議員や芸能人などがSNS上で「不適切発言」をしたとして、謝罪したり番組を降板したりするニュースをよく耳にすることになりました。また、バイトが業務時間内に行った不適切な画像や動画をネット上に投稿する「バイトテロ」もなくなったわけではありません。
このような「SNS上の不適切発言問題」は、一般の会社でも他人事ではありません。ただし、いつ発生するか法務部の方にも検討がつかないため、どのように対策すべきかは、悩みの種の一つではないでしょうか。
「SNS上の不適切発言問題」の対策は、就業規則に禁止事項を記載した上で、会社側が従業員のネットリテラシーを教育するしかありません。益々ネットが普及する中、会社を守るにはどのようなことができるのか、「従業員個人のSNSの運用」と「会社の公式アカウントの運用」に関する対応について解説します。
なぜ従業員は「不適切」と分かるような投稿をしてしまうのか?
従業員による「不適切発言」の中には、明らかに「不適切」と思われるような内容を投稿してしまうケースや、一見「不適切」には思われないけれど、関係する人が見れば大問題になってしまうケースがあります。
このような投稿をしてしまう主な原因としては、「投稿者のモラルや情報リテラシーが欠けている」ということが挙げられるでしょう。また「そんなに多くの人は自分を見ない」「公開範囲を友人だけにしている」など、発信範囲を正しく理解できていないこともひとつの要因です。
従業員によるSNS不適切発言で炎上した事例
ここでは、従業員によるSNS上での不適切な投稿が原因となって炎上した事例を3つご紹介します。
通信会社の従業員が発表前の情報を漏えい
通信会社に努める従業員が、SNSにて「難航していた○○プロジェクトがようやくリリースできる」と、会社発表前に投稿して炎上。この従業員は謝罪・投稿削除するも、すでに情報が拡散されてしまい、会社としての信用を著しく落とす結果となりました。
ホテルの従業員が顧客情報を漏えい
国民的アイドルのAさんが同ホテルに宿泊中であることを知った従業員が、SNSにて「アイドルの○○がうちのホテルにいる」「ちょっと覗いてくる」などと投稿して炎上。この従業員には解雇処分が下され、ホテル側は大々的に謝罪するという事態へと発展しました。
「ホテル側へ損害賠償を請求した」などの情報はありませんが、相手が国民的アイドルですので、示談にしてもホテル側が相当な金銭的損害を受けた可能性は十分に考えられます。また、金銭的損害以上に大きい損害として、ホテルの絶対条件である「個人情報の保護」が守れなかったことによる、社会的信頼の失墜は大きな痛手となります。
回転寿司チェーン店の従業員が悪ノリ動画を投稿
回転寿司チェーン店で働く従業員が、SNSにて「ゴミ箱から取り出した魚を使って調理する」という内容の動画を投稿して炎上。この従業員は実名・顔写真・学校名まで特定され、店側は謝罪文を発表するも、およそ30億円もの被害損失が生じたと言われています。
会社側ができる3つの防止策
会社が取るべき対応としては、以下の3つがあります。
1:就業規則へソーシャルメディアの利用に関する規定を追記する
就業規則にて、SNS利用時の注意点や違反対応などについて記載しておくことで、炎上の未然防止や処分対応の効率化などが望めるでしょう。以下は規定例です。
なお、規定を追加した後は、社内メールやチャット、手紙などにて従業員にもわかりやすい言葉で通知し、必ず目を通してもらうようにしましょう。
【弁護士監修の規定例】 1ソーシャルメディアの利用に関する規定
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2:ソーシャルメディアの利用上のルールを具体的に規定し周知する
就業規則にソーシャルメディアの利用ルール規定していても、具体的に明記し周知までする会社は少ないでしょう。以下のようにソーシャルメディアの利用方法を規定し、休憩所に貼る等常に目に入るようにするのも1つの方法です。
【ソーシャルメディアに関する利用上のルール(約束)】 近年、ソーシャルメディア(※)の利用により、投稿者本人はもちろんのこと、家族、友人、会社にも大きな損害・悪影響を与える事件が発生しています。このような事件に巻き込まれないためにも、以下の5つのルールを守り楽しく利用しましょう。 1:他人の悪口や性差・人種・宗教に関する投稿は炎上しやすいのでやめましょう× ○○国の人はみんなマナーが悪くて最悪。来店しないで欲しい × ベビーカー邪魔だから、来店しないでほしい ※近年「育児」「妊娠」に関する発言も過剰反応されやすい傾向にあります。あなたが「ポジティブ」と思うような発言でも、炎上する火種になる可能性もゼロではありません。発言は避けましょう。 2:会社の未公開情報は、どのような事情があれ絶対に投稿してはいけません。真偽が定かでない情報でも、疑う余地が発生し、思わぬトラブルを発生させます。 × 来週から○○の新作を発売するらしい!! × うちの会社って近いうちに上場するらしい 3:会社の営業上の情報、経営上の情報、顧客の個人情報、ノウハウや知的財産等会社の秘密情報に関する投稿をしてはいけません。思わぬ誤解を招く可能性があります。匿名での発信や会社名を明らかにせずに行う発信であっても、過去の発信や閲覧者によるコメント等から、発信者や勤務先の特定がなされる可能性がありますので絶対にやめましょう。 × ○○店に関する相談などはサポートセンターに相談してください(○○-△△△△) × ○○店でバイトしてるけど、提供している食品はすべて有機野菜です
4:他人のプライバシーにかかわる情報を本人に無許可で投稿してはいけません× 今日うちの店に○○が来た!!!こっそり写真撮っちゃった(写真添付) 5:他人の炎上投稿に対し、コメントをしてしまうと、飛び火する可能性があるのでやめましょうなお、不適切発言を発見した場合は、早急に上司もしくは総合窓口(000-000-000)までご連絡ください。 ※ソーシャルメディアに該当するもの
なお、これ以外にもネット上で不特定多数の人が閲覧すると思われるWikipedia、まとめサイト、転職サイトの口コミ等の炎上する恐れがあるもの。 |
3:会社の体制・待遇自体を見直す
例えば「育児休暇を取ったら復帰後に移動させられた」など、会社の体制・待遇への不満が炎上につながるケースもあります。また、会社に愛着を持てないことも、このような不適切発言の投稿につながっているかもしれません。
そのため、会社としては、不適切発言に関する教育を行うだけでなく、給料面や勤務時間、福利厚生などの待遇を見直し、従業員の会社への愛着・好感を持たせることも防止対策を行う上で重要なポイントです。
会社の公式アカウントこそ「不適切発言」に注意が必要
SNS上に広告を出したり、公式アカウントから情報を発信したり、多くの会社はSNSを活用して広告活動するでしょう。
多額の費用をかけなくても、簡単に広告できるメリットがある反面、公式アカウントの投稿が「不適切」と言われ、炎上してしまうリスクを常に抱えることになります。
公式アカウントで炎上してしまった事例には、以下のようなものがあります。
公式アカウントで炎上した事例
書店A社がヘイトスピーチを投稿
書店A社が公式アカウントにて、「隣国を嫌う方や、領土問題・反日に関する疑問がある方は必見」などと投稿して炎上。「批判的」「排外主義を煽る」などと批判された上に、会社のあり方や行くのをやめることを推奨するようなツイートも多く見受けられました。
A社は投稿を削除したのち、公式HPにて「特定思想に偏った表現を用いてしまい、一書店として犯してはならないことをしてしまった」と謝罪文を掲載しました。
A協会の討論番組が不適切な政治的内容を投稿
A協会が放送する討論番組の公式アカウントにて、「反対意見は分かりにくいが、賛成意見はスッと頭に入ってくる」などと、安全保障関連法案に関する内容が投稿されたことで炎上。
各所から批判を受けたのち、公式アカウントにて「言葉足らずな部分があり、誤解を生じさせてしまった」として釈明し、謝罪しています。
CDショップA社が個人の投稿に執拗に反応
広島店にあるCDショップA社が公式アカウントにて、一般ユーザーの投稿に対して、「どうしてそんな投稿をしたのか」「脅迫罪として記録させてもらう」「あとは裁判所で話しましょう」などと執拗に反応したことで炎上。
A社は「個人的な感情に振り回されてしまったことで、このような大事になってしまった」と謝罪しています。
公式アカウントで避けるべき6つの発言
以下のような発言は、非常に繊細な話題であり、たとえポジティブな発言だとしても炎上のきっかけになり得ます。
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また、一般の方からどのような投稿をされても、SNS上で返信してはなりません。誹謗中傷に該当する場合は、焦らずに一度弁護士を通して法的に解決するようにしましょう。
公式アカウントを運用する際の注意点
公式アカウントの運用にあたっては、運用前にどのような発言が炎上しやすいのか、逆にどのような発言が好まれるのかを詳しく調査しなければなりません。また、運用時は以下の点を注意しましょう。
・運用のルール・使用する言葉の規制を行い、共有する ・投稿前は必ず複数の担当者で投稿内容を確認する ・担当者は一方の性別に偏らせないようにする |
また、SNS運用で成功しているアカウントを参考にするのも有効的です。
まとめ|万が一炎上した際の対応体制をあらかじめ整えておくことが重要
公式アカウントに従業員が不適切発言を投稿し、炎上してしまった場合に備え、社内で対応体制を整えておくことも重要です。
例えば、有事の際すぐに相談できるよう顧問弁護士と契約しておくことや、基本的な対応マニュアルを作成しておくことが重要です。対応マニュアルに関しては、実用的なものでなければなりません。そのため、会社の体制に合わせ、弁護士に相談しながら作成することをおすすめします。
トラブル対策は会社の業種に合わせ、より具体的な内容にする必要があります。従業員を正しく教育したいのであれば、弁護士に依頼するのも一つの方法です。問題が発生する前に、本当に問題ないのか弁護士に一度リスクチェックしてもらいましょう。