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2025年1月、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表し、労働基準法の約40年ぶりとなる抜本的な見直しの方向性が示されました。1987年の大改正以来となる今回の改正は、テレワークの普及、副業・兼業の一般化、フリーランスやギグワーカーの増加など、働き方の多様化に対応するための包括的な内容となっています。
当初は2026年の通常国会への改正法案提出、2027年4月からの施行が見込まれていましたが、2025年12月に改正法案の通常国会への提出が見送られたことが報じられました。しかし、研究会での議論内容は今後の法改正の方向性を示す重要な指針となることに変わりはありません。
本記事では、労働基準関係法制研究会報告書で示された改正の方向性を踏まえ、企業の人事労務担当者が理解しておくべき主要項目と実務対応について詳しく解説します。
参照:厚生労働省「『労働基準関係法制研究会』の報告書を公表します」(2025年1月8日)
本記事のポイント※なお、本記事の内容は2025年1月に公表された研究会報告書に基づくものであり、今後の国会審議等で内容が変更される可能性があることをご留意ください。
労働基準法の抜本的な見直しが検討されている背景には、大きく3つの社会変化があります。
第一に、働き方の多様化です。コロナ禍を経て、テレワークが急速に普及し、場所や時間にとらわれない働き方が一般化しました。また、副業・兼業を認める企業も増加し、複数の仕事を掛け持ちする働き方も珍しくなくなっています。さらに、プラットフォームを通じて単発の仕事を請け負うギグワーカーや、企業に属さないフリーランスも増加しており、従来の「企業にフルタイムで雇用される正社員」を前提とした労働基準法では、こうした新しい働き方に十分対応できない状況となっています。
第二に、長時間労働と過労死問題の深刻化です。日本では依然として長時間労働が常態化している業種・職種があり、過労死や精神疾患の労災認定も後を絶ちません。特に、勤務終了から次の勤務開始までの休息時間が短い「勤務間インターバルの不足」や、休日にも業務連絡が来る「つながりっぱなしの働き方」が労働者の健康を脅かしています。欧州諸国では勤務間インターバル制度の義務化や「つながらない権利」の法制化が進んでおり、日本も国際基準に合わせた規制強化が求められています。
第三に、少子高齢化に伴う労働力不足です。人口減少が進む中で、高齢者や女性、外国人など多様な人材が活躍できる環境整備が急務となっています。そのためには、柔軟で働きやすい労働環境を整備し、仕事と育児・介護との両立を支援する制度が不可欠です。
厚生労働省の労働基準関係法制研究会は、こうした背景を踏まえ、「労働基準関係法制が果たすべき役割を再検討し、労働基準関係法制の将来像について抜本的な検討を行う時期に来ている」と指摘しています。今回の改正の目的は、すべての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることができる社会を実現すること、そして働く人の求める多様な働き方に応えることのできる制度を整備することにあります。
出典:労働政策研究・研修機構「労働基準関係法制が果たすべき役割を再検討し、将来像についての抜本的な検討を行う時期に来ていると指摘」(2025年3月号) https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2025/03/special_01.html
労働基準関係法制研究会報告書では、労働時間法制に関する具体的な課題として、主に7つの項目が検討されています。これらは企業の労務管理に直接的な影響を与える重要な内容です。
現行の労働基準法では、変形休日制(4週4日以上の休日付与)を利用することで、理論上は最大で48日間の連続勤務が可能となっています。しかし、長期間の連続勤務は労働者の心身に大きな負担をかけ、過労死や精神疾患のリスクを高めます。研究会報告書では、精神障害の労災認定基準も踏まえ、13日を超える連続勤務を禁止する規定を設けることが提案されています。
労働基準法第35条は週1日または4週間に4日以上の休日付与を義務付けていますが、「どの日を法定休日とするか」を事前に特定する義務は明記されていません。このため、休日労働に対する割増賃金(35%増)の計算が曖昧になり、労使トラブルの原因となっています。報告書では、就業規則等で法定休日を明確に特定することを義務化する方向が示されています。
勤務間インターバル制度とは、勤務終了時刻から次の勤務開始時刻までに一定時間以上の休息時間を確保する制度です。現行法では努力義務にとどまっていますが、労働者の健康確保の観点から、原則11時間以上の休息時間確保を義務化する方向で検討されています。これはEU指令の最低基準である11時間に倣ったものです。
年次有給休暇を取得した際の賃金算定方法として、現行法では「平均賃金方式」「通常の賃金方式」「健康保険の標準報酬日額方式(労使協定が必要)」の3つが認められています。
報告書では、このうち「通常の賃金方式」(通常通り勤務した場合に支払われる賃金)を原則とすることが提案されています。これにより、有給休暇を取得すると賃金が減少するという労働者の不利益を解消することを目指しています。
デジタル技術の発達により、休日や勤務時間外でもメールやチャットで業務連絡が来るという状況が常態化しています。フランスでは2017年に「つながらない権利」が法制化され、勤務時間外の業務連絡に応答しなくても不利益を受けない権利が保障されています。
日本でも同様に、勤務時間外の業務連絡を制限するガイドラインを策定する方向で検討が進められています。
現行の厚生労働省の見解では、労働者が複数の事業場で働く場合、労働時間を通算して時間外労働の割増賃金を計算する必要があるとされています。しかし、この通算管理は企業にとって極めて複雑で、副業・兼業を認める際の大きな障壁となっています。
報告書では、健康確保のための労働時間通算は維持しつつも、割増賃金の算定については通算を不要とする制度改正が提案されています。これにより、企業が副業・兼業を容認しやすくなることが期待されています。
現行法では、常時10人未満の労働者を使用する特定の事業場(小売業、旅館・料理店・飲食店、理容業、病院・診療所など)について、週44時間までの労働を認める特例措置があります。しかし、働き方改革の観点から、この特例を廃止し、すべての企業で週40時間を原則とする方向で検討されています。
7つの主要項目の中から、特に企業への影響が大きく、実務対応が求められる5つの項目について詳しく解説します。
連続勤務の上限規制は、シフト制を採用している企業、特に医療・介護、小売・飲食、宿泊業などの業種に大きな影響を与えると予想されます。
現行法の問題点は、労働基準法第35条が「週1日または4週間に4日以上の休日」を義務付けているものの、休日の取得タイミングを分散させることで長期間の連続勤務が可能になってしまう点にあります。具体的には、4週間の初めに4日間休日を与え、その後24日間連続で勤務させ、次の4週間の初めにまた4日間休日を与えるという運用が理論上可能となっています。
このような長期間の連続勤務は、労働者の疲労蓄積を招き、健康障害や労働災害のリスクを高めます。厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、連続勤務が一定期間続くことが精神障害の発症要因として評価されており、特に13日以上の連続勤務は高い心理的負荷があるとされています。
研究会報告書では、この認定基準を踏まえ、13日を超える連続勤務を原則として禁止する規定を設けるべきとしています。ただし、業務の性質上やむを得ない場合の例外規定や、労使協定による特例措置などについては、今後の労働政策審議会での議論が必要とされています。

企業にとっての実務的な影響としては、シフト作成ルールの抜本的な見直しが必要となります。特に人手不足の業種では、連続勤務が13日を超えないよう計画的に休日を配置する必要があり、場合によっては新規採用や人員配置の変更も検討しなければなりません。
また、勤怠管理システムに連続勤務日数をチェックする機能を追加し、上限に近づいた場合にアラートが出るような仕組みの導入も求められます。
法定休日の特定義務化は、一見すると小さな変更に思えますが、実務上は重要な意味を持ちます。
現行法では、週1日の法定休日をいつにするかを明示する義務がないため、多くの企業では「週1日の休日を与える」という抽象的な規定にとどまっています。これにより、どの日が法定休日なのか曖昧になり、特に変形労働時間制を採用している企業では、休日労働に対する割増賃金の計算が複雑化しています。
労働基準法では、法定休日に労働させた場合は35%以上の割増賃金の支払いが必要ですが、法定外の休日(例えば週2日休みのうち法定休日でない方の休日)に労働させた場合は、時間外労働として25%以上の割増賃金となります。しかし、どちらが法定休日かが不明確だと、正しい割増賃金の計算ができません。
報告書では、この問題を解消するため、就業規則等で法定休日を具体的に特定して明示することを義務化する方向が示されています。例えば、「毎週日曜日を法定休日とする」「毎月第1・第3日曜日を法定休日とする」など、労働者が事前に認識できる形での明示が求められます。
勤務間インターバル制度の義務化は、特に夜勤や交代制勤務、残業が恒常的に発生する企業に大きな影響を与えます。
現在、勤務間インターバル制度は「労働時間等設定改善法」により努力義務とされていますが、実際に導入している企業は限定的です。厚生労働省の調査によれば、勤務間インターバル制度を導入している企業の割合は全体の約6%にとどまっています。
研究会報告書では、労働者の健康確保の観点から、原則として11時間以上の休息時間を確保することを義務化する方向が示されています。この11時間という基準は、EU労働時間指令が定める最低休息時間に倣ったものです。
具体的には、例えば23時まで残業した場合、翌日の始業時刻は最低でも10時以降にしなければならないということになります。これにより、「深夜まで残業して翌朝8時出勤」という働き方ができなくなります。
なお、報告書では、業務の性質上やむを得ない場合の例外規定や、インターバルを確保できなかった場合の代替措置(振替休息など)についても検討の必要性が示されており、今後の審議で具体的な制度設計が行われる見込みです。
「つながらない権利」は、比較的新しい概念であり、デジタル時代の労働環境に対応した重要な権利です。
日本でも、テレワークの普及により、仕事と私生活の境界が曖昧になり、休日や深夜でも業務連絡が来るという状況が常態化しています。
研究会報告書では、勤務時間外の業務連絡を制限するガイドラインを策定する方向が示されていますが、フランスのように法律で直接規定するのではなく、まずはガイドラインレベルでの対応となる見込みです。つまり、完全な禁止ではなく、努力義務や推奨事項としての位置づけになると予想されます。
企業が取るべき対応としては、まず社内ルールの策定が必要です。具体的には、「原則として21時から翌朝6時まで、および休日は業務連絡を禁止する」「緊急時の定義と連絡手順を明確にする」「時間外の連絡に返信しなくても人事評価で不利益な扱いをしない」などのルールを就業規則や社内ガイドラインに明記します。
また、管理職に対する教育も重要です。特に、「緊急でない限り時間外に部下へ連絡しない」という意識改革が求められます。メールやチャットの送信予約機能を活用し、夜間や休日に作成したメッセージを翌営業日の朝に送信する運用も有効です。
さらに、勤務時間外の業務連絡に関する実態調査を行い、どの部署でどの程度の時間外連絡が発生しているかを把握することも重要です。時間外連絡が常態化している部署では、業務プロセスの見直しや人員配置の変更を検討する必要があります。
副業・兼業に関する労働時間通算ルールの見直しは、これから副業・兼業を推進しようとする企業にとって朗報となる可能性があります。
現行の厚生労働省の見解では、労働者が複数の事業場で働く場合、それぞれの事業場での労働時間を通算し、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた部分について、後から労働契約を締結した事業主が割増賃金を支払う義務があるとされています。
諸外国を見ると、フランス、ドイツ、オランダ、イギリスなどでは、副業・兼業を行う場合でも労働時間の通算を行わず、それぞれの事業主が自社での労働時間のみに基づいて割増賃金を計算する仕組みとなっています。
研究会報告書では、こうした国際的な動向も踏まえ、割増賃金算定については労働時間の通算を不要とする制度改正を提案しています。ただし、労働者の健康確保の観点から、労働時間の把握・管理自体は継続する必要があるとされています。つまり、「健康管理のために他社での労働時間は把握するが、割増賃金の計算では通算しない」という仕組みです。
この改正が実現すれば、企業は副業・兼業を認めやすくなり、労働者の多様な働き方を支援できるようになります。企業としては、副業・兼業を許可する際の手続きや、健康管理のための労働時間把握方法を明確にする必要があります。具体的には、副業先の企業名、業務内容、労働時間を定期的に報告させる仕組みや、長時間労働を防止するための上限時間の設定などが考えられます。
出典:経団連タイムス「多様な働き方を踏まえた労基法の課題と見直しの方向性」(2025年2月20日)
労働基準法の改正に向けて、企業が今から準備すべき実務対応は大きく3つの領域に分けられます。
まず最も重要なのが、就業規則の見直しです。改正の内容を就業規則に反映させる必要があります。
具体的には、連続勤務の上限に関する規定を新設し、「13日を超える連続勤務をさせない」旨を明記します。また、法定休日の特定について、「毎週日曜日を法定休日とする」など、具体的な曜日または日を明示する必要があります。
勤務間インターバル制度についても、「勤務終了時刻から次の勤務開始時刻まで、原則として11時間以上の休息時間を確保する」という規定を設けます。また、例外的にインターバルが確保できない場合の手続きや代替措置についても定める必要があります。
有給休暇の賃金算定方法については、「年次有給休暇を取得した日の賃金は、通常の賃金とする」と明記し、計算方法を明確化します。
「つながらない権利」に関しては、服務規律の中に「勤務時間外および休日における業務連絡は、緊急やむを得ない場合を除き、原則として行わない」という規定を追加します。また、「従業員が勤務時間外の業務連絡に応答しないことをもって、人事評価その他の処遇において不利益な取扱いをしない」という保護規定も重要です。
副業・兼業に関する規定も見直しが必要です。副業・兼業を許可する場合の手続き、他社での労働時間の報告方法、健康管理のための上限時間などを明確に定めます。
次に重要なのが、勤怠管理システムと給与計算システムの改修です。
連続勤務日数の管理については、システムが自動的に連続勤務日数をカウントし、13日に近づいた場合にアラートを出す機能が必要です。また、シフト作成時に連続勤務が13日を超える予定が組まれた場合に警告を表示する機能も有効です。
勤務間インターバルの管理も同様に、システムによる自動チェックが不可欠です。前日の退勤時刻と翌日の出勤予定時刻を比較し、11時間未満の場合にアラートを出す機能、さらには、インターバルが不足する場合に自動的に翌日の始業時刻を繰り下げる提案機能などが求められます。
法定休日の特定については、シフト表や勤務カレンダーに法定休日を明示的に表示する機能が必要です。また、法定休日労働と法定外休日労働を区別して記録し、それぞれに対して正しい割増賃金率(法定休日労働は35%、法定外休日労働は25%)を適用する機能も必須です。
有給休暇の賃金計算については、通常賃金方式での計算を標準設定とし、システムが自動的に正しい金額を算出できるよう改修します。日給制や時給制のパート・アルバイトが多い企業では、特に注意が必要です。
副業・兼業者の労働時間管理については、他社での労働時間を入力・管理できる機能を追加します。健康確保の観点から、自社と他社を合わせた総労働時間を把握し、過重労働の防止に役立てる必要があります。
制度を変更しても、それが従業員に理解され、現場で正しく運用されなければ意味がありません。従業員への丁寧な説明と周知が不可欠です。
まず、法改正の背景と目的を従業員に説明します。「なぜこの改正が行われるのか」「労働者の健康確保のためにどのような意味があるのか」を理解してもらうことが、スムーズな制度移行の第一歩です。
次に、具体的な変更内容について、全従業員を対象とした説明会を開催します。特に重要なのは、連続勤務の制限、勤務間インターバル、つながらない権利など、日々の働き方に直接影響する項目です。抽象的な説明だけでなく、「これまでOKだったがこれからNGになること」「新しく守るべきルール」を具体例を挙げて説明します。
管理職に対しては、別途重点的な研修を実施する必要があります。管理職は部下の労働時間を管理する立場にあるため、新しいルールを正確に理解し、適切にシフトを組み、勤怠管理を行う責任があります。特に、「つながらない権利」については、管理職自身の意識改革が最も重要です。部下に対する時間外の業務連絡が常態化している管理職には、行動変容を促す必要があります。
社内ガイドラインの策定も有効です。就業規則は法的な文書であり、やや堅い表現になりがちですが、ガイドラインではより具体的で分かりやすい説明や事例を示すことができます。
労働基準関係法制研究会の報告書はあくまで「検討の方向性」を示したものであり、今後、労働政策審議会での審議を経て、具体的な法案が作成されます。その過程で注目すべきポイントを3つ挙げます。
第一の注目ポイントは、労働基準法上の「労働者」の定義と判断基準の見直しです。
現行の労働基準法第9条は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。この「使用される」という要件の具体的な判断基準は、1985年の「労働基準法研究会報告」で示されて以来、約40年間見直されていません。
しかし、この間に働き方は大きく変化しました。特に、プラットフォームを通じて単発の仕事を請け負うギグワーカー、複数の企業と業務委託契約を結ぶフリーランス、在宅で業務を行うテレワーカーなど、従来の判断基準では「労働者」に該当するかどうかの判断が困難なケースが増えています。
研究会報告書では、「労働者」の判断基準について、諸外国の制度も参考にしつつ、専門的な研究の場を立ち上げて検討することが提言されています。例えば、EUでは2024年にプラットフォームワーカーを労働者と推定する指令が採択され、一定の基準を満たす場合には企業側が「労働者でない」ことを立証する責任を負うという「推定規定」が設けられました。日本でも同様の推定規定の導入が議論される可能性があります。
今後の審議では、どのような基準で労働者性を判断するのか、推定規定を設けるのか、フリーランスやギグワーカーに対してどの程度の保護を及ぼすのかが焦点となります。
第二の注目ポイントは、過半数代表者制度の見直しです。
労働基準法では、36協定(時間外・休日労働に関する協定)や各種の労使協定を締結する際、過半数労働組合がない事業場では「過半数代表者」との協定が必要とされています。しかし、この過半数代表者制度には、長年多くの問題点が指摘されてきました。
具体的には、過半数代表者の選出が形骸化しているケース、使用者が指名した者が代表者になっているケース、代表者が十分な情報を与えられないまま協定に署名させられているケース、代表者になったことで不利益な取扱いを受けるケースなどです。このような状況では、労働者の意見が適切に反映されず、労使協定が本来の機能を果たせません。
研究会報告書では、過半数代表者制度の改善に向けて、選出手続きの適正化、使用者による情報提供や便宜供与の義務化、過半数代表者に対する不利益取扱いの禁止の明確化などが提言されています。
企業にとっては、これまで以上に過半数代表者との誠実な協議が求められることになります。形式的に協定書にサインをもらうだけでなく、十分な情報を提供し、代表者が労働者の意見を集約する時間を確保し、実質的な協議を行うというプロセスが重要になります。
今後の審議では、過半数代表者の選出方法の具体的な基準、使用者の情報提供義務の内容、不利益取扱いの禁止の範囲などが議論されることになります。
第三の注目ポイントは、各改正項目について、法的義務とするのか、努力義務にとどめるのか、ガイドラインで対応するのかという「規制の強度」の決定です。
研究会報告書では、連続勤務の上限規制、法定休日の特定、勤務間インターバル制度などについて義務化の方向が示されていますが、最終的にどこまで義務化されるかは、労働政策審議会での労使の合意形成次第です。特に使用者側委員からは、企業負担の増加や柔軟な働き方への制約を理由に、義務化に慎重な意見が出される可能性があります。
さらに重要なのが、経過措置の設定です。
特に中小企業にとっては、連続勤務の制限や勤務間インターバルの義務化は、人員配置の抜本的な見直しを伴う大きな変更となります。施行日までに準備が間に合わない企業も出てくる可能性があるため、段階的な施行や猶予期間の設定が検討されるかもしれません。
過去の働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制について、中小企業には1年間の猶予期間が設けられました。同様に、今回の改正でも、企業規模や業種によって異なる施行スケジュールが設定される可能性があります。
今後の審議では、各改正項目の義務化の是非、例外規定の範囲、罰則の有無、経過措置の内容などが、労使双方の意見を踏まえて慎重に検討されることになります。企業としては、これらの議論の動向を注視し、最終的な法案の内容に応じて、適切な準備を進める必要があります。
参照:自由法曹団「労働基準関係法制研究会報告書の問題点を明らかにし、労働者の権利保護のための議論を求める意見書」(2025年2月25日)
労働基準法の約40年ぶりの大改正は、企業の人事労務管理に大きな影響を与える重要な転換点となります。2025年1月に公表された労働基準関係法制研究会報告書は、テレワークや副業・兼業の普及、ギグワーカーの増加など、働き方の多様化に対応するための包括的な見直しの方向性を示しました。
主要な改正項目として、連続勤務の上限規制、法定休日の特定義務、勤務間インターバル制度の義務化、有給休暇の賃金算定方法の明確化、つながらない権利に関するガイドライン、副業・兼業者の労働時間通算ルールの見直し、週44時間特例措置の廃止の7つが検討されています。
これらの改正は、労働者の健康確保と働きやすい環境の整備を目的としていますが、企業にとっては、人件費の増加、勤怠管理の複雑化、システム改修などの対応コストが発生します。特にシフト制を採用している医療・介護、小売・飲食、宿泊業などの業種では、業務運営の抜本的な見直しが必要となる可能性があります。
改正法案の国会提出時期は未定ですが、企業としては、今から準備を始めることが重要です。具体的には、現状の勤務実態の把握、就業規則の見直し検討、勤怠管理システムベンダーへの情報収集などを進めるべきです。法案が確定してから対応を始めるのでは、施行日までに準備が間に合わない可能性があります。
また、今後の労働政策審議会での議論では、労働者性の判断基準、過半数代表制度の見直し、各項目の義務化の範囲と経過措置などが焦点となります。これらの議論の動向を注視し、最終的な法案の内容に応じて、適切かつ計画的な対応を進めることが求められます。
今回の改正を単なる規制強化と捉えるのではなく、働きやすい職場環境を整備し、優秀な人材を確保・定着させるための機会と捉えることが重要です。法令遵守はもちろんのこと、従業員の健康と幸福を重視する企業姿勢を示すことで、人材獲得競争において優位に立つことができるでしょう。
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