リスクマネジメントとは|定義・プロセス・弁護士に相談するメリット

専門家監修記事
リスクマネジメントとは、企業へ影響を与えうるリスクについて組織的に管理することを指します。企業にとっては必要不可欠な対応の一つと言えますが、対応にあたっては適切な手順のもと進める必要があります。この記事では、リスクマネジメントの定義やプロセスなどを解説します。
阪神総合法律事務所
曾波 重之
監修記事
クレーム・不祥事

リスクマネジメントとは、企業に対して影響を与えかねないリスクについて、組織的に管理することを指します。一例としては「顧客情報の漏えいを防ぐために、セキュリティポリシーを定めること」や「災害発生時にスムーズに対応できるよう、緊急対策本部の設置を取り決めること」などが挙げられます。

 

リスクマネジメントが不十分な場合、資金流出などの予期せぬ損失が発生する恐れもあるため、企業活動を行う上では欠かせない対応の一つと言えるでしょう。この記事では、リスクマネジメントの定義やプロセス、弁護士に相談するメリットなどを解説します。

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リスクマネジメントの定義

ここではリスクマネジメントの目的や、危機管理・リスクヘッジとの違いについて解説します。

目的

リスクマネジメントを行う目的としては、主に以下の3つが挙げられます。

・損失発生の未然防止

・損失発生時の拡大防止

・企業における不確定要素の排除

特に近年は、情報技術の進歩や雇用形態の多様化、経営管理の変化や経済の国際化などの要因によって、企業の対応すべきリスク範囲は拡大状況にあります。また同様に、リスクマネジメントの重要性についても高まっており、企業には適切な対応が求められます。

危機管理との違い

リスクマネジメントに近い用語として危機管理(クライシスマネジメント)があります。危機管理とは、「すでに発生しているトラブルについて、被害を最小限におさめるための対応」を指します。

 

危機管理・リスクマネジメントともに、「トラブル発生による企業への被害を抑える」という点では共通しています。しかし、危機管理ではトラブルの発生後から被害軽減に向けて対応を進めるのに対して、リスクマネジメントではトラブルの発生前から発生防止・被害軽減などの対応を進めるという点で異なります。

リスクヘッジとの違い

リスクヘッジも混同されやすい用語の一つです。リスクヘッジとは、「企業にかかるリスクについて低減させるための対応」を指し、リスク対応の一手法に当たります。

 

リスクヘッジがリスク対応の一手法であるのに対し、リスクマネジメントはリスク管理全般を指します。「リスク対応」はリスクマネジメントのプロセスの一部に含まれるため、リスクヘッジはリスクマネジメントの一部という見方もできるでしょう。

リスクマネジメントの必要性

中小企業や町の小さい会社などの場合リスクマネジメントはそこまで必要ないと思っていたり、「管理部に一任してるから安心」と安心したりしていると思わぬ落とし穴に落ちてしまう可能性があります。

 

例えば身近な事例だと、労働基準法で定められている以上の時間外労働をさせていた場合、法令違反になります。これにより、従業員から訴えられたり、社会的な評判や信頼性が失墜したりする恐れがあります。

 

またそれに伴い、新年度の求人難、取引先との契約破棄、優秀な人材の転職など直接業績や運営に関わる被害から、間接的な被害など考えられるでしょう。リスクを洗い出し、しっかりと対応できていればこのようなリスクは回避できたはずです。

 

さらに大きな事例では、レオパレス21の建築基準法違反の事例などが挙げられます。現在公表されている損失額は43億円にのぼり、会社の業績にかかわる深刻な問題に発展しました。事前のリスクマネジメントを徹底していれば、回避できた可能性も十分にあり得たでしょう。

 

このような事例から、企業に関するリスクマネジメントは、企業を健全に運営していく上でかなり重要だといえます。

リスクマネジメントの対象となるリスク

リスクマネジメントの対象となるリスクは、純粋リスク投機的リスクの2つに大きく分類されます。ここでは、それぞれのリスクの中身について解説します。

純粋リスク

純粋リスクとは「損失のみを与える可能性があるリスク」を指します。純粋リスクの場合、企業にとってマイナスにのみ働く上、発生時の影響度も比較的大きいため、予測や経験などから表面化しないよう対処しておく必要があるでしょう。また、主に以下の4種類に分類されます。

・財産損失リスク…天災(地震・落雷・台風)や人災(盗難や詐欺)など

・人的損失リスク…経営者・重役・従業員の死亡・病気・事故・信用損失など

・収入減少リスク…取引先企業の倒産・競合他社の出現による顧客喪失など

・賠償責任リスク…製造物責任にかかる賠償責任や過失による法的賠償責任など

投機的リスク

投機的リスクとは「利益または損失を与える可能性があるリスク」を指します。投機的リスクの場合、企業にとってプラスにもマイナスにも働く可能性があるため、対応内容によっては収益確保なども望めます。また、主に以下の4種類に分類されます。

・政治的情勢変動リスク…政策変更・消費動向変化・規制緩和など

・経済的情勢変動リスク…為替・金利・景気など

・技術的情勢変化リスク…新技術発明・特許など

・法的規制変更リスク…法律・条例の改正など

リスクマネジメントのプロセス

リスクマネジメントを行う際は、基本的に以下の流れで進めます。ここでは各手順について解説します。

  1. リスクの特定
  2. リスクの分析
  3. リスクの評価
  4. リスクの対応

①リスクの特定

まずは、リスクマネジメントの対応範囲や重要リスクの判断基準など、事前確定事項の確認を済ませた上で、企業にとって影響を与えかねないリスクについて特定します。

 

特定方法としては、チェックリストやアンケートにて抽出する手段や、財務・会計データなどから予想する手段などさまざまあり、企業状況によって選択すべき手段は異なります。なお対応にあたっては、特定漏れがないよう注意する必要があるため、部門全体でしっかりと連携を取りながら行うべきでしょう。

 

また企業経営に関わるリスクとしては、主に以下の7種類があります。

・財務リスク…企業買収・株価変動・不良債権の発生など

・事故・災害リスク…地震・火災・洪水・落雷・交通事故など

・労務リスク…セクハラ・パワハラ・解雇・リストラ・メンタルヘルスなど

・法務(訴訟)リスク…景品表示法・製造物責任法・知的財産権などに関する訴訟

・経済リスク…為替変動・株価変動・金利変動など

・政治リスク…制度改正・政策変更・政権交代・貿易制限・戦争など

・社会リスク…機密情報の漏えい・企業への脅迫・テロなど

②リスクの分析

①で特定したリスクについて、発生確率発生時の影響の大きさなどから、以下の算定式にてリスク規模を分析します。

リスク規模=発生確率×発生時の影響の大きさ

なおリスク分析にあたっては、できるだけ定量化して行うことで、具体的なリスク規模の比較が可能となります。ただし、企業における社会的信頼の喪失など、なかには定量化が難しいようなものもあります。それらについては、リスクごとに比較するなどして都度判断する必要があるでしょう。

③リスクの評価

②で分析したリスクについて、「自社にとって大きな脅威となり得るリスクはどれか」「頻発しやすいリスクはどれか」などを把握した上で、対応リスクの絞り込みを行うなどして、現在の状況や今後の対応などを整理します。

 

なお評価にあたっては、以下のようにリスク規模を図式化してまとめることで、リスク状況について一目で把握することができます。

 

④リスクの対応

③にてリスク対応の対象と定めたリスクについて、それぞれ対応策を実施していきます。

主な対応方法としては以下の4つがあり、企業状況やリスク内容などに応じて取るべき対応は異なります。

・リスクの回避…事業売却など、リスク要因となるものを排除すること

・リスクの低減…地震に備えた耐震補強など、リスク発生可能性や損失被害を軽減すること

・リスクの移転…保険活用やアウトソーシングなど、自社のリスクを自社以外へ移すこと

・リスクの保有…何も対策も取らず、そのままリスクを受容すること

体制構築後の対応

リスクマネジメントについては、「一度対応すれば完了」というものではありません。

企業を取り巻くリスクは、経営体制の変更といった社内における環境変化のほか、社会情勢の変化や法制度の改正といった社外における環境変化など、さまざまな要因によって変化します。

 

予期せぬリスクの出現によって思わぬ損失を被らないためには、体制構築が完了した後も、継続的に運用状況について改善・見直しを行う必要があります。特に「リスクの特定」については、さまざまな視点から重点的に取り組むべきでしょう。

 

なお効果的なリスク対策を実現するためには、社内で目標を共有し、社内意識を統一することもポイントの一つです。実施内容のみ改善・見直しを行うのではなく、「社内で目標の共有が行われているか」「社員から不満の声は上がっていないか」などについてもしっかり把握するべきでしょう。

リスクマネジメントを自社のみで対応するのは危険!

リスクマネジメントにて対応すべきリスクは、企業によってさまざまです。したがってリスクマネジメントの対応内容もそれぞれ異なり、適切に遂行するためには、企業を取り巻くあらゆるリスクについて漏れなく把握しておく必要があります。

 

総務や企画課に兼務させている会社は多々ありますが、法的な相談ができない状況で、部署内の判断やネット情報だけを参考に判断するのは危険です。弁護士に相談し、徹底的に判断してもらうことをおすすめします。

 

弁護士であれば、これまでの知識・経験などを活かした上で、「どのようなリスクに対応するべきか」などのリスクマネジメントに関する有効なアドバイスが望めます。また、トラブル発生により訴訟対応が求められた場合は、裁判所への出廷や裁判書類の作成などの手続きも依頼できるなど、幅広いサポートが期待できます。

まとめ

企業にとって、リスクマネジメントは必要不可欠な対応の一つと言えます。

リスクマネジメントの対象となるリスクとしては、財産損失リスクなどの純粋リスクや、経済的情勢変動リスクなどの投機的リスクがあり、企業状況に応じて対応リスクを判断する必要があります。

 

また対応にあたっては、特定→分析→評価→対応という流れで進めるのが通常ですが、これらについては「一度対応すれば完了」というものではありません。効果的なリスク対策を実現するためには、各対応について、改善・見直しなどを継続的に行うべきでしょう。

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