
海外企業と取引する際は英文契約書が交わされます。英文契約書は「英語で記載されている」という点以外にも、記載すべき内容や適用される法体系など、さまざまな点で和文契約書と異なります。作成にあたっては、英文契約書の特徴について把握しておくべきでしょう。
この記事では英文契約書の特徴や作成時の注意点、構成や雛形などを解説します。
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英文契約書と和文契約書はこんなにも違う!
英文契約書と和文契約書は、以下のような点で特徴が異なります。
規定内容が細かくボリュームが大きい
和文契約書では、「規定されていない事項については双方の協議によって定める」などと記載して、後日協議とするケースも多くあります。また条数も比較的少なめで、数ページで完結する契約書も珍しくありません。
一方英文契約書では、取引条件の詳細まで記載するのが通常です。条数も多く、数十ページに及ぶ契約書も珍しくありません。また多くの場合、第1条に定義条項が設けられているという点も特徴的です。
契約書内容が重視され、口頭でのやり取りは重視されない
和文契約書では、ドイツやフランスなどで発展した「大陸法」的な観点で作成される場合が多いと思われます。取引については契約書だけでなく運用面も判断のポイントとなります。そのため、契約書の内容は簡素な場合も多く、解釈や運用により対応するというケースも少なくありません。
他方、英文契約書では、「英米法」的な観点で作成されることがほとんどです。取引においては「契約書ではどのように記載されているか」という点が最重要ポイントとなりますので、契約書の内容は詳細かつ網羅的になる傾向があります。
英文契約書を作成する際の注意点
英文契約書の作成にあたっては、いくつかの注意点があります。
「契約違反・債務不履行」は必ず取り決める
英米法が適用される英文契約書では、「台風の影響で納期が遅れてしまった」など、たとえ故意や過失のない場合の契約違反であっても責任が生じる可能性があります。契約書作成にあたっては、相手方と余計なトラブルを避けるためにも、不可抗力にあたる事象を取り決めた上で免責する旨を記載しておく必要があります。
また和文契約書の場合、債務不履行などがあると、履行請求・損害賠償請求・契約解除のいずれかで対応するのが通常です。ただし英文契約書においては、重大な違反を犯した場合を除いて損害賠償にて対応するのが通常で、契約解除などは原則できません。万が一の場合に備えて、契約の解除事由についても取り決めておくべきでしょう。
合意内容を漏れなく記載する
英文契約書では書面重視の考えが適用される傾向にあるため、互いの合意内容について正確に記載しなければなりません。また交渉すべき重要事項がある場合などは、事前に書き出して整理するなどして漏れがないよう注意しましょう。
なお、必ずしも「すべての合意内容を記載しなければならない」というわけではないため、契約内容に応じて「記載する必要がない事項はあるか」なども判断する必要があります。
あいまいな表現は避ける
複数の解釈が可能な表現を用いるとトラブルの原因となるため、意味が一義的に伝わるような表現を用いなければなりません。
例として「法的義務(~しなければならない)」を説明する場合、選択肢として挙がる単語としてはShall・Must・Willなどがあります。ただしMustは一般的義務を示す際にも用いられる上、Willは意味や程度があいまいに受け取れることなどから、英文契約書においてはShallが適切とされています。作成時は、使用する単語にも注意しましょう。
英文契約書での用語を理解する
英文契約書では、特有の言い回しや専門用語が用いられるため、作成時は適切な使い方を理解しておく必要があります。英文契約書でよく用いられる表現や用語は「英文契約書によくある英語表現」にて後述します。
英文契約書の構成と雛形
英文契約書は以下のような形式で作成するのが通常です。
タイトル
タイトルについては明確な規定はなく、タイトルの内容によって法的効果に直ちに影響することもありません。したがって、単に「Agreement(契約書)」とすることも可能です。
ただし余計な混乱を避けるためにも、売買契約書であれば「Sales Agreement」、製造委託契約であれば「Manufacturing Agreement」など、契約書内容に則したものにするべきでしょう。
頭書
頭書では、契約締結日・契約当事者・住所・設立準拠法などを記載します。
前文
前文では、契約締結に至る背景や目的などを記載します。
定義条項
英文契約書では、本文のはじめに定義条項を記載するのが通常です。定義条項では、契約書内で用いる用語の定義について記載します。
本文・一般条項
契約の運用内容や紛争時の対応といった、双方の合意内容について記載します。また一般条項はさまざまな種類に分類され、ここでは一部をピックアップして解説します。
・通知条項 ・完全合意条項 ・分離/可分性条項 ・譲渡禁止条項 ・権利非放棄条項 |
通知条項
通知条項では、重要事項の変更など相手先へ通知が必要な場合にスムーズに行えるよう、通知先・通知方法・効力の発生時期などについて記載します。それぞれの記載内容としては以下の通りです。
・通知先…本社所在地・代表取締役宛など ・通知方法…手渡し・FAX・国際宅配便業者など ・効力の発生時期…配達記録日または「発送から○日後に到着したとみなす」など |
完全合意条項
完全合意条項では、「本契約書は最終的な合意内容を示すものであり、それ以外のやり取りで交わした合意による効力は消滅する」という旨を記載します。
完全合意条項を記載しておくことで、「契約書では保証対象外となっているが、保証対象になるとの口頭合意を取っている」といった、「言った言わない」などのトラブルを防止できます。
分離/可分性条項
分離/可分性条項では、「契約の一部条項が無効になったとしても、その他条項については有効なまま影響は受けない」という旨を記載します。
分離/可分性条項を記載しておくことで、「契約時にあえて無効となるような条項を記載しておき、不都合が生じた際に契約自体を無効化される」などの事態を防止できます。
譲渡禁止条項
譲渡禁止条項では、「相手方の事前承諾なく、契約上の権利義務や地位などを譲渡することを禁止する」という旨を記載します。
譲渡禁止条項を記載しておくことで、「知らない間に契約先が変わっていた」「自社の営業秘密がライバル企業に知られた」などのトラブルを防止できます。
権利非放棄条項
権利非放棄条項では、「契約に基づく権利を行使しなかったことを捉えて、当該権利を放棄したとは判断されない」という旨を記載します。
権利非放棄条項を記載しておくことで、「契約不履行を一度見逃したことを理由に、今後一切の解除権行使ができなくなる」という事態を回避できます。
末尾文言
契約書末尾に、以下のような締めとなる文章を記載します。
例:IN WITNESS WHEREOF, the parties have caused their authorized representatives to execute this Agreement as of the date first above written. (本書内容の証として、両社はそれぞれ権限をもつ代表者をして、上記記載日に本契約書に署名させた) |
署名
署名欄には以下の事項を記載します。
・署名(By) ・名前(Name) ・役職(Title) ・日付(Date) ・場所(Place) |
署名(By)
Byと書かれた欄には、手書きで自分の名前を記載します。なお記載時は、漢字・英語どちらでも可能です。
名前(Name)
Nameと書かれた欄には、ローマ字で自分の名前を記載します。なお記載時は「名前・名字」の順に記し、手書きでなくても可能です。
また、なかには以下のように注意書きがされている場合もあり、そのような場合は注意内容に則る必要があります。
・Print Name、Printed Name、Please Print…「一文字ずつはっきりと書く」 (例:アシロ 太郎…Taro Asiro) ・Block Capitals…「大文字で書く」 (例:アシロ 太郎…TARO ASIRO) |
役職(Title)
Titleと書かれた欄には、自分の役職を記載します。国によって役職を示す言葉は異なりますが、基本的に代表取締役であればPresidentと記載すれば問題ないでしょう。
日付(Date)
Dateと書かれた欄には、署名した日付を記載します。なお記載時は、「アメリカ英語とイギリス英語のどちらが適用されるのか」によって、年月日の記載順が異なるため注意しましょう。
・アメリカ英語…月/日/年 (例:2019年5月30日…May/30/2019) ・イギリス英語…日/月/年 (例:2019年5月30日…30/May/2019) |
場所(Place)
Placeと書かれた欄には、署名した場所を記載します。なお記載時は、「都市名・国名」の順に記載しましょう。
例:東京で署名する場合…Tokyo, Japan |
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英文契約書によくある英語表現
英文契約書では、しばしば特有の表現が用いられます。ここでは、よく用いられる英語表現の一部を解説します。
Whereas
契約に至る背景を説明する際に用いる用語です。
例:WHEREAS, X corporation desires to sell to Y corporation certain products hereinafter set forth. (X社はY社へ後述する製品を販売したいと考えている) |
Party/Parties
「契約当事者」を指す用語です。
例:NOW THEREFORE, in consideration of the mutual agreements contained herein, the parties hereto agree as follows: (よって、本契約における約束を約因とし、契約当事者は以下の通り合意する) |
Here ~
「本契約書」を指す用語で、Hereは「this Agreement」を指します。
例:NOW THEREFORE, in consideration of the mutual agreements contained herein, the parties hereto agree as follows: (よって、本契約書における約束を約因とし、契約当事者は以下の通り合意する) |
Made and entered into
「契約締結」を指す用語です。
例:This Agreement, is made and entered into this fifth day of May, 2019 by and between X corporation and Y corporation. (本契約は、2019年5月5日にX社とY社の間で締結される) |
Execute the Agreement
「本契約の署名」を指す用語です。
例:IN WITNESS WHEREOF, the parties have caused their authorized representatives to execute the Agreement as of the date first above written. (本書内容の証として、両社はそれぞれ権限をもつ代表者をして、上記記載日に本契約書に署名させた) |
英文契約書の作成・翻訳・チェックを依頼した際の費用
英文契約書については、弁護士にサポートを依頼することで手続きにかかる手間を短縮できます。弁護士には作成・翻訳・チェックなどが依頼できますが、依頼費用は事務所などによって異なります。
費用一例としては以下の通りですが、具体的な費用については直接事務所へ確認することをおすすめします。
依頼内容 |
弁護士費用(1ページあたりの費用) |
英文契約書のチェック |
1万~1万5,000円程度 |
英文契約書の修正 |
1万~1万5,000円程度 |
英文契約書の作成 |
1万5,000~2万円程度 |
英文契約書の翻訳 |
1万5,000~2万円程度 |
まとめ
英文契約書を交わす際は、相手方と解釈に行き違いが生じないよう、互いの合意内容を漏れなく盛り込まなければなりません。定義条項や一般条項は明確に記載し、契約違反や債務不履行などについても忘れずに取り決めておきましょう。
また契約書作成にあたっては、英文契約書ならではの言い回しなども理解しなければなりません。さらに、和文契約書と署名方法が異なる点なども注意が必要です。
英文契約書を作成するには、十分な英語力はもちろん、「契約内容に適した記載内容となっているか」「法的に問題はないか」などの点も押さえておく必要があります。不備なく作成できる自信がない方は、弁護士に依頼することで、契約書作成・チェック・修正・翻訳などのサポートが受けられます。少しでも不安がある方は、まずは相談してみましょう。
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