
近年、景品表示法違反による措置命令や課徴金納付命令の件数は増加傾向にあり、2023年度には過去最多の件数を記録しました。消費者庁の積極的な法執行により、企業にとって景品表示法への対応は避けて通れない重要な課題となっています。
本記事では、景品表示法の基本的な仕組みから最新の法改正内容まで、実務担当者が知っておくべき重要なポイントを体系的に解説します。法律の専門用語を可能な限りわかりやすく説明し、具体的な事例を交えながら、明日から実務で活用できる知識をお伝えします。
本記事のポイント
① 景品表示法の基本理解 |
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② 実務対応のノウハウ |
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③ 最新動向の把握 |
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景品表示法の概要と基本構造

まず、景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法。以下「景表法」とします。)の全体像と構造について解説していきます。
景品法の全体像
景表法は、消費者が商品・サービスを選択する際に重要な判断要素となる「表示」と「景品」について規制を行う法律です。
同法第1条では、法律の目的を以下のように定めています
この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類の提供及び不当な表示を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。
この目的規定から分かるように、景品表示法は単に事業者を規制するだけでなく、消費者の適切な商品選択を支援し、公正な市場競争を確保することを目指しています。
表示についての規制は、優良誤認表示規制、有利誤認表示規制、そしてその他不当表示規制の3つがあります。
3つ目の「その他不当表示規制」とは、上記2つには当てはまらなくても、消費者を特に誤解させやすいと判断された表示を個別に禁止するものです。
代表的な例として、「無果汁の清涼飲料水に関する表示」(果汁が入っていないのに果物の絵が描かれているなど)、「原産国に関する不当表示」、「おとり広告」(購入できない商品を広告に出すこと)などがあります。
一方、景品類の提供にも規制があります。
これは、過大な景品によって消費者の冷静な商品選択が妨げられるのを防ぐためのルールです。
具体的にどのようなものが景品にあたるのか、そして提供できる景品の金額の上限などは、内閣総理大臣が「告示」という形で細かく定めています。
例えば、抽選で景品が当たる「懸賞」や、購入者全員がもらえる「総付景品」について、それぞれ上限額が決められています。
景表法の主要な規制内容3つ
景表法で規制される主な内容3つは、次のとおりです。
1. 優良誤認表示の禁止(第5条第1号)商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示を禁止します。
典型例として以下が挙げられます。
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不実証広告表示
商品やサービスが実際に持つ効果を超えた表現を行うことで、特に実証的な根拠を欠く不実証広告表示があります。例えば、健康食品で「飲むだけで確実に痩せる」といった医学的根拠のない断定的な効果を謳ったり、化粧品で薬機法の範囲を超えた「シワが消える」「肌が若返る」といった表現を行うことが該当します。
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根拠のない「業界No.1」表示
客観的な調査データや信頼できる第三者機関による評価なしに、「売上No.1」「顧客満足度No.1」「品質No.1」などと表示することです。比較対象や調査方法、調査期間などが不明確な場合や、恣意的な条件設定により優位性を演出している場合が問題となります。
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品質に関する虚偽・誇大表示
商品の原材料、製造方法、認証・認定の有無などについて事実と異なる表示を行うことです。例えば、「国産」と表示しながら実際には海外製であったり、取得していない認証マークを使用したりすることが該当します。
2. 有利誤認表示の禁止(第5条第2号)
商品・サービスの価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると誤認される表示を禁止しています。
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不適切な二重価格表示
「通常価格」や「参考価格」として表示する価格に実際の販売実績がない場合や、市場価格と大きく乖離した価格を比較対象とする表示です。例えば、過去に数日しか販売していない高額な価格を「通常価格」として表示し、大幅な割引を演出することが問題となります。
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条件を明示しない「期間限定」表示
「期間限定セール」「今だけ特価」などと表示しながら、実際には同様の価格での販売が常態化している場合や、期間終了後も同じ条件で販売を継続する場合が該当します。消費者に「今買わないと損」という誤った緊急感を与える表示方法です。
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送料・手数料を含まない価格表示
商品価格のみを大きく表示し、実際の購入に必要な送料、手数料、税金などを小さく記載したり、別ページでしか確認できない状況にすることです。消費者が最終的に支払う総額を正確に把握できない表示方法が問題となります。
3. 過大な景品類の提供禁止(第4条)
一般消費者の適正な商品選択を阻害する恐れのある過大な景品類の提供を禁止します。
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懸賞による景品の限度額超過
抽選やクイズなどの懸賞企画において、景品表示法で定められた限度額を超える景品を提供することです。例えば、1,000円の商品購入者向けの懸賞で3万円の景品を提供する場合、限度額(2万円)を超過するため違反となります。
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総付景品の価格制限違反
購入者全員や先着順で提供する景品(総付景品)において、取引価額に対する景品価額の上限を超える場合です。例えば、500円の商品に300円相当の景品を付ける場合、限度額(200円)を超過するため問題となります。
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不当な顧客誘引を目的とした景品提供
商品・サービスの品質や価格ではなく、景品の魅力のみで消費者を誘引しようとする過度な景品提供です。消費者が本来の商品価値を適正に判断できなくなる状況を作り出すことが問題視されます。
違反時に起こりうること
景品表示法違反が認定されると、以下の法的措置が講じられる可能性があります。
1つ目が措置命令(第7条)です。
消費者庁長官は、違反行為の差し止めや再発防止策の実施、一般消費者への周知などを命じることができます。
具体例としては、次のとおりです。
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当該表示の差し止め
問題となった不当表示を直ちに停止し、ウェブサイト、広告、パンフレット等からの削除を求められます。既に配布された印刷物についても回収が命じられる場合があります。
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再発防止策の策定・実施
社内のチェック体制の構築、責任者の明確化、従業員への研修実施、表示に関する社内規程の策定など、同様の違反を繰り返さないための具体的な対策の実施が求められます。
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一般消費者への周知(新聞広告等による公表)
違反があったことと正しい情報を、新聞広告、ウェブサイト、店舗での掲示などを通じて消費者に周知することが命じられます。この公表により企業の信用が大きく損なわれる可能性があります。
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役員・従業員に対する法令遵守の指導
経営陣から現場担当者まで、景品表示法の内容と遵守の重要性について十分な教育と指導を行うことが求められます。定期的な研修の実施も含まれます。
2つ目は、課徴金納付命令(景表法第8条)です。
2016年4月に導入された制度で、一定の要件を満たす不当表示に対して、違反期間中の売上額の3%相当額の課徴金納付を命じます。
課徴金の算定基礎となる売上額は、対象商品・サービスの違反期間中(最長3年間)の売上高です。
ただし、以下の場合は課徴金が軽減または免除される場合があります。
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課徴金額が150万円未満の場合(景表法8条1項ただし書き)
算定された課徴金額が150万円に満たない場合は、課徴金納付命令は発出されません。これは中小企業や違反期間が短い事案での過度な負担を避けるための配慮です。
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違反を知らなかった場合で相当な注意を怠らなかった場合(同)
事業者が違反表示を行ったことを知らず、かつ知らなかったことについて相当な注意を怠らなかった場合は課徴金が免除されます。ただし、この要件の証明は困難で、適用例は限定的です。
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自主的な措置を講じた場合(減額)
違反行為の停止後、事業者が自ら課徴金対象行為に該当する事実を報告した場合は、課徴金額が50%軽減されます(景表法第9条)。ただし、適切な周知と迅速な対応が前提となります。また、自主的に消費者に対し自紙予定返金措置計画を作成し、消費者庁長官の認定を受けた上で、計画に従い返金の措置を講じた場合には、課徴金額又は違反事実の報告による減額した金額から、返金額分が減額されます(景表法第11条2項)。
3つ目は、刑事罰です。
景品表示法第46条から第52条では、罰則が規定されています。
主なものとして、次の規定が挙げられます。
- 措置命令違反:2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
- 違反調査等の妨害:1年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
- 自己の供給する商品・役務の優良誤認表示又は有利誤認表示:100万円以下の罰金
- 法人の両罰規定:3億円以下の罰金など
ただし、実務上刑事罰まで適用されるケースは限定的で、措置命令に従わない悪質な場合に限られています。

優良誤認表示に関する実務ポイント

次に、優良誤認表示に関して実務上ポイントとなる点を解説します。
優良誤認表示とは?
優良誤認表示は、景品表示法第5条第1号で以下のように定義されています
商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示
この定義から、優良誤認表示の成立要件は以下の通りです
1. 対象が「品質、規格その他の内容」であること
商品やサービスに対し、消費者の観点からみて購買判断をする際の要素となるものが対象となります。
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商品の性能、効果、効能
健康食品の健康効果、化粧品の美容効果、家電製品の機能性能など、消費者が期待する具体的な効果や性能を指します。等の他法令による規制との重複にも注意が必要です。
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サービスの内容、質
教育サービスの合格率や習得可能なスキル、宿泊施設のサービス水準、医療サービスの治療効果など、提供されるサービスの質的側面が含まれます。
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原材料、製造方法
「国産素材100%使用」「有機栽培」「無添加」「手作り」などの表示が該当します。原産地や製造プロセスに関する虚偽表示は消費者の商品選択に大きな影響を与えるため、厳格に規制されています。
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技術的仕様、安全性など
商品の耐久性、安全基準への適合、環境への配慮など、技術的な特徴や安全性に関する表示が含まれま薬機法す。特に、認証マークや規格適合の表示には客観的な根拠が必要です。
2. 「実際のもの」との乖離があること
表示内容と客観的事実の間に相違があることが要件となります。
また、景表法7条2項の観点から、表示の内容に含まれる事物を裏付ける実証的な根拠がないことも挙げられます。
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客観的事実との相違
表示内容が実際の商品・サービスの性能や品質と異なることです。例えば、実際には国内製造されていない商品を「日本製」と表示したり、効果の実証がない健康食品で断定的な効能を謳うことが該当します。
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合理的根拠の欠如
表示内容を裏付ける客観的で信頼できる根拠資料がない状態です。いわゆる不実証広告規制において、消費者庁の「不当表示の根拠となる情報の取り扱いについて」(平成15年10月28日)に基づき、事業者は表示の根拠となる資料の提出が求められます(以下「不実証広告ガイドライン」と表記。)。
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誇大な表現による誤解誘発
事実と完全に異なるわけではないが、表現方法により実際以上の効果や品質があると消費者に誤認させる場合です。例えば、一部の利用者にのみ見られた効果を「全員に効果」として表示することが該当します。
3. 「著しく優良である」と示していること
不当な顧客の誘引により消費者の商品選択を阻害する効果が生じる恐れがあることが要件とされます。
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一般消費者の商品選択に影響を与える程度の誤認
表示により消費者が「この商品を選ぼう」と判断するレベルの誤認を指します。軽微な表現の違いではなく、購買意欲を喚起するような重要な誤認が対象となります。
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軽微な相違は対象外
表示と実際の内容に多少の違いがあっても、消費者の商品選択に実質的な影響を与えない程度の相違は規制対象外です。ただし、「軽微」の判断は個別事案ごとに慎重に行われます。
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表示全体から受ける印象で判断
個別の文言だけでなく、広告全体の構成、写真、図表、色使いなども含めた総合的な印象で判断されます。「個人の感想です」等の打消し表示があっても、全体として誤認を与える場合は問題となります。
優良誤認表示の違反が問われやすい主な類型
実務上、以下の類型で優良誤認表示の問題が生じやすいと考えられます。
1. 効果・効能の過大表示商品やサービスが実際に持つ効果を超えた表現を行うケースです。
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科学的根拠が不十分な健康効果の標榜
健康食品や美容用品において、臨床試験や科学的データに基づかない健康効果を断定的に表示することです。「必ず痩せる」「確実に改善する」といった断定的表現は特に問題とされやすく、薬機法違反と合わせて処分されるケースも多く見られます。
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化粧品の効果に関する薬機法の範囲を超えた表示
化粧品は薬機法により56項目の効能効果の範囲が定められており、この範囲を超える「シワを消す」「肌年齢が若返る」といった表示は薬機法と景品表示法の両方で問題となります。
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教育サービスの成果に関する根拠のない断定的表現
「必ず合格」「100%スキルアップ」「全員が昇進」といった教育効果の断定的表示で、実際の実績データや合理的根拠がない場合が該当します。
2. 品質・グレードの虚偽表示
商品の品質や等級に関する事実と異なる表示を行うケースです。
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「最高級」「プレミアム」等の根拠のない表示
商品の品質や価格帯に客観的な根拠がないにも関わらず、最上級を意味する表現を使用することです。業界内での位置づけや価格比較、品質評価データなどの合理的根拠が必要となります。
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原産地や製造方法の虚偽表示
「国産」「手作り」「天然素材」等の表示で、実際の製造地や製造方法と異なる場合です。特に食品や工芸品では消費者の関心が高く、原産地証明や製造工程の記録による立証が求められます。
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認定・認証を受けていない商品での品質保証表示
ISO認証、有機JAS認定、各種の品質認証マークなどを取得していないにも関わらず、これらの権威性を示唆する表示を行うことです。第三者認証の有無は消費者の信頼に直結するため、厳格な管理が必要です。
3. 比較表示の不適切な実施
他の商品・サービスとの比較において問題のあるケースです。
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比較対象が不明確な「業界No.1」表示
「売上No.1」「顧客満足度No.1」「品質No.1」などの表示で、比較対象となる業界の範囲、調査期間、調査方法、調査機関が不明確な場合です。客観的で信頼できる第三者機関による調査データが必要となります。
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調査データの恣意的な解釈による優位性の主張
調査結果の一部のみを抜き出したり、有利な条件下でのみ成立する結果を一般化して表示することです。例えば、特定の地域や期間に限定した調査結果を全国や通年の実績として表示することが該当します。
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他社商品との不公正な比較
比較対象商品の選定が恣意的であったり、比較条件が公平でない場合です。価格帯や機能が大きく異なる商品との比較や、旧製品との比較を現行製品との比較のように表示することが問題となります。
4. 専門性・権威性の過大アピール
提供者の専門性や商品のb権威性を実際以上に表示するケースです:
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資格や経験の誇大表示
保有していない資格の表示、経験年数の水増し、専門分野の拡大解釈などが該当します。特に医療、法律、教育分野では資格の有無が信頼性に直結するため、正確な表示が求められます。
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第三者の推奨コメントの捏造
実在しない専門家の推奨コメントや、許可を得ていない著名人の推薦文を掲載することです。また、実際のコメント内容を改変して都合の良い部分のみを抜粋することも問題となります。
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「専門家推奨」等の根拠不明な表示
具体的な専門家名や推奨根拠を明示せずに、権威性を演出する表示です。「医師推奨」「専門家も認める」といった表現には、推奨者の実名、専門分野、推奨理由の明確化が必要です。
表示対策のポイント
優良誤認表示を防ぐための実務的な対策として、次のようなポイントを押さえることが重要です。
1. 合理的根拠資料の整備景品表示法第7条第2項では、優良誤認表示に関する調査において、事業者に合理的根拠を示す資料の提出を求めることができると規定されています。
消費者庁の不実証広告ガイドラインでは、合理的根拠として認められる資料の例として次のような2つの要件を示しています。
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客観的に実証された内容であること
これは①試験・調査によって得られた結果であることと、②専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献によるものいずれかに該当する必要があります。
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表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
表示内容と根拠資料の間に論理的な整合性があることが必要です。例えば、「美白効果」を謳う場合は、メラニン生成抑制や既存メラニンの排出に関する客観的データが必要となります。
上記2つの要件に関して、さらに細かく客観性や信頼性が担保されることが必要とされます。主には、次の2点が挙げられます。
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実証された効果、性能が、一般消費者が期待する効果、性能の範囲内であること
実験室での特殊な条件下で得られた結果ではなく、一般的な使用条件下で消費者が期待できる効果の範囲内であることが求められます。
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表示の裏付けとなる根拠資料が客観的で信頼できるものであること
第三者機関による試験結果、査読済みの学術論文、公的機関の認証データなど、客観性と信頼性を有する資料であることが必要です。自社内でのテストのみでは不十分とされる場合があります。
2. 表示審査体制の構築
社内での表示審査プロセスを明確化し、以下の体制を整備します:
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表示内容の法的チェック責任者の設置
景品表示法、薬機法、特定商取引法等の関連法令に精通した責任者を配置し、すべての広告・宣伝物の最終チェックを行う体制を構築します。社内の法務あるいはコンプライアンス部門の設置や、外部の法務専門家との連携も含めた責任体制の明確化が重要です。
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合理的根拠資料の保管・管理体制の確立
表示内容の根拠となる試験データ、調査結果、第三者認証書類等を適切に保管し、消費者庁等からの調査要請に迅速に対応できる文書管理システムを整備します。保管期間は最低5年間とし、デジタル化による検索・抽出の効率化も図ります。
上記2点の他には、業界団体が策定している自主規制基準や表示ガイドラインを参考にし、業界標準以上のコンプライアンス体制を構築することが考えられます。
広告プラットフォーマーにおいては、JIAAなどが挙げられます。
また、表示内容の定期的な見直しと、競合他社の動向や消費者庁の執行動向の継続的な監視を実施し、リスクアセスメントを行う体制整備も重要といえるでしょう。

有利誤認表示に関する実務ポイント

次に、有利誤認表示に関する実務上の基本的な理解や対応ポイントを解説します。
有利誤認表示とは?
有利誤認表示は、景品表示法第5条第2号で以下のように定義されています。
商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
上記の規定から導出される有利誤認表示の成立要件は、次のとおりです。
1. 対象が「価格その他の取引条件」であること
「価格その他の取引条件」には以下が含まれると解されています。
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商品・サービスの価格、対価
商品の販売価格、サービスの利用料金、会費、手数料など、消費者が支払うべき金銭的負担の全てが含まれます。表示価格と実際の請求額に乖離がある場合は問題となります。
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支払方法、支払時期
一括払い、分割払い、月額制、年額制などの支払方式や、前払い、後払い、都度払いなどの支払タイミングに関する条件です。支払方法による総負担額の違いや手数料の有無も重要な取引条件となります。
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商品の引渡時期、役務の提供時期
「即日発送」「翌日配達」「3営業日以内」などの配送・提供スケジュールや、サービス開始時期、完了予定時期などが該当します。実際の配送実績や提供実績と大きく乖離する表示は問題となります。
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数量、容量
商品の内容量、サービスの提供回数、利用可能期間・回数などの量的条件です。「大容量」「たっぷり」などの表現についても、同種商品との比較における客観的根拠が必要となります。
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品揃え、サービス内容
取扱商品の種類数、サービスメニューの豊富さ、付帯サービスの内容などが含まれます。「品揃え豊富」「充実のサービス」などの表現には、競合他社との比較における根拠が求められます。
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アフターサービス、保証内容
商品の保証期間、修理対応、返品・交換条件、カスタマーサポートの内容などです。保証の範囲や条件、サポート体制の実態と表示内容の整合性が重要となります。
2. 実際のものよりも著しく有利と誤認させること
有利誤認表示としての中核的な要件ですが、次のようなポイントが挙げられます。
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客観的事実と表示内容の相違:表示された取引条件と実際の取引条件の間に事実上の相違があることです。例えば、「送料無料」と表示しながら実際には商品価格に送料相当額が上乗せされている場合や、「期間限定」と表示しながら恒常的に同じ価格で販売している場合が該当します。
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消費者の商品選択に影響を与える程度の誤認:単なる表現の違いではなく、消費者が「お得だから購入しよう」「今買わないと損だ」と判断するレベルの誤認が必要です。価格差や条件の違いが消費者の購買行動に実質的な影響を与える程度である必要があります。
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取引条件の重要な部分での誤認:消費者の商品選択において重要な判断要素となる取引条件での誤認が対象となります。商品の本質的価値以外の付随的条件であっても、消費者の関心が高い要素(価格、配送、保証等)での誤認は重要視されます。
有利誤認表示の違反が問われやすい主な類型
有利誤認表示にあたる可能性がある主な類型としては、次の4つが挙げられます。
1. 二重価格表示の問題これは、「通常価格」「参考価格」「メーカー希望小売価格」などを比較対象として割引価格を表示する際に検討する必要があるポイントです。
具体的には、次のようなポイントが挙げられます。
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比較対象価格での実際の販売実績がない
主に過去の販売価格を比較対照価格とする場合に問題となるもので、「通常価格」として表示する価格で実際に販売した実績がほとんどない場合、または販売期間が極めて短い場合です。消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(平成12年6月30日公正取引委員会事務局、最終改定平成28年4月1日消費者庁。以下「不当価格表示ガイドライン」と表記。)では、最近相当期間(原則として8週間)にわたって実際に販売していた価格であることが求められています。
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比較対象価格が市場価格と大きく乖離
同種商品の一般的な市場価格と比較して不当に高い価格を「通常価格」として設定し、大幅な割引を演出するケースです。市場相場から著しく逸脱した価格設定は消費者を欺く行為とされます。また、比較対照価格のパターンにも、通常価格のほか、希望小売価格、競争事業者の販売価格、他の顧客向けの販売価格を比較対象とする場合などが挙げられます。
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割引対象が不明瞭
割引対象となる商品が実際には一部であるものの、表示上全商品であったり特定の抽象的な商品群を一括して強調するような表示を行うケースが挙げられます。 -
割引価格での販売が常態化している
「特別価格」「期間限定価格」として表示している価格での販売が長期間継続し、事実上の通常販売価格となっている場合です。消費者に「今だけお得」という誤った印象を与え続けることが問題とされます。 2. 期間・数量限定表示の不適切な使用
限定性を訴求する表示での問題パターンとして、以下のような表示を行うケースが挙げられます。
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「期間限定」と表示しながら継続的に同様の価格で販売
「今月末まで特価」「期間限定セール」などと表示しながら、期間終了後も同じ価格での販売を継続したり、わずかな中断期間を置いて再び同様のセールを開始するケースです。消費者の購入判断に影響を与える「今しか買えない」という緊急性が虚偽となります。
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「先着○名限定」でありながら実際には制限なし
数量限定を謳いながら、実際には在庫管理や販売制限が行われておらず、表示した数量を超えても販売を継続するケースです。限定数に達した時点での販売停止措置が講じられていない場合が問題となります。
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「在庫処分セール」でありながら通常の販売活動
在庫処分を理由とした特価販売でありながら、実際には新たに仕入れた商品も含めて販売していたり、処分すべき在庫が存在しない場合です。在庫処分の実態と販売活動の整合性が求められます。
3. 送料・手数料等の付帯費用の不明示
商品・サービスの実質的な負担額に関わる表示の問題として、次のようなケースが挙げられます。
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商品価格のみを大きく表示し、送料等を小さく記載
消費者の注意を引く部分には商品価格のみを大きく表示し、実際の購入に必要な送料、手数料、税金などを目立たない場所に小さく記載するケースです。消費者が総額を正確に把握できない表示方法が問題とされます。
- 「送料無料」でありながら商品価格に送料を転嫁
送料無料を謳いながら、実際には従来の商品価格に送料相当額を上乗せして販売しているケースです。見かけ上は送料無料でも、実質的には消費者が送料を負担している状況が問題となります。
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定期購入契約での総額費用の不明示
サブスクリプションサービスや定期購入商品において、月額料金のみを強調し、最低継続期間、解約条件、総額負担額を明確に表示していないケースです。消費者が契約期間全体での負担額を把握できない状況が問題視されます。 4. 条件付き価格の条件不明示
特定の条件下でのみ適用される価格の表示問題として、次のようなものが挙げられます。
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「月額○円から」でありながら最低価格の適用条件が厳格
最低価格での利用が可能な条件が極めて限定的であったり、実際にはほとんどの利用者が該当しない条件である場合です。例えば、最低利用期間が長期間であったり、追加オプションの加入が実質的に必須となっている場合が該当します。
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初回限定価格」の継続条件の不明示
初回のみの特別価格を表示しながら、2回目以降の価格や解約条件、最低継続期間などが不明確な場合です。消費者が継続利用時の負担を正確に判断できない状況が問題となります。
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会員価格と一般価格の区別の不明確性
会員向けの特別価格を一般的な販売価格のように表示したり、会員になるための条件や費用を明確に表示していない場合です。会員登録の要件、年会費の有無、会員特典の内容などの明確化が必要です。
表示対策のポイント
有利誤認表示を防ぐための実務的な対策をいくつか解説していきます。
1. 価格表示の根拠確保二重価格表示を行う場合は、以下の要件を満たす必要があります
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比較対象価格での実際の販売実績であること
実際に販売していた価格をもとにキャンペーン価格を設定することが考えられます。その際は、単にカタログに記載しただけや、社内で設定しただけの価格を参照しないようにマニュアルとして明記しておくことが重要です。
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最近相当期間(原則として過去8週間)における実際の販売価格
比較対象価格での販売期間は、最近相当期間にわたることが必要です。一般的には過去8週間程度が目安とされており、数日間だけの販売実績では不十分とされます。また、販売期間が断続的である場合は、合計期間での評価が行われます。
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同種商品の一般的な市場価格との合理的な関係性
比較対象価格は、同種商品の市場相場と大きく乖離していないことが必要です。競合他社の価格水準、業界平均価格、消費者の価格認識などを総合的に考慮し、社会通念上妥当な価格水準であることが求められます。
2. 取引条件の明確化
取引条件について、次のカテゴリーをもとに、表示すべき項目に漏れがないかをチェックする必要があります。
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商品・サービスの提供条件
商品の仕様、数量、品質、サービスの内容範囲、利用可能期間、対象地域などの基本的な提供条件を明確に記載します。特に、制限事項や利用条件がある場合は、消費者が誤解しないよう十分に目立つ方法で表示することが重要です。
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支払条件(分割払い、継続契約等)
一括払い、分割払い、月額制、年額制などの支払方式と、それぞれの総額負担、手数料、金利などを明示します。継続契約の場合は、最低契約期間、自動更新の有無、更新時の条件変更などについても明確化が必要です。
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解約・返品条件
解約可能期間、解約手数料、違約金、返品期限、返品時の送料負担、返金方法などを具体的に説明します。特定商取引法に基づくクーリングオフの適用がある場合は、法定返品期間(8日間)との関係も含めて説明する必要があります。
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付帯費用(送料、手数料、税金等)
商品価格以外に発生する全ての費用を明示し、総額でいくらになるかを消費者が容易に計算できるようにします。送料については、配送地域による違い、配送方法による違い、購入金額による無料条件なども詳細に記載します。
3. 期間・数量限定表示の適正化
期間や数量などに関する限定表示を行う場合の運用ルールとして次のような点に留意する必要があります。
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期間限定:実際に期間終了後は同条件での販売を行わない
期間限定セールを実施する場合は、表示した期間の終了と同時に当該条件での販売を停止する必要があります。期間終了後に同様のセールを再開する場合は、相当期間(一般的には1ヶ月以上)の間隔を置き、消費者に継続的な特価販売ではないことを明確にする必要があります。
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数量限定:表示した数量に達した時点で販売終了
「先着100名様限定」などの数量限定表示を行う場合は、厳格な在庫管理により、表示した数量に達した時点で確実に販売を停止しなければなりません。システム上の管理体制を整備し、数量超過での販売が発生しないよう注意が必要です。
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根拠となる数量・期間の社内記録の保持
限定表示の根拠となる販売計画、在庫数量、期間設定の理由などを社内文書として記録・保存しておくことが重要です。消費者庁等からの調査時に、限定性の根拠を客観的に説明できる資料の準備が求められます。
4. デジタル広告での特別な配慮
特にECサイトやSNS広告においては、以下の点に特に留意するようにしましょう。
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スマートフォン画面での視認性確保
画面デザインにおいて、レスポンシブ環境設定を行い、iOSやAndroidの違いも含めて考慮し、モバイル端末での表示を前提とし、重要な取引条件や注意事項が画面の小ささにより見づらくならないよう配慮します。文字サイズ、色のコントラスト、表示位置などを最適化し、消費者が重要情報を見落とさないよう工夫が必要です。
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重要な条件の同一画面内での表示
価格、送料、支払条件、解約条件などの重要な取引条件は、商品の主要情報と同一画面内で確認できるよう配置します。別ページへのリンクのみでは不十分であり、消費者がスクロールや画面遷移なしに確認できることが理想的です。
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リンク先での詳細条件の明記
商品ページで表示しきれない詳細な条件については、「詳細はこちら」などのリンクを設けて別ページで説明することが可能ですが、リンク先の情報が充実していることと、リンクの存在が分かりやすく表示されていることが前提となります。また、重要な条件ほど主要ページでの表示を優先すべきです。

景品規制に関する実務ポイント

次に景品規制に関する実務上の対応ポイントを解説していきます。
景品類の該当性要件と適用除外
景品表示法第2条第3項では、景品類を以下のように定義しています。
この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であって、内閣総理大臣が指定するものをいう。
上記の規定から、景品類の該当性は、以下の3要件をすべて満たす場合に認定されます。
1. 顧客誘引性これは、景品が顧客を誘引する手段として機能することを意味します。具体的には2つのポイントがあります。
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一般消費者に対する宣伝・広告としての効果
景品の提供により消費者の注意を引き、商品・サービスへの関心を高める効果があることを指します。景品自体の魅力により消費者の購買意欲を刺激する機能が認められる場合に該当します。
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商品・サービスの購入促進を目的とする提供
事業者が売上向上、新規顧客獲得、リピート利用促進などの営業上の目的をもって景品を提供することです。純粋な好意やボランティア精神による提供ではなく、事業上の利益を目的とした提供である必要があります。 2. 取引附随性
景品が商品・サービスの取引に関連して提供されることが必要です。
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商品・サービスの取引に関連した提供
景品の提供が、事業者が供給する商品・サービスの取引と何らかの関連性を有することです。直接的な購入条件でなくても、来店、資料請求、会員登録などの取引に向けた行為と関連していれば該当します。
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取引の前後・同時を問わない
景品の提供時期は、商品購入の前(予約特典等)、同時(購入者プレゼント等)、後(アフターサービス等)のいずれでも構いません。時期の前後関係よりも、取引との論理的関連性が重視されます。
3. 経済上の利益
受け取る側にとって経済的価値があることをいい、次の2つのポイントが挙げられます。
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サービス等の経済的価値のあるもの物品、金銭
現金、商品券、物品、無料サービス、割引券、ポイントなど、受取人にとって経済的メリットがあるものが対象となります。ここにいう景品類に関する定義は、定義告示があります。経済上の利益として提供するものとして4つの類型が定められています。 -
受け取る側にとっての経済的メリット
提供者側のコストではなく、受取人が感じる経済的利益で判断されます。製造原価が安価であっても、消費者にとって価値があるものであれば景品類に該当します。逆に、高価なものでも受取人にとって価値がなければ景品類に該当しない場合もあります。
その上で、次のような3つのカテゴリーの適用除外が定められています。
1つが、正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスです。これは、商品の修理保証、メンテナンスサービス、配送サービスなど、当該商品・サービスの提供に通常附随するものとして社会通念上認められているものです。業界慣行として一般的に行われているサービスや、商品の性質上当然に期待されるサービスが該当します。2つ目は、商品又は役務に関する宣伝用の物品です。企業名やロゴが印刷されたボールペン、カレンダー、うちわなど、主たる目的が企業や商品の宣伝にあり、景品としての価値よりも広告媒体としての機能が重視されるものです。ただし、宣伝効果よりも景品としての魅力が上回る場合は景品類に該当する可能性があります。
3つ目は、見本その他宣伝を目的とする商品又は役務です。化粧品のサンプル、食品の試食・試飲、サービスの無料体験など、商品・サービスの品質や内容を消費者に知ってもらうことを主目的として提供されるものです。ただし、見本としての合理的な範囲を超える場合は景品類に該当する可能性があります。
景品の区分
その上で、景品にもその提供方法により、規制対象として以下の3つに区分され、それぞれ異なる規制が適用されます。
1. 一般懸賞商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供するものです。
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抽選による景品提供
これは、購入者やサービス利用者を対象とした抽選会、くじ引き、ルーレットなどによる景品提供です。当選確率の設定、抽選方法の公正性、当選者への確実な景品提供が重要なポイントとなります。
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クイズ・ゲームの成績による景品提供
これは、知識問題、技能競技、オンラインゲームなどの成績に応じた景品提供です。問題の難易度、採点基準の公正性、参加条件の明確化などが求められます。
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アンケート回答者からの抽選
これは、商品購入者やサービス利用者を対象としたアンケート調査の回答者の中から抽選で景品を提供するケースです。アンケートの目的と景品提供の関係性、個人情報の取扱いについても注意が必要です。
2. 共同懸賞
共同懸賞は、同一の取引に関連のある複数の事業者が共同して実施する懸賞です。
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街、ショッピングモール単位での懸賞商店
これは、地域の商店街やショッピングセンターに出店する複数の店舗が合同で実施するスタンプラリーや抽選会などです。参加店舗の条件、スタンプ収集方法、景品の管理責任などの取り決めが重要となります。
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体が主催する懸賞業界団
これは、同一業界の複数企業が業界団体を通じて共同実施する懸賞企画です。業界全体の活性化や消費者への啓発を目的とする場合が多く、公正性と透明性の確保が特に重要視されます。
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複数企業合同のキャンペーン
これは、異業種間でのコラボ企画や、メーカーと小売業者の合同キャンペーンなどが該当します。企業間の責任分担、景品の提供義務、費用負担などについて事前の明確な取り決めが必要です。
3. 総付景品
総付景品は、商品・サービスの利用者や来店者に対し、くじ等によらず一律に提供される景品類です。
パターンとしては、大きく3つあります。
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購入者全員への景品提供
これは、商品購入者やサービス利用者の全員に対して提供される景品です。「もれなくプレゼント」「全員にお渡し」といった表現で提供されるものが典型例です。在庫管理と確実な提供体制の整備が重要となります。
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先着順での景品提供
これは、「先着100名様に○○をプレゼント」といった先着順による景品提供です。数量管理が厳格に行われ、表示した数に達した時点で確実に終了することが求められます。
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ノベルティグッズの配布
これは、来店者や展示会参加者などに配布される記念品、販促品などです。企業名やロゴが入ったものでも、宣伝効果よりも景品としての価値が高い場合は総付景品として規制対象となる場合があります。
景品類の限度額
さらに、景品類の規制として、その提供金額に関する上限規制が設定されています。各区分における景品類の限度額は以下の通りです。
- 一般懸賞の限度額 懸賞に係る取引の価額が5,000円未満の場合:取引価額の20倍まで
例えば、1,000円の商品を対象とした懸賞では、1等賞品は2万円相当まで提供可能です。ただし、総額制限も考慮する必要があり、月間売上予定額が100万円の場合は総額2万円(100万円×2%)以内という制限も受けます。 - 懸賞に係る取引の価額が5,000円以上の場合:10万円まで
例えば、1万円の商品は5,000円以上の商品に該当するため、取引価額の20倍ではなく一律10万円が上限となります。20倍計算では20万円となりますが、5,000円以上の商品には10万円の上限が適用されます。 - 額制限:懸賞に係る売上予定総額の2%以内
個別景品の上限とは別に、懸賞全体での景品総額は売上予定額の2%以内という制限があります。例えば、500万円の売上予定の場合、1等から末等まで全ての景品の合計額は10万円以内に収める必要があります。
最高額:30万円まで
総額制限:懸賞に係る売上予定総額の3%以内
総付景品の限度額
- 取引価額が1,000円未満の場合:200円まで
例えば、500円の商品は1,000円未満に該当するため、景品価額は一律200円が上限となります。500円×20%=100円ではなく、1,000円未満の商品には200円の固定上限が適用されます。 - 取引価額が1,000円以上の場合:取引価額の10分の2まで
例えば、3,000円の商品は1,000円以上に該当するため、取引価額の20%である600円が景品価額の上限となります。この場合、600円相当の景品を全購入者に提供することが可能です。

近時注目される広告法務の論点

ここで、近時話題となっている広告法務の論点について、3つほどピックアップして解説していきます。内容については紙幅的に深掘りができませんが、ポイントのみ指摘しつつ解説します。
ステルスマーケティング規制
2023年10月1日から、景品表示法第5条第3号に基づく指定告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が施行され、ステルスマーケティング(ステマ)が景品表示法違反として明確に規制されるようになりました。
規制対象となるステマは、以下の2要件が定められています。
- 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について行う表示
- 一般消費者が当該表示であることを判別することが困難な表示
具体的な規制対象として、消費者庁の「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」では、以下のケースが示されています。
- 第三者による表示を装う場合:事業者が第三者になりすまして行う表示
- 第三者による表示内容を決定している場合:事業者が第三者の表示内容を指示・依頼している場合
一方で、次のような場合は規制対象外とされています。
表示を行う者が事業者の関係者であることが明瞭である場合 表示内容が事業者の意図と関係なく第三者により自主的に行われた場合 表示が広告・宣伝であることが明確に分かる場合事業者における実務上の対応としては、次のような対応に留意する必要があります。
- 明確な広告表示:「PR」「広告」「プロモーション」等の明示
- インフルエンサーとの契約管理:広告表示の義務化を契約に明記
- 社内ガイドラインの策定:ソーシャルメディア投稿時のルール明確化
- 継続的な監視体制:自社関連の投稿内容の定期的チェック
性的広告の規制
近年、性的な表現を含む広告に対する社会的関心が高まっています。特に、以下の規制動向に注意が必要です。
1つは、東京都迷惑防止条例の改正です。公共の場所における不当な性的広告の表示が禁止され、以下が規制対象となりました。-
卑わいな姿態等を表示した広告の掲示
電車内、駅構内、繁華街などの公共の場所において、性的な表現を含む広告の掲示が制限されています。特に、青少年の目に触れやすい場所での掲示には厳しい基準が適用されます。
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性的好奇心をそそる方法による広告表示
直接的な性的表現でなくても、性的な連想を誘発するような表現方法、暗示的な表現、過度に露出度の高い画像などを用いた広告が規制対象となります。
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青少年の健全育成に害を及ぼすおそれのある広告
18歳未満の青少年の健全な成長に悪影響を与える可能性のある広告内容が制限されています。教育上不適切な表現、価値観の形成に悪影響を与える内容などが該当します。
2つ目は、業界団体による自主規制の強化です。次のような各業界団体において自主規制基準が強化されています -
日本広告審査機構(JARO):性的表現に関する審査基準の厳格化
JAROでは、性的表現を含む広告の審査基準を見直し、公共の場での掲載基準を厳格化しています。特に、交通広告、屋外広告における性的表現の基準を明確化し、事前審査の徹底を図っています。
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インターネット広告推進協議会(JIAA):デジタル広告における性的表現ガイドライン
JIAAでは、ウェブサイト、SNS、動画配信サービスなどのデジタル媒体における性的表現のガイドラインを策定しています。年齢認証システムの活用、視聴者層に配慮した表現基準、プラットフォーム事業者との連携強化などが盛り込まれています。
さらに、IaaSサービスプラットフォーム事業者の対応についても注意が必要です。Google、Facebook等の広告プラットフォームでは、性的内容を含む広告の配信を制限する動きが加速しています。
ディープフェイクによる広告
そして、急速なAI技術の発達により、ディープフェイク技術を用いた広告が問題となっています。
法的課題としては、次のようなものが主に挙げられます。
- 肖像権侵害:著名人の肖像を無断使用したディープフェイク広告
- 優良誤認表示:実在しない人物による商品推奨表示
- :既存著作権侵害の映像・画像の無断利用
現行の法制度上は、ディープフェイクに特化した規制として、直接規制する法律はありませんが、以下の法令が適用される可能性があります。
- 景品表示法(優良誤認表示)
ディープフェイク技術により作成された虚偽の体験談や推奨コメントを用いて商品の効果効能を誇大に表示することは、優良誤認表示として措置命令や課徴金納付命令の対象となる可能性があります。特に、実在しない人物による「使用前・使用後」の比較や効果の証言は問題となりやすいです。
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不正競争防止法(著名人の氏名・肖像の無断使用)
著名人の肖像をディープフェイク技術で無断使用することは、不正競争防止法第2条第1項第1号(他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示の使用)や第2号(著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示の使用)に該当する可能性があります。
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著作権法(既存コンテンツの複製・翻案)
既存の映像、写真、音声などを素材としてディープフェイクコンテンツを作成することは、原作品の複製権(著作権法第21条)や翻案権(第27条)の侵害に該当する可能性があります。AI生成であっても、元となる著作物の本質的特徴を感得できる場合は権利侵害となります。
加えて、諸外国・地域でディープフェイク規制の検討が進んでいます。いくつか実例を紹介しましょう。
- EU:AI規制法(AI Act)におけるディープフェイク規制
これは、2024年に施行されたEUのAI規制法に関するものです。ディープフェイク技術により生成されたコンテンツについて透明性義務が課されています。人工的に生成された画像・音声・動画であることを明確に表示する義務があり、違反した場合は高額な制裁金が科される可能性があります。
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米国:各州レベルでの規制法案の検討
カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州などで、ディープフェイク技術の悪用を防止する法案の検討が進んでいます。特に、選挙期間中の政治的ディープフェイクや、同意なき性的画像の生成に対する規制が重点的に議論されています。
実は、国内でも、近時、総務省・経済産業省での検討を開始しています。総務省のプラットフォームサービスに関する研究会や、経済産業省のAI戦略会議において、ディープフェイク技術の適正利用に向けた検討が開始されています。
法規制の必要性、業界自主規制の可能性、技術的な検出手段の開発支援などが議論されています。
広告法務においては、こうした規制動向にも着目して対応していく必要があります。

近時の法改正のポイント

最後に、近時の法改正のポイントについて、いくつかありますが、ここでは確約手続について解説していきます。[M.K4]
2021年8月1日に施行された景品表示法改正により、確約手続制度が導入されました(景品表示法第7条の2から第7条の8)。
確約手続とは、事業者が自主的に再発防止策等を申し出ることで、措置命令に代えて確約計画の認定を受けることができる制度です。
確約手続は、以下の要件を満たす場合に申請できます。
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違反行為が既に停止されていること
問題となった不当表示の削除、販売停止、広告の取り下げなどが既に完了している必要があります。消費者庁からの指摘を受けた後、速やかに是正措置を講じることが重要で、継続中の違反行為がある状態では確約手続きの申請はできません。
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一般消費者の利益の保護を図るため適切な措置を講ずる旨の計画を申し出ること
単に違反行為を停止するだけでなく、消費者被害の回復、再発防止策の実施、社内体制の改善など、消費者利益の保護に資する具体的で実効性のある計画を策定・提出する必要があります。
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当該計画の実施が確実と認められること
提出された確約計画が実現可能で実効性があり、事業者が確実に実施する意思と能力を有していることが求められます。過去の法令違反歴、財務状況、組織体制などを総合的に勘案して判断されます。
確約手続のメリットとして、事業者には次のようなメリットが考えられます。
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措置命令による企業イメージへの悪影響を回避
措置命令が公表されると、企業名、違反内容、命令内容が消費者庁のウェブサイトや報道により広く公表され、企業の信用・ブランドイメージに深刻な影響を与えます。確約手続きを利用することで、このような公表による風評被害を避けることができ、事業継続への影響を最小限に抑えることが可能です。
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自主的な取り組みとしてのPR効果
確約計画の認定により、違反を犯した企業ではなく、問題を自主的に発見・解決し、消費者保護に積極的に取り組む企業としてのイメージを構築できます。適切な広報活動により、企業の責任感と透明性をアピールする機会として活用することも可能です。
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迅速な問題解決による事業継続リスクの最小化:
措置命令手続きでは調査から命令発出まで数ヶ月を要する場合がありますが、確約手続では事業者の主体的な取り組みにより、より迅速な問題解決が可能となります。長期間の不確実性を解消し、早期に正常な事業活動に復帰できるメリットがあります。
確約手続の活用により、広告法務におけるインシデント対応にも弾力性が増し、リスク対応にも幅が広がったといえるでしょう。

まとめ

景品表示法は、消費者の適切な商品選択を支援し、公正な市場競争を確保するための重要な法律です。
近年の法改正により規制が強化され、企業にとってコンプライアンス体制の構築は喫緊の課題となっています。
- 基本理解の重要性
優良誤認表示・有利誤認表示・景品規制の3つの柱を正確に理解し、実務に適用することが基本です。 - 合理的根拠の整備
表示内容の根拠となる資料の整備と保管体制の確立が、違反防止の要となります。 -
業界特有の規制への対応
自社の業界における関連法令(薬機法、特定商取引法、金融商品取引法等)との関係性を理解し、重畳的な規制に対応することが必要です。 - 新たな規制への対応
ステルスマーケティング規制、確約手続制度等の新制度を理解し、適切に活用することで、事業リスクを最小化できます。
景品表示法の遵守は、単なる法的義務を超えて、消費者からの信頼獲得と企業価値向上に直結する重要な経営課題です。
本記事で解説した内容を参考に、自社の状況に応じた適切なコンプライアンス体制を構築していただければと思います。
法令の解釈や具体的な対応策については、事案に応じて専門家への相談を行うことをお勧めします。
景品表示法は解釈が複雑な場合も多く、業界特有の課題もあるため、事前の法的チェックが重要です。
企業法務弁護士ナビでは、景品表示法など広告法務に詳しい弁護士を多数掲載しています。
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