弁護士とマッチングできます
企業法務弁護士ナビでは完全非公開で相談可能です。貴社の課題に最適解を持つ弁護士、最大5名とマッチングできます。
2026年4月1日、改正著作権法により「未管理著作物裁定制度」が施行されました。これは、著作権者の意思を確認できない著作物(いわゆるオーファンワークス)について、文化庁長官の裁定と補償金の支払いで最長3年間、適法に利用できる新しい仕組みです。出版・教育・アーカイブ・広告・映像制作など、過去のコンテンツを活用したい企業にとって、著作権処理の選択肢が大きく広がります。
本記事では、未管理著作物裁定制度の対象となる著作物、既存の裁定制度(著作権法第67条)との違い、登録確認機関を経由した申請手続きの流れと「相当な努力」の要件、補償金の決定と支払い、権利者が現れた場合の処理、企業の活用シーンと留意点を、企業法務に詳しい弁護士の視点で解説します。裁定の要件を満たさないまま利用を始めると、遡って著作権侵害として扱われるリスクがあるため、慎重な事前検討が必要です。
権利者不明の著作物を裁定制度で利用するには、「相当な努力」の要件、補償金額の見立て、利用範囲の設計、権利者が現れた場合の対応を一体で整理する必要があります。要件不充足のまま利用を始めると、後から著作権侵害として差止め・損害賠償請求を受けるリスクがあります。
企業法務弁護士ナビでは、著作権・知的財産分野に対応する弁護士を地域・対応条件で絞り込んで検索できます。初回相談無料・オンライン面談対応の弁護士も多数掲載しています。
未管理著作物裁定制度は、2023年5月26日に公布された「著作権法の一部を改正する法律」(令和5年法律第33号)に基づき、2026年4月1日から運用が開始された新制度です。著作権者の意思(利用の可否や条件)を確認できない著作物について、文化庁長官の裁定と補償金の支払いで最長3年間の利用を可能にする仕組みで、長く課題とされていたオーファンワークス(孤児著作物)の活用を後押しします。
本セクションのポイントインターネット・デジタルアーカイブの普及により、過去の書籍・写真・映像・音源などを再利用したいニーズが急増しています。一方で、権利者と連絡が取れない・そもそも誰が権利者か特定できないオーファンワークスが大量に存在し、利用に踏み切れないままアーカイブが活用されない状態が長く続いてきました。
未管理著作物裁定制度は、こうした「埋もれた著作物」を再活用する道を整備することを目的に、改正著作権法で新設された制度です。文化庁は本制度について「今は眠る著作物等の価値を再発見し、新たな創作活動へつなぐ仕組み」と位置付けています。
著作権法には従来から、権利者不明等の場合の利用を可能にする裁定制度(第67条)が存在しました。新設された未管理著作物裁定制度は、既存制度を補完する位置付けで、申請要件と手続きの簡易性に違いがあります。
| 項目 | 未管理著作物裁定制度(新設) | 従来の裁定制度(第67条) |
|---|---|---|
| 対象著作物 | 権利者の意思を確認できない「未管理公表著作物等」 | 権利者不明・所在不明等で許諾交渉ができない著作物 |
| 利用期間 | 最長3年(再申請で延長可) | 裁定で定める利用方法・期間に従う |
| 補償金の支払い | 指定補償金管理機関(CRIC)への支払い | 原則として法務局への供託 |
| 権利者の取消請求 | 利用期間中に権利者が裁定の取消を請求可能 | 権利者の任意取消請求権の規定なし(権利者判明時は供託金の還付請求が可能) |
| 申請窓口 | 登録確認機関を経由(CRIC) | 文化庁長官への直接申請 |
| 手続きの想定 | 簡易・迅速な運用を志向 | 権利者探索・交渉に時間を要する |
出典: 文化庁「未管理著作物裁定制度」
未管理著作物裁定制度の対象となる「未管理公表著作物等」は、すでに公表された著作物のうち、著作権者の利用可否についての意思を確認できないものを指します。具体的には、著作権の集中管理団体に管理を委託していない、かつ、著作物自体に利用条件の表示(クレジット、CCライセンス等)がないなど、権利者の意思を客観的に把握できない状態が該当します。
権利者の意思が客観的に確認できる場合は、本制度の対象外です。具体的には以下が該当します。
「権利者と連絡が取れる可能性がある」場合は、まず通常の許諾交渉を試みるのが原則です。本制度はあくまで権利者の意思確認ができない場合の補完的な仕組みとされています。
未管理著作物裁定制度の申請窓口は、文化庁長官が指定する登録確認機関です。2025年10月、公益社団法人著作権情報センター(CRIC)が登録確認機関として指定されました。利用者は登録確認機関に申請書類を提出し、登録確認機関が要件該当性を確認したうえで、文化庁長官の裁定が行われる流れです。簡易・迅速な運用を志向する制度設計ですが、要件を満たさない申請は却下されるため、事前準備が重要です。
| 機関 | 役割 |
|---|---|
| 登録確認機関(CRIC) | 申請受付、要件該当性の確認、補償金額の算出、文化庁長官への送付 |
| 文化庁長官 | 裁定の決定、補償金額の決定、利用条件の決定 |
| 指定補償金管理機関(CRIC) | 補償金の受領、権利者の探索、権利者出現時の補償金分配 |
出典: 文化庁「未管理著作物裁定制度」
STEP 1|「相当な努力」による権利者探索
著作物自体・著作権登録原簿・集中管理団体・インターネット検索・出版社や関係者への問い合わせなど、可能な手段で権利者を探索します。実施した調査の記録(日時・調査先・回答内容)を整理して保管します。
STEP 2|登録確認機関(CRIC)への申請
申請書、利用計画書、権利者探索の証拠資料などを登録確認機関に提出します。登録確認機関が要件該当性を確認し、適切と認めたものを文化庁長官に送付します。
STEP 3|文化庁長官による裁定の検討
文化庁長官が申請内容を検討し、必要な手続きを経て裁定を行います。
STEP 4|裁定と補償金額の決定
文化庁長官が裁定を行い、利用条件・利用期間(最長3年)を決定します。補償金額は登録確認機関の算出に基づき決定されます。
STEP 5|指定補償金管理機関への補償金支払いと利用開始
裁定された補償金を指定補償金管理機関(CRIC)に支払うことで、裁定の条件に基づき著作物の利用を開始できます。
裁定申請の前提となる「相当な努力」は、文化庁のガイドライン等で具体例が示されます。主な調査項目は以下のとおりです。
| 調査項目 | 具体的な調査内容 |
|---|---|
| 著作物本体の確認 | 著作物に記載された著作者名・発行者・連絡先の確認、奥付・クレジット・著作権表記のチェック |
| 著作権登録原簿 | 文化庁の著作権登録制度を利用している場合、登録原簿の閲覧・照会 |
| 集中管理団体への照会 | JASRAC、JRRC、日本美術著作権機構等の集中管理団体への管理情報の照会 |
| インターネット検索 | 著作者名・著作物名・関連キーワードでのWeb検索、SNS検索 |
| 出版社・発行者への問い合わせ | 著作物を発行した出版社・制作会社・放送局への問い合わせ |
| 業界団体への照会 | 出版・写真・映像・音楽など業界団体への照会 |
| 関係者への聞き取り | 著作物の制作・発行に関わった可能性のある関係者への問い合わせ |
調査結果の記録(照会日時・対象・回答内容・スクリーンショット等)を整理して保管しておくことが重要です。これは申請時の証拠資料となるとともに、将来的に権利者から異議を受けた場合の防御資料にもなります。
裁定の前提となる「相当な努力」は、申請時の審査だけでなく、将来的に権利者が現れた場合の防御資料として極めて重要です。記録の取り方が不十分だと、要件不充足として裁定取消・損害賠償の対象になるリスクがあります。
企業法務弁護士ナビでは、著作権・知的財産分野に対応する弁護士を検索できます。裁定申請の証拠保全から補償金の見立てまで、実務を一体で支援する弁護士が多数掲載されています。
裁定で決定される補償金は、通常の使用料の額に相当する額を基準とします。著作物の市場価格・類似事例の使用料・利用方法・利用期間などを総合的に勘案して、登録確認機関の算出と文化庁長官の裁定で決定されます。新制度における補償金の支払い先は指定補償金管理機関(CRIC)に一本化され、既存制度のような法務局供託の手続きは不要です。
補償金は「通常の使用料の額に相当する額」(著作権法第67条の3第2項)を基準として決定されます。算定要素は以下のとおりです。
申請者は、申請時に利用計画とともに補償金額の根拠資料を整理しておくことが望まれます。事前に業界の利用料相場を調査し、客観的な裏付けを準備しておくことが重要です。
指定補償金管理機関は、利用者から補償金を受領し、将来権利者が現れた場合の権利者探索と補償金分配を担います。新制度では、利用者が法務局へ供託する手続きを経ずに直接指定補償金管理機関へ支払うことができ、手続き負担が大幅に軽減されます。2025年10月21日付で公益社団法人著作権情報センター(CRIC)が指定補償金管理機関として指定されています。
裁定制度で利用を開始した後に著作権者が現れた場合、指定補償金管理機関による補償金の分配と、その後の利用について新たな整理が必要になります。改正法は権利者保護にも配慮しており、利用者・権利者の双方にとって予測可能な仕組みを目指しています。
指定補償金管理機関(CRIC)が権利者の探索と補償金の分配を担います。権利者は指定補償金管理機関に対し補償金の支払いを請求でき、機関は受領済みの補償金を権利者へ分配します。利用者側で個別に法務局へ供託する手続きは不要です。
未管理著作物裁定制度では、利用期間中に権利者が文化庁長官に対し裁定の取消を請求することが認められています。取消請求が認められた場合、利用者はその時点で利用を停止する必要があります。
権利者が現れた場合に備えて、利用形態(複製数・公開範囲・配信プラットフォーム等)を変更可能な状態で運用することが推奨されます。利用停止に伴い既存の流通経路から回収する仕組みを契約条項で整備しておくと、リスクを低減できます。
「相当な努力」を尽くしていないなど、裁定要件を満たさなかったと後から判断された場合、裁定が取り消され、無許諾の著作権侵害として扱われる可能性があります。著作権侵害となれば、差止め請求・損害賠償請求・刑事罰のリスクが生じます。証拠保全と要件審査の慎重さが重要です。
未管理著作物裁定制度は、過去のコンテンツを活用したい多くの業種に新たな機会をもたらします。以下は代表的な活用シーンです。
AI(生成AI・大規模言語モデル)の学習データとして過去の著作物を利用する場合も、本制度の対象になり得ます。ただし、著作権法第30条の4は「情報解析の用に供する場合」に著作物の利用を認める一方、同条柱書ただし書により「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」はこの限りでないとされています。生成AI学習目的の利用がこのただし書に該当するかは事案ごとの個別判断となるため、AIに関する著作権の扱いは判例の蓄積も限定的なことを踏まえ、利用前に弁護士に相談することを推奨します。
未管理著作物裁定制度の活用は、コンテンツ事業の競争力に直結します。一方で、要件不充足のまま利用を始めると著作権侵害の差止め・損害賠償リスクが生じます。AI学習・新規ビジネスでの活用は、特に専門的な法的判断が必要です。
企業法務弁護士ナビでは、著作権・知的財産・コンテンツビジネスに対応する弁護士を検索できます。裁定申請の戦略設計から証拠保全まで一体で支援する弁護士が多数掲載されています。
未管理著作物裁定制度をスムーズに活用するため、企業は以下の5つの準備を進めておくことを推奨します。法務・知財・コンテンツ部門の連携プロジェクトとして取り組むのが効果的です。
過去のコンテンツ・アーカイブの中から、活用したいが権利処理が進んでいない著作物を洗い出します。権利者と連絡が取れる可能性のあるものは通常の許諾交渉を、連絡できないものは裁定制度の対象として整理します。
「相当な努力」を社内で標準化したワークフローとして整備します。著作権登録原簿の照会、集中管理団体への問い合わせ、インターネット検索、業界団体への照会などを誰がいつ実施するか手順化します。調査記録の保存形式(CSV・スクリーンショット・メール履歴)も標準化します。
業種・利用形態ごとの「通常の利用料相当額」の社内基準を整備します。社内で過去の許諾契約の参考データを収集するほか、業界ガイドラインや専門家の助言を活用します。
裁定制度で利用する著作物は、権利者が現れた場合の利用停止・回収が必要になる可能性があります。これに備えて、外部委託先(印刷業者・配信プラットフォーム・OEM等)との契約に利用停止・回収協力条項を組み込みます。
契約条項チェックリスト
裁定制度を運用するうえで、現場担当者の理解が不足していると、要件不充足のまま利用が始まる事態が起こり得ます。法務部門が主導して社内研修を実施し、申請から証拠保全までのチェックリストを整備します。
廃止されません。従来の第67条の裁定制度(権利者と交渉できない場合)は引き続き利用可能です。新設された未管理著作物裁定制度(第67条の3)は、より迅速・簡易な手続きで利用できる選択肢として追加されたものです。事案に応じて両制度を使い分けます。
調査の日時・調査先・調査方法・回答内容を記録し、スクリーンショット・メール履歴・電話メモなどを証拠として保管します。文化庁のガイドラインで具体的な調査項目が示されているため、それを満たすかたちで体系的に記録することが重要です。証拠保全は申請時の審査と将来の権利者出現時の防御の両方に役立ちます。
利用を継続したい場合は、再度裁定申請を行うか、その時点で権利者が判明していれば直接許諾交渉に移行します。再申請の手続きと費用が発生するため、長期利用を見込む場合は事前にコストを試算しておくことが重要です。
「通常の利用料相当額」として、著作物の種類・利用方法・利用範囲・類似事例の許諾料を総合的に勘案して文化庁が決定します。具体的な金額は事案ごとに異なるため、申請前に業界の利用料相場を調査するか、著作権の専門家に相談することを推奨します。
AIの学習データとしての利用は、本制度の対象になり得ますが、著作権法第30条の4(情報解析のための利用)の規定との関係を整理する必要があります。第30条の4を適用できる場合は裁定不要で利用できる一方、第30条の4の例外(著作権者の利益を不当に害する場合)に該当する場合は裁定制度や個別許諾が必要となります。事案に応じて専門家の判断を仰ぐことが重要です。
権利者は指定補償金管理機関(CRIC)に対し補償金の支払いを請求し、分配を受けることができます。さらに、権利者は利用期間中に文化庁長官に対し裁定の取消を請求できる場合があります。取消が認められた場合、利用を停止し、すでに流通したコンテンツの回収などを行う必要が生じる可能性があります。
本記事のポイント
未管理著作物裁定制度は、これまで活用が困難だったオーファンワークスの利用を可能にする新たな制度です。一方、要件不充足のまま利用を始めると、後から著作権侵害として差止め・損害賠償の対象になるリスクがあります。「相当な努力」の証拠保全、補償金額の見立て、契約条項の整備、AI学習データへの応用判断など、企業法務の総合力が問われる場面が多く含まれています。
著作権・知的財産に強い弁護士は、裁定申請の戦略設計、証拠保全のフォーマット整備、契約条項のリーガルチェックまで一体で支援します。本制度を有効活用してコンテンツビジネスの競争力を高めるためにも、早期の弁護士相談をおすすめします。
関連記事
裁定制度の活用は、「相当な努力」の証拠保全・補償金額の見立て・契約条項の整備・AI学習データへの応用判断を一体で進める必要があります。著作権侵害リスクを回避しつつ、過去のコンテンツを最大限活用するには、専門家の助言を得て検討を進めることが望ましいでしょう。
企業法務弁護士ナビでは、著作権・知的財産・コンテンツビジネス分野に対応する弁護士を地域・対応条件で絞り込んで検索できます。初回相談無料・オンライン面談対応の弁護士も多数掲載しています。
編集部
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
※企業法務弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。
本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。