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生成AIの業務活用が急速に広がっています。ChatGPTやCopilotをはじめとする生成AIツールは、文書作成、データ分析、顧客対応など、あらゆるビジネスシーンに浸透しつつあります。しかし、その利便性の裏側には、個人情報の漏洩、著作権侵害、営業秘密の流出など、深刻なコンプライアンスリスクが潜んでいます。
実際、個人情報保護委員会が2023年6月に生成AIに関する注意喚起を発出し、文化庁が2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を公表するなど、行政機関も対応を急いでいます。また、EUでは2024年8月にAI規制法(AI Act)が発効し、日本企業にも域外適用される可能性があります。
本記事では、企業法務の弁護士として10年以上の実務経験を持つ筆者が、AI活用におけるコンプライアンスの全体像を整理し、社内ルールの策定方法から国内外の規制動向まで、実務で即座に活用できるフレームワークを解説します。
本記事のポイント総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、日本企業における生成AIの導入率は年々上昇しており、特に大企業では業務効率化のツールとして定着しつつあります。法務、人事、マーケティング、カスタマーサポートなど、これまでAIとは無縁と思われていた部門でも、文書の作成補助やデータ分析に生成AIが活用されるようになりました。
しかし、こうした急速な普及に対し、企業のコンプライアンス体制の整備が追いついていないのが実情です。従来の情報セキュリティポリシーは、外部への情報持ち出しやメールの誤送信を想定して策定されており、生成AIへの情報入力という新たなリスクに対応できていないケースが少なくありません。
さらに、従業員が個人的に無料の生成AIツールを業務に利用する、いわゆる「シャドーAI」の問題も深刻化しています。企業が把握していないAI利用は、情報漏洩リスクを飛躍的に高めるだけでなく、発生した問題の原因追跡を困難にしています。

シャドーAI対策として最も重要なのは、「禁止」ではなく「適切な利用環境の提供」です。無許可利用を禁止するだけでは、従業員は個人アカウントでの利用を隠すようになります。セキュリティ要件を満たした法人向けAIサービス(Google WorkSpaceやMicrosoftのTeamプラン、Claudeなど汎用AIサービスのエンタープライズプランなど)を導入し、安全に使える環境を整備することが先決です。
生成AI活用に伴うコンプライアンスリスクは、以下の5つに大別されます。
第1に、個人情報保護リスクです。生成AIに顧客データや従業員情報を入力した場合、当該情報がAI事業者のサーバーに送信され、モデルの学習データとして利用される可能性があります。これは個人情報保護法上の「第三者提供」あるいは意図しない第三者たるユーザーが利用する場面で出力された場合には漏えい(及びそのおそれ)に該当し得るものであり、本人の同意なく行えば違法となる可能性があります。
第2に、著作権侵害リスクです。AIが生成した文章、画像、プログラムコードが既存の著作物と類似している場合、著作権侵害が成立する可能性があります。特に、生成物を商用利用する場面では慎重な対応が求められます。
第3に、秘密情報漏洩リスクです。営業秘密やノウハウを生成AIに入力することで、不正競争防止法上の秘密管理性が失われ、営業秘密としての法的保護を受けられなくなるおそれがあります。あるいはAIの学習データとして取り込まれ他のエンドユーザーに情報が取得されることにより、秘密情報の漏えいが生じる可能性があります。
第4に、ハルシネーション(虚偽情報生成)リスクです。生成AIは事実と異なる情報をあたかも正しいかのように出力することがあります。これを検証せずに社外に発信した場合、不正確な情報に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
第5に、アルゴリズムバイアスリスクです。AIの学習データに偏りがある場合、差別的な出力がなされることがあります。特に、人事評価や与信判断にAIを活用する場合は、公平性の確保が不可欠です。
AI活用に起因するコンプライアンス違反は、企業に甚大な損害をもたらします。従業員が個人情報データベースを私的に流用した場合、法人に対して最大1億円の罰金が科される可能性があります(個人情報保護法第179条、同法第184条第1項1号)。さらに、2022年の法改正により、個人情報保護委員会による命令違反に対する罰則も強化されています(同法第184条第1項2号)。
法的制裁に加えて、レピュテーションリスクも無視できません。AI利用に起因する情報漏洩が報道された場合、顧客離れ、取引先からの契約解除、株価の下落など、経済的損失は罰金額をはるかに上回る可能性があります。
営業秘密の漏洩が発覚した場合は、不正競争防止法に基づく差止請求や損害賠償請求を受けるリスクがあるほか、秘密管理性が否定されれば、以後その情報について営業秘密としての保護を主張できなくなるという深刻な結果を招きます。
生成AIに個人データを入力する行為は、個人情報保護法上の複数の規定に抵触する可能性があります。
まず、利用目的の特定(法第17条)との関係です。企業が取得した個人情報を生成AIに入力する場合、当該利用がプライバシーポリシー等で公表している利用目的の範囲内であるかを確認する必要があります。
次に、第三者提供の制限(法第27条)との関係です。クラウド型の生成AIサービスに個人データを入力する行為は、AI事業者への第三者提供に該当する可能性があります。個人情報保護委員会は2023年6月2日に公表した注意喚起において、事業者に対し「生成AIサービスの利用に際しては、当該サービスを提供する事業者が、入力された個人情報を機械学習に利用しないかどうかを確認すること」を求めています。
さらには、ChatGPTやClaude、Geminiなど多くの生成AIサービスがアメリカなど海外のベンダーであることからも、利用するプランによっては、データ管理者が海外に所在する事業者となる場合、外国にある第三者提供として同意取得や当該事業者の属する国のデータプライバシーの制度や個人情報保護のための措置に関する情報提供などを行う必要があります。
参照:個人情報保護委員会|生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
実務上の対応としては、まずAIサービスの利用規約を精査し、入力データがモデルの学習に使用されるか否かを確認します。学習利用のオプトアウト設定が可能な場合は必ずこれを有効化し、設定不可の場合は個人データの入力を禁止するルールを設けることが必要です。

個人情報保護法対応で実務上の法令適合性の整理としては、委託による第三者提供あるいはいわゆるクラウド例外と整理できるかどうかという観点です。AI事業者が「委託先」に該当する場合は第三者提供の同意が不要となりますが、その場合でも法第25条に基づく委託先の監督義務が生じます。あくまで委託元の立場がデータ管理者であって、AI事業者がデータ処理者という立場に置かれていることが前提ですが、AIの利用プランによって異なります。組織・ビジネスプランの場合だと、DPAの提供やAIベンダー側がデータ管理者の立場に立たないため、同意が不要であったり、外国にある第三者提供における提供情報が容易にでき、コンプライアンスが担保されやすい利点があります。
AI活用における著作権問題は、「学習段階」と「生成・利用段階」の2つのフェーズに分けて整理する必要があります。
学習段階については、著作権法第30条の4が重要な規定です。同条は、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為については、原則として著作権者の許諾なく行うことができると定めています。AIの機械学習における著作物の利用は、この「非享受目的利用」に該当すると一般に解されており、日本の著作権法はこの点で国際的にも柔軟な制度設計となっています。
ただし、同条但書において「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は適用除外とされています。例えば、商用データベースの内容を丸ごとAIに学習させる行為は、この除外事由に該当する可能性があります。
生成・利用段階については、文化庁が2024年3月15日に公表した「AIと著作権に関する考え方について」が重要な指針となります。同文書では、AI生成物が既存の著作物と類似する場合の著作権侵害の判断枠組みが示されています。特に注意すべきは、AI生成物を利用する者が、既存の著作物との類似性を認識し、又は認識すべきであった場合には、著作権侵害の責任を負い得るという点です。
企業としては、AI生成コンテンツを外部に公開する前に、既存の著作物との類似性チェックを行うプロセスを整備することが重要です。

著作権リスクの実務対応として最も効果的なのは、「AI出力物の用途別リスク分類」を作成することです。社内利用限定の文書作成補助はリスク低、ウェブサイト掲載用コンテンツはリスク中、商品のデザインやキャッチコピーへの利用はリスク高、という形で分類し、リスクレベルに応じた承認プロセスを設定します。
AIツールのリスクアセスメントや特定の著作者の著作物を多く取り込んでいるような学習データセットの有無、いわゆる海賊版サイトのデータスクレイピングの実施有無などが確認する必要があります。大手のAIツールであれば、近時増加する著作権侵害訴訟へのリスク低減のためアーキテクチャとして特定の著作物の摸倣や複製的な出力をできないようにするガードレールも実装されているため、そうした保護の有無なども事前にチェックするようにしましょう。
不正競争防止法第2条第6項は、営業秘密の要件として「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を定めています。このうち、AI利用との関係で特に問題となるのが「秘密管理性」です。
営業秘密を外部の生成AIサービスに入力する行為は、秘密管理措置が講じられていない状態での情報開示に該当し、秘密管理性が否定されるリスクがあります。一度秘密管理性が否定されると、その情報について営業秘密としての法的保護を回復することは極めて困難です。
もっとも、経済産業省が2025年3月31日に改訂した「営業秘密管理指針」では、部門レベルで適切な秘密管理措置が講じられている情報については、AIへの入力行為のみをもって直ちに秘密管理性が否定されるわけではないとの考え方が示されています。ただし、これはAIサービス事業者が入力データをモデル学習に使用しない設定が確保されていることが前提です。
企業としては、営業秘密に該当する情報を明確に分類・表示し、当該情報のAI入力を原則禁止とするルールを設けるとともに、例外的に入力が必要な場合の承認プロセスを整備することが求められます。

NDA(秘密保持契約)で受領した取引先の秘密情報を生成AIに入力する行為は、NDA違反に直結する可能性があります。契約書のレビューやドラフト作成にAIを利用する場合は、固有名詞や具体的な数値をマスキングしてから入力するなど、情報の匿名化処理を徹底してください。あるいは、生成AIを利用することが標準的な業務フローであることも踏まえると、契約上も生成AI利用を前提とするデータ保護条項を定めた上で双方が安全で有益に生成AIを活用できるように設計することもポイントになります。
社内AI利用ガイドラインは、企業のAI活用における「交通ルール」の役割を果たします。実効性のあるガイドラインには、以下の項目を必ず盛り込む必要があります。
第1に、適用範囲と対象者の明確化です。ガイドラインが適用される業務範囲(全社共通か部門限定か)、対象者(正社員のみか、派遣社員や業務委託先も含むか)を明確に定義します。
第2に、利用が許可されるAIツールの指定です。セキュリティ審査を通過した法人向けサービスのみを許可対象とし、個人アカウントでの生成AI利用は原則禁止とします。許可ツールは一覧表で管理し、定期的に見直しを行います。
第3に、入力禁止情報の類型化です。AIに入力してはならない情報を具体的に列挙します。個人情報、営業秘密、インサイダー情報、NDA対象情報、未公開の経営情報などがこれに該当します。抽象的な禁止規定ではなく、部門ごとに具体例を示すことが実効性を高めるポイントです。
第4に、出力物の利用条件です。AI生成物はあくまで「下書き」であり、人間による内容の検証・承認を経なければ外部利用できないというルールを明確にします。特に、社外に発信する文書や、法的効果を伴う書面については、必ず責任者の承認を得るプロセスを設けます。

ガイドラインは「完璧さ」よりも「わかりやすさ」を優先してください。法務部門が精緻なルールを作成しても、現場が理解できなければ遵守されません。Q&A形式のFAQを添付し、典型的な利用シーンごとに「OK例」「NG例」を図示する工夫が効果的です。
効果的なAI利用ガイドラインは、以下の5つのステップで策定します。
Step1は、現状把握とリスクアセスメントの実施です。まず、社内でのAI利用の実態を調査します。各部門にヒアリングを行い、利用しているAIツール、利用目的、入力している情報の種類を把握します。そのうえで、各利用シーンにおけるリスクを評価し、優先的に対応すべき領域を特定します。
Step2は、利用ポリシーの設計です。リスクアセスメントの結果を踏まえ、全社共通のルールと部門別のルールを設計します。例えば、法務部門では契約書原文の入力禁止、営業部門では顧客の個人情報の入力禁止というように、部門の業務特性に応じたカスタマイズを行います。
Step3は、承認フロー・監視体制の構築です。新たなAIツールの導入申請、禁止情報の例外的な入力申請など、必要な承認フローを整備します。また、AIツールの利用ログを記録・監視する仕組みを導入し、不適切な利用を早期に検知できる体制を構築します。
Step4は、全社周知と研修の実施です。ガイドラインの内容を全社に周知するとともに、部門別の研修を実施します。特に、具体的な事例を用いたケーススタディ形式の研修が理解度の向上に効果的です。
Step5は、定期的な見直しとアップデートです。AI技術や法規制は急速に変化するため、最低でも半年に一度はガイドラインの見直しを行います。法改正、新たなAIサービスの登場、社内でのインシデント発生などを契機に、随時更新する体制を整えます。

Step1の現状把握では、匿名アンケートの活用を強くお勧めします。「個人アカウントで生成AIを使ったことがありますか」という質問に対し、記名式では正直な回答が得られません。実態を正確に把握することが、実効性のあるガイドライン策定の出発点となります。
ガイドラインの実効性を確保するためには、違反時の対応体制を事前に構築しておくことが不可欠です。
まず、インシデント発生時の初動対応フローを策定します。AI利用に起因する情報漏洩等が判明した場合、発見者から情報セキュリティ部門への報告、事実関係の確認、影響範囲の特定、対外対応の要否判断、是正措置の実施という一連のプロセスを、時系列で整理しておきます。
次に、就業規則・懲戒規定の整備です。AI利用に関するガイドライン違反を懲戒事由として就業規則に追加する場合は、労働基準法上の手続(従業員の意見聴取、労働基準監督署への届出)が必要となります。懲戒の種類と程度は、違反の態様・情報の機密度・損害の程度に応じて段階的に設定します。
また、コンプライアンス違反が疑われる場合に従業員が安心して通報できる社内相談窓口の整備も重要です。公益通報者保護法の趣旨に鑑み、通報者に対する不利益取扱いを禁止する旨を明確に規定します。

懲戒規定の整備にあたっては、「故意」と「過失」を明確に区別することが重要です。悪意なくガイドラインに違反してしまった場合にまで厳しい懲戒処分を科すと、違反の隠蔽を招きかねません。初回の過失違反は注意・指導にとどめ、再発防止研修の受講を義務付けるなど、段階的な対応が適切です。
EUのAI規制法(AI Act)は、2024年8月1日に発効した、世界初のAIに関する包括的な法規制です。同法は、AIシステムのリスクレベルに応じた4段階の規制を設けています。
最も厳しい「禁止リスク」には、ソーシャルスコアリングや潜在意識を操作するAIシステムが該当し、2025年2月から適用が開始されています。「ハイリスク」に分類されるAIシステム(人事評価、与信判断、法執行等に用いるもの)については、リスク管理システムの構築、データガバナンス、技術文書の整備、透明性の確保、人間による監視などが義務付けられ、2026年8月から本格適用されます。
日本企業にとって重要なのは、AI規制法の域外適用です。EU域内の者に対してAIシステムのアウトプットを提供する場合、たとえ事業者がEU域外に所在していても、同法の適用を受ける可能性があります。EU子会社を持つ日本企業や、EU向けにSaaSサービスを提供する企業は、自社のAIシステムがどのリスクカテゴリに該当するかの評価を早急に行う必要があります。

EU AI規制法への対応は、GDPR対応の経験がある企業はそのフレームワークを応用できます。まずは自社が提供・利用するAIシステムの棚卸しを行い、EU域内への影響有無を確認するところから始めてください。すべてのAIシステムが規制対象になるわけではなく、リスク分類に応じた対応で足ります。
日本は、EUのような法的拘束力のある規制ではなく、ソフトロー(非拘束的なガイドライン)を中心としたAIガバナンスのアプローチを採用しています。
その中核となるのが、総務省・経済産業省が2024年4月19日に公表した「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」です。同ガイドラインは、2017年以降に策定された3つのガイドライン(AI開発ガイドライン、AI利活用ガイドライン、AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン)を統合したもので、AI開発者、AI提供者、AI利用者の3つのアクターに対し、それぞれの責務を明示しています。2025年3月28日には第1.1版が公表され、実務上の対応がより具体化されています。
また、国際的な枠組みとしては、2023年5月のG7広島サミットで立ち上げられた「広島AIプロセス」が重要です。同プロセスでは、先進AIシステムの開発者向け国際指針と行動規範が策定されており、G7を超えた国際的なAIガバナンスの基盤となっています。
企業としては、現時点ではソフトローであるこれらのガイドラインに自主的に対応しつつ、将来のハードロー化(法制化)に備えた体制整備を進めることが賢明です。

日本のAI規制は現時点ではソフトローですが、「法的拘束力がないから対応不要」という判断は危険です。金融庁や個人情報保護委員会の検査では、業界ガイドラインへの対応状況が確認されることがあり、ガイドラインを遵守していない場合は「善管注意義務」違反として取締役の責任が問われる可能性もあります。
自社のAI利用が各種規制に適合しているかを確認するため、以下のチェックリストを活用してください。
AI活用のコンプライアンスを実効的に確保するためには、組織横断的なガバナンス体制の構築が不可欠です。
具体的には、経営層をトップとする「AI利用委員会」(または既存のリスク管理委員会にAI部会を設置)を設置し、法務部門、情報セキュリティ部門、IT部門、事業部門の代表者をメンバーとします。委員会は、AIガイドラインの策定・改訂、新規AIツールの導入審査、インシデント対応の統括を担います。
また、日常的な運用を担う「AIコンプライアンス責任者」を各部門に配置することも重要です。各部門のAI利用状況を把握し、ガイドラインの遵守状況をモニタリングするとともに、現場からの相談対応を行う役割を担います。
ガバナンス体制はPDCAサイクルで運用します。計画(Plan)として年次のAIリスクアセスメントを実施し、実行(Do)として日常のモニタリングとガイドライン運用を行い、評価(Check)として四半期ごとの遵守状況レビューを実施し、改善(Act)としてガイドラインの改訂やルールの見直しを行います。

ガバナンス体制の構築にあたっては、「既存の会議体の活用」を第一に検討してください。新たな委員会を設置すると、参加者の負担が増え、形骸化するリスクがあります。既存のコンプライアンス委員会やリスク管理委員会にAIの議題を追加する方が、持続可能な運用が実現できます。また、構成員について、AIや技術面に詳しい専門家を招聘してアドバイザリーボードなどを組成することも有用ですが、社内の有志で徹底的に活用してプロジェクトとしてノウハウを構築共有し、Tipsを構造化していくことが実務に即して効率的です。
全社的なAIリテラシーの向上とコンプライアンス意識の浸透には、体系的な研修プログラムが欠かせません。
研修は3つのプラクティスで構成します。1つは「生成AIの基礎知識」として、AIの仕組みと限界、主要なサービスの特徴を解説します。2つ目は「法的リスクの理解」として、個人情報保護、著作権、営業秘密の各領域のリスクと対策を説明します。3つ目は「ケーススタディ」として、実際に起こり得るシナリオを題材にグループディスカッションを実施します。
研修は階層別にカスタマイズすることが効果的です。経営層向けにはガバナンスと責任の観点を重視し、管理職向けにはチーム運営とモニタリングの実務を中心にし、一般社員向けには日常業務でのDo/Don'tを具体的に示します。
研修の効果測定も重要です。研修後の理解度テスト、3か月後のフォローアップアンケート、実際のインシデント発生率の推移などを指標として、継続的に研修内容を改善します。

研修で最も効果が高いのは、自社の業務に即したケーススタディです。例えば、「営業部のAさんが顧客リストをChatGPTに入力してメール文案を作成した」という具体的なシナリオを提示し、何が問題か、どう対応すべきかをグループで議論させると、記憶に残りやすく行動変容につながります。
AI活用のリスク管理にAI自体を活用する「コンプライアンステック」の導入も、今後の重要な検討事項です。
具体的には、AIを活用したリスクアセスメント支援ツールにより、膨大な規程や契約書のチェック作業を効率化できます。また、法改正の自動追跡システムを導入すれば、自社の規程と最新の法令との乖離をリアルタイムで検知することが可能です。
さらに、AIによる社内コミュニケーションのモニタリングツールは、日報やメール、チャットの内容からコンプライアンス違反の兆候を自動検知し、早期対応を可能にします。ただし、従業員のプライバシーへの配慮が必要であり、モニタリングの範囲と目的を明確にし、労使間の合意を得たうえで導入することが不可欠です。
生成AIの業務活用は、もはや「するかしないか」ではなく、「いかに安全に活用するか」が問われるフェーズに入っています。本記事で解説した内容を踏まえ、企業が優先的に取り組むべき3つのアクションを整理します。
企業が優先的に取り組むべき3つのアクション
AI活用とコンプライアンスは対立するものではありません。適切な体制を構築することで、リスクを管理しながらAIの恩恵を最大限に享受することが可能です。本記事が、貴社のAIガバナンス体制構築の一助となれば幸いです。
企業法務弁護士ナビでは、AI活用のコンプライアンスに詳しい弁護士を多数掲載しています。初回相談無料やオンライン面談対応など、こだわりの条件を指定して検索することができるので、まずは弁護士を探してみるところから始めてみましょう。