
高齢者が利用者となる介護業界においては、介護事故が深刻な問題となっています。
主な事故例としては転倒・転落が挙げられますが、ほかにも誤飲・誤嚥・食中毒・熱中症などがあり、日常生活のさまざまな点において事故発生リスクが潜んでいます。また、事故の二次被害により、死亡に至り訴訟に発展するケースもあります。
介護付き有料老人ホームに入居していた女性が、不適切なトイレ介助で転倒した事故による摂食障害で飲食できなくなり死亡したのは、施設側が入居者の安全に注意する義務を怠ったのが原因として、遺族が施設運営会社に損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、大津地裁であった。西岡繁靖裁判長は請求通り約2520万円の支払いを命じた。(引用:京都新聞)
経営にあたっては、利用者が安心して利用できるよう、あらゆるリスクを想定した上で、事故の未然防止や事故発生時の被害軽減などに関する「リスクマネジメント」を行うことが重要です。リスクマネジメントが十分でない場合、重大な介護事故が発生して信頼を失ったり、訴訟問題へ発展したりする恐れもあります。
この記事では、介護事故に関するリスクマネジメント対応や、対応時の視点などを解説します。
よくある介護事故事例と対応
介護事故は様々な状況で発生します。経営者は、たとえ自身が介護現場に立たなくても、介護士の立場でリスクとその対応を把握しておく必要があります。
公益財団法人 介護労働安定センターでは、どのような事故がどれくらい発生しているのか調査を行いました。
(参考:「介護サービスの利用に係る 事故の防止に関する調査研究事業」 報告書)
では、具体的な状況や原因、対応方法をご紹介します。
見守り中に利用者が転倒してしまったケース
転倒や転落時の介護者の業務内容として46.7%と一番多かったのが見守り中という回答でした。要するに、他業務を行いつつ、利用者の動向を見守っていたら転倒してしまった、というような状況です。
また、利用者に声をかけたら利用者が驚いてしまい、転倒してしまったという事故も考えられます。
具体的な対応
いつ利用者が転倒するかは誰にも分りません。まず、利用者の歩行レベルを段階にわけて、歩行時に転ぶ可能性の高い人には、他業務を行っている場合でもすぐに手が出せるよう、介護する必要があります。
それには、施設全体で協力して取り組まなければなりません。もし、施設の事務業務が過多でさばききれない場合、外注に仕事を依頼するなど、上手に仕事を割り振ることが重要です。
また、声をかける場合は、必ず利用者の視界内もしくは正面から声をかけましょう。後ろや突然の声かけは、利用者を驚かせることになります。
車いすでの移動中に転倒してしまったケース
車いすはとても便利ですが、少しの段差や小石を踏み越えた際に利用者が前のめりの体勢でいると、そのまま前方へ転倒してしまう恐れがあります。
具体的な対応
車いすを押す際は、どのような状況であってもゆっくり押すようにしましょう。また、利用者にも深く座り乗り出さないようにあらかじめ伝えておきましょう。
利用者の介護状況によっては、少し窮屈にはなりますが、ベルトの使用なども検討する必要があります。その際は、家族の方にリスクを説明し、承認してもらうようにしましょう。
食事介護中に利用者がむせ込んでしまったケース
食事介護中に利用者がむせ込んでしまった場合、一旦お落ち着いても再度むせ込んでしまう可能性があります。また、利用者の骨が弱い場合、骨折につながる恐れがあるでしょう。
より怖いのは、誤嚥をきっかけにした肺炎です。むせ込んだ利用者のその後の経過も注意しなければなりません。
具体的な対応
むせ込みが激しい場合は、すぐに医師もしくは看護師に対応・相談する必要があります。また、その後の状況や体調について細かく経過観察するようにしましょう。
介護する側がケガをするケース
日々の業務の疲労や精神状態によっては、介護側がケガをするケースもあります。また、ストレスが高じてしまうと、報道されているような高齢者への暴力などに発展する恐れもあります。
具体的な対応
経営者として、従業員が無理なく働けるためにも雇用条件を見直さなければなりません。特に、介護は体力勝負ですので、しっかり休日を設けるほかにも、残業時間を明確にし、それ以上は働かせないなどの配慮が必要です。
また、施設の規模に応じて人数を増やしたり、仕事の一部をアウトソーシングしたりなど一人一人の業務負担を減らす対策もしていかなければなりません。
介護施設は、徹底的かつ継続的にリスクマネジメントを行わなければ、利用者の死亡など最悪なケースに陥る可能性が高い事業です。介護施設のリスクマネジメントは、企業法務に強い弁護士への相談がおすすめです。弁護士へ相談するメリットは以下の通りです。
- 様々な法的な面から徹底的にリスクをあぶりだせる
- リスクマネジメントの具体的な対策について相談できる
- 利用者からのクレームなどを相談できる
- 紛争が起きた場合に対応を任せることができる
- その他、従業員の雇用条件・体制に関する相談 など
介護施設特有のリスクをあぶりだし、対応することができます。まずは、お気軽にご相談ください。
リスクマネジメントによって介護事故を防ぐための対応
介護事故に関するリスクマネジメント対応については、以下の流れで進めるのが通常です。
ここでは、それぞれの対応内容を解説します。
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①リスク特定
まずは、利用者に被害を及ぼす可能性のあるリスクについて特定します。「介護」では、介護する側・される側の他に介護環境にもリスクが潜んでいます。
(引用:介護労働安定センター)
また、リスク特定にあたっては、ヒヤリハットに関する報告書が用いられることが多いようですが、事故事例に関する報告書なども参考になるでしょう。
ヒヤリハットとは、「浴室の床が滑りやすく転倒しそうになった」など、重大な事故には発展していないものの、いつ発展してもおかしくないような事象を指します。
介護現場での利用者・介護者一人一人のヒヤリハットについて報告するよう制度を定め、報告内容を書面でまとめておくことで、より効率的なリスク特定が可能となります。
②リスクアセスメント
①にて特定されたリスクについて、それぞれの規模や要因の分析・評価を行います。
対応時は、まず発生場所や発生時間などの概要を把握した上で、「どこに問題があるのか」「どのような解決方法が考えられるか」などについて分析します。
なお分析にあたっては、人的要因・設備的要因・作業環境的要因・管理的要因の4つの視点から行うのが通常です。例として「入浴介助中、利用者が浴室で転倒した」という報告があった場合、以下のように分析します。
・人的要因…職員が床の状態をチェックせず、利用者には障害があり片足が不自由だった ・設備的要因…床の水はけが悪く、しばらく水が溜まるような状態となっていた ・作業環境的要因…対応する職員数が足らず、利用者一人一人に目を向ける余裕が無かった ・管理的要因…作業フローが統一されておらず、職員間での役割分担も不明確だった |
③リスク対応
次に、事故発生時の対応内容や対応手順についてマニュアルを定めます。
特に介護事故については、高齢者の転倒事故など、場合によっては命にかかわるケースもあるため、事故発生時には迅速な対応が求められます。また、以下のような事故が発生した場合、自治体への報告が必要です。
上記以外にも、各自治体より報告を求められている事故に関しては、ご利用者のご家族へ相談後、すぐに報告するようにしましょう。
対応内容や対応手順は、事故の内容によって異なるため、起こり得る事故内容ごとに対応マニュアルを作成しておく必要があります。特に、損害賠償が発生するような事故やクレームにつながりやすい事故における対応は、弁護士にアドバイスを受けながら法的に不利な立場にならないようなマニュアルを作成しなければなりません。
またマニュアル作成後は、事故発生時に速やかに対応できるよう、定期的に職員へ研修を実施するようにしましょう。
④リスクコントロール
最後に、事故の未然防止や事故発生時の被害軽減に向けて、リスク管理についてシステム化を行って現場へ落とし込みます。主な対応内容としては、③で定めた決定事項への対応や、業務マニュアルの整備などが挙げられます。
特にリスクコントロールについては、部門や職位などに縛られることなく、事業所全体で十分に意思疎通を行って進める必要があります。その際は「安全管理委員会」を設けるなどして、定期的に報告会などを行うことで、より継続的かつ効率的なリスクコントロール対応が望めるでしょう。
対応後に行うべきこと
リスクマネジメントは「とりあえず体制さえ構築できれば良い」というものではありません。
体制が構築できても、それによってあらゆるリスクに対応できるとは言い切れず、構築時には想定していなかったリスクが出現する可能性もあります。事故リスクなどを極力回避するためには、PDCAサイクルの実施が効果的と言えます。
PDCAサイクルとは、業務遂行のためのマネジメント手法の一つで、計画の立案(Plan)・計画の実行(Do)・実行内容の評価(Check)・今後の改善(Action)の取り組みを指します。これら4つの取り組みを繰り返し行うことで、新たなリスク要因の発見や運用状況の改善など、業務内容の継続的な改善が見込めます。
リスクマネジメント対応にあたっては、リスク特定・リスクアセスメント・リスク対応・リスクコントロールなどを行って体制構築した上で、PDCAサイクルを回して定期的な改善・見直しを図ることで、より実践的なリスク管理が可能となるでしょう。
参考:老人ホームにおける入浴事故とは?起こさないためのポイントを解説! | スマートシニア
リスクマネジメントによって介護事故を防ぐための視点
リスクマネジメントを行う際は、利用者の保護だけでなく組織・職員の保護なども意識した上で取り組む必要があります。これら2つの視点から取り組むことで、効果的なリスクマネジメントの実現が望めます。
ここでは、介護事故に関するリスクマネジメント対応時の視点について解説します。
利用者の保護
経営にあたっては、利用者が安心して利用できるよう利用者の尊厳・安全の保護などの視点から、施設環境を構築する必要があります。
発生率の多い転倒・転落などの事故が発生しないよう、ヒヤリハット事例の十分な共有などがポイントと言えるでしょう。対応時は、利用者一人一人とコミュニケーションを取るなどして、利用者の尊厳を損なわないよう十分配慮することも必要です。
個々の心身状態や利用時の要望などの個別事情を把握しておくことで、利用者目線に立ったサービスの提供が望め、結果的に満足度の向上にも繋がります。
注意点として、安全の保護を意識するあまり、「利用者の身体を拘束する」などの行為は、利用者にとっての尊厳を傷つけ、かえって事故が発生しやすくなるでしょう。
組織・職員の保護
介護事故の中には、訴訟などの法的問題へと発展して、損害賠償が求められるケースなどもあります。経営にあたっては、未然防止策の策定や事故発生時の対応規定などはもちろん、法的責任に関する回避・軽減対応などの組織・職員の保護という視点から取り組むことも必要です。
主な対応としては、事故の発生現場を写真に撮ったり、関係者の会話内容を録音したりするなどの証拠の記録が挙げられます。これらの対応が不十分な場合、組織や職員にとって大きな不利益が生じる可能性もあります。
なお事故リスクを減らすためには、「利用者の保護」と「組織・職員の保護」の双方のバランスなども意識しなければなりません。一方のみを極端に意識してしまうと、結果的に取り組みが失敗に終わる可能性もあります。対応時は「どのような対応が適切か」について、状況に応じてある程度の判断力が必要になるでしょう。
介護施設は、徹底的かつ継続的にリスクマネジメントを行わなければ、利用者の死亡など最悪なケースに陥る可能性が高い事業です。介護施設のリスクマネジメントは、企業法務に強い弁護士への相談がおすすめです。弁護士へ相談するメリットは以下の通りです。
- 様々な法的な面から徹底的にリスクをあぶりだせる
- リスクマネジメントの具体的な対策について相談できる
- 利用者からのクレームなどを相談できる
- 紛争が起きた場合に対応を任せることができる
- その他、従業員の雇用条件・体制に関する相談 など
介護施設特有のリスクをあぶりだし、対応することができます。まずは、お気軽にご相談ください。
リスクマネジメントに関する不安は弁護士に相談
リスクマネジメント対応にあたっては、業界共通のリスクだけでなく、それぞれが抱える特有のリスクなども十分把握した上で、継続的に改善対応を行う必要があります。細かい対応内容はケースごとに異なるため、企業法務に注力している弁護士に相談すると良いでしょう。
弁護士であれば、それぞれが抱えるリスクなどを把握した上で、リスクマネジメント対応に関する効果的な助言が期待できます。また、クレーム対応に関する相談や万が一事故が発生して訴訟へと発展した際は、裁判書類の準備や出廷代理など、裁判手続きに関するサポートを依頼することもできます。
他にも、従業員を守るための就業規則の変更などの対応も依頼できます。
まとめ
介護事故を防ぐためのリスクマネジメントとして、リスク特定・リスクアセスメント・リスク対応・リスクコントロールなどの対応が挙げられます。これらの対応を行って体制構築した後は、PDCAサイクルを実施して定期的な改善・見直しを行うことで、より実践的なリスク管理が可能となります。
なおリスクマネジメント対応にあたっては、利用者視点だけでなく組織・職員視点からも取り組む必要があるでしょう。また介護業界が共通して抱えるリスクに加えて、それぞれが抱える特有のリスクなどについても把握しておかなければなりません。
さらに細かい対応内容はケースごとに異なるため、特に「これまで対応したことがない」という場合は、企業法務に注力している弁護士に相談すると良いでしょう。
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