労務担当必見!就業規則に違反した社員への対処法

専門家監修記事
就業規則を作成しておくことは、企業内の問題発生を防ぐ手立てとなります。しかし、労働者が就業規則に違反する行為を起こした際の対応については、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。ここでは、就業規則に違反した社員の処分方法やその注意点などを解説していきます。
阪神総合法律事務所
曾波 重之
監修記事
人事・労務

就業規則とは労働基準法などに基づき、労働者が守らなければならない規則などについて規律したもののことを指します。就業規則を作成しておくことは、企業内の問題を未然に防ぐ手立てとなります。

労働者が頻繁に遅刻する、業績を上げないといった理由で簡単に解雇することはできないものです。就業規則にこうした場合の手続きなどを定めておくことで、円滑な解決を期待できます。

しかし、労働者が就業規則に違反する行為を起こした場合の対応については、ご存知ない方が多いのも現状です。ここでは、就業規則に違反した社員の処分方法やその注意点などを解説していきます

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まずは就業規則の周知と内容の確認を

使用者にはそもそも、就業規則の周知が求められています。

使用者は就業規則の周知が義務付けられている

使用者は労働基準法106条によって、就業規則を各労働者へ周知することが義務付けられています。

周知の方法としては

  • 書面で就業規則を作成しその配布を行う
  • 食堂などの見やすい場所に掲示を行う
  • パソコンにデータとして保存し、誰でもアクセス可能な状態にしておく

などがあります。

周知が行われていないと労働基準法違反となってしまうので、注意しなくてはなりません。

就業規則の必要性

就業規則で労働者が問題を起こした時の手続きを定めておくことは、将来的にそれらが積み重なり解雇を言い渡した際に不当解雇と主張されない1つの理由になります。懲戒対象になる事柄をあらかじめ定めて周知しておくことで、労働者側もそれを理解しているとされるからです。

使用者側は合理的な理由に基づいた懲戒対象を定めておくことで、規則違反となるような問題を起こす社員に対して対応できるようになるのです。
 

就業規則に違反した社員への一般的な懲戒処分

就業規則に違反した社員には懲戒処分が行われます。この懲戒処分には大きく7種類があります。それぞれ見ていきましょう。

戒告

戒告は懲戒処分の中で最も軽いものとされています。処分の内容としては、口頭による注意や文書による注意があります。将来をいさめる目的の処分で、後述する譴責処分と似た内容となっていますが、始末書の提出が求められていない点が異なります。

譴責(けんせき)処分

不正や過失などがあった場合にそれをいさめる目的で用いられます。一般的には戒告と同様に懲戒処分の中でも最も軽い処分とされています。

譴責処分は戒告と異なり、一般的には始末書や顛末書といった文書の提出が求められることになります。ただし、労働者がこの譴責処分自体を不服とした場合には、始末書などの提出を拒まれることがあります。

減給

懲戒処分の中には、給料から一定の額を引く減給処分があります。この減給額については、労働基準法で上限が定められており、1回に減給できる額は1度の違反については平均賃金の半日分まで、総額が1ヶ月での支給額の10分の1を超えてはならないとされています。

【参考】労働基準法91条

出勤停止

一定期間の労働者の労働行為を禁止する処分が出勤停止です。出勤停止期間中にはその期間の間の賃金が支給されず、またこの期間は勤続年数としても計算されません。一般的な企業では、1週間から1ヶ月以内が出勤停止期間とされています。

降格

役職や職位からの解任、職能資格の引き下げといった処分を行うのが降格です。これはあくまでも懲戒処分としての降格であり、人事異動における降格とは異なります。なお、人事異動での降格は就業規則に定める必要がなく、簡易に行えるという特徴があります。

諭旨解雇

諭旨解雇は、懲戒解雇になってもおかしくないような事態の場合に、会社側の酌量によってなされる措置です。解雇であることには変わりありませんが、諭旨解雇の場合には期間内の退職届の提出を促し、労働者がそれに従えば依願退職となります。

なお、扱いとしては依願退職となりますが、退職金などについては満額支払われないといった措置も一般的です。

懲戒解雇

懲戒処分の中でも、最も重い処分なのがこの懲戒解雇です。この処分では会社側が一方的に労働契約の解消を行います。懲戒解雇はその処分の重さから、問題行為が規定のさまざまな条件に当てはまっていることが不可欠です。

懲戒解雇を行うには、当該労働者が違反行為を行った際に即座に行うことがポイントとなります。時間がある程度経ってから処分を行った場合には、解雇の必要性がなくなっていたと見なされ、不適当な処分とされる場合もあります。
 

懲戒解雇が認められる事由

懲戒解雇は重い処分であるため、社会通念上相当と認められるような場合でなければ処分が無効になる場合があります。主に、刑法違反行為、悪質な風紀を乱す行為、経歴詐称、遅刻・欠勤等が複数回注意後も改まらないといった場合です。社会通念上相当について詳しくは後述します。

また、これらの規定は厳格に運用することが求められています。以前別の労働者に対してより軽い処分を下している場合、次の労働者が同じことをした場合に懲戒解雇としても、無効になる恐れがあります。
 

退職金の不支給もある

懲戒解雇では退職金も不支給とする場合が多数です。もちろん不支給とする旨も就業規則内に明示しておく必要があります。

しかし、すべてのケースで不支給とするわけではなく、具体的な違反の内容と、これまでの勤続における会社への功労などを鑑みて、一定割合のみ支払われるケースも存在します。

就業規則違反を社員に伝える際に会社が気をつけるポイント

就業規則違反は社員の昇進などにも関わってくる重大な問題であるため、伝える際にも注意が必要です。ここではそのポイントをご紹介します。

どういった行為で懲戒になったのか伝える

どのような行為が懲戒の対象なのかを、労働者に明確に伝える必要があります。
 

労働契約法上の「社会通念上相当」とは

社会通念上相当とは、社員が犯した事象に対して、その処分内容が釣り合っていることを指します。懲戒理由に使用者が懲戒通達時に認識していなかった事象を後から付け加えることはできず、認識できていたものについてのみ、社会通念上相当か否かが判断されます。

参考:労働契約法第15条
 

兼業・副業への扱い

本業への影響を考え、兼業や副業禁止規定を設けている企業も少なくありません。ただし、この禁止規定では、兼業や副業をしているからといって即座に懲戒解雇などの重い処分にはできないことになっています。

基本的には、これらが発覚した場合には厳重注意処分が科されることになります。そのような注意があっても改善が見られない場合には、より重い処分が下ることになります。

違反の事実が確認できる証拠を揃えておく

懲戒処分を下すには、違反の事実についての証拠をそろえておくことが重要です。証拠に関しては、何が証拠能力を持つかなどを一概に判断できるものではありません。証拠になり得ると思ったものについては、すべて収集しておくことが望ましいといえます。

退職勧奨にならないよう注意

伝える際に気を付けなくてはならないのは、退職勧奨にならないようにすることです。これは直接的でなくとも、使用者側が労働者に退職の手続きを行うよう迫ることを言います。

パワハラのような発言も、退職勧奨になりかねません。退職勧奨は後々大きな問題となりかねないため、細心の注意を払う必要があります。

不当解雇への対策・手続きも重要

懲戒処分において解雇を行う際に問題となるのが、不当解雇であると主張されることです。このようなケースでは裁判となり、会社自体の評判が落ちる事態まで考えられます。したがって、解雇に至るプロセスをしっかりと整備しておかなくてはなりません。
 

懲戒解雇に該当することを定めておく

不当解雇と主張されないための重要なプロセスの1つが、懲戒解雇に該当する事由についてしっかりと定めておくことです。特に、多くの場合で解雇はいきなり行うことはできません。

基本的には、軽い処分である減給や出勤停止などから段階を経て解雇処分に至ることになります。段階を経ることで、是正の機会を与えることになるので、解雇以外の処分についても就業規則にしっかりと明記しておく必要があります。

また、懲戒解雇のような重たい処分の場合には、処分前に弁明の機会を与えることも、不当解雇と主張されないためのプロセスとして必要です。
 

解雇予告は必ず行う

懲戒解雇の場合でも、一般的には解雇予告を30日前に行います。労基署の所長に解雇予告除外認定の申請を行う場合もありますが、多くの資料等が必要になるため、解雇予告を出し解雇することが通常です。
 

人事労務担当者は違反する社員を出さないための対策も必要

人事労務担当者は、諸規則を整備し、それを厳格に適用することで、社内の風紀を取り締まり円滑な業務を可能にする対策が求められます。違反を行う社員を出さないようにする対策も、重要な仕事の1つです。

違反者が出た場合には、それだけで会社にとって大きなマイナスとなります。違反した社員を厳しく罰すれば、他の社員のモチベーションを削いでしまう可能性もあります。

未然にそのような違反を起こす社員がいないかを管理する、就業規則の周知をより効果的に行うといった対策が、人事労務担当者には求められています。
 

まとめ

就業規則違反を起こした社員への対応は、一歩間違えると裁判になりかねないデリケートな問題であり、多くの使用者が頭を抱えるものです。一方で、就業規則とそれに即した対応がしっかりとしていれば、社内の雰囲気をしっかりと引き締める材料にもなります。

就業規則違反で気を付けたいのは、問題を起こしたからといって即解雇にできるような事例は多くないということです。基本的には、戒告、減給、出勤停止と段階を経て、その処分内容を重くしていくことになります。

このようなステップを踏める体制を作り、社員から不当解雇と主張されないよう対策することが重要です。就業規則を万全に整備するには、専門家の力を借りるのがベストです。社会保険労務士事務所や弁護士に相談する、顧問契約を結ぶなどの選択肢もぜひ、検討してみてください。

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