中小企業における法務の役割とは?法務部門を設置しないリスクも解説

専門家監修記事
法務部門を設置していない中小企業は、さまざまな法的リスクを抱えてしまいます。本記事で法務部門の役割や設置のメリットなどを解説しているので、設置を検討してみてください。加えて、自社に最適な弁護士を探して、都度連携する重要性も解説します。
中村法律事務所
町田 侑太
監修記事
顧問契約

「自社に法務部がないけれど、このままで大丈夫だろうか?」とお悩みではありませんか?

中小企業においては、法務部門を設けるリソースがなく、総務や経理の担当者が法務業務を兼任しているケースも見られます。

しかし、昨今の複雑化するビジネス環境や法改正のスピードを踏まえると、専任で法務業務を行う法務部門がないことによるリスクは高いといえるでしょう。

そこで本記事では、法務部門の役割や法務部門を設置することのメリット、設置しない場合のリスクについてわかりやすく解説します。

法務部門を設ける場合のポイントにも触れているので、ぜひ参考にしてください。

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中小企業における法務部門の役割

企業法務とは、事業運営に関わるあらゆる法律業務を指す概念であり、その対象領域は多岐にわたります。

企業のコンプライアンス体制を強化し、法律や規制の遵守を徹底して企業の信頼性を高めるためにも、法務は重要な役割を担います。

ここでは、中小企業における法務部門の主な役割を、予防法務・戦略法務・臨床法務の3つに分けて解説します。

予防法務|想定されるリスクに備える

予防法務とは、紛争の発生を未然に防ぐことや、紛争が生じた際にリスクを最小限に抑えるために講じる法務業務を指します。

企業には多数の従業員が在籍しているだけでなく、外部とも多くの契約を締結しているため、契約違反や情報漏洩といったリスクが生じる可能性は否定できません。

これらのリスクに対して、事前に予防策を講じるとともに、適切な対応策を準備しておく必要があるのです。

なお、予防法務における主な業務としては、以下のものが挙げられます。

主な業務 内容
契約書チェック 契約締結前に契約書の内容を精査し、自社にとって不利となる可能性のある条項が含まれていないか、トラブル発生時に適切に対応できる条項が十分に盛り込まれているかを確認する。
社内規定の作成とチェック ・法律に抵触しないよう十分注意したうえで、社内規定を策定する。
・社内規定を法的な観点から確認・精査する。
知的財産権の保護 ・職務発明規程等を策定し、発明等により生じた権利を発明者ではなく会社に帰属させるとともに、発明者に対して同規程に基づく報奨金を付与する仕組みを整備する。
・第三者が所有する権利を利用する際には、必ず使用(実施)許諾契約を締結して適切な使用(実施)料を支払うといったルールを整備するなど、他者が保有する知的財産権を尊重し、トラブルを未然に防ぐ。
人事や労務管理のサポート ・法令に基づいた適切な人事、労務管理を実現するために、法的アドバイスを提供する。
・法改正が行われた際、社内規則や運用ルールの見直しをサポートする。
株主総会の対応 ・法令を遵守した株主総会の実施をサポートする。
・想定問答集を作成する。
​​​​​​​・議事録を作成し、必要な変更登記をする。

戦略法務|企業の経営戦略をサポート

戦略法務とは、企業の経営戦略を踏まえておこなう法務業務です。

単にリスクを回避するだけではなく、ビジネスの収益性を高めることを目指し、場合によってはあえてリスクを取る選択をするなど、「攻めの法務」ともいえる役割を担います。

戦略法務においては法律に関する専門知識だけでなく、ビジネス全般についての深い理解が必要です。

法務担当者であっても、経営全般の知識に加え、マーケティングやIT、財務会計など、さまざまな分野に関する知識などが求められます。

なお、戦略法務における主な業務には、以下のようなものがあります。

主な業務 内容
新規事業のサポート 新規事業の内容に違法性はないか、事業開始に必要な準備ができているか、どのようなトラブルが発生する可能性があるかなどを確認・検討する。
知的財産の活用のサポート 自社の持つブランド・サービス・技術などの知的財産を適切に評価して保護したうえで、ビジネスに効果的に活用する。
M&Aのサポート ・候補先の買収スキームを作成する。
・デューデリジェンスを実施する。
・契約書を作成する。
海外展開のサポート ・現地の法令を調査する。
・現地の競合他社を調査する。
・英文契約書を作成する。
・トラブルが発生した際、国外の弁護士とも連携をとりながら手続きを進める。

臨床法務|企業活動における法律トラブルに対応

臨床法務とは、訴訟やその他のトラブルが発生した際に対応する法務業務を指します。

臨床法務の担当者は、金銭的な損失や企業の信用への悪影響を軽減するために尽力します。

案件によっては、専門的な知識を有する外部の弁護士に解決を依頼することもあります。

なお、臨床法務の主な業務内容は、以下のとおりです。

主な業務 内容
取引先との契約トラブル ・相手方と交渉をおこない、トラブルの解決を目指す。
・必要に応じて訴訟やその他法的手続きを検討し、適切な対応をとる。
労務トラブル 従業員との労務トラブル(未払い残業代の請求、不当解雇、ハラスメント対応など)について、法的な観点から検討したうえで、適切に対応する。
顧客からのクレーム対応 経営陣と密に連携を取りながら、クレームに対する対応方針を精査し、企業にとって最適な解決策を見出す。
知的財産権の侵害対応 知的財産権に関する紛争やトラブルに対して、示談交渉や訴訟対応をおこない、事業活動に与える影響を最小化する。
行政処分や行政指導に対する対応 監督官庁の担当者とのコミュニケーションを円滑に行い、指摘された違反行為を早急に是正するためのサポートをする。
訴訟対応 発生した訴訟の内容や争点を正確に把握し、法的観点から適切な対応を実施する。

中小企業における法務部門の現状

そもそも、法務部門を設置している中小企業の割合はどれくらいなのでしょうか。

ここでは、経済産業省が中小企業を対象にしておこなった調査を参考に、法務部門の設置状況について見ていきましょう。

法務部門を設置している中小企業は全体の約1割

調査報告書によれば、回答があった73企業のうち、法務部門を設置している企業は9企業と、割合は12.3%にとどまりました。

法務部門を設置している企業

引用元:研究開発型中小企業の契約等に係る企業法務実態調査費用|経済産業省 中国経済産業局 産業技術連携化

また、法務部門を設置している9つの企業の法務部門の平均人員数は2.33人でした。

主な人員構成は「部課長レベル」という会社が多く、55.6%を占めています。

平均人員数

引用元:研究開発型中小企業の契約等に係る企業法務実態調査費用|経済産業省 中国経済産業局 産業技術連携化

設置しない理由は人手不足や商習慣

調査結果によると、法務部門を設置していない主な理由としては、以下2つが挙げられています。

  1. 経済的に余裕がなく間接部門に対する人員の手当が困難
  2. 知識・知見を有する人材の不足

昨今では、法務部門に限らず、企業全体として人員が不足しているのが現状です。

とくに人員不足に悩まされている中小企業では、製造部門や開発部門、営業部門へ人員手当が優先されがちなので、間接部門の人員手当は後回しにされやすいという事情もあります。

中小企業において法務部門がないことの主なリスク

大半の中小企業が法務部門を設置していなかったり、法務担当者がいなかったりするのが現状です。

こういった状況下では、さまざまなリスクが考えられます。

ここでは、主なリスクを5つ紹介します。

本来担当すべき役割に割ける時間が少なくなる

法務部がない企業では、契約書のチェックや法的トラブルの対応といった法務業務を、代表者や総務・経理担当者などが兼務しておこなっているケースが多いです。

このような場合、法務業務に費やした時間が、本来の業務に充てるべき時間を圧迫してしまいます。

たとえば、営業担当者が契約書の確認業務を兼務する場合、契約内容の精査に追われて営業活動に割ける時間は減少してしまうでしょう。

結果として、企業全体の業務効率や生産性に悪影響を及ぼすことが懸念されます。

法的なトラブルに見舞われやすくなり、トラブル対応も遅れがち

法律の専門知識を持たない社員が契約書の作成や確認をすると、記載した内容から生じるリスクを正確に把握することができません。

そのため、問題が見過ごされる可能性が高く、後になってトラブルになる可能性があるでしょう。

とくに多いのが、取引先から提示された契約書を詳細に確認しないまま押印してしまうケースです。

「相手が用意した契約書だから問題ないだろう」と安易に判断してしまうと、トラブルにつながるおそれがあります。

そして、いざトラブルが発生して契約書を見直した際、自社に不利な条項が含まれていたことに気づくという事例も少なくありません。

また、実際にトラブルが発生した場合でも、ノウハウを持った部門や担当者がいないと、適切な相談先が見つからず、対応が後手に回ってしまう可能性があります。

その結果、問題解決が遅れ、企業にとって大きな損失を被るだけでなく、取引先や顧客からの信用を損なうことにもつながってしまうのです。

法律に違反してしまうリスクがある

法律は頻繁に改正されるため、企業は自社に関連する法律の改正情報を定期的に確認し、必要に応じて業務内容や運用方法を見直す必要があります。

しかし、法務部門がない場合、法改正に関する情報収集や確認の担当者が明確に定められていないケースが多く、法改正に気づかないまま業務が進められてしまう可能性があります。

また、当初は法令に適合した運用であったとしても、法改正後に運用が違法とみなされる状態に変化してしまっていたケースも想定されます。

このように、法務部門がないことによって知らず知らずのうちに法令違反に陥り、企業の信用を損ねたり、監督官庁から行政指導や行政処分を受けたりするリスクが高まります。

知的財産権の侵害で、企業存続に関わる問題に発展することも

限られたリソースを投じて開発した製品やサービスが、他社の知的財産権を侵害していることが判明すると、単なる法的トラブルにとどまらず、企業の存続にまで関わる重大な問題に発展することがあります。

とくに、中小企業では知的財産権の侵害が発覚することで賠償金や訴訟費用が膨らむと、営業活動やブランドイメージの信頼性に大きなダメージを与えかねません。

その結果、経営の再建や事業継続が困難になる場合もあります。

このような事態を避けるためには、事前に知的財産権を適切に管理し、リスクを最小限に抑えるための対策が欠かせません。

「攻めの法務」によって企業価値を向上させる機会が失われる可能性がある

企業法務には、守りの法務のほか「攻めの法務」の役割もあります。

攻めの法務とは、企業が積極的に成長を目指し、業績の向上を実現するために、法律面から企業戦略をサポートする業務を指します。

たとえば、新規事業の立ち上げや海外進出、M&A(企業の合併・買収)など、企業の戦略的な活動に対して法的な支援を提供します。

法務担当者が不足している場合、企業は競争力を高めるための法的アドバイスをもらうことができません。

その結果、攻めの法務としての役割を十分に果たせず、企業価値を向上させる機会が失われてしまう可能性があるのです

中小企業で法務部門を設ける場合のポイント

法務部門を設置しないリスクを踏まえると、中小企業であってもできれば法務部門を設置すべきです。

ただ、法務部門を設ける場合には注意すべきポイントがあるので、しっかりとおさえておきましょう。

必ず弁護士と連携する

法務部門を設置する場合でも、弁護士との連携が欠かせません。

とくに、法的サポートが必要な機会が多い場合は、顧問弁護士をつけるべきです。

顧問弁護士をつけない場合でも、必要なときにすぐ相談できる弁護士を事前に見つけておくことが重要です。

弁護士に相談できるのは、必ずしも訴訟に関連する問題だけではありません。

たとえば、取引先との契約締結において疑義が生じた場合、契約条項の適切な解釈やリスク分析を依頼することも可能です。

会社がどこまで法務業務を内製化し、どこから弁護士に外注するのかは、会社の方針やリソースに応じて異なるものの、万が一のトラブルに迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。

弁護士は早めに探しておく

現状、企業法務について相談できる弁護士がいない場合、まずは弁護士を探すところから始めなければなりません。

弁護士が見つかれば、報酬額や契約内容を調整して最終的に委任するかどうかを決めます。

ただ、条件が合わない場合には新たに弁護士を探すことになるので、弁護士が決まるまでにかなりの時間がかかってしまうおそれもあります。

急いで弁護士に相談したい事案がある場合、都度相談する弁護士を探していたのでは遅いでしょう。

事前に相談できる弁護士を見つけておくことが大切です。

なお、弁護士を探す際は、「企業法務弁護士ナビ」を活用するのがおすすめです。

企業法務弁護士ナビでは、企業法務分野を得意とする弁護士が多数掲載されています。

会社の所在地や会社の業種を入力して簡単に検索できるので、会社のニーズに応じた弁護士を探しやすいでしょう。

コストをかけても社内教育や社内研修を活用する

法務部門を設置したあとは、法務部門が主体となり、専門的な分野に関する社内教育や社内研修を実施しましょう。

法務部門を設置したうえで、担当者が一定の基礎知識を身につけることで、日々の業務がスムーズに進行します。

たとえば「契約は口頭でも成立する」「公序良俗に反する契約は無効」といった基礎知識に加えて、事業に関連する分野の基礎的な法律知識を備えておくのが理想的です。

社内教育や社内研修に多少のコストをかけたとしても、法務部に相談する頻度を減らすことにもつながるので、長期的にはコスト削減にも役立つでしょう。

さいごに|中小企業の法務は弁護士との連携が大切

中小企業には、法務部門を設置するリソースがないことも珍しくありません。

しかし、法的トラブルへの対応に不備があると、企業の存続を揺るがす事態につながってしまうおそれがあります。

法務部門を設置しない場合でも、弁護士を積極的に活用するようにしましょう。

また、法務部門を設置した場合でも、外部の弁護士と適切に連携することが重要です。

重大なトラブルへの対応だけでなく、契約書や社内規定をチェックしてもらうことで、安心して日々の業務に取り組めるでしょう。

いずれにせよ、中小企業は弁護士との連携が非常に大切です。

継続的にサポートしてもらうためにも、日頃から弁護士と良好な関係を築いておきましょう。

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