生成AIによる著作権の侵害事例と最新の判例|生成AI事業者のリスクなどを徹底解説

専門家監修記事
生成AIに関する法務上の一大トピックとして、著作権の侵害が挙げられます。本記事ではAIによる著作権侵害の事例とそれに関する議論について解説します。
旭合同法律事務所
川村将輝
監修記事
知的財産

生成AIが急速に普及し、企業や個人がAIを活用する中で、著作権侵害に関する問題が注目を集めています。

著作権侵害は民法上の不法行為となり、AI利用者は著作者から損害賠償請求をされる可能性もあります。生成AIを巡って、著作権者等からのAIによるデータの学習及び生成に当たって、著作権が侵害されるのではないかといった懸念の声のみならず、AI利用者からもAIを利用することで、意図せず著作権を侵害してしまうのではないかといった懸念の声もあります。

そこで本記事では、生成AIによる著作権侵害の事例、その法的論点、具体的な対策について詳しく解説します。これから生成AIを活用する事業者がどのようにリスクを回避し、安全にAIを活用できるかを知るきっかけになれば幸いです。

この記事に記載の情報は2025年01月30日時点のものです
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AIによる著作権侵害事例と主な法的論点

主に海外を中心に、AIプロダクトの学習データアセットとして、既存に流通するアーティストやクリエイターの著作物が無断で使用されているなどとして著作権侵害を訴えるケースが多く見受けられます。

テキスト生成AIによる著作権侵害の事例

テキスト生成AIは、既存の著作物を学習データとして使用することが多いため、生成された文章が元の作品に酷似する可能性があります。特に、AIの学習データアセットとして、コンテンツ・著作物を、著作者の許可なく使用することを問題視して紛争が巻き起こるケースが多く見受けられます。

ChatGPT(OpenAI)

多言語対応の高度な自然言語処理モデル(GPT-4)を搭載し、会話型AIやコンテンツ生成に特化しています。具体的な活用例としては、顧客サポートの自動化や、ブログ記事やマーケティング資料の作成が挙げられます。

Claude3

Anthropic社が開発した大規模言語モデル(LLM)であり、ChatGPTと同様に会話形式で回答を生成する能力を持っています。特に、無料版でもマルチモーダル入力(テキスト、画像、音声などの異なるデータ形式の同時処理)に対応しており、コストパフォーマンスの高さが注目されます。

GeminiAI

自然な会話や高品質な文章作成を可能にする高性能なAIチャットです。無料版と有料版が提供されており、ビジネスシーンを含む多岐にわたる分野での活用が期待されています。Googleの検索機能とも連動しており、通常のGoogle検索エンジンの利用にも標準装備されています。

2023年には、作家のマイケル・シェイボン、タ・ネヒシ・コーツ、サラ・シルバーマンら3名が、OpenAIが彼らの著作物を無断で使用し、AIモデルの訓練に利用したとして、カリフォルニア州連邦裁判所に訴訟を提起しました。

参照:Renters(ロイター通信)|OpenAI denies infringement allegations in author copyright cases

また、最近の事例として、今年2024年11月には、カナダのニュース出版社であるThe Canadian Press、Torstarはじめ5社は、OpenAIが自社のニュースコンテンツを無断で使用し、ChatGPTの訓練データとして利用したとして、著作権侵害で訴訟を提起しました。

参照:AP通信|Canadian news publishers sue OpenAI over alleged copyright infringement

原告であるニュース出版社側は、OpenAIが許可等なくコンテンツをAIの学習・訓練に利用している点について著作権侵害を主張し、OpenAI側はフェアユースの原則に基づいた利用であると反論しています。

こうした訴訟は、AIモデルの訓練における著作権保護された作品の使用がフェアユースに該当するかどうかを問う重要なケースとなっています。

画像・イラスト生成AIによる著作権侵害の事例

画像生成AIは、著名なアーティストやプロダクションによる作品を学習データとして使用しているケースがあります。その結果、生成された画像が元の作品に類似する場合、著作権侵害となるケースがあります。

DALL-E(OpenAI)

自然言語を元にユニークな画像を生成でき、マーケティング資料のビジュアルやプロトタイプデザインに活用されています。

MidJourney

特にクリエイティブなアート制作に特化しており、ゲームデザインやアートコンセプト制作に適しています。

Stable Diffusion

オープンソースの画像生成モデルで、研究目的やアートプロジェクトで幅広く活用されています。

2022年12月、特撮作品「ウルトラマン」の制作会社である円谷プロダクションは、中国のAIサービス提供企業を相手取り、同社の許可なくウルトラマンの画像が生成・使用されたとして、著作権侵害で訴訟を提起しました。

被告となった事業者は、円谷プロダクションの許可なく「ウルトラマンティガ」と類似した画像を、AIを用いて生成し、インターネット上で配信していたため、日本の著作権法でいう公衆送信権の侵害が問題となりました。

この訴訟において、中国の広州のインターネット裁判所は、著作権侵害の該当性を認定し、被告のAI企業に対し、損害賠償とともに、関連する画像の生成と配信停止、将来にわたって類似の侵害が起きないよう防止措置を命じる判決を下しました。
参照:Ledge.ai|中国の裁判所、偽ウルトラマン画像の生成AI事業者に著作権侵害で20万円の賠償命令ーー AI生成コンテンツの著作権侵害に関する中国初の裁判

動画生成AIによる著作権侵害の事例

動画生成AIの場合も、やはり動画コンテンツが無断でAIの学習データアセットとして組み込まれ、生成された動画について著作権侵害のおそれが指摘されるケースが目立ちします。

RunwayML

動画編集や生成に対応し、広告制作やSNS投稿用の動画作成を効率化します。

Synthesia

アバターを使ったビデオ生成が特徴で、教育用トレーニングビデオや製品紹介動画の作成に使われています。

DeepBrainAI

仮想プレゼンターを活用した動画生成ツールで、ニュース配信や教育コンテンツの制作に利用されています。

2024年7月、Apple、Nvidia、Anthropicなどの企業が、YouTubeの動画トランスクリプトを無断でAIモデルの訓練データとして使用していたことが報じられました。これらの企業は、教育チャンネルや人気クリエイターのコンテンツを含む約17万3,000本の動画から字幕データを収集し、AIの学習に利用していました。

しかし、YouTubeの利用規約では、自動化された手段によるコンテンツのアクセスや収集を禁止しており、この行為は規約違反とされています。多くのYouTuberは、自身のコンテンツが無断で使用されていたことを知らず、これに対して批判の声を上げています。

このケースでは、利用規約違反に該当するものとして、プラットフォームの利用の制限事由に該当することから、学習データアセットとしての使用が制限されるケースとして挙げられます。

音声生成AIによる著作権侵害の事例

2024年5月、声優のポール・スカイ・レアマン氏とリネア・セージ氏は、AIスタートアップ企業Lovoを相手取り、無断で自身の声を複製・販売されたとして、ニューヨーク連邦裁判所に訴訟を提起しました。

訴状によれば、Lovoは両氏の声を無断で録音し、AIモデルを通じて合成音声を生成・販売していたとされています。これにより、両氏の声の商業的価値が損なわれたと主張されています。

音声生成AIの場合、複製権の侵害だけでなく、合成の音声にすることにより同一性保持権や翻案権の侵害にあたるリスクがあると考えられます。

Google Text-to-Speech

自然な発音の音声合成を提供し、カスタマーサポートの音声応答やオーディオブック制作に使われています。

ElevenLabs

個人の声を模倣可能な音声生成技術を持ち、ポッドキャストや映画音声の作成に活用されています。

Resemble AI

AIによる声の合成とカスタマイズが可能で、ボイスアシスタントやゲームキャラクターの音声に利用されています。

生成AIの著作権侵害に関する著作権法上の主な論点5つ

生成AIの著作権侵害に関しては、著作権法上様々な論点があります。この記事では、著作権法第30条の4の規定を中心としつつ、理論的な問題点など5つを解説していきます。

著作権法第30条の4の整理

日本では、AI分野を問わず一般論として存在するアメリカを中心としたフェアユースの法理がありません。一方で、著作権法第30条の4があります。

 (著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

著作物について著作権法上適法な利用が認められる様々な例外事由の1つとして位置づけられますが、著作権法第30条の4は、テクノロジーを通じて、様々なコンテンツの価値を拡げていくための重要な規定です。

この著作権法第30条の4について、特にAIとの関係での位置づけ・整理としては、次のような整理をしています。

まず、AIに関しては、AIプロダクト自体の開発・学習段階と、実装された学習データやデータアセットとしてのAIに対するプロンプト入力による生成・利用(アウトプット)段階とで、全く異なる利用意図・利用行為であるものと整理しています。

出典:文化庁|AIと著作権 Ⅱ ―解説・「AIと著作権に関する考え方について」―

そこで、ここからAI開発・学習段階の議論と、生成・利用段階の議論を分けて解説していきます。

AI開発・学習段階におけるインプット等

開発・学習段階では、社会一般に存在する様々なコンテンツやクリエイティブを学習用のデータセットとして収集し、学習用のプログラムにインプットします。そして、最終的に一通りパラメータの調整やアウトプットに対するフィードバックがされた後、学習済みモデルが出来上がります。

このプロセスにおいて、学習の元となるコンテンツなどを複製したり、あるいは学習用のデータセットとしての集合体をAIプロダクトとして使用したりできるようにすると、公衆送信することになります。形式上、コンテンツの著作者の許諾なく行われると、複製権や公衆送信権の侵害となり得ます。

ここで著作権法第30条の4の「享受を目的としない利用しない行為」という考え方が重要になります。つまり、著作物をAI学習のために複製する行為が、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としないこと。AIの学習自体が目的であり、著作物の内容を人間が理解したり、楽しんだりすることを目的としないなら著作権の侵害には当たらないとされています。

「享受」を目的とした行為とは、著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為。例えば、文章なら「読むこと」、音楽・映画なら「鑑賞する」、プログラムなら「実行する」ことが享受になります。

  • AI学習用データセット構築のために、著作物を含むデータを収集・加工する場合
  • 作成した学習用データセットを学習用プログラムに入力する際に、著作物を複製する場合
  • 基盤モデル作成に向けた事前学習のために、著作物を複製する場合
  • 既存の学習済みモデルに対する追加的な学習のために、著作物を複製する場合

これらのケースでは、AI学習という目的のために著作物が利用されており、著作物に表現された思想又は感情を人間が享受することを目的としていないため、「非享受目的」の利用に該当すると考えられています。

しかし、以下のようなケースは「享受目的」が併存すると判断され、著作権法第30条の4の適用はなく、権利者の許諾が必要となる可能性があります。

  • AI学習に際して、意図的に著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行う場合
  • 既存の著作物の類似物(創作的表現が共通したもの)を生成させることを目的としたAI学習を行う場合
  • 特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとしたAI学習の場合で、学習データの創作的表現(その全部又は一部)を出力させることを目的とする場合。
  • AI学習用のデータセットとして、有償で提供されているデータベース著作物を、AI学習のために無許諾で複製等する場合。
  • 情報解析用に将来販売されると推認されるデータベースの著作物を、AI学習のために無許諾で複製等する場合も同様
  • 海賊版サイト等の違法にアップロードされた著作物をAI学習に利用する場合

AIの開発・学習段階における著作物の利用については、著作権法第30条の4の解釈が問題となります。AI技術の進化は目覚ましく、今後、新たな法的課題が生じる可能性も考えられます。そのため、AI開発者は常に最新の法的解釈を把握し、著作権侵害のリスクを十分に検討する必要があります。

「享受」を目的とした利用であれば著作権者の許可が必要

享受を目的としたAI開発・学習段階の著作物の利用には、著作権者の許諾が必要です。

また、非享受目的と享受目的が併存する利用行為、非享受目的が主たる行為であったとしても享受目的が付随している利用行為についても、著作権者の許諾が必要だと考えられています。

例えば、有名なアニメーションに類似する画像を一般公開する目的でAIに読み込ませて学習させた場合、著作権者の許諾がなければ、著作権侵害を理由に法的責任を追及される可能性が高いといえます。

享受する目的が併存している場合は

検索拡張生成(RAG:Retrieval-Augmented Generation)と呼ばれる、生成AIへの入力に用いるデータの収集等等については、著作権法第30条の4が適用されない場合でも、著作権法第47条の5の要件を満たす限りで、権利者の許諾なく著作物を利用可能な場合があります。

これは、インターネット検索エンジンで検索結果とともに、リンク先のウェブページから所在地情報などを数行程度表示するなど、軽微な利用に限られます。また、所在地検索等の結果提供に「付随して」行われるものであることも必要であり、これらの要件を満たさない場合の利用には著作権者の許諾を得る必要があります。

AI生成・利用段階におけるアウトプット

生成利用段階においては、開発・学習段階において学習済みモデルをインプットした上で、ユーザーがプログラムにプロンプトを入力してAIプログラムから生成物を得るというフローになります。

ユーザーがプロンプト入力をしてAIによる生成物が出力されるまでのプロセスでは、学習済みのAIモデルを含むプロダクトから、プロンプト入力によるAI生成物、が既存の著作物と類似し、かつ依拠性が認められる場合、著作権侵害となる可能性があります。

AIによる生成物と原著作物の類似性・依拠性の判断基準

そこで、類似性と依拠性について、AIによる生成物の場合に特殊な判断枠組みがあるのかどうかという点については、類似性の判断と依拠性の判断とでそれぞれ区別して整理されています。

類似性とは、AI生成物と既存の著作物の表現上の本質的な特徴が共通していることを指します。これは、AIを利用しない創作物と同様に判断されます。例えば、AI生成物が既存の著作物と酷似している場合や、創作的表現の一部が共通している場合などが該当します

依拠性とは、AI生成物の作成者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことを指します。AI生成物の場合、AI利用者が既存の著作物を直接認識していなくても、AIの学習データにその著作物が含まれていた場合、依拠性が認められる可能性があります。

依拠性については、AIが学習済みデータに基づき、かつユーザーにより入力されたプロンプトの分析の結果出力されるものであって、学習にどのようなものが利用されているのかや、プロンプトによってどのような生成物ができるのかのアルゴリズムの設定が介在することから、ユーザー側の意図する創作的な意図との「距離感」がある点に特殊性があります。

こうした観点から、AI生成物の依拠性について、一例として次のような見解があります。

  • AI利用者が既存の著作物を認識していた場合:AI利用者が既存の著作物を参考にした上でAI生成物を生成しているので、既存の著作物に依拠していると考えられる
  • AI利用者は既存の著作物を認識していないが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合:このケースでは、客観的に既存の著作物へのアクセスがあったと認められるため、依拠性が推認されます。ただし、AIの開発・学習段階において、既存の著作物の創作的表現が生成・利用段階で出力されないような技術的措置がとられている場合は、依拠性がないと判断される可能性もあります。
    ※AI利用者のプロンプトの内容、フィードバックによる修正の回数などの創作的寄与や、原著作物の要素を除外する積極的な指示などによって依拠性の推認を妨げることも考えられます。
  • AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつAI学習用データに当該著作物も含まれない場合:このケースでは、AI生成物が既存の著作物と類似していても、偶然の一致とみなされ、依拠性は認められません。

現段階では、上記の様々な見解のうちどれが妥当するのかといった点については、特に見解の一致が出ているわけではなく、今後司法の場で争いとなった場合に、個別の事案に応じた裁判所の解釈適用の判断を待つ必要があると考えられます。

なお、依拠性の判断に関して、一例として次のような検討事項が考えられます。

  • AI利用者が既存の著作物を認識しており、AIを利用して類似したものを生成させた場合は依拠性が認められると考えられるのではないか
  • AI利用者が、何らか画像等のイメージを直接インプットしてAI生成物たる画像を出力した場合に、入力した際のイメージとの関係では依拠性が認められるのではないか
  • AIの開発・学習段階でどのように学習させたか、学習の元となった学習データの偏りや、パラメータ調整の際の学習の仕方によって、依拠性の考え方に違いは出るのか:特定の著作者の作品を集中的に学習させたAIの場合とそうでない場合の差異など

AIによる生成物の著作物性の判断基準

そもそもAIが生成したテキストや画像やイラストデータなどが著作物に該当するのか、という議論もあります。これには、そもそも著作物の概念が「人の思想や感情を創作的に表現したもの」という前提であるため、AI生成物が人の思想又は感情を表現するものではないのではないかという命題が背景にあります。

この点については、AIがユーザーである人間の指示や意図の入力によらずに、自律的に生成した物については、人の思想や感情が介在する余地がなく、著作物には該当しないと考えられます。

一方で、ユーザーがプロンプト入力し、一定の思想や感情、創作的な意図をもって創作的寄与をなして入力した情報に基づいてAIが生成したものに関しては、AIは単なる媒体・道具に過ぎないため、生成物は著作物に該当するといえます。この場合、著作物の主体となるのは、プロンプト入力をしたユーザー自身となります。

したがって、AI生成物が著作物にあたるかどうかは、AIユーザーのⓐ創作的意図という主観面と、ⓑ創作的寄与という客観面の両方によって判断されます。具体的な基準としては、AIの仕様や機能、プロンプト入力の具体性や深度(最終的にAI生成物としてユーザーが自分の意図したところと整合するものと容認した生成物を得るまでのプロセスにおいて、どの程度ユーザーがAIにフィードバックを重ねたか)といった点が考慮されると考えられます。

作風の保護

作風の保護については、現行の著作権法上、基本的にはアイデアの範疇にある限りにおいて保護されていません。そのため、作風等が類似するAI生成物が大量に表れることは、特にアイデアの類似性があるにとどまり、著作権侵害にはならないものと考えられます。

ただし、作風の類似性にとどまるとしても、それが少量の著作物の作品群による場合、創作的表現が共通する作品となっている場合もあります。そのため、そうした共通の創作的表現をAIによって出力させることを目的とした追加学習を行わせる場合には、開発・学習段階の議論において、著作物の思想又は感情の享受目的があると評価される可能性があります。

また、著作者の権利利益に配慮したプロダクト・サービスの設計として、AI事業者とクリエイターの間で追加学習のための学習データの提供を行う契約などを交わし、クリエイターにライセンス料などのリワードがいきわたるようにするといったことが考えられます。

声の保護

音声データについては、著作権法上、著作隣接権としての実演に該当する場合に保護されます。そのため、あくまで実演そのものが保護されるのであって、声そのものが著作権法上保護されるというわけではありません。

一方で、声優やアーティストなどの実演データをAIの学習に利用する場合に、当該声優らの実演に係る著作隣接権との関係で、これまで解説してきたような著作権法第30条の4などの議論が妥当することになります。

※声そのものが権利性のあるものとして保護されるパターンとしては、広告やCM等で声そのものが利用されている場合、声自体を独立の鑑賞対象となる商品としている場合などにパブリシティ権が認められる場合が挙げられます。

注目される海外での著作権侵害に関する判例

前記のとおり、生成AIの種類ごとに、海外での著作権侵害の事例を中心にご紹介してきました。特に注目される判例について、中国とアメリカカリフォルニア州でのケースについてポイントを解説していきます。

中国での事例

前記で述べた円谷プロダクションによる中国企業に対する、ウルトラマンのAI生成物に係る著作権侵害訴訟における判断が、画期的なものとして注目されます。

これは、上記で整理した議論の枠組みとしては、生成・利用段階における著作権侵害が問題となったケースとして位置づけられます。

判決では、特にAI生成物に係るプロダクトの仕様やシステムの内容自体に深く踏み込むことなく、生成物と原著作物との間の創作的表現が酷似しており、複製ないし翻案を構成するものであるとして著作権侵害を認めています。原典はこちら

アメリカ(カリフォルニア州)での事例

アメリカのカリフォルニア州では、アーティストらが画像生成AI「Stable Diffusion」を手掛けるStability AIや、Midjourneyほか4社に対し、集団訴訟が提起されていた事件で、今年2024年8月に、AI開発事業者側の責任について示唆的な内容を含む判決が下されました。

判決のポイントとしては、次の点です。すなわち、AIの学習データにおいて学習対象となった作品の中で、相当程度著作権で保護された作品に基づいて構成されており、プロンプト入力によって必然的にコピーや著作権法上保護された部分が出力される構造になっているのであれば、エンドユーザーによる著作権侵害を誘発することによって、AI開発事業者が誘発的な著作権侵害をすることになるということです。

まさに、AIの開発や学習段階でプリセットするデータアセットの内容やその学習プロセス、プログラムの設計の組み方、学習の元となる著作物をどのようにインプットするのか、追加学習でどのようにフィードバックを与えるかにより、エンドユーザーの著作権侵害が誘発されるリスクが異なります。

学習元の原著作物をどのように利用するかにより、著作権侵害を誘発するかが異なるという視点は、画期的なものと考えられます。
※争点は著作権侵害に関するもののほか、デジタルミレニアム著作権法や商標法など多岐に渡る論点がありますが、ここではAIの開発・学習段階における利用行為に関する論点に絞ってご紹介しています。
※著作権侵害の誘発性については、学習プロセスの問題なのか、AIのプログラム自体の設計や仕様上の不具合なのかについては、さらに継続審理とされています。
原典はこちら

著作権侵害をした場合

生成AIが著作権侵害に該当すると判断されると、著作権者から民事責任を追及されたり、刑事告訴されて刑事罰を科されたりする可能性があります。

ここでは、著作権侵害をしたときに追及される可能性がある法的責任について解説します。

差止請求を受ける

著作者、著作権者、出版権者、実演家、著作隣接権者は、著作権侵害をしている者や著作権侵害をするおそれがある者に対して、差止請求(著作権侵害の停止や予防)をすることが認められています(著作権法第112条第1項)。

これに合わせて、著作権者などは差止請求をする際に著作権侵害行為を組成したもの、著作権侵害行為によって作成されたもの、著作権侵害行為をおこなうに際して使用された機械・器具などの廃棄処分や、その他著作権侵害停止・予防に必要な請求をすることも可能です(著作権法第112条第2項)。

ですから、生成AIが著作権侵害に該当すると判断されると、著作権者などから生成AIによって作成したコンテンツの廃棄処分や販売・公表の停止、生成AIシステム自体の削除などを強いられる可能性があると考えられます。

また、生成AIによって作出したコンテンツを販売したりしている場合には、取引自体を停止しなければいけなくなるので、取引相手との間での法的措置に発展するリスクも生じかねません。

損害賠償請求または不当利得返還請求をされる

生成AIによる著作権侵害によって著作権者に損害が生じた場合、被害者である著作権者は自らに生じた損害を回復するために、不法行為に基づく損害賠償請求を実施します(民法第709条)。

本来、不法行為に基づく損害賠償請求をする際、被害者側は損害額についての立証責任を負います。

もっとも、著作権侵害には損害額の推定規定が置かれており、不法行為に基づく損害賠償請求をおこなう被害者側の立証負担が大幅に軽減されています(著作権法第114条)。

生成AIによって著作権侵害をしてしまった場合には、ざっくりというと、生成AIの利用・販売などによって得た金銭相当額について賠償義務が生じる可能性が高いといえるでしょう。

なお、事案の詳細次第では、被害者側が不法行為に基づく損害賠償請求ではなく、不当利得返還請求権を行使する可能性もあります(民法第703条民法第704条)。

名誉回復などの措置請求を受ける

著作者・実演家は、故意または過失によって著作者人格権・実演家人格権を侵害した者に対して、著作者・実演家であることを確保したり、訂正その他名誉・声望を回復するための適当な措置を請求することが認められています(著作権法第115条)。

ですから、生成AIによって著作権侵害に及んでしまった場合、被害者側から名誉回復措置請求を実施されて、謝罪広告や訂正広告の掲載などの措置を強いられる可能性があります。

刑事告訴を受ける可能性もある

著作権侵害には刑罰が定められており(著作権法第119条以下)、被害者側に刑事告訴されると、刑事責任を追及される可能性があります。

生成AIによる著作権侵害が刑事事件化した場合、以下のようなデメリットが生じます。

  • 逮捕・勾留によって起訴・不起訴の判断が下されるまでに、数日~数週間身柄拘束される可能性がある
  • 懲役刑が確定すると刑期を満了するまで社会生活に復帰できない
  • 罰金刑が確定すると高額の金銭納付義務を強いられる
  • 罰金刑、執行猶予付き判決、懲役刑のいずれであったとしても、「前科」によるデメリットに悩まされ続ける

なお、生成AIによる著作権侵害の事案では、「10年以下の懲役刑もしくは1,000万円以下の罰金刑(併科あり)」の範囲で法定刑が科される可能性があります(著作権法第119条第1項)。

また、法人代表者が著作権を侵害したようなケースでは、法人が3億円以下の罰金刑に処される可能性もあります(著作権法第124条)。

AIによる著作権侵害が起きた場合の罰則など

AIによる著作権侵害が起きた場合、AIプロダクト企業など著作物の使用者側はどのような責任を負うでしょうか。

刑事責任

個人の場合は刑事罰として10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、またはその両方が科されます。私的利用であっても、違法サイトであることを知りながらダウンロードしてデジタル録音・録画を行った場合は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方が科されます。

法人の場合:最高3億円以下という巨額の罰金が科せられるリスクがあります。

民事責任

民事責任については、侵害行為の停止・予防措置の請求と、損害賠償請求の大きく2つがあります。

前者のいわゆる差止請求においては、侵害者の故意・過失を問わないものとされており、侵害行為が客観的に認められると発生する責任となります。

さらに、実際に逸失利益などの損害が発生している場合には、不法行為として侵害者の故意又は過失が認められる場合に、損害賠償責任を負うことになります。

生成AIによる著作権侵害対策について弁護士に事前に相談するメリット

ここまでAIに著作権侵害に関する事項をまとめましたが、著作権の侵害を起こさないためにも、事前に法的見解に関しては弁護士に相談されるのが望ましいといえます。

下記では、弁護士への事前相談によって得られるメリットについて簡単にまとております。

法的リスクの適切な評価

弁護士に相談することで、生成AIの利用に伴う著作権侵害のリスクを適切に評価することができます。生成AIの技術は急速に進化しており、法律の解釈も複雑化しています。専門知識を持つ弁護士は、最新の法律動向や判例を踏まえて、具体的なケースにおけるリスクを分析し、適切なアドバイスを提供できます。

例えば、AIの学習データや生成物の利用が著作権法第30条の4の範囲内かどうかの判断や、生成物の著作権の帰属に関する問題など、専門的な見解が必要な場面で的確な助言を得られる可能性が高いでしょう。

予防対策の立案

著作権侵害を予防するための具体的な対策を立案できる可能性が高いのもメリットの一つです。例えば、AIの開発や利用に関する社内ガイドラインの作成、利用規約の整備、著作権者との適切な契約締結など、法的リスクを最小限に抑えるための方策を提案してもらえます。

また、生成AIの学習データの選定や、生成物の利用方法についても、法的観点からのアドバイスを受けることで、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。

迅速かつ適切な対応

著作権侵害の疑いが生じた場合、弁護士に相談することで迅速かつ適切な対応が可能になります。侵害の有無の判断、証拠の収集方法、交渉戦略の立案など、専門的な知識と経験に基づいてアドバイスを提供できます。

例えば、警告書の作成や交渉の進め方、訴訟提起の是非など、状況に応じた最適な対応策を提案してもらえます。これにより、問題の早期解決や被害の最小化が図れます。

契約書の適切な作成と確認

生成AIの開発や利用に関する契約書の作成や確認において、弁護士の専門知識は非常に有用です。著作権の帰属や利用許諾の範囲、責任の所在など、生成AIに特有の法的問題を適切に契約書に反映させることができます。また、既存の契約書のレビューを依頼することで、潜在的なリスクを洗い出し、必要な修正を加えることができます。これにより、将来的な紛争リスクの軽減につながります。

最新の法的動向への対応

生成AIに関する法律や規制は、技術の進歩に伴って急速に変化しています。弁護士に相談することで、最新の法改正や判例、ガイドラインなどの情報を得ることができます。例えば、著作権法の改正動向や、AIに関する新たな規制の動きなど、最新の法的環境に即した対応策を講じることができます。これにより、常に法令遵守を維持しつつ、生成AIを効果的に活用する方法を見出すことができます。

AIによる著作権侵害に対する3つの対策

AIプロダクトの開発や、ユーザーとして利用しクリエイティブ作成をする場合など、サービス提供者及びユーザー双方の視点で、著作権侵害にならないような対策が必要です。

いずれの場合も著作権法やルール整備に関するリーガルドキュメント作成では、弁護士が必要となりますし、ユーザー目線でもプロンプト入力において留意すべき点などをAIに詳しい弁護士からアドバイスを受けることが重要です。

利用規約によるルール整備

生成AIの利用規約は、ユーザーがサービスを利用する際のルールや、著作権侵害が発生した場合の責任範囲を明確にするための重要な手段です。

例えば、画像生成AI「DALL-E」や「MidJourney」の利用規約では、生成された画像の著作権がユーザーに帰属する場合と、AIサービス運営側が一定の権利を留保する場合が明記されています。これにより、ユーザーが生成物を商用利用する際の権利範囲や制限が明確になります。

実務上のポイントのポイントとしては、次のような点が挙げられます。

商用利用の可否

AI生成物の商用利用が可能か、利用規約に明記する。

対価還元(原著作者に対するライセンス料等の付与)

AIのデータセットに利用された著作物等がある場合に、クリエイターに対しての報酬が付与される。あるいは事後的に著作権侵害が発生した場合、運営者が負う責任の範囲を明確にしつつ一定の補償を定める。

利用者の注意喚起

データセットに基づく生成物が第三者の著作権を侵害するリスクについて警告文を設ける。

利用規約を整備することで、ユーザーとの間に発生しうるトラブルを未然に防ぎ、責任分担を明確化できます。

AI事業者ガイドライン整備

生成AIが引き起こす可能性のある著作権侵害リスクを業界全体で抑制するため、AI事業者間でのガイドライン整備が進められています。

2023年、欧州連合(EU)は「AI法(AI Act)」の枠組みの中で、生成AIに関する透明性と著作権保護のガイドラインを提示しました。この中では、AIモデルが学習に使用したデータセットの開示義務や、生成物にAI生成であることを明示する要件が含まれています。

実務上のポイントとしては、次のような点が挙げられます。

透明性の確保

AIが使用するデータセットの出所を開示し、著作権を侵害していないことを確認

生成物のマーク付け

AI生成物であることを示すマークや文言、注釈を義務化

パブリックドメインでないデータアセットへのアクセス制限

AIの学習データに利用するコンテンツ収集に際して、クローリングの際のファイル形式として、アクセス禁止の意思表示を設定することができるものをセットし、アクセスが遮断される措置をとる

プロンプト制限

生成AIのプロンプトにおけるアーキテクチャ的な制限として、類似性のあるデータを抽出させるような一定の文言や文章形式を含むものをダイアログボックスに入力するとエラー表示される

ガイドラインを遵守することで、法的リスクを軽減し、消費者やパートナー企業からの信頼を得ることが可能です。

AI開発事業者向けのチェックリストの活用

AI開発や運用時の法的リスクを軽減するために、チェックリストを活用することが効果的です。文化庁は、AI開発企業やAIを利用したコンテンツクリエイターなどに向けたチェックリストを公開しています。
参照:文化庁著作権課|AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス 令和6年7月31日

学習データの確認

・データセットに含まれる著作物のライセンス条件を精査する。

・特定のクリエイターに集中した学習データを組まないようにする。

・データとして収集する元のサイトが取り扱うデータアセットがパブリックドメインであるかを確認する

・クローリングの際の情報ポリシーの策定 など

アウトプットの確認

・生成物が既存の著作物と類似していないか検証するプロセスを導入。

・学習データをそのまま出力させないようなアルゴリズムの設計

・原著作物と類似するアウトプットがあった場合に、フィードバックとして権利侵害性があるものについて報告などを行ってもらえるように情報収集や提供を行う。追加学習を行い、リリース前にテスト・検証を徹底的に行う。

・プロンプト入力の際の留意点を周知する など

法的レビューの実施

AI生成物の利用計画について、弁護士や法務担当者によるレビューを受ける。

実務上のポイントとしては、チェックリストをAI開発プロジェクトの初期段階で活用し、リスクを早期に洗い出すことが重要です。また、定期的な更新と業界動向に応じた修正を行い、最新の法的基準に適合するように保守・点検を行うことも考えられます。

このようなチェックリストの活用により、法的リスクの軽減だけでなく、AI開発事業者、AIをソフトウェアに組み込む提供事業者、AIを利用したクリエイターなど幅広いステークホルダーを通じたコンプライアンス意識を向上させる効果も期待できます。

まとめ

AIと著作権に関する議論は、理論的に非常に整理が悩ましく、複雑な論点を含んでいます。とりわけ、AIの技術的な側面とも切り離すことができず、いかに著作権侵害のリスクを想定しつつ、AIのプロダクトの中に反映するかという点がリスク低減策として重要です。

AIのプロダクトやサービスを開発する際に、ルールベース、あるいはアーキテクチャ的に技術的な制限を設けるなどの手当をしなければ、刑事責任や民事責任で事業を行う上でクリティカルな影響が生じる恐れがあります。また、AIのプロダクトを利用する側も、プロンプト入力や、AIプロダクトの仕様や中身を理解し、著作権の基本的なルールを把握しておかないと、思わぬ落とし穴があります。

AIのプロダクトの開発やAIを利用したコンテンツや作品を生み出していく際には、AIに詳しい弁護士への相談やアドバイスが不可欠ですので、必ず弁護士に相談するようにしましょう。

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