人事労務の悩みに関して弁護士に相談できる事と社労士に相談できる事との違い

専門家監修記事
人事・労務の悩みは、弁護士もしくは社労士に相談することでスムーズに解決できます。どのような悩みを相談できるのか、弁護士と社労士どちらに相談すべきなのかなどをご紹介します。
富士パートナーズ法律事務所
德安 勇佑
監修記事
人事・労務

人事・労務に関する業務は多岐に渡り、その多くが法律と密接な関係にあります。そのため、弁護士に相談すべきときは、従業員や会社間でトラブルが発生したときだけではありません。

 

例えば、ハラスメント問題発生後の人間関係の対応や処分方法なども弁護士に相談することで、法的な観点を踏まえた上での対応を行ってくれます

 

この記事ではよくある人事・労務の相談や弁護士へ相談できることや弁護士の対応、社労士との業務の違いなどを解説します。

 

 

この記事に記載の情報は2021年02月19日時点のものです
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【弁護士に聞いた】人事・労務に関してよく相談される内容

会社の人事・労務に携わる人からのよくある相談をご紹介します。

給料や特別休暇への対応

よく聞く人事・労務の悩みに「給料や特別休暇への対応」があるかと思います。例えば、ケガや精神的な病気で、従業員が会社を1、2週間休んだ場合、担当者は給料計算や休暇対応、保険手続などを行わなければなりません。

 

しかし、これらの手続は法律で定められているため、正しい手続を行わなければ、従業員とのトラブルに発展しかねません。就業規則や法律に沿ってどのように運用すればよいのか、管理部側からするとかなり悩む部分かと思います。

ハラスメントへの対応

職場内で発生するハラスメントに対する対応も、人事・労務担当者の頭を悩ませる部分かと思います。しっかりと対応・処分しないと問題が深刻化してしまい、「会社が何もしてくれなかった」として会社が訴えられてしまうケースもあり得ます。

 

人間関係トラブルを穏便に解決し、再発させないように対応しなければいけないのは、人事・労務担当が頭を悩ませる問題ではないでしょうか。

従業員の人事への対応

従業員の人事異動・降格・退職・解雇などに関する対応は、「不正な処分をされた」と訴えられるリスクが伴うものです。そのため、慎重に手続を進める必要がありますが、実際どのように伝えればいいのか、どのようなことが不正と指摘されてしまうのか、曖昧な人は多いでしょう。

 

「万が一訴えられても負けない」「円満に手続をとる方法」はよくある相談のひとつです。

 

 

弁護士に相談できる内容と具体的な対応

弁護士には、以下のような人事・労務に関する相談ができます。これらの相談に対し、弁護士には以下のような対応を行ってもらえます。

従業員との労働紛争

  • 給料や残業代を請求された
  • 各種ハラスメント問題で従業員から訴えられた など

弁護士の対応

  • 裁判・示談などの手続
  • 残業代の請求金額が正しいかどうかの調査
  • ハラスメントの事実確認・反論のための証拠収集
  • 問題解決後、ハラスメント加害者への処分に関するアドバイス
  • 再発防止に向けた体制整備・リスクマネジメント

裁判に発展する前に相談できれば、示談などの穏便な解決方法を提案してもらうことが可能です。

従業員の雇用・退職・異動

  • 従業員の雇用契約に不備がないか確認したい
  • 解雇した従業員に不当解雇と訴えられた
  • 従業員を穏便に解雇したい
  • 人事異動を拒否された など

弁護士の対応

  • 会社に合わせた雇用契約書の作成・チェック
  • 不当解雇と訴えられた場合の裁判手続
  • 従業員への退職勧奨の方法や手続の提案・アドバイス
  • 人事異動を拒否した従業員への対応の提案・アドバイス

雇用契約は、事業の変更や人数の増加、雇用形態ごとに変更しなければなりません。数年変更していない場合は、一度確認する事で、雇用トラブルを減らすことができます。

労働環境の安全・衛生保持

  • 労働環境の安全性や衛生について法的にチェックしてほしい
  • 業務で使用する機械の安全性が不十分と訴えられた
  • 労働環境が悪くて(騒音など)不調をきたしたとして訴えられた など

弁護士の対応

  • 労働環境に関するリスクマネジメント
  • 訴訟に発展した場合の対応
  • トラブル発生後の体制変更に関する提案・アドバイス

労働組合への対応など

労働組合や労働基準監督署などへの対応・監査役などの役員対応 など

弁護士の対応

  • 団体交渉に関するアドバイス
  • 社内のリスクチェックや必要書類の作成・チェック
  • 監査後の体制変更の相談・アドバイス

労働組合との関係性、労働基準監督署への対応に関するアドバイスを受けたり、あらかじめ社内でリスクチェックしたりすることで、紛争を予防できたり、あるいは、紛争を最小限にとどめたりすることができます。

 

その結果、クリーンな状況を対外的に提示できますので、社外からの評価につなげることができるでしょう。

給料などの就業規則の変更

  • 給与や賞与に関する取り決めを変更したい
  • 休日に関する取り決めを変更したい など

弁護士の対応

  • 就業規則を会社の実情に合わせて作成
  • 変更部分のチェック

就業規則は会社の法律というほど大切なものになります。そのため、会社の実情や法律の改正に伴うことが必要です。数年見直しをしていない場合は、一度弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。

外国人雇用・海外支店の設立支援

  • 外国人の雇用契約について
  • 海外支店を設立する場合の現地法について など

弁護士の対応

  • 外国人を雇用する際に雇用条件が適正かの確認
  • 海外支店の設立支援

海外支店を設立する際は、現地法が適用されます。現地法は日本法と大きく異なりますので、国際ビジネスが得意な弁護士に相談することをおすすめします。

コンプライアンス全般

  • コンプライアンス違反がないかリスクチェック
  • コンプライアンス研修
  • コンプライアンス違反が起きた場合の対応 など

弁護士の対応

  • 会社のリスクマネジメント
  • コンプライアンス違反が起きないような体制の整備
  • 社内でコンプライアンス違反が起きた場合の対応
  • メディア関係への対応
  • 損失を与えた顧客・取引先への対応

社内のコンプライアンス意識を高めるために、弁護士へ依頼して研修を行うこともひとつの方法です。

 

人事労務の悩みは弁護士と社労士のどちらに相談すべき?

問題が発生した場合は迷わず弁護士に相談する人も多いと思いますが、予防したい・事件化はしていないが不安があり相談したい場合、弁護士より社会保険労務士(以下「社労士」)に相談する人の方が多いかと思います。

 

そもそも、「弁護士」という選択肢がない人もいるかと思います。ここではどのような状況でどちらに相談すべきかについてご紹介します。

社労士と弁護士の仕事領域の違い

社労士と弁護士の違いは以下の通りです。

 

社労士

弁護士

 

業務内容

・社会保険に基づいた書類の作成・申請・提出代行

・人事・労務に関する相談・指導

・人事・労務トラブル発生の予防対策

・給料計算代行・相談

・法律相談

・裁判所を通す手続代行

・契約書類関係の作成・チェック

・法的トラブル発生の予防対策

小さな問題でも、訴訟に発展する可能性を含んでいるものであれば、あらかじめ弁護士相談することをおすすめします。

人事・労務の「不安」を社労士ではなく弁護士に依頼するメリット

小さな不安でも、その内容が大きくなったら紛争になりそうな場合や法律に抵触していないか気になる場合は、社労士よりも弁護士に相談することをおすすめします。社労士に相談してもよいのですが、どのくらいの損害を賠償することになりそうかという指摘や、裁判などの法的手続の代理に関しては、社労士では対応できないからです。

 

例えば、保険や給料計算などに関する不安などであれば社労士が最初から最後まで対応できますが、コンプライアンスに違反するようなものの場合、裁判になる可能性が含まれているため、最初から弁護士に携わってもらった方が、訴訟へ発展した際にもスムーズな対応を望めます。

 

また、トラブル予防やリスクマネジメントも、より法的な観点から行うのであれば、法律のスペシャリストである弁護士に相談することをおすすめします。

【状況別】社労士・弁護士に相談すべきケース

社労士と弁護士は似ていますが、注力分野がまったく異なりますので、状況に合わせて利用しなければなりません。

社労士に相談すべきケース

  • 各種保険について相談したい
  • 労災に関する相談・申請を行いたい
  • 給料計算について相談したい
  • 給料計算を代行してほしい
  • 従業員が安心して保険制度を利用できるような窓口をつくりたい

弁護士に相談すべきケース

  • 法律相談がしたい
  • 法的トラブル発生の予防対策がしたい
  • 訴訟に発展しそうなので、話し合いで解決したい
  • 訴訟に発展してしまったので対応してほしい
  • 訴訟後の顧客・取引先・メディア対応してほしい
  • 契約書などの書類をチェックしてほしい

 

人事や労務の弁護士費用の相場

人事や労務を弁護士に相談する際の費用としては、「相談料」「着手金」「成功報酬」などがあります。

相談料

相談料は30分ごとや1時間ごとなど、時間制で料金が設定されているところが多く、料金相場は「30分5,000円程度」です。なかには初回相談が無料という事務所もあり、「一度、弁護士からの助言がもらいたい」という場合は積極的に利用するとよいでしょう。

着手金

着手金は「具体的にどのような対応を依頼するか」によって大幅に異なりますが、一例として、従業員から訴訟提起された際に対応を依頼する場合、料金相場は「労働者の請求金額の5~10%程度」です。

成功報酬

成功報酬は「結果の成功程度はどれほどか」によって大幅に異なります。一例として、従業員から訴訟提起された際に対応を依頼した結果、和解で解決した場合、料金相場は「(労働者の請求金額―和解金額)の10~20%程度」です。

【関連記事】顧問弁護士の費用・顧問料相場と内訳|顧問契約のメリットとは

 

人事や労務を弁護士に相談する際の事務所の選び方

ここでは、人事や労務を弁護士に相談する際の事務所の選び方を解説します。

①人事や労務の問題解決実績が豊富

企業法務は業務が多岐に渡るため、「企業法務が得意な弁護士」でも、注力分野はそれぞれ異なります。よりスムーズな解決を望むのであれば、「人事・労務」が得意な弁護士を選ぶことがベストです。

 

さらに、あなたの会社が属している業界の経験・解決事績が得意な弁護士をおすすめします。

②対応が早い

トラブルの内容によっては、スピーディーな対応が求められる場合もあります。ただし、対応の早さは事務所ごとに異なり、弁護士が多忙な場合などは、メールを送信しても返信まで1週間ほどかかる可能性もあります。

 

対応の早い事務所に依頼したいという場合は、「依頼相談を持ちかけた際の対応の早さ」も判断材料となります。

③説明が丁寧でわかりやすい

弁護士に相談することでスムーズな問題解決が期待できますが、すべてを丸投げできるわけではありません。

 

弁護士に相談した場合、「法的問題はあるか」「どのような対応が理想的か」など、ケースごとに弁護士からサポートやアドバイスを得た上で、最終的に意思決定を下すのは依頼者です。

 

ただし、弁護士から説明を受ける際、専門用語が多かったり、内容が難しく事態が十分把握できなかったりすると、適切な意思決定が下せない可能性もあります。「説明の丁寧さ・わかりやすさ」もポイントです。

④顧問弁護士をつけるのも効果的

弁護士に相談する際、「顧問弁護士をつけるか否か」という点も忘れてはならないポイントです。

 

顧問弁護士の場合は契約関係が長期にわたって続くため、社内でトラブルが発生した場合も、会社の実情について十分把握した上で、個別の事情に合わせた実効性の高いサポートやアドバイスが期待できます。また顧問契約を結んでいることで、優先的に対応してもらえるため、トラブルの早期解決も望めます

 

顧問弁護士契約を結ぶ場合は、顧問料として毎月一定額(相場として3~5万円程度)を支払う必要がありますが、徹底したサポートを受けたいという場合は利用するべきでしょう。

 

人事・労務問題を弁護士に相談する際の流れ

人事や労務に関する問題を弁護士に相談する場合、主に以下の流れで手続を進めます。

 

  1. 社内で事実調査を行うなどして情報を整理する
  2. 弁護士との面談のために必要書類を準備する
  3. 電話やメールで弁護士との面談予約をする
  4. 弁護士と面談して解決策を導き出す
  5. 解決策を実行

 

弁護士に相談することで問題解決のためのサポートが受けられます。その際、相談内容に関する書類等を持参することで、弁護士に的確に情報を伝えることができ、面談もスムーズに進みます。

 

ケースにもよりますが、必要書類としては以下のものが挙げられます。

 

  1. 就業規則
  2. 雇用契約書
  3. 労働条件通知書
  4. 労働協約
  5. 労使協定

なお弁護士と面談する際は、当事者である従業員も同席することで事実聴取がスムーズに行えるため、従業員に対して同席を呼びかけましょう。

 

また解決策を実行する際は、「解決金額の上限・支払方法・支払期限」や「従業員に守秘義務を課すか否か」など、解決方針について事前に社内で意見を統一させておく必要があります。

 

 

まとめ

人事や労務に関するトラブルが発生した場合、弁護士に相談することで、問題解決に向けたサポートやアドバイスが受けられます。また法的紛争が発生した場合でも、交渉や訴訟などの対応が依頼できます。

 

さらに、各規定・規則の作成やチェックなども依頼できるため、今後トラブルが起こらないよう予防線を張ることができます。

 

人事や労務に関するトラブルについては、会社の社会的信用にも大きく関わる可能性もあるため、社内での問題解決が難しいようであれば、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。

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