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2025年5月に公布された「中小受託取引適正化法」(通称:取適法、改正前:下請法)は、2026年1月1日から施行されます。
50年ぶりの下請法の大幅改正となり、委託事業者や中小受託事業者にとって、実務への影響は非常に大きいものです。
今回の改正では、取引当事者の呼称変更、適用対象範囲の拡張、電子書面交付の柔軟化、価格協議の義務化、手形払いの禁止、執行体制の強化など、多岐にわたる改正点が盛り込まれました。
本記事では、法務担当者が押さえるべき改正のポイントを整理し、企業が取引実務にどのように対応すべきかを具体的に解説します。
2025年5月に成立し、令和8年1月1日施行予定の取適法(改正下請法)について、法務・コンプライアンス担当者が押さえるべき改正ポイントを整理してまとめました。
それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
今回の改正では、法律名や用語が大きく見直されました。
従来の「下請代金支払遅延等防止法」という名称は長く、また「下請」という言葉が上下関係を想起させるとして批判もありましたが、改正後は正式名称がより「中小受託取引適正化法」として中立的に変更され、体系全体で表現が整理されました。
あわせて、「親事業者」「下請事業者」という用語は廃止され、「委託事業者」「中小受託事業者」に統一されます。
これは、発注側と受注側を上下関係ではなく対等な契約関係として捉える趣旨です。
また、関連法である「下請中小企業振興法」も「受託中小企業振興法」へ名称が改められました。
契約書や基本取引契約、社内規程、システム上の用語など、旧来の呼称が残っていれば修正が必要です。
今回の改正では、下請法が適用される範囲が大きく広がりました。
これまで対象外だった取引や企業も規制対象となる可能性があり、委託側・受託側双方に実務上の影響があります。
適用範囲の変更点について、主に以下3つの点から見ていきましょう。
本改正では、従来の「資本金基準」に加え、新たに「従業員数基準」が導入されました。
たとえば製造委託の場合、常時使用する従業員が300人を超える企業が委託事業者となり、300人以下の企業が受託事業者となれば下請法の適用対象になります。
役務提供委託などの場合は100人が基準です。
これにより、資本金が小さいが従業員規模の大きい企業も発注者として規制対象となります。
本改正では、メーカーや卸売業者(発荷主)から運送業者への運送委託も新たに適用対象に加わりました。
これまで発荷主と元請運送業者の関係は下請法の規制外でしたが、改正により発荷主も「委託事業者」となり、発注書の交付義務や60日以内の支払義務などを直接負うことになります。
物流業界で長年問題となっていた無償の荷待ちや荷役など、不当な取引慣行の是正が目的です。
これまで対象は「金型」の製造委託に限定されていましたが、改正により木型や治具など、製品製造に必要な工具や型の委託も下請法の適用対象になりました。
製造業においては、これらの委託も契約内容や支払条件の点で下請法違反とならないよう注意が必要です。
取適法(改正下請法)では、発注内容を記載した「3条書面」の交付について、これまで必要だった下請事業者の承諾が不要となりました。
そのため、改正後は承諾の有無にかかわらず電子メールやEDIシステムを通じて交付することが可能です。
ただし、単にWebサイト上で閲覧させるだけでは不十分で、受託側が自分の手元に保存できる形式で提供する必要があります。
なお、電子メールやダウンロード機能付きのシステムを利用すれば適法ですが、ログ保存や改ざん防止策も求められる点に注意が必要です。
この改正により、契約書類のペーパーレス化や業務効率化が進む一方で、システム改修や社内フローの整備が不可欠となります。
電子交付を活用する企業は、証拠性を担保できる運用設計をおこなうことが重要です。
今回の改正で最も実務への影響が大きいのが、価格決定のルール変更です。
従来も「買いたたき」の禁止はありましたが、下請側が価格転嫁を求めても協議自体に応じてもらえない事例が多くありました。
改正後は、中小受託事業者から協議を求められた場合、委託事業者は誠実に協議する義務を負います。
説明なく一方的に価格を据え置いたり、協議を拒否したりした場合は違反とされる可能性があるので注意しましょう。
実務面では、協議の窓口や手順を明確にし、根拠資料を用いた交渉をおこなう体制が必要です。
改正により、価格転嫁の透明性が高まり、中小企業が適正な利益を確保できる環境が整えられることになります。
本改正では、支払いに関するルールも大きく見直されました。
従来は長期手形や実質的に現金化が遅れる手段が広く使われていましたが、これは中小受託事業者の資金繰りを圧迫する要因となっていました。
そこで今回の改正では、こうした支払慣行に明確な規制がかかります。
具体的な変更点として、以下2つを見ていきましょう。
改正前は、下請代金の支払いに約束手形を用いることが広くおこなわれていました。
しかし、約束手形による支払いは、支払期日から実際の現金化までの期間があくため、下請企業の資金繰りを圧迫するとの指摘が多く、公正取引委員会も課題視していました。
そこで取適法(改正下請法)では、手形払いそのものが全面禁止となり、原則として現金振込などの即時性のある手段での支払いが義務化されます。
加えて、電子記録債権やファクタリングなど、実質的に資金受領が遅れる支払方法も禁止対象となります。
従来は、委託事業者が代金の支払いを遅延した場合に遅延利息が発生しましたが、今回の改正で「代金を減額した場合」も遅延利息の対象となりました。
たとえば、発注後に一方的に代金を引き下げた場合には、その減額分に対しても利息支払い義務が発生します。
これには、不当な減額を抑止し、下請企業の利益を保護する狙いがあります。
改正後の下請法制度を機能させるには、執行体制の強化が欠かせません。
取適法(改正下請法)では、公正取引委員会だけでなく関係機関が連携し、違反に対する監視や是正措置を従来よりも幅広くおこなえるようになりました。
具体的なポイントは、以下の2つです。
改正後は、公正取引委員会だけでなく、関係省庁や監督官庁も違反行為の調査や指導に積極的に関与できる体制が整えられます。
これにより、業界ごとの特性に即した監視が可能となり、従来以上に幅広い監督が期待されます。
企業にとっては、これまで以上に行政の目が届くことになるため、形式的な遵守ではなく、日常的な取引慣行の適正化が欠かせません。
従来は、違反行為が是正済みであれば勧告がおこなわれないケースもありました。
しかし改正により、違反がすでに是正されていても再発防止の観点から勧告をおこなえることが明確化されました。
これにより、「一度是正すれば免責される」という甘い見込みは通用せず、違反事実があれば企業名公表を伴う勧告リスクを抱えることになります。
結果として、法務・コンプライアンス部門には、継続的かつ予防的な遵守体制の構築が強く求められるようになります。
今回の下請法改正は、長年指摘されてきた取引慣行の是正と、中小企業の持続的な成長を支える環境整備を目的としておこなわれました。
背景には、原材料費や人件費の高騰により中小企業の収益が圧迫され、十分な価格転嫁が進まず賃上げの原資が確保できないという状況があります。
加えて、物流分野では無償の荷待ちや荷役、長期手形による支払いなど、下請事業者に負担を押し付ける構造的な問題が残されていました。
こうした課題を解決するため、政府はサプライチェーン全体で公正な取引を実現することを重視しました。
具体的には、価格協議の義務化によって下請側が適切にコスト上昇を反映できる仕組みを整え、手形払いの禁止によって資金繰りを安定させ、さらに物流委託取引にも規律を広げることで不当な慣行を是正する狙いがあります。
改正の本質は、単なる規制強化ではなく、親事業者と下請事業者が対等な立場で交渉できる環境を整え、経済全体での持続的な賃上げと健全な取引を支えることにあります。
取適法(改正下請法)の施行に備えて、委託事業者と受託事業者はそれぞれの立場で準備を進める必要があります。
ここでは、委託側と受託側それぞれが注意すべき点を整理して見ていきましょう。
委託事業者は、自社の取引が改正後に新たに適用対象となるかを確認することが重要です。
従業員数基準の導入や運送委託の追加により、これまで下請法の規律を受けなかった取引も規制対象となる可能性があります。
さらに、価格協議に関する義務が強化されるため、下請企業から申し入れがあった場合にどう対応するかをあらかじめ定め、対応部署や手順を明確にしておくことが求められます。
加えて、契約書や取引書面に残る旧用語の修正や、手形払い禁止に伴う支払方法の見直しも早急に進めなければなりません。
営業部門や調達部門への研修も実施し、社内全体で改正対応を徹底することが不可欠です。
中小受託事業者にとっても、今回の改正は自社を守る機会となります。
原材料費や人件費の上昇を根拠として価格転嫁を求められるよう、必要なデータを整理し、交渉時に提示できるよう準備しておくことが大切です。
また、取引先とのやりとりは必ず書面やデータで記録を残し、協議履歴を証拠として確保しておくことが重要です。
これは、不当な対応を受けた際に交渉経緯を裏付ける材料として役立ちます。
さらに、電子交付が拡大することを踏まえ、発注書や契約書を保存できる体制を整えておくことも必要です。
これにより、トラブル時にも確実に証拠を提示でき、法的保護を受けやすくなります。
取適法(改正下請法)では、従来の取引慣行を根本から見直す内容を含んでおり、施行日までに企業が取るべき対応は多岐にわたります。
自社だけで判断するのが難しい場合や、具体的に何から手を付けてよいか迷う場合には、専門家である弁護士に相談するのが有効です。
弁護士は改正内容の解釈や実務への落とし込みを支援し、契約書や業務フローの改訂をサポートします。
早めに相談することで、余裕を持って準備を進め、施行後のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
編集部
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
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