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売掛金の時効は、2020年4月以降に発生したものなら「支払期限から5年」が原則です。
「もう売掛金を回収できないのでは」と不安を抱える経営者や経理担当の方も多いはず。
ただし、時効は期間が過ぎただけで自動的に成立するわけではありません。訴訟や内容証明などで正しく手を打てば、完成を止めて回収につなげることも可能です。
本記事では、売掛金の時効期間と数え方から、時効を止める具体的な方法、未払い時の対処法までをわかりやすく解説します。
売掛金の時効期間は、いつ発生した債権かによって5年または2年に分かれます。2020年4月以降に発生した売掛金なら、支払期限から5年で時効が成立します(民法第166条)。
たとえば2020年10月末が支払期限の場合、2025年10月末に時効が経過します。一方、2020年3月以前に発生した売掛金には、当時の法律(旧法)が適用されます。
当時は業種や取引内容によって時効期間が細かく分かれており、小売店や卸売業者の商品売却代金などは2年(旧民法173条1号)、製造業の売掛金や建設工事の請負代金は3年(旧民法170条2号)、それら以外の会社間の取引(商事債権)は5年(旧商法522条)と定められていました。自社の古い売掛金がどれに該当するかは注意が必要です。
売掛金の時効援用とは、債務者(買主)が「時効が成立したため、支払義務(債務)は消滅した」と債権者(売主)に対して正式に主張する手続です。時効期間が過ぎても売掛金は自動的に消えず、債務者が「時効を使います」と宣言(援用)して初めて法的に消滅します。
債権者(回収側)の視点で言えば、たとえ5年以上前の売掛金であっても、債務者が時効を援用する前に債務を承認(一部の弁済や、「支払いを待ってほしい」という書面への署名など)させることができれば、時効をリセット(更新)して回収の可能性を繋ぎ止めることができます。
逆に、債務者から「消滅時効を援用する」と書かれた内容証明郵便が届いてしまうと、売掛金は法的に消滅し、以降は一切請求できなくなります。 だからこそ、債務者から援用手続きを取られる前に、速やかに時効を阻止する手を打つ必要があるのです。
2020年4月の民法改正で、売掛金の時効の「起算点(数え始める時点)」の考え方が変わりました。新民法では、「主観的起算点」と「客観的起算点」という2つの基準が設けられています。
それぞれの意味と、実務での捉え方を見ていきましょう。
新民法の消滅時効は、「債権者が権利を行使できると知った時」から5年で完成します(主観的起算点)。一般的な商取引では、契約書に支払期日が記載されるのが通常です。
債権者は、いつから請求できるかを把握しているケースがほとんどです。実務上は、売掛金の時効を「支払期日から5年」と捉えておけば問題ありません。
客観的起算点とは、債権者が権利を行使できる状態になった時点から数える考え方です。新民法では、権利を行使できる時から10年で消滅時効が完成します(客観的起算点)。
しかし、支払期限が定められている通常の売掛金取引では、債権者は支払期限(権利を行使できること)を当然に把握しているため、主観的起算点が適用されます。したがって、たとえば支払期限が2025年4月30日なら、通常はその日から5年後(2030年4月30日)に時効を迎えることになります。売掛金において10年の客観的起算点が優先されるケースは極めて稀ですので、実務上は「支払期限から5年」がデッドラインであると捉えてください。
支払期限の定めがない契約では、いつでも権利を行使できるため、契約日が時効の起算点になります。業務委託契約(請負代金)の場合は、原則として成果物を納品した時から時効が進行します。
修正が発生したときは、最終的な完成品を納品した日(検収日など)が起算点となります。たとえば4月30日に納品し、修正を経て5月10日に検収した場合、起算点は5月10日です。
契約の内容によって起算点は変わるため、自社の取引形態に合わせて確認しておくのがおすすめです。
時効の更新(旧法の中断)とは、経過していた期間をリセットし、ゼロから数え直させる手続きです。更新が認められると、それまでの期間は無効になり、あらためて時効期間が進行します。
代表的な5つの方法を順番に見ていきましょう。
訴訟を起こすと、裁判をしている間は時効の進行が一時的に止まります。判決が確定すれば、それまで経過していた期間はリセットされ、そこから10年間に延長されます。
数ある手続きのなかでも、もっとも強力かつ確実に時効を止められるのが訴訟の大きな強みです。一方で、裁判所への申し立てや証拠書類の準備に手間がかかり、費用と時間の両面で負担が大きいのがデメリットです。
少額の売掛金では手間が見合わないケースもあり、金額の大きい債権について最終手段として選ばれることが多い方法です。判決まで得られれば、そのまま強制執行による回収へ進めるため、確実に取り立てたい場面で頼りになります。
支払督促とは、裁判所を通じて買主に支払いを命じてもらう簡易な手続きです。申し立てた時点で、時効の進行を一時的に止められます。
訴訟に比べて申立費用が安く、書類審査だけで進むためスピーディーなのがメリットです。買主が異議を出さないまま手続きが確定すれば、時効がリセットされ、更新の効果まで得られます。
ただし、買主から異議申し立てがあると自動的に通常の訴訟へ移行します。相手が支払いを争う姿勢を見せている場合は、初めから訴訟を選んだほうが結果的にスムーズな場合もあります。
まずは相手の出方をふまえ、支払督促と訴訟のどちらが適しているかを見極めて進めるのがおすすめです。
民事調停は、裁判所の調停委員を挟んで、話し合いによる解決を目指す手続きです。申し立てにより、時効の進行を一時的に止められます。
訴訟のように白黒をつけるのではなく、双方が歩み寄って合意点を探せるのが調停の特徴です。話し合いがまとまって調停調書が作成されれば、裁判の判決と同じ強い効力を持ちます。
調停調書とは、裁判所での調停手続において、当事者間で合意に達した内容や手続の経過を記録した公文書です。支払いが滞ったときは、あらためて訴訟を起こさなくても調停調書をもとに差し押さえまで進められます。
一方、買主が出席しない場合や話し合いが決裂した場合は、時効を止める効果が失われます。決裂したときは、6ヵ月以内に訴訟などを起こさなければ、猶予の効力が消えてしまう点にも注意が必要です。
買主が「確かにこの売掛金があります」と認めることを債務の承認といいます。承認された時点で時効はリセットされ、そこから5年間に延長されます。
裁判所を介さずに、話し合いのなかで時効を止められる手軽さが大きな魅力です。ただし、口頭で認めてもらうだけでは、後から「言っていない」と否定されるおそれがあります。
後々のトラブルを防ぐために、金額と支払期日を明記した債務承認弁済契約書や確認書に署名捺印をもらうのが基本です。書面という客観的な証拠が残っていれば、いざ訴訟になった際も承認の事実をはっきり示せます。
取引先との関係を保ちながら時効を更新したい場面で、まず検討したい方法といえます。
売掛金の一部だけでも支払ってもらう行為は、法律上債務を承認したものとみなされます。たとえば、10万円のうち1万円の入金でも残り全額の時効をリセットする効果があります。
書面へのサインを求めると身構える相手でも、「まず一部だけ」という提案なら応じてもらいやすいのがメリットです。口座への振込履歴が客観的な証拠として残るため、後から「支払っていない」と言い逃れされる心配もありません。
書類への署名を拒まれたケースでも、一部の入金さえあれば時効を強力に更新できるのは大きなメリットです。古い売掛金で相手の協力を得たいときほど、少額の入金から交渉を始めるのがおすすめです。
完成猶予とは、時効の完成を一定期間だけ先送りにする手続きです。更新のようにカウントをゼロに戻す効果はなく、あくまで時間を稼ぐための方法です。
ここでは、いざという時に時効の完成を防ぐ3つの方法を紹介します。
仮差押え・仮処分とは、裁判所を通じて買主に命令を出し、勝手に財産を処分させないようにする手続きです。訴訟の判決を待っている間に相手が財産を隠したり売却したりするのを防ぎ、回収の実効性を守るのが目的です。
仮差押えや仮処分の手続きが終了した時点から6ヵ月を経過するまでは、時効の完成が猶予されます。ただし、手続きそのものには時効をリセット(更新)する効力はない点に注意が必要です。
猶予されている6ヵ月のうちに、訴訟の提起など別の法的手段を取って、時効を更新させなければなりません。財産をあらかじめ押さえたうえで交渉に臨めば、相手が支払いに応じやすくなるという副次的な効果も期待できます。
催告とは、裁判外で取引先に売掛金の支払いを求める手続きです。一般的には、郵便局が内容と日時を証明する内容証明郵便で催告書を送ります。
正式な訴訟に踏み切る前に、書面一枚で支払いを促せる手軽さが催告の利点です。催告をおこなうと、送付から6ヵ月間時効の完成が猶予されます。時効が目前に迫った場面でも、まず内容証明を送れば、対応を検討する時間を確保できます。
相手にプレッシャーを与えつつ、任意の支払いを引き出すきっかけにもなります。「まずは穏便に支払いを求めたい」という段階に向いた方法です。
ただし、得られる猶予はあくまで一時的なものです。確実に時効を止めるための注意点は、記事後半で詳しく解説します。
【関連記事】内容証明郵便の書き方とは|提出時のポイントや返送時の対応も解説
協議をおこなう旨の書面での合意は、2020年の民法改正で新しく加わった完成猶予の方法です。債権者と債務者が「支払いについて話し合いを続ける」と書面で合意すれば、時効の完成が最長1年間猶予されます。
改正前は、時効を止めるためだけに急いで訴訟を起こす必要がありました。書面での合意があれば、法的措置に頼らず穏便に話し合いを続けられるのが大きなポイントです。
たとえば金額に争いがあり、債務の承認をもらいにくいケースでも、「今後協議する」という合意なら取りつけやすくなります。相手との関係を保ちながら時効の完成を防げるため、いきなり訴訟に踏み切る前の対策として検討する価値があります。
売掛金が未払いのときは、まず原因が自社側か取引先側かを切り分けることが大切です。原因によって、取るべき対応はまったく変わってきます。
ここでは、パターン別の対処法を2つに分けて解説します。
まずは社内に状況を報告し、上長の指示を仰いだうえで取引先へ連絡します。自社側のミスである以上、言い訳を並べる前に、誠実に謝罪する姿勢が何より大切です。
請求書が未発行なら新規に作成し、送り忘れなら再発行しましょう。いずれの場合も、謝罪の一文を添えて直ちに送付するのがマナーです。
送付の際は、支払期日をあらためて明記し、相手が対応しやすいよう配慮します。相手の経理処理にも影響が出るため、いつ入金予定かを具体的に伝えておくと親切です。
送付後は、なぜミスが起きたのかを調査し、チェック体制の見直しなど再発防止策を講じることも欠かせません。請求ミスの放置は、入金の遅れだけでなく自社の信用を損なうリスクにもつながるので注意が必要です。
早めの対応と原因分析をセットで進め、取引先との信頼関係をしっかり守りましょう。
まずは取引先へ連絡を入れ、未払いの状況を伝えたうえで、原因に応じた対策を検討します。単なる払い忘れや資金繰りの一時的な問題であれば、話し合いだけでスムーズに解決できるケースも少なくありません。
連絡がつかない場合は、内容証明郵便で催告をおこないましょう。回収の見込み(相手の資産状況や経営状態)を測るために、(契約書に財務情報の開示条項がある場合や、取引先が任意の同意に応じる場合には) 決算書の開示を求めるのも有効な一手です。
連絡が取れたら、支払方法や期日をあらためて話し合い、合意した内容は必ず書面に残します。口約束のままでは、後々「言った・言わない」のトラブルになりかねないので注意が必要です。
分割払いに応じる場合でも、金額と期日を明記した合意書を交わしておくと安心です。催告しても応じない場合は、支払督促や民事調停などの法的措置も視野に入れましょう。
内容証明郵便による督促(催告)で延ばせる時効は、最大でも6ヵ月間だけです。催告に認められているのは「時効の完成を一時的に猶予する」効果までで、経過した期間をリセット(更新)する力はないためです。
たとえ時効の間際に催告しても、確保できる猶予は6ヵ月が上限です。さらに、6ヵ月の猶予が切れる前にもう一度催告を送っても、期間を積み増すことは認められていません。
同じ相手への催告で時効を止められるのは、実質的に一度きり。内容証明による督促は「時効の完成を1回だけ6ヵ月ずらせる手段」と位置づけ、過信しないことが大切です。
内容証明郵便での催告は、正しくおこなわないと時効を止める効果を得られません。送り方や手続きの順序を誤ると、せっかくの督促が無駄になる可能性もあるので注意が必要です。
特に押さえておきたい3つの注意点を解説します。
催告で時効の完成猶予を主張するには、普通郵便ではなく、必ず内容証明郵便を使う必要があります。口頭や普通のメール・郵便では、後から「催告は受けていない」「中身は別の書類だった」と言い逃れされるおそれがあるためです。
内容証明郵便を使えば、「いつ・誰が・どんな内容の文書を送ったか」を、郵便局が公的に証明してくれます。さらに配達証明を付ければ、相手にいつ届いたのかまで記録に残せるのも安心材料です。
万が一裁判で争いになったときも、公的な記録が残っていれば催告の事実を確実に立証できます。確実に証拠を残して法的効果をきちんと発揮させるためにも、催告は内容証明郵便でおこなうのが鉄則です。
催告をおこなった後は、6ヵ月の猶予期間が切れる前に、訴訟や支払督促といった正式な手続きへ進む必要があります。催告だけでは時効の完成を先送りできるにとどまり、確実に止めるには次の一手が欠かせないためです。
たとえば催告をして安心し、何もしないまま6ヵ月を過ぎると、そのまま売掛金は時効で消滅します。実務では、催告書を送ると同時に訴訟や支払督促の準備を並行して進めておくのが安全です。
証拠書類の収集や申立先の確認には時間がかかるため、6ヵ月をギリギリまで使わない段取りが理想的です。催告後は必ず法的手続き、という流れをセットで意識しておきましょう。
催告は、書面が買主のもとに届いた時点で初めて法的な効力が発生します。民法では、意思表示は相手方に到達して初めて効果を持つと定められています。
たとえば時効ギリギリで内容証明を発送しても、不在や受け取り拒否によって期間内に届かなければ猶予は認められません。基準になるのは発送した日ではなく、相手に届いた日です。
受け取りを拒否された場合でも、相手が内容を知り得る状態に置かれていれば到達と認められる場合もあります。特に相手が遠方の場合や連絡が取りにくい場合は、早め早めの発送を心がけましょう。
確実性を高めるためにも、時効の間際は避け、日数に十分な余裕を持って発送しておくのが安全です。
売掛金の回収が難航しているなら、早めに弁護士へ相談・依頼するのが最善の解決策です。弁護士が代理人として動けば、長年の取引先への配慮から強硬な法的措置まで、状況に応じた対応をスムーズに進められます。
付き合いの長い取引先には、自社から催促しづらいケースも少なくありません。弁護士が間に入れば、心理的な負担や関係悪化の心配を減らしながら、客観的な交渉が可能です。
もし相手が支払いを拒み続け、訴訟や強制執行が必要になった場合も安心して任せられます。あなたの事情を把握している弁護士が味方にいれば、迅速かつ確実に手続きを移行できます。
心理的なハードルや法的トラブルを先回りするためにも、早めの相談がおすすめです。
【関連記事】債権回収の弁護士費用はいくら?回収方法ごとの相場・内訳・安く抑える方法を解説
時効が迫った売掛金でも、弁護士に依頼すれば回収の可能性を大きく高められます。専門家ならではの視点で、最適な手段の選択から交渉、法的措置までを一手に任せられるのが強みです。
具体的な3つのメリットを見ていきましょう。
時効が迫って対応に迷うなら、一刻も早く弁護士に相談し、最適な手段を判断してもらうべきです。時効間際では完成を防ぐことが最優先ですが、状況によって取るべき手続き(完成猶予か更新か)は異なり、正しく選ぶのは簡単ではないからです。
具体的には、内容証明を送るべきか・すぐ訴訟を起こすべきか・書面で合意を目指すかといった専門的な見極めが求められます。弁護士に相談すれば、取引先との関係・残された日数・証拠の有無をふまえて時効を止める方法を選んでくれます。
時効切れという最悪の結果を避けるためにも、専門家の力を借りるのを強くおすすめします。
親しい取引先への売掛金回収こそ、弁護士を代理人に立てて交渉するのがおすすめです。当事者同士では「関係を壊したくない」というためらいが生じやすく、毅然とした催促が難しいためです。
第三者である弁護士なら、感情を交えず冷静に交渉を進められます。相手との良好な関係に配慮しつつ、法的な視点から話し合いの場を整えてくれるのも心強いポイントです。
自社で直接交渉するより、関係へのダメージを抑えながら満額回収できる可能性が高まります。
話し合いで売掛金が回収できないときは、速やかに弁護士と連携して訴訟などへ移行すべきです。交渉が破綻した後は強制力のある手段を取るしかなく、事情を把握した弁護士がいれば迅速に進められます。
放置すれば、時効の完成や相手方の財産隠しといったリスクが高まります。事前に相談していれば、これまでの経緯や証拠を理解しているため、いざという時もスムーズに申し立てが可能です。
裁判が始まった後も、専門知識を活かしてこちらに有利な主張を組み立ててくれます。任意交渉の限界を見据え、前もって弁護士に相談しておくことが大切です。
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売掛金の時効は、2020年4月以降に発生したものなら支払期限から5年が原則です。2020年3月以前の売掛金は2年で時効を迎えるため、発生時期の確認が欠かせません。
時効は期間の経過だけで成立するものではなく、援用があって初めて完成します。だからこそ、時効が近い売掛金は更新や完成猶予で早めに食い止めることが大切です。
内容証明による催告は、あくまで6ヵ月の時間稼ぎなので、猶予のうちに訴訟や支払督促へ進む必要があります。回収が難しいと感じたら、早めに企業法務に強い弁護士へ相談するのがおすすめです。
売掛金を守る第一歩として、自社の時効期限をまず確認してみましょう。
編集部
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
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