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2026年5月1日施行の改正金融商品取引法(令和6年改正)により、公開買付制度(TOB)の抜本改正としては約20年ぶりに大幅な見直しが行われます。議決権30%ルールへの閾値引下げ、市場内取引の規制対象化、適用除外の見直しなど、M&A実務に重大な影響を与える変更が並びます。本記事では、上場企業の経営者・法務担当者が押さえるべき主要変更点と施行前の実務対応を、企業法務弁護士の視点で解説します。
本記事は2026年4月時点で公表されている改正法・関連政省令・金融庁資料に基づきます。施行後の解釈通達等で更新する可能性があります。
TOB(公開買付け)制度は、上場企業の株式等を市場外で大量に取得する場合に適用される規制です。投資者保護と市場の公正性を確保するため、一定の割合を超える取得には公開買付けの手続きが義務付けられます。
令和6年法律第45号「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律等の一部を改正する法律」(2024年5月15日成立、同月22日公布)により、2026年5月1日を施行日として、TOB制度が大幅に見直されます。この改正はTOB制度の抜本改正としては、2005年の証券取引法(現・金融商品取引法)大改正以来、約20年ぶりの見直しとなります。
本記事のポイントTOBに関する強制公開買付規制は、2005年の証券取引法改正で現行の骨格が整備されました。当時の3分の1ルール(議決権所有割合が3分の1を超える取得にTOBを義務付け)は、当時の市場慣行を踏まえた設計でしたが、その後のM&A市場の変化に対応しきれていないという問題が指摘されるようになりました。
改正の主な背景として、次の3点が挙げられます。第一に、市場内取引を通じた大量取得の増加です。旧制度では市場内取引が原則適用除外だったため、取引所での立会内買付けを通じて事実上の支配権を取得しうる状況が生じていました。第二に、議決権所有割合の基準の国際比較での乖離です。主要国では30%程度が支配権取得の閾値として広く用いられており、3分の1(約33.3%)という日本基準は国際標準と乖離していると指摘されていました。第三に、強制公開買付規制と市場の実態との整合性です。急速買付け規制など旧来の制度設計が複雑化し、投資者保護の観点から公開買付規制に一本化する必要性が高まっていました。
金融庁の審議会(金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」)での検討を経て、令和6年改正として結実しました。
今回の改正で最も広く影響を与える変更が、議決権所有割合の閾値引下げです。旧制度では「3分の1(約33.3%)超」が公開買付け義務の基準でしたが、改正後は「30%超」に引き下げられます。この変更は、国際標準との整合性を図るとともに、市場の公正性を確保する観点から導入されます。
旧ルールと新ルールの比較| 項目 | 旧ルール(改正前) | 新ルール(2026年5月1日施行後) |
|---|---|---|
| 公開買付け義務の閾値 | 3分の1(約33.3%)超 | 30%超 |
| 閾値到達時の規制 | 3分の1超の議決権を取得する場合、TOBが原則義務 | 30%超の議決権を取得する場合、TOBが原則義務 |
| 既に閾値超保有者の追加取得 | 3か月以内に株券等所有割合が10%超かつ市場外取引等での取得が5%超となる場合にTOB必要(急速買付け規制) | 30%超を既に保有している場合の「閾値間取引」ルール(急速買付け規制は廃止) |
| 国際標準との整合性 | 主要国(英国・欧州等)の30%基準と乖離 | 主要国基準と概ね整合 |
閾値が30%に引き下げられることで、現在30%以上3分の1未満の議決権を保有している投資家・企業は、改正後に「既に閾値を超えた保有者」として扱われる可能性が生じます。具体的には次のような場面で影響が出るケースが想定されます。
改正後、30%を超える議決権を既に保有している者がさらに追加取得する「閾値間取引」については、新たなルールが設けられます。旧制度における急速買付け規制(3か月以内に株券等所有割合が10%超かつ市場外取引等での取得が5%超となる場合にTOBを義務付ける規制)は廃止され、公開買付規制に一本化されます。閾値間取引の具体的な手続き・適用除外の範囲については、関連政省令・金融庁の解釈指針を確認することが不可欠です。
議決権所有割合(株券等所有割合)の計算においては、特別関係者(共同保有者等)の保有分を合算する点は旧制度と同様です。ただし、後述する形式的特別関係者の範囲変更により、合算対象が変わるケースも生じます。
出典: 金融庁「公開買付制度・大量保有報告制度等の見直しについて」 / e-Gov 金融商品取引法(323AC0000000025)
旧制度における最大の抜け穴の一つとして指摘されてきたのが、市場内取引(取引所での立会内買付け)の原則適用除外でした。改正後は、市場内取引も公開買付け規制の対象に原則として含まれることになります。これにより、取引所を通じた大量取得であってもTOB手続きが求められるケースが生じます。
旧金融商品取引法のもとでは、公開買付け規制は基本的に「市場外取引」を前提として設計されており、取引所の立会内で行われる通常の株式売買はTOBの対象外とされていました。このため、大量の株式を市場内取引によって段階的に取得することで、TOB手続きを経ずに事実上の支配権を取得しうる構造が存在していました。
改正法では、この点を是正し、市場内取引を含む取引一般に30%ルールを適用することで、取得経路に関わらず投資者保護の実効性を確保する方向性が示されています。ただし、適用除外買付けの要件については関連政省令で規定されます。
市場内取引・立会外取引(ToSTNeT)・市場外取引の規制の取扱いは、改正後もそれぞれ異なる整理がされるケースが想定されます。以下は概括的な整理です。
| 取引形態 | 旧制度の扱い | 改正後の方向性 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 市場内取引(立会内買付け) | 原則適用除外 | 原則規制対象 | 30%超取得にはTOBが必要になるケースが生じる |
| 立会外取引(ToSTNeT) | 適用除外買付けとして整理(条件付き) | 関連政省令(令和7年公布)で具体的要件が規定 | ToSTNeT多用企業は代替手段の検討が求められる |
| 市場外取引(相対取引) | 原則規制対象(TOBが必要) | 引き続き規制対象 | 旧制度から変化は小さいが、閾値が30%に変更 |
出典: 金融庁「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果等について」
立会内買付けの規制対象化により、これまでTOBを要しなかった取引形態でも手続きが必要になるケースが想定されます。施行日(2026年5月1日)を前に、自社の取引慣行を弁護士と一緒に棚卸しすることが推奨されます。
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改正法では、公開買付け規制の適用除外となる買付けの要件が大幅に見直されます。主な変更は、50%超適用除外の廃止・僅少な買付け(0.5%未満)の新設・急速買付け規制の廃止の3点です。
旧制度では、買付後の保有割合が3分の2未満となる場合に「50%超適用除外」として公開買付けが不要とされるケースがありました。これは既に過半数を保有している支配株主が追加取得する場面等を想定した規定でした。改正法ではこの適用除外が廃止されます。
50%超適用除外の廃止により、過半数超の保有者がさらに追加取得を行う際にも公開買付規制が及ぶケースが生じるケースが想定されます。TOBを経た完全子会社化(スクイーズアウト等)のプロセス設計においても影響が出る可能性があります。
他方で、改正により新たに設けられる適用除外が「僅少な買付け」です。1年間の取得割合が議決権ベースで0.5%未満の買付けについては、公開買付け規制の適用が除外されるケースが想定されます。少数株式の段階的な積み増しや、ストック・オプション行使等の小規模取得が念頭に置かれています。
出典: 金融庁「金融商品取引法等の一部を改正する法律(令和6年法律第45号)関係」
TOBの議決権所有割合(株券等所有割合)を計算する際、買付者本人の保有に加えて「特別関係者」の保有分を合算することが求められます。特別関係者には「実質的特別関係者」と「形式的特別関係者」の2種類があり、今回の改正では形式的特別関係者の定義に変更が加えられます。
旧制度では、配偶者・二親等内血族(兄弟姉妹・子・孫等)などの親族関係に加え、買付者と特別資本関係を有する法人等の役員も形式的特別関係者に含まれていました。このため、親族や関係法人の役員が保有する株式も議決権所有割合の合算対象となり、当事者が意図せず閾値を超えるケースが生じていました。
改正では、実態として買付者と共同して議決権行使をしない関係者を一律に合算対象とすることへの不合理さが認識され、親族関係および特別資本関係を有する法人等の役員が形式的特別関係者から削除されます。これにより、これらの関係者が保有する株式は原則として合算対象外となります。ただし、実質的に共同して議決権行使を行っている場合は「実質的特別関係者」として引き続き合算対象となります。
改正による形式的特別関係者の範囲変更は、削除対象と継続適用される関係に分けて整理できます。
この変更により、従来は親族の保有を含めて計算していた議決権所有割合が、改正後は低くなるケースが生じます。結果として、旧制度では閾値を超えていた保有者が改正後は閾値未満となる場面も想定されます。
出典: e-Gov 金融商品取引法(323AC0000000025)
TOB改正は、買収を検討する側(PEファンド・事業会社等)と買収対象となり得る側(上場企業)の双方に影響を与えます。改正内容を踏まえた戦略の再検討・体制整備が求められます。
買収側にとって最も重要な変化は、取得コストと手続き負担の変化です。30%ルールへの引下げにより、従来より早い段階でTOB手続きが必要になります。また、市場内取引を通じた段階的な株式積み増し戦略も制約を受けるケースが生じます。
| 論点 | 旧制度の対応 | 改正後に必要な対応 |
|---|---|---|
| 株式取得の閾値管理 | 3分の1未満であれば市場内取引で取得可能 | 30%到達前の取得計画を再設計。市場内取引も規制対象 |
| 友好的M&Aのプロセス | 合意後に段階的取得が比較的柔軟に可能 | 30%超の取得にはTOBを組み込んだプロセス設計が必要 |
| TOBスケジュール | 公開買付届出書等の作成・提出が必要なフェーズが変更なし | 公開買付届出書・公開買付説明書のひな形・記載事項の改定版に対応が必要 |
被買収企業の立場では、買収防衛策の見直しが重要な課題となります。30%ルールへの引下げにより、旧制度では3分の1未満の保有として規制外だった保有者が新たに規制対象となることで、潜在的な大株主の動向に対する監視が求められます。また、敵対的買収への対応において、30%という新たな閾値を前提とした防衛策の設計・見直しが課題となるケースが想定されます。

30%ルールへの引下げと市場内取引の規制対象化は、従来のM&A実務の「常識」を塗り替えます。特に、既に30%付近の株式を保有している戦略的株主・PEファンドは、施行日(2026年5月1日)時点の保有状況を踏まえた対応方針の整理が急務です。公開買付届出書・公開買付説明書のひな形も改定されますので、M&A案件を進行中の場合は早急に担当弁護士との確認をおすすめします。
被買収側の上場企業においても、買収防衛策の実効性評価と見直しを施行前に行っておくことが推奨されます。30%という新たな閾値を前提とした防衛設計は、旧来の3分の1ルール前提のものと大きく異なる場合があります。
出典: 金融庁「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律等の一部を改正する法律」関係資料
30%ルールへの引下げと市場内取引規制対象化は、進行中のM&A案件や既存の防衛策設計に直接影響を与える変更です。施行後に対応を始めると法的リスクが高まるケースが想定されます。
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中堅上場企業は、大手企業に比べて法務専任体制が手薄なケースが多く、今回のTOB改正への対応が遅れがちです。特に中堅上場企業特有の落とし穴に注意しながら、以下の7項目を施行前に確認してください。
施行前確認チェックリスト(中堅上場企業向け・7項目)
チェックリスト活用のポイント
以下に取り上げる誤解は、実務担当者からよく聞かれるものです。施行日対応の判断においては、必ず企業法務弁護士または金融庁の最新ガイダンスを確認してください。
2026年5月1日の施行日をめぐっては、いくつかよくある誤解が見られます。特に注意が必要な3点を整理します。
2026年5月1日より前に公開買付けの届出が受理された案件については、原則として旧制度が引き続き適用されるケースが想定されます。ただし、施行日をまたいで買付期間が継続する場合の具体的な経過措置については、金融庁のガイダンス・解釈指針を確認することが必要です。施行前後に案件を抱えている場合は、担当弁護士と連携して早期に確認することが推奨されます。
改正法施行後は、市場内取引(立会内買付け)も原則として公開買付け規制の対象となります。旧制度では市場内取引は原則適用除外でしたが、新制度では「適用除外買付け」に該当しない限り、30%を超える議決権の取得にTOB手続きが必要になるケースが想定されます。適用除外買付けの具体的要件は関連政省令で規定されますので、最新の政省令内容を確認することが重要です。
改正後の閾値は30%となるため、現在30%以上3分の1未満を保有している場合でも新たに規制対象となる可能性があります。既に3分の1超を保有している場合は、改正後の「閾値間取引」のルールが適用されます。旧来の急速買付け規制は廃止されますが、代わりに公開買付規制が適用される範囲が変わるため、保有割合・追加取得計画の両面から企業法務弁護士に確認することが推奨されます。
上場している子会社株式の取得については、30%ルールが適用されるケースが想定されます。親子上場の構造を持つ中堅上場企業では、間接取得の扱いを含め、子会社株式の追加取得前に企業法務弁護士への確認が求められます。グループ再編・子会社完全子会社化のプロセス設計においても影響があるため、M&A・組織再編の専門弁護士への相談が推奨されます。
旧制度では配偶者・二親等内血族等の親族関係も形式的特別関係者に含まれていましたが、実態として買付者と共同で議決権行使を行わない親族を一律に算入することへの不合理さが指摘されてきました。改正では実態に即した範囲に絞り込む観点から親族関係が削除されました。ただし、実際に共同して議決権行使を行っている場合は、実質的特別関係者として引き続き合算対象となります。
30%ルールの閾値判定・市場内取引の新規制対象化・形式的特別関係者の変更は、自社の株主構成や取引慣行によって影響が大きく異なります。施行日(2026年5月1日)が近づいているため、M&A・金融商品取引法に精通した企業法務弁護士への早期相談が推奨されます。自社だけで判断せず、専門家の助言のもとで対応方針を決定することが、法的リスクの回避につながるケースが想定されます。
Q&Aで取り上げた論点は一般的な整理であり、自社の株主構成・保有割合・取引慣行によって対応内容は異なります。施行前に個別ケースの確認を行うことが推奨されます。
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この記事のまとめ
本記事は2026年4月時点で公表されている改正法・関連政省令・金融庁資料に基づき作成しています。施行後の解釈通達・金融庁Q&A等で内容が更新される可能性があります。具体的な対応については必ず企業法務弁護士にご確認ください。
30%ルール引下げ・市場内取引規制対象化・適用除外見直しと、今回の改正は複数の変更が同時に施行されます。自社への影響範囲を漏れなく確認するには、M&A・金融商品取引法に精通した弁護士との総合的な確認が最も確実です。
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編集部
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
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