IPOのメリット・デメリット|上場に向けて経営者が準備すべき事は?

専門家監修記事
IPO(株式上場)とは証券取引所を介して株式の売買が行われるようになることを指します。IPOにはさまざまなメリットがありますが、多くの基準をクリアすることが求められます。この記事ではIPOのメリット・デメリットと準備についてご紹介します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
IPO

IPO(株式上場)とは証券取引所を介して株式の売買が行われるようになることを指します。そうした会社は上場企業と呼称されるようになります。

 

IPOにはさまざまなメリットがあり、会社を大きくしていく上で非常に有益なものです。 しかし、一方でIPOの際には、多くの基準をクリアすることが求められるため、相応の時間や業務量が必要になります。

 

それでは、IPOを考えるにあたって、どのようなメリットやデメリットがあるのか。どのような準備をしていけばよいのかということを、この記事ではご紹介していきます。  

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IPO(株式上場)の3大メリット

IPOを行う上でのメリットを、順に3つご紹介します。

  • 企業としてのメリット
  • 従業員のメリット
  • 株主のメリット

企業としてのメリット

IPOを行う上での企業へのメリットは、主に次の4つです。

資金調達のしやすさ

大きなメリットの1つは増資による新たな株の発行です。これによって、株式市場からの資金調達を行うことが可能になります。

 

また、IPOを行うにあたっては、株式単位数、株主数、事業継続年数といった取引所が定める基準をクリアする必要があります。 そのため、企業の信頼度が増し、融資を受ける場合において有利になるのです。

知名度向上による新規取引の拡大

IPOでは、名声や知名度の向上も望むことができます。IPOを行う上で、このメリットを強く期待する企業も少なくありません。

 

このような知名度の向上は、ただ知ってもらう機会を増やすだけではなく、世間への広まりによって信頼を向上させることにもつながります。 そのため、新規取引の拡大にも広がっていくことになるのです。

信用度の地盤固めが強固になる

IPOのためには、クリアしなくてはならない基準がいくつも存在しています。さらに、上場後も経営上の情報や株価を世間一般に公開していくことになります。

 

このようなことを通して、健全な経営が行われていることを示し、信用度の地盤固めを強固にすることが可能になるのです。

人材採用の質が向上

IPOを行った後では、人材採用にも変化が起こります。知名度の向上や、信頼度の高まりによって、その企業で働きたいと考える人材の増加が望めます。

従業員のメリット

IPOを行うことで得られる従業員へのメリットは4つです。

インセンティブの付与

従業員持ち株制度やストックオプション等は、従業員のインセンティブとなります。自身の努力で業績が上がった場合、株価も上昇することになるので、自社株取得によって成果に対する正当な報酬を得ることができるのです。

ストックオプションの付与

ストックオプションとは、従業員に与えられる新株予約権のことを言います。株式をある一定額で購入することができ、上場して業績が上がった際に売ることによって、大きな利益を生む可能性があります。

 

なお、会社の株価が上がらなければ、従業員は利益を得ることはできません。ストックオプションの行使、すなわち株式の売却にも、諸条件が設定されるのが普通なので、簡単に利益を得られるわけではない点には留意する必要があります。

働き方の多様性とモチベーション向上の一環

IPOを行うにあたって、企業は内部管理体制を整えなければいけません。それによって、従来以上に働きやすい職場へと変化していくことになるでしょう。

 

また、上場企業になったということも社員のモチベーションによい影響を与えるかもしれません。 前述したストックオプションの付与も、労働に対する貢献意欲に寄与することが見込めます。

上場に従事した実績(転職には有利)

上場を行うには数多くの準備が必要になります。そうした経験や、責任をもって上場にかかわったことは、転職等での大きなポイントとなります。

 

そもそも上場を経験すること自体が一般的には少なく、新たに上場を見込んでいる企業などにとって、大きな評価ポイントと判断されるでしょう。

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株主のメリット

IPOによる株主のメリットは2つあります。

株式の流通拡大

1つは株式市場で取引されることによる流通性の拡大です。これによって、株式売買が未上場の場合に比べて容易になり、資金調達の幅が広がります。

資産価値の向上

株式の流通拡大によって株式の資産価値が高まります。また、上場に成功すると資金調達をしやすくなるため、その後の業績アップや事業拡大による株価上昇も見込めます。その結果、株主が受ける経済的利益も増えることになります。  

IPOのデメリット5つ

一方でIPOによって生じる、5つのデメリットを順に紹介します。

上場準備に数年かかる(3年〜5年)

一般的に上場には長い期間が必要になります。この期間にどのような準備をしていくのか3つご紹介します。

監査法人や主幹事証券会社の選定

IPOは自社だけで達成できることではなく、多くのパートナーとの連携が不可欠です。そして、IPOを成功させる上で、監査法人や主幹事証券会社の選定は非常に重要なものとなります。

 

主幹事証券会社は、公開準備指導、公開審査、株式の引き受け及び販売を主な役割としています。 すなわち、株式を公開し販売していく上で重要な要素を一手に担っているのです。

 

また、上場するには、監査法人によって財務諸表等について『金融商品取引法』に準ずる監査を受けている必要があります。そのため、監査法人と監査契約を締結する必要があるのです。

 

監査法人や主幹事証券会社は、こうした重要な業務を担っています。下記の表も参考に、慎重に選定を行いましょう。

監査法人と主幹事証券会社を選定する際の主なポイント
監査法人 コストが自社に見合っているか(安ければいい、というわけではない)
迅速に対応してくれるか
自社の業界に対する知見を豊富に持っているか
主幹事証券会社 新規株式公開に関する実績・販売力が豊かか
自社の業界に対する知見を豊富に持っているか
IPO後も株式の運用について良質なサポートが受けられそうか

監査法人への中間審査準備

IPOの準備が順調な場合、証券取引所による中間審査が行われます。これによってIPOを行うためにどの程度準備が進んでいるか、どのような点を改善していくかの把握が行われることになります。

 

具体的には、多くの資料の提出が求められるほか、数百に及ぶ質問事項への回答書を作成したり、ヒアリングが行われたりします。実際の審査だけでも約3ヶ月、準備まで含めればさらに長期間にわたって手続きをしていくことになります。

 

これにより、最終審査までの改善点が明確になりますが、通常の業務を遂行しながら中間審査の対応もしていくことは、大きな労力になるといえるでしょう。

外部からの人材確保等

IPOの準備を行っていくにあたって、やるべき業務や、経験のない作業の増加が予想されます。

 

これは特に管理部門において顕著でしょう。中でも、証券会社や証券取引所などへの対外的な窓口になる、管理部門長クラスの職務に対応できる人材は、多くの中小企業にとっては自前で育成していくのが難しいと思われます。

 

したがって、外部からの人材確保等を行い、リソースの不足を補っていく必要が生じるでしょう。

上場準備中のコストが増大

上場準備にあたってコストの増大は避けられません。企業の規模などによっても変化してきますが、最低でも数千万円程度は必要と言われています。コストの増大は上場の大きなデメリットとなります。

準備費用も高額になる(監査法人、社内外の監査役の設置など)

準備の費用も軽視できません。監査報告書の作成を行う監査法人への報酬や、証券会社の引き受け指導料といった費用がかさむことになります。

 

また、前述したように、IPOを担当する管理部門で新たな人材が必要となることも多いため、そうした人件費等も考慮せねばなりません。

社内体制の見直しと管理コスト

上場にあたって社内体制を見直す必要が出てきます。特に管理部の強化や各種社内機関の設置など社内コストの発生も無視できません。例えば、勤怠管理やPL上の見せ方など、どんぶり勘定は許されません。

失敗した場合の損失も大きい

準備の段階でも多額の費用が発生するため、上場失敗時の損失は多大なものとなります。IPOを考える場合には企業の体力を考え、周到な準備が求められています。

業績の維持だけではなく向上へのプレッシャー

上場が行われた場合、社会や株主から、業績の維持だけでなく持続的な向上を求められていくことになります。そうした期待に応えるため、短期的な結果を求めるようになりがちになるなどといったデメリットも存在しています。

社員のモチベーションに変化

IPOを行う上では社内体制も大きく変化していくことになります。特に管理部などは徹底した整備が行われ、アバウトな勘定なども当然許されなくなります。こうした変化に対して、不満を抱く社員がいないとも限りません。

上場後のリスクもある

無事に上場が行われたからといって、それで安心というわけではありません。当然ながら上場後にもリスクは存在します。その中でも主な5つを順に紹介いたします。

買収されるリスク

株式上場が行われた場合、株式市場を通して自社株が自由に取引されることになります。そのため、常に自社にとって良い株主に恵まれるとは限りません。

 

場合によっては不都合な相手に会社自体を買収されてしまう恐れもあり、常に注意を払う必要が出てきます。

上場維持コストの発生

上場後も維持管理のためのコストが常に発生し続けます。

 

準備段階で強化した管理部の維持コストはもちろん、定時株主総会の開催にかかるコストや監査に対して支払う報酬など、上場以前には必要のなかったコストが数多く発生します。あらかじめ上場維持コストも考慮せねばなりません。

東京証券取引所の年間上場料

 

時価総額

 

50億円以下 50億円を超え250億円以下 250億円を超え500億円以下 500億円を超え2,500億円以下 2,500億円を超え5,000億円以下 5,000億円を超えるもの
市場第一部 96 万円 168 万円 240 万円 312 万円 384 万円 456 万円
市場第二部 72 万円 144 万円 216 万円 288 万円 360 万円 432 万円
マザーズ 48 万円 120 万円 192 万円 264 万円 336 万円 408 万円
JASDAQ 時価総額1,000億円以下:100万円 時価総額1,000億円を超えるもの:120万円

出典:東京証券取引所 新規上場ガイドブック

意思決定の鈍化や自由度の制約

上場するということは、会社が創業者の手を離れ、いわゆる『パブリックカンパニー』になることを意味しています。自由に自社株が取り引きされ、株主も多様化するため、そうした多様な方々の思いに応えるためにも意思決定は慎重にならざるを得ません。

 

また、早期の結果が求められ、長期的スパンでの意思決定を行いづらくなるといったデメリットも持ち合わせています。

ディスクロージャー(情報公開)への対応

上場会社は、その義務として会社情報の適時開示が求められています。投資家の証券投資は自己責任ではありますが、適切な情報が公開されていない場合、判断材料がないため、自己責任とは言えなくなります。

 

したがって、企業にとって不都合な情報でも開示していくことが求められるのです。

事業承継が難しくなる懸念もある

後継者が社長自体を承継したとしても、株式の保有がなければ経営権を握っているとは言えません。また、上場を行ったことによって、後継者が株式買取りを行いづらくなり、事業承継が厳しくなるといった状況も発生します。

 

安定した承継を目指す上では、上場企業よりも未上場企業の方がメリットが多いともいえます。  

上場の準備に必要なサポートとは?

IPOを行うには数年にわたる準備が必要になりますが、その際にはさまざまな専門家・専門機関のサポートが欠かせません。

コンサルティング会社

上場準備段階では、会社の分析や管理体制の強化、規則などの整備といったさまざまな作業が求められます。また、監査法人や証券会社等の選定も行わなければいけません。

 

こうした諸作業のサポートを行っていくのがコンサルティング会社です。 コンサルティング会社は、企業と同じ目線に立って全体のサポートを行ってくれます。

顧問弁護士の存在

IPOを行っていく上で、顧問弁護士の存在は不可欠です。

 

IPOは基本的に主幹事証券会社の主導で行っていくことになりますが、どの証券会社を主幹事とすべきかのアドバイスや、決定後の書類作成、各種規定の整備を行う際に大きな役割を果たすのが顧問弁護士の存在です。

証券会社・監査法人

証券会社・監査法人は、IPOにおいて最も重要だといっても過言ではありません。

 

主幹事証券会社は上場準備から、上場以後もパートナーとなる関係であり、常に企業の立場に立ったIPOのためのアドバイスを提示してくれます。また、証券取引所以前に審査を行うのも証券会社の役割です。優秀な証券会社を味方につけることによって、IPOまでの距離が一段と近くなります。

 

監査法人は、IPOにあたって必要とされている金融商品取引法に準ずる監査を行います。これまで業務にあいまいな部分が多かった会社であっても、監査法人の指導に基づいて業務を改善することで、安心して株主が株式を購入できる信頼性の高い企業へと成長することができます。

ベンチャーキャピタル

ベンチャーキャピタルは、上場を目指している有力な会社に対しての支援や投資を行っています。未公開株を大量に買いつけてくれるため、資金調達の面では大きなメリットがあるでしょう。

 

一方、多くのベンチャーキャピタルが株式公開後に売却して利益を得るというスタイルをとっているため、ベンチャーキャピタルの株主構成比率が高すぎると、他の投資家に株価下落を警戒される恐れもあります。

証券代行機関

証券代行機関とは、株主総会の運営指導や、株主名簿の整備といった株式関係の事務を代行する会社のことを指します。上場を行う場合にはこの設置が義務付けられています。

 

大手数社の信託銀行と専門業者でシェアの大半を占めていますが、料金体系やサービス内容はそれぞれに異なるので、自社に合った機関を慎重に選択する必要があります。

銀行などの金融機関

銀行のような金融機関も、IPOを行う企業に対して情報提供などの支援業務を行っています。資本政策の立案や、長期計画の策定といったことを支援の内容としており、関連会社を持つ金融機関等では幅広いサポートを受けることが可能です。  

上場準備はコンサルタント・顧問弁護士の確保から

上場準備は、コンサルタント・顧問弁護士を確保することからはじめるのが最善です。

 

コンサルタントは企業の立場に立って同じ目線で全体的なサポートを行います。上場の経験のない企業にとって、ノウハウを持ったコンサルタントの存在は、確実かつ安心できる上場準備へとつながり迅速な上場への近道となります。

 

また、法律面での助言や指導を行う顧問弁護士は、何か問題の起きる前に顧問契約を締結しておくことが望ましいです。顧問弁護士をつけておけば、いざという時にトラブルを防止し、思わぬ事態によってIPOが難しくなることを、できる限り防ぐことができます。  

まとめ

IPOにあたっては、準備段階から上場後まで、多くの業務が必要となります。しかし、上場することで、資金面、人材確保面、会社の成長面など、さまざまな面でメリットを得ることもできます。

 

上場への一番の近道は、専門家に相談することです。まずは、顧問弁護士やコンサルタントの選定から開始し、自社にとってのメリット・デメリットを比較してみてはいかがでしょうか。

IPOの流れは確認済ですか?

IPOを弁護士に相談する前に、IPOの具体的な流れについてご紹介します。

 

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