
インターネット上で誹謗中傷の被害に遭ったとしても、発信者が特定できなければ、裁判を起こして損害賠償を請求するのは困難です。
発信者を特定する方法としては、発信者情報開示請求があります。 発信者情報開示請求とは、インターネット上で誹謗中傷にあたる書き込みをした者に関する、IPアドレスや氏名などの発信者情報(個人情報)を開示するよう請求する手続きを指します。
発信者情報開示請求によって発信者が特定されることで、発信者に対して裁判を起こして損害賠償請求などをすることが可能になります。
また、発信者情報開示請求と似たものとして、『送信防止措置請求』があります。発信者情報開示請求が『発信者情報の特定を目的とした手続き』であるのに対し、送信防止措置請求は、『誹謗中傷記事の削除を目的とした手続き』を指します。
発信者を特定するためには、サイト管理者とプロバイダに発信者情報開示請求を行う必要があり、それぞれ任意の開示請求と裁判上の開示請求の2通りの請求方法があります。
今回は、主に裁判上の開示請求に焦点を当て、請求手続きの流れや拒否時の対応、手続きを行う際のポイントなどについて解説します。
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発信者情報開示請求の流れ
この項目では、発信者情報開示請求の流れについて解説します。
サイト管理者に発信者情報開示請求を行う
発信者の氏名や住所などを特定するためには、発信者が利用したプロバイダを特定する必要がありますが、プロバイダを特定するためには、IPアドレスや発信時間などの発信者情報が必要です。
まずは、誹謗中傷の書き込みがあったサイトの管理者に対して、IPアドレスや発信時間などの発信者情報の開示請求を行います。方法としては、『発信者情報開示請求書の送付』が挙げられます。
発信者情報開示請求書とは、サイト管理者に、IPアドレスや発信時間などの発信者情報の開示を求める請求書のことです。
記載内容は、『誹謗中傷の内容』『サイトURL』『侵害された権利』『情報開示を求める理由』などですが、手続きをスムーズに済ませるために、回答期限を記載することもあります。
サイト管理者から発信者情報の開示を拒否された場合
IPアドレス・発信時間などは、発信者の個人情報にかかわる事項でもあるため、発信者情報開示請求書を送付しても、すんなりとは請求に応じないケースも多いようです。
サイト管理者に、発信者情報の開示を拒否された場合の対応としては、『発信者情報開示仮処分命令申立』という、裁判所を介した請求手続きを実行することが考えられます。
この仮処分を実施する上では、『発信情報が申立人に対する違法な権利侵害を構成すること』について疎明する必要があります。 裁判所は、「違法な権利侵害行為が確からしい」との評価に至り、「開示を認める必要がある」と判断すれば、サイト管理者に対して、発信者情報を開示するよう命じます。
なお、もし書き込み内容が企業評価を低下させるものだとしても、内容が真実である場合は、裁判所で「名誉毀損にはあたらないため、情報を開示する必要はない」と判断される可能性があるため、注意が必要です。
IPアドレスをもとにプロバイダを特定する
次に、サイト管理者より開示されたIPアドレスや発信者時間などをもとに、発信者が利用したプロバイダを特定します。
プロバイダは『Web上の照会サービス』などを利用して特定することができます。
プロバイダに発信者情報開示請求を行う
プロバイダの特定が完了したら、プロバイダに対して、契約者(発信者)の氏名や住所などの発信者情報の開示請求を行います。方法としては、『発信者情報開示請求訴訟』という、裁判所を介した請求手続きを実行することが考えられます。
『発信者情報開示仮処分命令申立』と同様に、ここでも違法な権利侵害行為があるとして情報を開示する義務があるのか、という点が争点となります。裁判所で『情報を開示する義務がある』と判断された場合、プロバイダに対して、発信者情報を開示するよう命令が下されます。
プロバイダより発信者情報が開示され、発信者を特定する
プロバイダより開示された発信者情報をもとに、特定が完了します。
発信者情報開示請求の基本概要
この項目では、発信者情報開示請求を行う際のポイントや、期間などについて解説します。
発信者情報開示請求を行う際のポイント
発信者情報開示請求を行うケースとしては、以下のようなものが考えられます。
- 転職サイトに、自社について誹謗中傷する書き込みがあった
- 掲示板サイトに、自社商品・サービスを誹謗中傷する書き込みがあった
- 個人ブログに、自社や自社商品・サービスなどを誹謗中傷する書き込みがあった
しかし、これらすべてについて発信者情報開示請求が可能、というわけではありません。発信者情報は個人情報にあたることもあり、発信者のプライバシーや表現の自由などにも配慮されます。
発信者情報開示請求を行う際は、以下の2点がポイントといえるでしょう。
- 違法な権利侵害行為が認められること
- 開示を求める正当な理由があること
権利侵害されたことを証明する証拠がない場合は、請求手続きを行っても認められない可能性があります。また、相手への私的制裁や好奇心からといった、請求が正当な理由からではない場合も同様です。
発信者の特定までにかかる期間
発信者情報開示請求を行ってから発信者を特定するまでには、8~9ヶ月程度かかるケースが多いようです。 しかし、『誹謗中傷の書き込みがされてから、すでに3年以上経っている』という場合などは、特定までにさらに時間がかかると考えられます。
そのほかに、サイト管理者・プロバイダ・発信者の対応などによっても、特定までにかかる時間にはバラつきが出てくるでしょう。
発信者情報開示請求を弁護士に相談するメリット・費用
すべての手続きについて、自力で済ませることも不可能ではありません。しかし、いざ手続きを進めるとなると、請求書の書き方や裁判所での立証準備など、思わぬ時間・手間がかかることもあるでしょう。
特に、初めて手続きを行う方や、トラブルなく手続きを済ませたいと考えている方などは、弁護士に相談することをおすすめします。
知識・経験のある弁護士に相談することで、各手続きに関するサポートを受けることができるため、迅速な手続きの進行が見込めます。さらに、発信者の特定後に取るべき対応に関する助言なども期待できます。
費用については、相談料が5,000円/30分、特定手続きが60万円というところもあるようですが、『初回相談料は無料』というところもあり、料金体系は事務所によってそれぞれ異なります。具体的にいくらかかるのか気になる方は、実際に確認を取るとよいでしょう。
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まとめ
インターネット上で誹謗中傷の被害に遭った企業は、発信者情報開示請求を行うことで、問題を解決することが期待できます。
しかし、スムーズな問題解決のためには、『権利の侵害が明らかであること』や『開示請求するだけの正当な理由があること』などの条件を満たしておく必要があるでしょう。
また、弁護士に手続きのサポートを依頼する、というのも1つの手段です。 弁護士に相談することで、手続きの迅速な進行が期待できるだけでなく、発信者の特定後に取るべき対応に関する助言も望めるため、特に初めて手続きを行う方などにはおすすめです。
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