インサイダー取引とは|規制の内容や違反のパターンについて解説

専門家監修記事
インサイダー取引規制は、有価証券市場での取引公正を確保するためのルールですが、条文が難解で理解しにくいのが実情。そこで本記事では、インサイダー取引規制の内容についてわかりやすく解説します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
クレーム・不祥事

インサイダー取引」という言葉は、世間でも比較的よく耳にするかと思います。しかし、インサイダー取引の詳しい内容についてはよく知らないという方も多いのではないでしょうか。

 

インサイダー取引とは、有価証券市場での取引公正(市場での株式取引等の公正)を確保するためを確保するためのルールです。金融商品取引法という法律でその内容が定められていますが、条文が難解でなかなかとっつきにくいというのが実情です。

 

そこで、この記事ではインサイダー取引規制の内容についてわかりやすく解説します。

 

 

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インサイダー取引とは?

まず、そもそも「インサイダー取引」とはどのようなものなのでしょうか?

 

インサイダー取引を分かりやすく言うと、「上場企業の関係者が、関係者しか知らないような重要情報に基づいて株式取引などを行うこと」ということになります。

 

具体的な例を見てみましょう。

 

(例①)

X社の役員Aは、来月の決算でA社の業績が市場の予想よりも下回ることが確実であるという情報を得ていた。

Aは、この情報が公表される前に、自分が保有しているX社の株式を市場で売却した。

X社の決算が公表されると、X社の株価は大暴落。

暴落前にX社株を売り抜けていたAは、損失を免れた。

 

(例②)

Y社の役員Bは、来月の決算でA社の業績が市場の予想よりも大幅に上回ることが間違いないという情報を得ていた。

Bは、この情報が公表される前に、市場でY社の株式を大量に購入した。

Y社の決算が公表されると、Y社の株価は急上昇。

Bは多額の利益を得ることになった。

 

どちらの例も、会社の役員が内部の人しか知り得ない情報を用いて、株式市場で抜け駆け的に利益を得た(損失を回避した)という事例になります。

 

このような行為は、誰が見ても不公平に感じられるでしょう。しかも、AやBが市場で得た利益(回避した損失)は、市場全体が損失として被ることになります。

つまり、AやBの行為は、公正な市場を破壊する不正行為なのです。

 

金融商品取引法は、このような不正なインサイダー取引を厳しく禁じています。

 

インサイダー取引規制の対象となる人は?

インサイダー取引規制の対象となるのは、大きく分けて

  1. 上場会社等の「会社関係者
  2. 公開買付者等関係者

の2つです。

会社関係者とは?

会社関係者(金融商品取引法(以下「金商法」)166条1項)とは、わかりやすく言えば会社の内部者です。具体的には以下のような立場にいる人です。

 

  • 上場会社等の役員、代理人、使用人その他の従業者
  • 上場会社等の議決権の100分の3以上の株式を保有する株主など
  • 上場会社等について法令に基づく権限を有する者
  • 上場会社等の取引先

 

こうした人たちは、仕事上のやり取りの中で、その会社に関する重要な情報に触れる機会がある人たちといえます。そのため、インサイダー取引の対象となっています。

 

なお、これらの立場から退いた後でも、1年以内であれば依然としてインサイダー取引規制の対象となります。

 

(会社関係者の禁止行為)

当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。

引用元:金融商品取引法第166条

公開買付者等関係者

公開買付者等関係者(金商法167条1項)とは、公開買付け等を行おうとしている会社の内部者です。

 

具体的には以下のような立場にいる人です。

 

  • 公開買付者等の役員、代理人、使用人その他の従業者
  • 公開買付者等の議決権の100分の3以上の株式を保有する株主など
  • 公開買付者等について法令に基づく権限を有する者
  • 公開買付者等の取引先

 

公開買付けとは、「〇〇社の株式を1株△円で買います」ということを公告した上で、不特定多数の株主から市場外で株式を買い集める手続きです。

 

公開買付けが公表されると、提示された公開買付価格に応じて株価が上昇するのが通常です。つまり、公開買付けを行うという事実を公表する前に対象株式を買い集めておけば、利益を得られる可能性が非常に高いということがいえます。

 

そのため、公開買付けを行おうとしている会社の内部者は、情報公開前に公開買付けの対象となっている株式の取引をすることを禁止されています。

会社関係者、公開買付者等関係者から情報を聞いた人も規制対象となる

会社関係者や公開買付者等関係者が自分で取引をしなかったとしても、たとえば家族や友人に情報を伝えて取引をさせ、その家族や友人が利益を得たとしたらどうでしょうか。

 

他の人から見れば、本人が取引をするのと同じように不公平でしょう。

 

会社関係者や公開買付者等関係者から、インサイダー取引規制の対象となる情報を聞いた人を「第一次情報受領者」といいます。金商法は、第一次情報受領者についてもインサイダー取引規制の対象としています(金商法166条3項、167条3項)。

 

なお、第一次情報受領者から重要情報をさらに又聞きした人(第二次情報受領者)以降は、インサイダー取引規制の対象外です。

 

インサイダー取引規制の対象となる情報は?

次に、どのような情報がインサイダー取引規制の対象となっているかについて解説します。

 

会社関係者に関するインサイダー取引規制においては、「重要事実」が対象となります。

公開買付者等関係者に関するインサイダー取引規制においては、公開買付け等の実施に関する事実または公開買付け等の中止に関する事実となります。

 

それぞれについて解説します。

重要事実とは

会社関係者に関するインサイダー取引規制の対象となる「重要事実」は、大きく以下の3つの事実・情報に分けられます。

 

  • 決定事実(金商法166条2項1号)
  • 発生事実(同項2号)
  • 決算情報(同項3号)

①決定事実

決定事実とは、会社が投資判断に著しい影響を及ぼす重要な決定をしたという事実をいいます。

重要な決定の例としては、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 新株発行
  • 資本金等の減少
  • 合併や会社分割などの組織再編行為
  • 事業譲渡
  • 解散 etc.

 

こうした事実は会社経営の根本に関わるものですので、必然的に株価への影響も大きくなります。そのため、決定事実がインサイダー取引規制の対象情報とされています。

 

なお、上場会社等の子会社に関して上記のような内容の決定がされた事実についても、決定事実に含まれます(金商法166条2項5号)。

②発生事実

発生事実とは、会社について、投資判断に著しい影響を及ぼす重要な事象が発生したという事実をいいます。

 

投資判断に著しい影響を及ぼす重要な事象の例は、以下のとおりです。

 

  • 災害や業務の過程で生じた損害
  • 主要株主の異動
  • 上場廃止等の原因となる事実 etc.

 

上記の事実は、これまでの会社経営の前提を覆す可能性のある大きな事実といえます。当然、株価もこれらの事実の発生を受けて大きく変動することが見込まれます。

そのため、発生事実がインサイダー取引規制の対象情報とされています。

 

なお、上場会社等の子会社に関して上記のような事象が発生した事実についても、発生事実に含まれます(金商法166条2項6号)。

③決算情報

決算情報とは、会社の売上高等について、直近公表済みの予想値と最新の予想値または決算に差異が生じたという情報をいいます。決算情報は、株式市場において投機筋を中心として非常に関心が高く、株価にダイレクトに影響を及ぼします。

 

そのため、決算情報がインサイダー取引規制の対象情報とされています。なお、上場会社等の子会社に関して上記のような差異が生じた情報についても、決算情報に含まれます(金商法166条2項7号)。

公開買付け等の実施・中止に関する事実

先に解説したように、公開買付けが発表されると、公開買付価格に応じて株価が上昇するのが通常です。その反面、仮に公開買付けが中止されることが発表された場合、反動で株価が下落することが予想されます。

 

そのため金商法は、公開買付け等の実施・中止の両方に関する事実についてインサイダー取引規制の対象情報としています(金商法167条1項)。

 

インサイダー取引規制の対象となる行為は?

インサイダー取引規制の対象となる行為は、大きく分けて以下の2つです。

 

①対象会社の株式などの「売買等」

②未公表の重要事実・公開買付け等の実施や中止に関する事実の「情報伝達行為」

 

4-1. 株式などの「売買等」とは?

未公表の重要事実を知った上場会社等の会社関係者は、その重要事実が公表された後でなければ、その会社の株式などの売買等を行ってはならないものとされています(金商法166条1項)。

 

また公開買付者等関係者は、公開買付け等に関する事実が公表された後でなければ、公開買付けの対象となっている会社の株式などの売買等を行ってはならないものとされています(金商法167条1項)。

 

つまり、金商法は市場にインパクトを与える未公表の重要情報をもとに抜け駆け的な取引をすることを禁止しているのです。

 

「売買等」の例は以下のとおりです。

 

  • 売買
  • 合併・会社分割による承継
  • デリバティブ取引

 

なお、会社関係者や公開買付者等関係者から情報を聞いた第一次情報受領者についても、同様に株式などの売買等が禁止されます(金商法166条3項、167条3項)。

「情報伝達行為」とは?

未公表の重要事実を知った上場会社等の会社関係者は、他人に利益を得させまたは損失を回避させる目的をもって、未公表の重要事実を他人に伝達してはならないものとされています(金商法167条の2第1項)。

 

また公開買付者等関係者は、他人に利益を得させまたは損失を回避させる目的をもって、未公表の公開買付け等の実施・中止に関する事実を他人に伝達してはならないものとされています(金商法167条の2第2項)。

 

インサイダー取引規制の本丸は売買等の取引規制ですが、情報伝達規制はインサイダー取引の予防となる規制として重要な意味を持っています。

 

なお取引規制とは異なり、情報伝達規制については、第一次情報受領者は対象外となっています。つまり、第一次情報受領者が他の人に対して重要情報等を伝達する行為については規制対象外となります。

「公表」とは?

インサイダー取引規制は、対象情報の公表前における売買等や情報伝達行為について規制するものです。したがって、いつ「公表」がなされたかということが重要な基準となります。

 

「公表」がなされたと認められるためには、次のいずれかを満たす必要があります。

 

  1. 2つ以上の主要報道機関に対して公開し、周知のために必要な期間(12時間)が経過したこと
  2. 対象事実を上場先の金融商品取引所に通知し、公衆縦覧に供されたこと
  3. 対象事実が記載された有価証券届出書、有価証券報告書、臨時報告書等が公衆の縦覧に供されたこと

 

このように、「公表」の方法が厳密に決まっていると言うことに注意が必要です。

 

インサイダー取引が発覚する主な経緯

インサイダー取引が発覚してしまう原因には、大きく分けて以下の2つがあります。

 

  1. 証券取引等監視委員会による調査
  2. 内部者の通報

証券取引等監視委員会による調査

証券取引等監視委員会は、市場にインパクトを与えるような事件が起こった場合、その前に不自然な取引が行われていないかを調査します。

 

市場での取引であれば、取引所に照会をかけることにより明るみに出ることになります。また市場外の取引についても、関係する会社の内部に調査が入れば判明する可能性が高いといえます。

内部者の通報

インサイダー取引が内部者からの通報により発覚するケースもしばしば見受けられます。

 

例えば、大規模なインサイダー取引が組織ぐるみで行われているというケースでは、これに関与した内部者やこれを知った内部者から内部通報があって、事が発覚するということもあるかもしれません。

 

まとめ

インサイダー取引についての金商法上の規制内容を中心に解説しました。

 

インサイダー取引は、こっそり行っているつもりでも「壁に耳あり障子に目あり」、発覚する可能性は高いと考えましょう。

 

インサイダー取引は刑事罰の対象ともなっていて、軽い気持ちで手を出してしまうと多くのものを失ってしまう結果となります。そのため、インサイダー取引を行うことは固より、インサイダー行為と疑われるような行為も絶対にやめましょう

 

  • 自分の行おうとしている取引がインサイダー取引に該当するのではないかと不安な場合
  • インサイダー取引に関わってしまった場合

 

以上のような場合には、すぐに弁護士に相談をしてください。

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