商標権侵害となるケースや対処法|トラブルを防ぐための3つのポイント

専門家監修記事
「自社の商標権が侵害されている」「他社から訴えられた」など、商標権トラブルに巻き込まれてしまうと、企業価値や売上の低下につながる恐れがあります。この記事では、商標権侵害の判断基準・事例・対処法・トラブル予防策を解説します。
牛島総合法律事務所
猿倉 健司
監修記事
知的財産

市場に売られている商品のなかには、商標権を侵害するようなコピー商品なども出回っています。

もし自社の商標権が侵害された場合は、ブランド価値や売上の低下などのリスク、また他社から「商標権を侵害している」と訴えられた場合は、刑事罰の適用や損害金の発生などのリスクがあります。

 

商標権トラブルに巻き込まれてしまった場合は、さらなる被害拡大を防ぐためにも、速やかに適切な対応を取る必要があります。なお商標利用にあたっては、トラブル予防策などもいくつかあります。この記事で商標権侵害についての知識を深めましょう。

 

この記事では、商標権侵害の判断基準・侵害時のリスク・事例・対処法・トラブル予防策などを解説します。

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商標権侵害の判断基準

商標権には、登録された商標を独占的に使用する「専用権」と、登録された商標と類似範囲における第三者の使用を禁止排除できる「禁止権」とがあります。

 

したがって、第三者が同一の商標および同一の指定商品・指定サービスを使用した場合は商標権侵害となります。また、商標が同一の場合だけでなく「類似する場合」も同様です。

図でまとめると以下の通りです。

\商品・サービス

商標  \

同一

類似

非類似

同一

侵害

侵害

非侵害

類似

侵害

侵害

非侵害

非類似

非侵害

非侵害

非侵害

なお類似・非類似については、主に以下に挙げた「外観・称呼・観念」という観点から判断されます。

外観…商標の見た目のこと。例:「Single」と「SINGER」など。

称呼…商標の読み方のこと。例:「シエーン」と「紫苑」など。

観念…商標の意味・内容のこと。例:「東京っ子」と「江戸っ子」など。

商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならないとされていますが、個別具体的な判断は取引の実情(需要者層・業界の慣行・商品の属性等)等をも考慮に入れたうえで行われます。

 

具体的な取引事情を考慮し、たとえば称呼が類似していても、外観や観念が著しく異なる場合は全体として非類似と判断される場合もあります。取引の実情をもとに「商標使用によって出所が混同する可能性があるか」という点なども判断材料の一つとなります。

 

また、他人の登録商標を使用する場合でも、商品の出所表示としてあるいは自他商品を識別する標識として使用しなければ侵害とはならないという場合もあります。

商標権侵害した場合の5つのリスク

商標権を侵害してしまうと、企業にとっては以下のようなリスクがあります。ここでは、商標権を侵害した場合のリスクについて解説します。

・刑事罰のリスク

・第三者に発生した損害に対する賠償金支払いのリスク

・商標の利用中止・変更を求められるリスク(差止請求)

・信用回復措置の手続きを求められるというリスク

・自社の社会的信用の失墜というリスク

1:刑事罰のリスク

商標法では、商標権の侵害について刑事罰が定められており、侵害した場合は「10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金」が科される可能性があります(商標法第78条)。

 

また、「商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為」(たとえば、類似する商標を使用する場合等の行為)については、対しては、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処される可能性があります(商標法第78条の2)。

 

なお、法人についても罰則が定められており、従業員などが侵害行為を犯した場合は、従業員に対して上記罰則が科されるほか、法人に対して「3億円以下の罰金」が科される可能性もあります(商標法第82条)。

2:第三者に発生した損害に対する賠償金支払いリスク

商標権を侵害してしまうと、被侵害者側から賠償金を請求される可能性があります。賠償金額はケースによって異なりますが、場合によっては自社にとって多額の賠償金を請求され、経営そのものに大きな支障が生じることも考えられます。

 

なお、商標法第38条においては、損害額の推定規定が設けられています。また、侵害行為については過失が推定されます(商標法第39条、特許法第103条)。

3:商標の利用中止・変更を求められるリスク(差止請求)

賠償金だけでなく、被侵害者側から商標の利用中止や変更などを求められる可能性もあります(商標法第36条)。この場合、被侵害者側は、侵害行為を作成した物(たとえば商標のラベル等)の廃棄、侵害行為に供した設備(たとえばラベルを製造する機械等)の除去等も請求できる場合があるとされています。

 

仮に利用中止が請求された場合、これまでの販売取引は行うことができなくなるため、売上減少は避けられません。もし主要取引が停止した場合などは、大幅な売上減少となる恐れもあります。

4:信用回復措置の手続きを求められるリスク

上記のほかにも、信用回復措置などの対応が求められることもあり(商標法第39条、特許法第106条)、主な対応例としては「謝罪広告の掲載」などが挙げられます。信用回復措置手続きは、特に慎重な対応が必要です。

 

謝罪広告なども内容や表現を誤ってしまうことにより、SNS(ソーシャルメディア)その他ネット上で取り上げられ炎上する恐れもあるでしょう。また状況によっては、その対応に追われてしまって本業にかける時間が取られ、業務に支障が出てしまうこともあるでしょう。

5:自社の社会的信用の失墜というリスク

侵害事実が発覚することで、顧客離れが起きてしまったり、ブランド価値が低下してしまったりする恐れがあります。最悪の場合、商品が売れなくなってしまい、経営が困難になるようなケースも考えられます。

商標権侵害の事例

ここでは商標権侵害の事例について、業界ごとにいくつかピックアップして解説します。

不動産業界|使用差し止めおよび損害賠償500万円が認められた事例

土地や建物の売買を行うA社が、同業界のB社に対して、「自社の登録商標と類似する名称を用いて、看板・垂れ幕・チラシ・パンフレットを作成するなどしてマンション販売を行った」として、商標権侵害を理由に使用差し止めと損害賠償を請求したという事例です。

 

裁判所は、「A社B社ともに需要者は一致しており、B社の行為は出所の混同を招きかねないものである」とした上で商標権の侵害を認め、B社に対して、使用差し止めおよび損害賠償として約500万円を支払うよう命じました(参考文献:1999WLJPCA10210005)。

医療・製薬業界|使用差し止めおよび損害賠償約100万円が認められた事例

医薬品の製造販売を行うA社が、健康補助食品などの売買を行うB社に対して、「自社の登録商標と類似する名称を用いて、ダイエット効果をうたう健康補助食品を販売した」として、商標権侵害を理由に使用差し止めと損害賠償を請求したという事例です。

 

裁判所は、「健康補助食品であっても、『健康維持のために摂り入れる』 という点では薬剤などと並べて宣伝販売されている」などを理由に、「B社の行為は出所の混同を招くおそれがある」として商標権の侵害を認め、B社に対して、使用差し止めおよび損害賠償として約100万円を支払うよう命じました(参考文献:2006WLJPCA04189001)。

 

なお、本事案は、訴訟前に、A社からB社に対して警告を発した後に、「旧商標商品を販売した場合には違約金を支払い、新商標商品の販売を中止し、謝罪広告を掲載すること」を内容とする合意をしており、それにもかかわらず商品の販売を継続したという事情があります。

洋菓子業界|損害賠償約5,000万円が認められた事例

洋菓子の製造販売を行うA社が、同業界のB社に対して、「自社の登録商標と類似する名称を用いて、包装・店舗表示・広告を作成するなどして商品販売を行った」として、商標権侵害を理由に損害賠償等を請求したという事例です。

 

裁判所は、「商品の販売場所やサービスの提供場所、需要者の範囲などから総合的に考慮すると、B社の行為は出所の混同を招くおそれがある」として商標権の侵害を認め、B社に対して、損害賠償として約5,000万円を支払うよう命じました(参考文献:2013WLJPCA03079004)。

 

もっとも、本件では、B社が訴訟係属中に商号を変更したため、販売の差止めは認められませんでした。

商標権侵害が起きた場合の対処法

商標権侵害が起きた場合、ケースに応じて取るべき対応は異なります。ここでは、商標権侵害が起きた場合の対処法について、「自社の商標権が侵害されたケース」と「他社から商標権侵害を警告されたケース」それぞれの視点から解説します。

自社の商標権が侵害されたケース

自社の商標権が侵害された場合は、まずは侵害された事実を証明できる「証拠」を集めましょう。例として、「自社のコピー商品が販売されている」というケースであれば、コピー商品本体(レシートや外箱なども含む)・カタログ・コピー商品のWebサイトをプリントアウトしたものなどが挙げられます。

 

次に、販売元である相手方に対して、自社の商標内容・侵害事実・要求内容・返答期限などを記載した「警告書」を通知することが検討されます。通知後、相手が要求を拒否した場合や通知を無視した場合などは、裁判へと移行して侵害行為の差止や損害賠償などを請求することを検討することになります。

 

なお注意点として、商標権トラブルが発生した場合、対応内容によって解決までにかかる時間は異なります。法的手続きとしては、訴訟の他、仲裁等も考えられます。

裁判を利用する場合には、仮処分手続により迅速な対応を求める必要がある場合も多いことから、できるだけ早く弁護士に相談する等して手を講じておく必要があるでしょう。

 

その他、「なるべく手間をかけずに早期解決したい」という方は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、警告書作成や交渉・訴訟対応の代理など、トラブル対応のほとんどを任せることができます。

他社から商標権侵害を警告されたケース

他社から商標権侵害を訴える警告書が届いた場合、まずは「相手方の主張が正当なのか」を確認する必要があります。その際は、「相手方の商標権は有効なものであるのか」「自社のものと類似しているか」などの点を専門家の意見を求めながら確認する必要があります。

 

「主張内容に正当性がみられない」という場合は、「要求に応じるだけの十分な理由がない」ことを書面にて回答します。回答後に、話し合いでの解決が難しければ、裁判へと移行することもありえます。

 

他方で、「主張内容に正当性がみられる」という場合は、商標変更や使用中止など、相手方の要求内容についても検討することになります。

ただし、高額すぎる損害賠償の請求がなされる等、対応できる範囲を超えた請求がなされる場合には、全面的に受け入れることはなく、必要な主張・反論を行うことが必要となります。

 

また、この場合にも、弁護士のサポートを受けることが必要となります。特に「自社に対して警告がなされた」というケースでは、自社の商標の問題について、専門的かつ法的な観点から冷静に判断しなければなりません。

商標権侵害を防ぐための3つのポイント

商標の取り扱いにあたっては、以下3つのポイントを押さえておくことで、トラブルにならないよう先手を打っておくことができます。ここでは、商標権侵害を防ぐためのポイントについて解説します。

・事前に商標調査する

・自社商標を登録する

・商標の利用許可を交わす際は契約書を作成する

事前に商標調査する

新商品の販売や新サービスの開始など、新しく商標を使用するような場合は、他社から商標権侵害を訴えられないよう「ほかに似たような商標が登録されていないか」について事前調査することが必要不可欠です。

 

既存の登録商標については、「特許情報プラットフォーム|J-Plat Pat」から調査することができます。ただし、もし似たような商標が見つかったとしても、商標権侵害となるかどうかを判断するには高度な知識と専門的な知見が必要となるため、判断にあたっては外部の専門家に依頼する必要があるでしょう。

 

特に、知的財産権に関する案件に注力しており商標法に詳しい弁護士であれば、過去の判例なども参考にしながらケースに応じた適切なアドバイスが望めます。「自分だけでは判断が難しい」というような場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

自社商標を登録する

自社の商標と似たものがないことが判明した場合は、速やかに商標登録を行うべきでしょう。

 

商標登録は早い者勝ちになりますので、早い段階で登録することが重要です。商標登録しないままでいると、他社が同じような商標を使用したとしても、原則として使用の中止を求めることは原則できません。さらに、先に他社が商標登録してしまった場合は、自社が商標権侵害を理由に訴えられるおそれもあります。

商標の利用許可を合意する場合は必ず契約書を作成する

すでに登録済みの商標であっても、商標権者から許可を得た場合は、第三者でも利用することができます。ただし利用許可について合意する際には、必ず契約書を作成しておきましょう。契約書がない場合、利用権の範囲や利用条件等があいまいになってしまいトラブルとなる恐れがあります。

 

なお、契約書作成にあたっては、利用範囲・使用料・有効期限など、記載条項を漏れなく記載しなければなりません。問題なく利用許諾を得たいという場合には、弁護士に契約書の作成やサポートを依頼することになります。

まとめ

企業にかかるリスクを少しでも避けるためにも、商標権トラブルに巻き込まれないよう十分な配慮が必要です。ただし、なかには商標権を「侵害しているのかどうか」判断が難しい場合もあるほか、トラブル時の対応が上手く進められないということも考えられます。

 

自社のみでの対応に不安がある場合にはば、早い段階で弁護士に相談することが望ましいと言えます。場合によっては裁判に至る前に解決できる可能性もあります。まずは相談してみましょう。

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