会社法の定める内部統制とは|基本方針や金融商品取引法との違いを解説

専門家監修記事
大会社にあたる企業は、業務適正性の確保のために、会社法に則った内部統制の構築を行う義務があります。内部統制には、会社法が定めるもののほかに、金融商品取引法が定めるものもあります。この記事では、会社法上の内部統制の基本方針や、金融商品取引法との違いを解説します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
人事・労務

内部統制とは、組織の業務適正を確保するための体制構築システム全般をいいます。 内部統制には、『会社法が定める内部統制』と『金融商品取引法(J-SOX)が定める内部統制』の2種類があります。この記事では『会社法が定める内部統制』をメインに解説していきます。

会社法による内部統制の基本方針

会社法362条4項6号は、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を規定し、経営体制の統制を図ることを義務としています。

 

「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」は、法令や倫理規範の遵守を図ろうとする、コーポレートガバナンスの確保につながります。 具体的には、会社の経営方針とそれに基づく行動指針などの法令遵守基準の策定、また、コンプライアンス基本方針・関連規程やコンプライアンス強化および内部通報制度などを検討していきます。

 

また、「その他株式会社の業務の適正を確保するための体制」として、法務省令である会社法施行規則第112条以下では、次のような体制が挙げられています。

出典:内部統制関連資料|総務省

取締役の職務の執行にかかる情報の保存および管理に関する体制

会社法施行規則112条2項1号では、会社の文書情報を管理する体制の整備を要請しています。 具体的には、文書取扱規程や文書保存処分取扱細則などを作成します。

 

そして、これに従った方法によって、取締役の職務執行についての重要な意思決定を議事録として記録し、保管期間や保存場所を定めるなどして、決議事項の概要を保存します。

 

また、保存した文書情報については、監査役等の情報開示請求に対する開示・提供なども定めておく必要があります。

損失の危険の管理に関する規程その他の体制

会社法施行規則112条2項2号では、損失の危険、すなわち、会社経営のリスクマネジメントについて規定しています。

 

事業を行う上では、さまざまなリスクがあるでしょう。問題の事前防止体制や、発生した場合の対応手続きなどについて管理規程を策定するなどして、リスク管理の体制を構築・強化を検討する必要があります。

 

また、法全社的リスクマネジメント(ERM)として、法務部門やコンプライアンス部門、IT部門などといった個々の管理部門や、各種委員会を設けることで、個々のリスク管理に努めるともに、効果的な管理体制を行います。

取締役の職務の執行が効率的に行なわれることを確保する体制

会社法施行規則112条2項3号は、取締役の職務執行体制の整備とそれに基づく効率的な職務執行と経営管理の全般を要求しています。

 

具体的には、経営会議、執行役の業務範囲の明確化、組織規程と職務権限、経営管理システムについて検討します。また、経営計画に基づいた業績管理についても策定していくことになります。

使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制

112条2項4号は、基本的には取締役の場合と同様に、コンプライアンス体制の強化を図ります。すなわち、経営方針及びそれに基づく行動計画などの遵守基準の策定にはじまり、コンプライアンス基本方針・関連規程やコンプライアンス推進体制および内部通報制度などを検討します。

当該株式会社ならびにその親会社及び子会社からなる企業集団における業務の適正を確保するための体制

会社法施行規則112条2項5号は、会社単一の内部統制システムを、グループ企業間において連結して行うことを要請するものです。法令遵守や業績評価、取締役の職務執行の適合性など、コンプライアンス全般や業務の適性について、グループ間で横断的に取り組み、情報の共有化を図ります。

会社法による内部統制の基本概要

内部統制・内部統制システムとは、「取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(会社法362条4項6号)のことをいいます。 具体的には、会社の取締役が法令や倫理規範、定款に照らして、業務執行の適正性の確保を図ることを指します。

目的

会社法における内部統制は、会社の業務の適正性を確保し、利害関係者や会社経営への損害発生を未然に防止するためにあります。

対象企業

取締役会設置会社においての大会社は、会社法における内部統制を行うことが義務づけられています(会社法362条5項)。「大会社」とは、資本金が5億円以上又は負債の額が200億円以上の会社(会社法2条6号)です。

 

また、内部統制の体制を整備している会社は、一会計期末の事業報告書に記載する必要があります(会社法435条2項会社法施行規則118条2号)。 さらに、監査役設置会社では、内部統制体制ついて監査役が監査することとなっています(会社法436条)。

実施主体

会社法における内部統制の、体制整備に関する内容は、取締役会によって決定されます。取締役会は、取締役に当該決定を委任することはできません(会社法362条4項6号)。

報告

内部統制体制の整備についての決定または決議があった場合には、当該概要を事業報告書に記載し、定時株主総会に提出し、報告をします。

監査

監査役設置会社においては、内部統制体制ついて、監査役が監査することとなっています(会社法436条会社法施行規則第129条1項)

金融商品取引法における内部統制との違い

内部統制を要求する法律は、会社法金融商品取引法の2つがあります。 会社法が定める内部統制は、株主から経営を委ねられた取締役会が主体となり、適正な会社経営を目的として、善管注意義務・忠実義務を図ります。

 

一方、金融商品取引法が定める内部統制は、会社が主体となって、証券市場への投資家の信頼確保のために、財務計算に関する書類及びその他関連書類の社会的信頼性の確保を図ります。 この他にも、金融商品取引法の監査は、公認会計士または監査法人の代表者によって行われるなど、多くの違いがあります。

内部統制をめぐる判例

内部統制に関する判例には、以下のようなものがあります。

文献番号:2000WLJPCA09200001(大和銀行事件)

大和銀行ニューヨーク支店で米国財務省証券などの証券取引業務を担当していた従業員Aが、投資業務での損失を取り戻そうと考え、無断かつ海外における取引限度額を超過して、米国財務省証券などを簿外で売買し、その隠蔽のために保管残高証明書を偽造するなどした。 その結果として、約11億ドルの損失が発生した。その後、Aは損失隠蔽のため、保管されていた顧客所有の財務省証券を無断かつ簿外で売却し、保管残高明細書を偽造し、隠蔽工作を図った。この事案において、ニューヨーク支店長は、善管注意義務違反としての内部統制システム整備義務違反として、5億3,000万ドルの損害賠償義務を負った。 また、11名の取締役(代表取締役を含む)は、善管注意義務違反を理由に、7,000万ドルから2億4,000万ドルの損害賠償義務を負うこととなった。

文献番号:2006WLJPCA06090001(ダスキン事件)

ダスキンが運営するミスタードーナツで販売されていた商品に、稟議規定に反して、無認可の添加物が含まれていた。しかし、専務取締役らは長期間にわたってその事実を公表しないでいた。 取引業者からも問題について指摘されたが、担当取締役が独断で当該業者に6,300万円を支払って隠ぺいした。結局、大阪府の立ち入り検査によって公表されることとなった。 その結果、ダスキンに対して大きな社会的非難と加盟店に対する営業補償、信頼回復キャンペーン関連費用等の出費等の損害(約105億6,000万円)が発生し、社長・専務らが引責辞任に追い込まれた。 その際、株主は、取締役・監査役に対して責任を追及する株主代表訴訟を提起した。大阪高裁は隠蔽に関与した取締役に対しては、約53億4,000万円の支払いを命じる判決を下すとともに、隠ぺいに関与していない取締役・監査役11名に対しても、連帯して約5億5800万円の損害賠償責任を認める判決を下した。

文献番号:2011WLJPCA09139001(西武鉄道事件)

東京証券取引所では、上場会社の大株主のうち、上位10名が保有する株式総計が発行株式の80%を超えると上場廃止となるが、西武鉄道株式会社は株式の88%超がコクドをはじめとする西武グループの保有にあった。西武鉄道は上場廃止を免れるため、有価証券報告書や半期報告書における保有株式数に虚偽の記載をしていたが、後に訂正報告書を提出した。 これを受けた東京証券取引所は、西武鉄道を上場廃止とした。その後、西武鉄道株式保有者は西武鉄道や 取締役等に対して、民法第 709 条の不法行為等に基づく損害賠償を請求する訴訟を提起した。

内部統制について弁護士に相談するメリット

内部統制制度の構築においては、取締役(代表取締役)による職務執行の適性を、どのように監督していくかという観点が重要です。具体的には、取締役(代表取締役)の職務権限の範囲や職務執行の手続きを明確化したり、報告事項を明確化するルールを整備したりすることになります。また、企業の日常の業務執行についても権限の分掌や決済処理の明確化をすることも、企業全体の内部統制として重要です。

 

しかし、会社法の改正などにより、業務や経営に関する規制や関連法に対処するルール作りは、会社の法務部などでは対応しきれなくなっています。 また、こうした法令や倫理規範に準じた、業務の執行には専門家のサポートやアドバイスが必要となることがあります。

 

弁護士に相談すれば、コンプライアンス強化に向けた体制構築への法的アドバイスやサポートだけでなく、関連法などの整理、社内のコンプライアンス教育の提供、万が一の場合の対応方法など、広い範囲で弁護士のサポートを受けることができます。

まとめ

企業の内部統制は、会社経営を円滑に進めていくために重要な事項です。 特に、問題発生の事前節策の策定と、問題が発生してからの対処や手続きは、会社の社会的信頼の維持や会社の存続に関わる重大な事項であるといえます。

 

万が一の事態に備えて、専門家である弁護士に相談するのもひとつの手段でしょう。

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