども望めます。

違法性の的確な判断が得られる

独占禁止法は、健全な企業間競争の実現を目的に制定されました。主な禁止事項として、私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法などがありますが、条文を参考にしただけでは、違法性について明確な判断が困難なケースもあります。

そのような場合は、知識・経験のある弁護士に依頼することで、違法性に関する法律相談はもちろん、法的手続きに関するサポートや、トラブルの未然防止に関するアドバイスなども期待できます。

相談先は解決実績が豊富な事務所へ

実際に相談する際は、独占禁止法に関する問題解決実績が豊富な事務所を選ぶとよいでしょう。独占禁止法は取扱経験のある弁護士が多くないため、事件処理の経験のある弁護士に依頼する方が適切です。

『具体的にどのような問題を解決してきたか』は、事務所HPに掲載しているところも多いため、いくつかの事務所を見比べて検討するのも1つの手段です。 ただし、外国企業が絡むケースについては、国や地域ごとの対応が必要になることもあります。

そのような場合は、現地の法律事務所との連携が可能な、外資系法律事務所や大手法律事務所を選ぶことをおすすめします。

まとめ

事務所選びについては、企業法務の中でも独占禁止法に注力しているところを選ぶのがよいといえるでしょう。

ただし、弁護士費用については、事務所や相談内容、企業規模などによって異なってくるため、具体的な費用が気になる場合は、事務所に直接確認を取ることをおすすめします。

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