利用規約違反に対する制裁はどこまでOK?消費者契約法上の問題も解説

専門家監修記事
消費者向けのサービスの利用規約に違反したユーザーに対しては制裁を与えたいところですが、その際には消費者契約法の規定との関係に注意する必要があります。この記事では、利用規約違反に対する制裁はどこまで認められるかを中心に解説します。
富士パートナーズ法律事務所
福本直哉
監修記事
取引・契約

消費者向けのサービスを提供する企業にとっては、サービスの利用規約に違反するユーザーへの対処法は悩みの種でしょう。放置すれば一般ユーザーから苦情が出たり、嫌気がさしたユーザーが離れていってしまったりなど、サービスの運営に支障をきたしてしまいかねません。

そのため、利用規約違反のユーザーに対しては制裁措置を取りたいところですが、どのような制裁を行っても良いというわけではありません。利用規約違反のユーザーに対して制裁を行う際には、消費者契約法や民法の定型約款に関する規定との関係を踏まえて、バランスの取れた対応をとる必要があります。

この記事では、利用規約違反のユーザーに対する制裁がどこまで認められるかの点を中心に、関連する法律問題と併せて詳しく解説します。

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利用規約違反に対してどのような制裁であれば法律上認められるのか

ユーザーが利用規約に違反しているからといって、事業者側が制裁の内容を自由に決められるわけではありません

もし根拠がない恣意的な制裁をユーザーに与えてしまうと、逆に事業者側がユーザーから訴えられてしまうことになりかねません。そのため事業者側としては、ユーザーに対する制裁の可否および内容を、法的な観点から事前に慎重に検討する必要があります。

法律または利用規約上の根拠が必要

そもそも、利用規約に違反したユーザーに対して制裁を加えるためには、法律または利用規約上の根拠が必要です。たとえば、ユーザーとの契約解除(アカウント停止など)をするのであれば、民法の契約解除に関する規定または利用規約上の解除規定に則って行う必要があります。

また、違約金や損害賠償を請求する場合は、民法または利用規約上の損害賠償規定に基づいて認められる範囲内の請求に限られます。このように、利用規約違反のユーザーに対する制裁を行う際には、法律または利用規約上の根拠があるかどうかを慎重に確認する必要があります。

(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

引用元:民法第416条

消費者契約法の不当条項規制との関係に注意

利用規約に制裁に関する定めがあったとしても、どのような内容でも法的に有効となるわけではありません。事業者が個人(消費者)と締結する契約については、消費者契約法が適用されます。

詳しくは後述しますが、『消費者契約法』には、消費者契約における消費者の利益を一方的に害する条項など(不当条項)を無効とする規定が定められています。

もし利用規約上の制裁規定が、消費者契約法上の不当条項と判断される場合には、その規定は無効となってしまいます。その場合、無効な条項に基づく制裁は当然無効となってしまいますので、事業者が制裁を受けたユーザーに対して損害賠償責任を負担する可能性も生じます。

民法の定型約款に関する規定にも同様の規制あり

なお、2020年4月1日より施行された改正民法において新設された定型約款の規定上も、消費者契約法における不当条項規制と同様の規制が設けられています(民法548条の2第2項)。

(定型約款の合意)
第五百四十八条の二 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

引用元:民法第548条の2

利用規約中の不当条項に該当する規定については、ユーザーとの間の契約内容から除外されてしまうので注意しましょう。

利用規約違反への対応事例|スマホゲームの利用規約に違反したユーザーに対する制裁

利用規約違反のユーザーに対する対応にはどのようなパターンがあるかについて、スマホゲームのケースを例にとって、解説します。

アカウント利用停止

スマホゲームの利用規約違反のユーザーに対する制裁の代表例が、当該ユーザーのアカウントの利用停止です。

アカウント利用停止のパターンとしては、一定期間に限定して利用停止とするパターンと、永久に利用停止とするパターン(契約解除・垢BAN)の2つが考えられます。

このうち、アカウントの永久利用停止処分については、これまでユーザーが蓄積してきたプレイ履歴を抹消する非常に厳しい処分であるといえます。

【重要】利用規約違反によるアカウント永久停止措置について
ご利用いただきありがとうございます。
「バンドやろうぜ!」運営チームです。

2017年9月15日(金) 18:50~21:00の緊急メンテナンスにて、不具合の不正利用と思われる総数14件のアカウントの永久停止措置を実施いたしました。

措置件数 14件
※停止措置を行ったアカウントに対して、個別にご連絡はいたしておりません。

「バンドやろうぜ!」では、下記、利用規約に定められている通り、本アプリの利用により得られる結果を不正に操作する行為を禁止しております。

■利用規約
第14条(禁止事項)
1.お客様は、本アプリの利用にあたり、以下の各号の行為を行ってはならないものとします。
(9)単独又は他のお客様と共謀して、又は他のお客様の行為を利用することにより、本アプリの利用により得られる結果を不正に操作する行為

調査の結果このような不正行為を含む利用規約違反が確認された場合、アカウントの停止または削除といった厳しい措置を引き続き実施してまいります。
また、これらの規約違反に関わり、なんらかの被害にあわれた場合におきましても、アイテムなどの補てんはいたしておりません。

引き続き利用規約をお守りいただいた上で、「バンドやろうぜ!」をプレイしていただきますようお願い申し上げます。

引用元:【重要】利用規約違反によるアカウント永久停止措置について - 運営からのお知らせ | バンドやろうぜ! 

特に課金システムが採用されているスマホゲームの場合、課金ユーザーに対するアカウントの永久利用停止はユーザーへの不利益が大きいため、事業者としては慎重に判断する必要があります。

違約金・損害賠償の請求

ユーザーの利用規約違反によって、実際に事業者に損害が生じている場合には、違反ユーザーに対して違約金や損害賠償の請求をすることが考えられます。損害賠償については実損害ベースでの請求を行うことになりますが、違約金については、実際に生じた損害金額にかかわらず予定された違約金の額を請求することになります。

ただし違約金については、消費者契約法との関係で、利用規約の定めに対して制約が課される場合があるので注意が必要です。

詳しくは後述します。

消費者契約法上の不当条項規制|どのような利用規約の条項が無効となる?

利用規約における制裁規定の内容を決めるうえでもっとも注意しなければならないのが、消費者契約法上の不当条項規制との関係です。

事業者に都合の良い規定ばかりを利用規約に定めていると、その条項が消費者契約法違反で無効となり、事業者にとって予想外の結果が生じてしまうおそれがあります。そのため、利用規約の内容が消費者契約法の規定に沿っているかについて、事前にまたは定期的に確認する必要があるでしょう。

以下では、消費者契約法の規定に照らして、どのような利用規約上の条項が無効となるかについて解説します。

事業者の損害賠償の責任を免除する条項

消費者契約法8条1項は、事業者の債務不履行又は不法行為によりユーザーに損害が発生した場合に関する規定の取り扱いにつき、大要次のとおり規定しています。

事業者の債務不履行又は不法行為によりユーザーに生じた損害について、

  1. 事業者の責任を全部免除する内容の条項は無効
  2. 事業者側に故意または重過失がある場合に事業者の責任を一部免除する条項も無効

実は、上記に該当する条項は、多くの事業者が用いる利用規約の中で実際に用いられています。たとえば、「事業者の行為によってユーザーに生じた損害について、事業者は一切責任を負わない」といった内容がこれに該当します。

事業者側としては、何気なくこうした条項を利用規約に入れてしまいがちです。しかし、消費者契約法との関係を意識して、ルールに沿った形で修正すべきといえるでしょう。

消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効

消費者契約法9条は、消費者契約に基づき消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項(違約金条項)につき、大要以下のとおり規定しています。

  1. 契約解除に伴う損害賠償の額の予定または違約金は、事業者に生ずべき平均的な損害の額が上限となり、それを超える部分は無効
  1. 金銭債務の不履行に関する遅延損害金は年14.6%が上限であり、それを超える部分は無効

特に①については、不特定多数のユーザーを相手にする事業者にとって、一人のユーザーとの間で契約が解除されることによる影響がどの程度あるのかということをよく考える必要があります(通常は事業者側にほとんど影響はないものと思われます)。

そのため、よほど悪質な行為に対する場合を除いては、利用規約中の違約金条項は実質的に機能しない可能性が高いといえるでしょう。

信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項

消費者契約法10条は、すでに解説した同法8条および9条に規定される類型以外に、消費者の利益を一方的に害する内容の条項を広く対象として無効とする規定です。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

引用元:消費者契約法10条

信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項の例としては、以下のようなものが考えられます。

  • 事業者はその裁量により、いつでもユーザーのアカウントを停止できるという内容の規定
  • ユーザーによる利用規約違反の場合に、特に正当な理由なく事業者に無催告解除を認める規定
  • 事業者の証明責任を軽減し、または消費者の証明責任を過重する規定

消費者契約法10条による規制対象となる条項は幅広いため、弁護士による利用規約全般のレビューを通じて、問題になりそうな規定がないかチェックすることをおすすめします。

スマホゲームの利用規約上の不当条項が問題となった裁判例を紹介

消費者契約法の規定を踏まえずに作成された利用規約は、裁判例の中でも問題になっています。

その一例として、モバゲー利用規約差し止め訴訟(さいたま地判令和2年2月5日)の裁判例を紹介します。

参考:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/239/089239_hanrei.pdf

この事件では、消費者契約法上の適格消費者団体である「埼玉消費者被害をなくす会」が、「モバゲー」の運営会社である株式会社ディー・エヌ・エーに対して利用規約の使用差し止めを請求しました。さいたま地裁による判示の中では、利用規約中の複数の文言について、以下の理由から法的な問題があるとされました。

<裁判例中で問題になった文言>

①モバゲー会員規約の違反等について

「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。」という文言

②当社の責任

「本規約において当社の責任について規約していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。」

<問題視された理由>

・いずれも事業者の免責を規定している内容となっていることとの関係において、不当条項となる

・特に①については、損害賠償責任の全部の免除を認めるものであると解釈する余地があり、事業者は自己に有利な解釈に依拠して条項を運用していることがうかがわれる

消費者契約法との関係では、上記の問題となった文言のうち「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。」という文言に注目すべきでしょう。

当該文言は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たり、また、「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たるから、消費者契約法8条1項1号及び3号の各前段に該当するとして、当該契約条項の使用差し止めが認められました。

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

引用元:消費者契約法8条

このように、消費者契約法の規定を考慮に入れず利用規約を作成すると、事業者にとって大きな紛争リスクを抱えてしまうことになるので注意が必要です。

利用規約違反のユーザーに対する制裁を行う際、事業者が注意すべきことは?

これまで解説したところも踏まえたうえで、実際に事業者が利用規約違反のユーザーに対する制裁を実行する際、どのような点に注意すべきかについて解説します。

法令または利用規約上の根拠をよく確認する

まずは、これから行おうとする制裁について、法令または利用規約上の根拠があるかどうかをしっかり確認する必要があります。法令・利用規約に根拠のない制裁は違法・無効となり、事業者はユーザーに対して損害賠償責任を負担する可能性があります。

また、利用規約上の規定に基づいて制裁を行う場合には、当該規定が消費者契約法などの法令に違反していないかについても注意深く確認しましょう。

制裁は段階的に行う

ユーザーの違反行為の内容と、ユーザーに対して与える制裁の内容は釣り合っていなければなりません。

たとえば、軽微な違反行為に対していきなりアカウントの永久停止措置を行ったりすることは、違反行為に対する制裁が重すぎるために違法となる可能性があります。

そのため、よほど悪質な違反行為を除いては、制裁処分は段階的に行う方が無難といえます。

最初はユーザーに対して警告を行い、改善されないようであればアカウントの一時利用停止処分を行います。それでも改善の兆しが見えないようであれば、そこで初めてアカウントの永久利用停止・強制退会処分とするなどが考えられます。

他のユーザーに与える印象にも配慮

法律や利用規約に照らして認められる制裁措置であっても、実際にその制裁を下すかどうかを判断する際には、ほかのユーザーに与える印象も考慮した方が良いでしょう。

法律論だけで突き進んだ結果、他のユーザーに対して事業者の対応への違和感を与えてしまうと、ユーザー離れに繋がりかねません。

そのため、社内で経営的な視点からの検討を重ね、明確な方針をもって一貫性のある対応を取るべきでしょう。

利用規約違反のユーザーに対する制裁方針については弁護士に相談を

利用規約違反のユーザーに対する制裁をどのように行うかを考えるにあたっては、弁護士に相談をすれば有益なアドバイスを得ることができます。

弁護士に利用規約についての相談をすることには、以下のようなメリットがあります。

  1. 法律的な観点に照らして、利用規約に基づく処分を行うことが妥当かどうかのアドバイスを受けることができます。
  2. 利用規約の内容をチェックすることにより、消費者契約法における不当条項規制との関係をはじめとして、法律の内容との整合性を取ることができます。
  3. 処分を受けたユーザーから訴訟などの法的措置を取られた場合にも、確固とした法的根拠に基づいて適切な反論をすることが可能です。
  4. 経営上の判断は経営者(取締役)、法的な判断は弁護士という役割分担ができるため、経営者が自身の得意分野に注力できます。

特にこれまで利用規約の内容や運用方法について、法的な観点から十分に検討したことがなかったという場合には、一度弁護士に相談をして利用規約のレビューを受けることをおすすめします。

まとめ

利用規約違反のユーザーに対して事業者がどのように対応するかについては、消費者契約法などの法律も絡んでくるため、非常に判断が難しいといえます。法的な観点を十分に踏まえないままユーザーに制裁を加えてしまうと、後からユーザーから訴えられるなど、思いがけず紛争リスクを抱えてしまうことに繋がります。

そのため、利用規約違反のユーザーへの対処法については、弁護士に相談しながら検討することをおすすめします。

弁護士のチェックを受けながら利用規約違反のユーザーへの対応を進めれば、万が一後で紛争になった場合でも、適切かつスムーズに反論することが可能です。サービス内で問題行動を起こすユーザーに手を焼いている事業者の方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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