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企業法務の用語集
特別取締役とは、取締役会の決議事項のうち「重要な財産の処分・譲受け」と「多額の借財」を、あらかじめ選定された3人以上の取締役で機動的に決議するための制度です。取締役の人数が多い会社でも、資産の売買や借入れを急ぐ場面で全取締役を集めずに意思決定できます。
取締役会設置会社では、重要な財産の処分・譲受けや多額の借財を取締役へ委任できず、原則として取締役会で決議します。特別取締役制度を導入すると、この2事項に限って、選定された少人数の取締役による決議が可能になります。
特別取締役は、株主総会で選任される別種の役員ではありません。すでに在任している取締役の中から取締役会が選定します。「特別取締役会」と呼ばれることもありますが、法律上は独立した機関ではなく、特別取締役による取締役会決議です。
会社法373条1項により、次の要件を満たす取締役会設置会社が利用できます。
選定する特別取締役は3人以上必要です。ただし、会社に社外取締役が1人以上いれば足り、社外取締役を特別取締役に選ぶことまでは条文上求められていません。
監査等委員会設置会社も一定の場合は利用できますが、会社法399条の13第5項による委任をしている場合や、同条6項の定款規定を置いている場合は対象外です。機関設計によって結論が変わるため、導入前に定款と登記を確認します。
特別取締役に任せられるのは、会社法362条4項1号・2号に定める次の2事項です。
何が「重要」「多額」に当たるかについて、会社法は一律の金額を示していません。総資産、売上高、借入残高、取引の目的、会社の従来の取扱いなどを踏まえて判断します。取締役会規程で金額基準を置いていても、その基準だけで機械的に決まるとは限りません。
代表取締役の選定・解職、支配人その他の重要な使用人の選任・解任、支店など重要な組織の設置・変更・廃止、内部統制システムの整備などは、特別取締役だけでは決議できません。対象取引に利益相反取引の承認など別の決議事項が含まれるときも、それぞれ必要な手続きを切り分けます。
特別取締役による議決の定めを設け、在任取締役から3人以上を選定します。定款の定めは必須ではありません。選定対象、決議できる事項、招集手続き、情報共有の方法を取締役会規程に落とし込んでおくと、実際の運用で迷いにくくなります。
特別取締役による議決の定めがある旨、特別取締役の氏名、取締役のうち社外取締役である者についてはその旨が登記事項です。設置や人選の変更が生じた場合、原則として本店所在地で2週間以内に変更登記を申請します。取締役会議事録のほか、特別取締役の選定と就任承諾を証する書面などが必要です。
参考:法務省|特別取締役による議決の定めがある会社の登記記録例
議決に加われる特別取締役の過半数が出席し、出席した特別取締役の過半数で決議します。取締役会の決議により、これより高い割合を定めることも可能です。決議の経過と結果は議事録に残します。
特別取締役の互選で定めた者は、決議後、遅滞なく決議内容を他の取締役へ報告しなければなりません。迅速な判断を認める一方で、取締役会全体の監督機能を失わせないための手続きです。
取締役が多い会社では、急な資産取得や融資の実行期限までに通常の取締役会を開くことが難しい場合があります。特別取締役を選定しておけば、対象となる2事項について少人数で決議でき、取引機会を逃すリスクを抑えられます。
招集方法、資料の共有期限、決裁基準、議事録作成、他の取締役への報告を決めていないと、かえって手続きの確認に時間がかかります。導入時には、通常の取締役会で扱う案件との境界を取締役会規程や決裁規程に明記しておくべきです。
特別取締役だけで重要な取引を決められるからこそ、判断資料と報告内容を十分に残す必要があります。取引価格の妥当性、資金繰りへの影響、相手方との関係、利益相反の有無まで議事録や添付資料で追える状態にしておくと、後日の説明に耐えられます。
在任中の取締役であることが前提です。そのうえで、取締役会が3人以上を選定します。社内取締役か社外取締役か、常勤か非常勤かについて、特別取締役固有の制限はありません。
3人以上です。制度を導入できる会社自体には取締役6人以上という要件がありますが、6人全員を特別取締役にする必要はありません。機動性と案件を審査できる知識の両方を考えて人選します。
特別取締役は、限定された事項を少人数で決議するために取締役会が選定した取締役です。社外取締役は、会社や子会社との関係について会社法上の要件を満たす取締役を指します。制度の目的と資格要件が異なり、同じ人が両方に該当することもあります。
特別取締役制度を使えば、重要な財産の処分・譲受けと多額の借財を3人以上の特別取締役で決議できます。利用できる会社、決議事項、登記、事後報告には明確な要件があります。導入を急ぐより、通常の取締役会との役割分担と情報共有の手順を先に整えることが、制度を機能させる近道です。