「内部統制」という言葉を聞くと、「統制」の語感から厳しい規律に拘束されるのではないかとイメージする方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、内部統制を図るためにシステム構築に奔走する大企業の取り組みを見ると、そうしたイメージを持つのも不思議ではありません。
しかし、内部統制は従業員の行動を合理的な理由なく規律で制限するものではありません。横領などの不正行為から会社の資産を守ったり、お客様の個人情報を適切に管理したり、規律の整備でヒトやコストの活用を合理的に行うといった、さまざまな影響を事業活動にもたらすものです。
大企業や上場を目指す企業にとって、内部統制は必要不可欠な制度です。
この記事では、内部統制システムの概要から整備に必要なことまでを、簡単にご紹介します。
内部統制システムの基本概要
法令上の定義
内部統制システムは法律によって規定されています。しかし、規定する法律が会社法か金融商品取引法かによって、その内容は異なります。
会社法の場合は、362条4項6号において「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」のことだと定義されています。
一方、金融商品取引法では、第24条の4の4第1項にて「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なもの」と、内部統制を定義しています。
この2つの法律による定義の違いは、目的が異なることに起因します。 会社法による内部統制システムは、株式会社におけるすべての業務執行の適正化を目的としています。一方、金融商品取引法は、主として財務統制の面から規制を行い、株主等に対する適切な情報開示を目的としたものです。この目的の違いが内部統制の定義の違いとなっているのです。
この金融商品取引法が規定する内部統制システムについては、米国のSOX法が参考になっています。そのため、一般的には日本版SOX法(J-SOX法)と称されます。
目的
金融庁の公表資料に基づいて考えると、内部統制には4つの目的があります。
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動にかかわる法令等の順守
- 資産保全
以上の4つです。 内部統制を適切に構築することで、この4つの目的が達成されます。
①業務の有効性及び効率性
企業の事業活動において、業務の有効性と効率性に関する内部統制の確立は、喫緊の課題です。なぜなら、事業活動に利用できるヒトやカネといった資源は限られており、有効的かつ効率的に配分しなければ事業を発展させられないからです。
そのため、事業発展のために業務の達成度や合理的な資源配分が行われているかの測定・評価をする体制が必要となります。内部統制システムは、それに大きく寄与するのです。
②財務報告の信頼性
企業は、株主に対して事業活動の結果を報告する義務があります。そして、その報告を受けた上で株主らは株の売買を行います。そのため、財務書類の信頼性がなければこの関係性は成り立ちません。
しかし、近年では企業の粉飾決算などが多発し、財務報告の信頼性が失われてしまっています。ですから、内部統制をきちんと行い、財務報告の信頼性を担保する必要があるのです。
③事業活動にかかわる法令等の順守
事業活動において、法令や規制といった社会で決められたルールに従うことは当然です。
しかし、近年では談合や食品偽造、不良製品のリコール隠しなどの重大な法令違反を起こし、大きな損失を被った企業も数多くあります。重大な法令違反は企業の信頼性を損ない、大きな経済損失を招きます。
内部統制システムを構築することは、こうした企業に大きなダメージを与える法令違反を、未然に防ぐことができるのです。
④資産保全
企業は不動産をはじめとした多くの資産を保有しています。特に、株式会社は株主等の出資者から財産の拠出を受けて活動しています。経営者には、これを適切に保全する責任があるのです。
横領などの不正行為は、資産が失われることを意味します。このような事態への防止策として、内部統制システムは非常に有効的です。
メリット
内部統制システムの構築は、個人情報の流出や横領などの不正行為を未然に防止し、社会的信用度を向上させることができるといったメリットも存在します。
また、内部統制システムを構築する際に、従業員が日常的に行う業務の基本方針やガイドラインを整備します。これにより、従業員が事業活動を行う上での明確な判断基準を設けることにつながるでしょう。自主性の養成やそれに伴うモチベーションの向上といった効果が期待できます。
また、内部統制が機能することで従業員が起こしたミスも見過ごされにくくなります。ミスが適切に改善されていくという点も大きなメリットではないでしょうか。
整備が義務付けられている会社
2006年5月に実施された会社法の改正により、資本金が5億円以上または負債の合計が200億円以上の「大会社」には、内部統制システムの構築が義務化されました。これは現在、会社法362条5項に規定されていることであり、国家からの要請に対して、企業は誠実に義務を履行しなければなりません。
大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第6号に掲げる事項を決定しなければならない。
引用:会社法362条5項
※前項第6号:取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
会社法改正による変更点
金融商品取引法でも内部統制が求められるようになり、各企業で内部統制の認知度が高まりました。そして2014年に、会社法が再改正されました。これによって、それまでは会社法施行規則において規定されていた事項が、会社法において規定される事項へと格上げされたのです。
実際、上記の会社法362条4項6号などは2014年の会社法改正によって付け加えられた条文です。
会社法改正の狙いは、内部統制システムの実効性の担保です。表面上は内部統制システムを構築しているように見えても、企業の詳細を株主らが知ることは困難です。そこで、監査役へ内部統制の情報を集約する体制を整え、事業報告で記載することが会社法施行規則100条3項や118条2号等で規定されることになりました。
また、大会社は多くの子会社を抱えているという性質を鑑み、親会社に対して子会社への内部統制システム構築に向けた基本方針の策定も義務付けられるようになりました。このように、内部統制システムに関する法律は年々変化しています。
内部統制システムの整備に必要なこと
会社法規定の確認
内部統制システムの整備に必要なことを知る前に、もう一度、会社法で規定されている内部統制システムについて確認をしましょう。
会社法では、内部統制の整備にかかわる事項を取締役会の専決事項とし、委員会設置会社のみならず、監査役設置会社においても大会社であれば内部統制の基本方針策定とその開示を義務付けています。また、子会社を抱えているのであれば、子会社の内部統制に関する基本方針の策定も義務となります。
そのため、大会社では内部統制システムの構築に必要なことが自然と多くなっているのです。
責任者の設置
会社法上、株式会社の取締役は会社という法人から経営の委任を受けている立場となります。そのため、取締役は、業務受託者としての立場から事業活動を執り行っており、当該業務処理には一定の注意義務を負っています。このことを、取締役の善管注意義務といいます。
内部統制は会社法によって要請されている大会社への義務となりますので、もしも何かしらの不祥事が発生した場合、この善管注意義務に基づいて取締役への責任が問われることになります。棄却された訴えではありますが、過去には従業員の架空売上の計上に関して内部統制システムの欠陥を株主が主張し、代表取締役の責任が追及されたこともありました(日本システム技術事件)。
こうしたことを防ぐために、内部統制システム構築における責任者を設置し、きちんとした行動をとることが求められているのです。
【関連記事】会社法の定める内部統制とは|基本方針や金融商品取引法との違いを解説
コーポレートガバナンス
日本語で「企業統治」とも訳されるコーポレートガバナンスですが、この言葉は、会社が株主や従業員といったさまざまな立場を踏まえた上で、公正かつ透明性ある意思決定を行うための仕組みを指しています。当然、その意思決定には責任が発生するため、経営者が適切に責任を果たしているかどうかが重要です。
内部統制は、コーポレートガバナンスを機能させるために必要不可欠な要素だと考えられます。なぜなら、内部統制では「財務報告の信頼性の確保」をはじめとした4つの目的があり、システム構築によって事業活動を適切に監督することが可能となるからです。
よって、内部統制システムを整備することは、同時にコーポレートガバナンスの徹底にも繋がります。
【関連記事】コーポレートガバナンス・コードとは|目的・内容などを弁護士が解説
コンプライアンス
コンプライアンスという言葉は、日本語にすると「法令順守」となります。 会社法では、使用人の職務執行が法令及び定款に適合していることを確保するための体制整備が義務付けられています。したがって、コンプライアンスの考えを徹底させることは重要です。換言すると、内部体制の構築にはコンプライアンス体制の整備は必要不可欠といえます。
【関連記事】コンプライアンスを弁護士に相談する6つのメリット|相談費用の相場
リスク管理体制の構築
内部統制システムにおいて最も重要なのが、リスク管理体制の構築です。 いわゆるリスク・マネジメントと同義であり、事業活動に損失を与えうる事象を前もって洗い出して評価をし、対策を講じておくことで、万が一の場合には損害を軽減するためのものです。
実際にリスク管理体制を構築する場合には、回避・軽減・移転・受容という4つのリスク・コントロール活動を行い、その結果を監視・測定するシステムを確立させる必要があります。
内部統制システムについて弁護士に相談する必要性とメリット
内部統制システムの整備は、会社法によって義務付けられているから行う、というものではありません。従業員による横領や財務書類の改ざん、個人情報の漏洩といった問題を未然に防ぎ、会社を守るために必要なシステムです。
もし、内部統制システムが効果的に運用されておらず、また整備すら適切に行われていない場合には、経営者の任務懈怠責任が追及されるでしょう。株主などから訴えられる恐れもあります。そのため、きちんとした内部統制システムの構築が要請されるのです。
しかし、内部統制システムは、マニュアルを作成して社員に配布するという形式的なものでは不十分です。社員研修の実施や、内部統制システムがきちんと運用されているかのチェック機関を設置するなど、内部統制システムを機能させるように社内体制を作り上げなければ意味がないのです。
そして、内部統制システムを機能させるために効果的な方法が、法律の専門家である弁護士の活用なのです。 弁護士が法律の観点から適切な組織づくりをサポートし、研修等の実施を担当することで、社内に内部統制システムの認知を徹底させることができます。
内部統制システムの構築から運用まで、弁護士に一任することができます。まずはお近くの弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。
まとめ
内部統制と一言でいっても、そう簡単に整備できる体制ではありません。まして、どの程度まで内部統制システムの構築しておけばよいのかは、各企業の実情によって異なります。
だからこそ、第三者の目線で常に見直すことが重要となり、問題があれば改善するという姿勢を強固に打ち出す必要があります。 弁護士であれば、法律の専門家として内部統制システムへの適切な評価と、改善のためのアドバイスをしてくれます。
内部統制システムに関して疑問や不安に感じることがあるのならば、弁護士に相談することをおすすめします。
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