「請負契約書」とは、仕事を依頼する際に依頼人と請負人の間で交わす契約書です。請負契約ではなく「業務委託契約」が締結される場合もありますが、実態はほとんど変わりません。もっとも、請負契約と委託契約は適用される法律が異なるため、契約の法的効果が若干異なることもあります。
この記事では、請負契約書の基礎知識や作成方法を中心に、委任契約書との違いについてご紹介します。
請負契約書の基礎知識
ここでは、請負契約書の基礎知識について解説します。
請負契約書とは
「請負契約書」とは、仕事の「完成」を約束し、その仕事の対価として報酬を支払う約束をまとめた文書のことです。これを交わすことによって、請負人には仕事の完成・提出のなどの責任や義務が発生し、依頼者には以下のような義務や権利、責任が発生します。
依頼者側に発生する義務・権利・責任
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請負契約書がない場合のリスク
請負契約を文書として作成する義務はありません。そのため、口約束でも契約を成立させることができます。しかし、請負契約書がないと、トラブルが発生した際に「約束した」「約束してない」などの水掛け論に発展し、問題が複雑化する恐れがあります。
これらのリスクを回避するために、証拠として請負契約書を作成すべきといえるでしょう。また、文書にすることで依頼者側の希望する依頼が明確になり、解釈違いや聞き間違いなどのミスを回避できます。
請負契約と委任契約の違い
請負契約は、依頼者が発注した仕事を「完成させる」義務があります。一方で、委任契約は依頼された仕事を「実行する」ことが重要になります。ただ、実態はあまり変わりませんし、法的な効果も基本的には似通っています。
まとめると以下のようになります。
請負契約 |
委任契約 |
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契約の定義 |
仕事の完成とそれに対する報酬を約束 |
法律行為を委託し、それに対し報酬を約束 |
報酬を請求できる状況 |
仕事完成時 |
目的となる事務を遂行した時 |
契約の解除 |
請負人にたいする損害を賠償すれば、完成までの間いつでもできる |
いつでも解約が可能。ただし、受任者に不利な時期に解除した場合は、発生した損害に対し賠償する。 |
費用増加などの危険負担 |
請負人 |
委任者(依頼者) |
(参考:請負契約とその規律|国土交通省)
請負契約書に記載すべき内容
ここでは、請負契約書に記載するべき内容について詳しくご紹介します。請負契約書には、依頼者が受注者に対して分かりやすく、業務内容や作業範囲を具体的に記述しておきます。
代金の支払い方法
請負契約書には、報酬の支払い方法や支払い時期について明確に定めておきます。
また、システム開発など規模が大きな案件や、長期に及ぶ案件については、着手金や中間金の支払いを分割で行うのか、それとも一括で行うのか、きちんと取り決めを定めておきましょう。
原材料の負担
契約業務を行うにあたり、必要となる仕入れ、原材料、旅費、交通費等の諸々の費用について、依頼者側が負担するのか、受注者側の負担で行うのかをあらかじめ明確にしておきましょう。
納入方法
請負契約書には、納入方法についても記載しておきましょう。納入とは、契約業務において何らかの物品や製品を引き渡す行為のことですが、物品や製品のような有体物以外にも、システム開発のような場合にも「納入」と呼ばれます。
納入は、基本的には受注者が依頼者の指定した方法、場所で製品を引き渡さなくてはいけません。それらの納入方法を正確に明記する必要があります。なお、特殊な方法によって納入を行う場合には、別紙に納入方法について図面や画像で明記します。
検収方法
納入された納入物が、依頼者側の求める水準となっているのか、その判断基準を設けておくと、未然に納入物をめぐるトラブルを防止する役割となります。
具体的には、請負契約書に検収に関する事項を明記し、「検収の手続きはどうするのか」「検収方法について」「検収の合格基準について」を明らかにするのです。
また、検収の手続きに関しては、検査の結果や理由をどのように通知するのか、さらに不合格となった場合の再検査についてもしっかり事項を定めておきましょう。
瑕疵担保責任
請負契約においては、依頼者側が求める基準に受注側が対応し納入できなかった場合には、受注者に瑕疵担保責任が発生します。
その場合、依頼者は受注者に対して1年以内に、瑕疵の修理や損害賠償の請求を行わなければいけないことが「民法 第637条」にも明記されています。
<民法 第637条>
前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
また、実際の請負契約では、納入物を引き渡した後でも瑕疵が発生する可能性があります。
このような事態に備えて、契約書には、引き渡しの日から〇〇年間は、工事の瑕疵に対して、これを補修しなければならない旨も記載しておくと良いでしょう。
契約の解除
注文者は、仕事が完成するまでの間は、いつでも請負人の損害を賠償することを条件に請負契約を解除することが可能です。これは、民法第641条に明記されています。
<民法 第641条>
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。(注文者についての破産手続の開始による解除)
この方法による解除は、請負契約書に、そのような条項を入れていない場合でも解除が可能となります。
なお、契約を解除するときに注文者が支払う損害賠償額は、請負人がすでに購入してしまった材料費や職人の手当て、仕事を引き渡した際に、請負人が得られる利益も含まれています。
請負契約書を交わす前の7つのチェックポイント
ここでは、請負契約書を交わす前の7つの注意すべきポイントについて解説します。
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1:仕事の完成
請負契約においては、仕事を完成し注文者に引き渡すことが、請負人に発生する責任になります。これに対して、業務依頼者は請負代金を支払わなくてはいけません。
ただ、仕事を完成する方法には、請負人が自分自身で仕事の完成を目指す方法のほか、下請負に出すことも可能です。
建設工事の場合には、一括下請けは禁止されていますので、部分的な下請けであれば問題ありません。
2:請負代金の支払時期
基本的に請負契約においての請負代金の支払い時期は、法律上は、仕事が完成した時点とされていますが、契約で自由に決めることができます。
例えば、建設工事の請負の場合は、契約時に1/3、上棟時に1/3、引き渡し時に1/3の代金を支払うなどの支払方法が取られることもよくあります。
3:危険負担をどう負うのか
危険負担についても、原則として引渡しまでの危険は請負人負担ですが、これも契約で自由に決められます。
たとえば、原則どおりであれば、建設中の建物が破損してしまった場合、請負人は全て自己の負担でこれを補修、改修しなければなりません。しかし、これでは請負人が不利ということで、通常は、特約事項によって、公平な分担を定めておくのが一般的です。
4:所有権はどちらにあるか
完成した仕事を請負人が依頼者へ引き渡した場合、所有権も依頼者に移行します。
では、完成して引き渡す前の建物の所有権については、明文規定がありません。一般的には、材料を提供したのが、依頼者にある場合には完成した仕事の所有権は、依頼者にあり、材料を提供したのが請負人の場合には、完成した仕事の所有権は、請負人にあると考えられています。
しかし、材料の提供者が明確でない場合も多々ありますので、この点も含めて契約に明記されるのが通常です。
5:完成の遅延と損害金
依頼者と請負人との間で、完成した納入物の引き渡し時期を決定していても、場合によって工事等が遅延することも考えられます。
このような場合には、あらかじめ工事遅延したことにより損害金を決めておくと良いでしょう。請負契約書に遅延の場合の、損害金についても明記しておくことで、紛争の防止にもつながります。
6:請負人の担保責任
新築した建物が雨漏りをするなど、請負人が完成した仕事に欠陥が生じた場合には、依頼者は請負人に対して、欠陥部分の修理と損害賠償請求を行うことになります。
これらが、請負人の担保責任です。もっとも、請負人が法的な担保責任を負うケースは限定的であったりするため、この部分も契約に明記しておくべきでしょう。
7:注文者の契約解除権
依頼者は、仕事が完成するまでの間はいつでも請負人の損害を賠償することで、請負契約を解除することが可能です。(民法 第641条)
そして、この方法による契約の解除については、請負契約書にこの条項を入れていない場合でも有効です。
契約を解除するときに、支払うべき損害賠償額は、請負人がすでに購入してしまった材料費や、職人の手当て、さらに仕事を完成した場合に請負人がもらうべき利益も含まれています。
請負契約書の印紙税について
委任契約書の場合には、印紙は不要ですが、請負契約書の場合には「請負に関する契約書」のため、印紙税が必要となります。具体的には、以下の通りです。
1万円未満のもの |
非課税 |
1万円以上100万円以下のもの |
200円 |
100万円を超え200万円以下のもの |
400円 |
200万円を超え300万円以下のもの |
1,000円 |
300万円を超え500万円以下のもの |
2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの |
1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの |
2万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの |
6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの |
10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの |
20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの |
40万円 |
50億円を超えるもの |
60万円 |
契約金額の記載のないもの |
200円 |
まとめ
請負契約と委任契約に実務的な違いはそれほど大きなものではありません。もっとも、いずれについても契約書がなければ後々トラブルとなりますので、必要に応じて契約書の内容に不備がないか法律の専門家である弁護士に確認をとりましょう。
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