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2026年10月、いわゆる「106万円の壁」が撤廃される予定です。これは厚生年金保険法などを改正する「年金制度改正法」(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律。令和7年法律第33号)に基づく賃金要件の撤廃で、パート・アルバイトを多く雇用する中小企業にとっては、社会保険料の事業主負担が大きく増加する可能性があります。
本記事では、中小企業の経営者・人事労務担当者向けに、企業視点での人件費インパクトの試算、雇用契約書・就業規則の見直しポイント、雇い止めなど避けるべき法的リスクを、企業法務に詳しい弁護士の視点で解説します。労働者本人への影響については、経営者が従業員から質問されたときに答えられるよう、要点のみ整理しています。
「106万円の壁」撤廃は、パート・アルバイトを多く雇用する中小企業の人件費・労務管理・契約実務すべてに直接影響します。施行が近づいてから動くのでは、就業規則の改定や従業員説明が間に合わない可能性があります。
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「106万円の壁」とは、パート・アルバイトなど短時間労働者が、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者となるかどうかの基準のうち、賃金月額8.8万円以上(年収換算で約106万円以上)という賃金要件の通称です。
2026年10月から段階的に施行される年金制度改正法により、この賃金要件が撤廃される予定です。今後は「週の所定労働時間20時間以上」が短時間労働者の社会保険加入を判断する主たる基準として残ることになります。
本セクションのポイント改正の前後で短時間労働者の社会保険適用要件がどう変わるかを整理します。
| 要件項目 | 改正前(〜2026年9月) | 改正後(2026年10月以降の予定) |
|---|---|---|
| 企業規模 | 特定適用事業所(従業員数51人以上) | 2027年10月以降、段階的に撤廃 |
| 週の所定労働時間 | 20時間以上 | 20時間以上(維持) |
| 月額賃金 | 8.8万円以上(年収約106万円) | 撤廃 |
| 雇用見込み | 2か月超 | 2か月超(維持) |
| 学生除外 | 学生は適用対象外 | 学生は適用対象外(維持) |
これまでパート・アルバイトの社会保険加入の境目として「年収106万円」が広く意識されてきましたが、2026年10月以降は、週20時間以上の労働時間の有無がより重要な判断基準となります。
パート・アルバイト本人から「制度改正で自分の手取りはどうなるのか」と質問される場面が増えると見込まれます。経営者・人事担当者として、以下のポイントを把握しておくと従業員説明の場面で役立ちます。
賃金要件の撤廃と並行して、企業規模要件(特定適用事業所の要件)も段階的に撤廃される予定です。自社が「いつから対応が必要か」を年次ロードマップで把握しておきましょう。
| 段階 | 施行時期(予定) | 対象となる企業 | 主な改正内容 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 2024年10月(既施行) | 従業員数51人以上の特定適用事業所 | 短時間労働者の社会保険加入が義務化 |
| 第2段階 | 2026年10月施行予定 | 特定適用事業所(51人以上) | 賃金要件(月額8.8万円・年収106万円以上)撤廃 |
| 第3段階 | 2027年10月施行予定 | 従業員数36〜50人の企業 | 企業規模要件の段階的撤廃が開始 |
| 第4段階 | 2029年10月施行予定 | 従業員数21〜35人の企業 | 企業規模要件のさらなる段階的撤廃 |
| 第5段階 | 2032年10月施行予定 | 従業員数11〜20人の企業 | 企業規模要件のさらなる段階的撤廃 |
| 第6段階 | 2035年10月施行予定 | 従業員数1〜10人の企業 | 企業規模要件の完全撤廃(全企業対象) |
出典: 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」(2026年4月時点。段階施行スケジュールは政省令で詳細が定まる部分を含み、本記事公開時点での予定です)
段階施行のスケジュールは、政省令や厚生労働省の通達によって詳細が定まる部分を含みます。最新情報は厚生労働省・日本年金機構の公式サイトをご確認ください。
「106万円の壁」撤廃後、社会保険加入対象となるパート・アルバイトが増えることで、事業主負担の社会保険料は具体的にどの程度増えるのでしょうか。前提条件を整理した上で、業種別×規模別に試算してみましょう。
社会保険料率は毎年見直されますが、ここでは2024〜2025年度の率を参考に2026年時点の目安として整理します。事業主は原則として保険料の労使折半部分を負担します。
例として、月額賃金8.8万円のパート従業員1名が新たに社会保険適用となった場合、事業主の追加負担は概算で月額約1万3,000円、年間で約16万円となります。
本試算はあくまで概算であり、業種・賃金水準・地域・労働時間などにより実額は変動します。実際の負担額は社会保険労務士または年金事務所にご確認ください。
飲食業はパート・アルバイト比率が高く、影響度が最も大きい業種の一つとされています。
| パート従業員数 | 1人あたり月額負担増 | 年間負担増(概算) |
|---|---|---|
| 10名 | 約13,300円 | 約160万円 |
| 30名 | 約13,300円 | 約480万円 |
| 50名 | 約13,300円 | 約800万円 |
小売業も短時間労働者の比率が高く、店舗運営のコスト構造に直結します。
| パート従業員数 | 1人あたり月額負担増 | 年間負担増(概算) |
|---|---|---|
| 10名 | 約13,300円 | 約160万円 |
| 30名 | 約13,300円 | 約480万円 |
| 50名 | 約13,300円 | 約800万円 |
介護・福祉業界は短時間勤務の介護補助員などが多く、慢性的な人手不足の中で人件費インパクトをどう吸収するかが経営課題となります。
| パート従業員数 | 1人あたり月額負担増 | 年間負担増(概算) |
|---|---|---|
| 10名 | 約13,300円 | 約160万円 |
| 30名 | 約13,300円 | 約480万円 |
| 50名 | 約13,300円 | 約800万円 |
パート・アルバイトを雇用する比率や勤務時間の傾向から、影響を受けやすいと想定される業種は以下の順となります。
2026年10月の施行までに、中小企業の経営者・人事労務担当者が押さえておくべき対応を5つのステップにまとめます。
STEP 1: 対象従業員の洗い出し
週の所定労働時間が20時間以上のパート・アルバイトをリストアップし、雇用契約書・賃金台帳と突合します。「現状で社会保険に加入していないが、改正後は加入対象となる従業員」が何名いるかを把握することがすべての出発点です。
STEP 2: 人件費インパクトの試算
厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイトの事業主向け試算ツールを活用し、自社の負担増額を概算します。年間ベースのキャッシュフロー影響を可視化したうえで、価格転嫁・業務効率化・賃金体系見直しなど、コスト吸収策を検討します。
STEP 3: 従業員への説明会・個別面談
従業員には社会保険加入のメリット(将来年金の増額、傷病手当金・出産手当金の対象化など)と、手取り変動の見通しを丁寧に説明する必要があります。一方的な通知ではなく、対話の機会を設けることが、後述する法的リスク(雇い止め・労働時間調整)を回避するうえでも重要です。
STEP 4: 雇用契約書・就業規則の見直し
短時間労働者の労働時間・賃金条項、社会保険適用の有無に関する記載を改定します。とりわけ、労働条件の不利益変更を伴う場合は、労働契約法に基づく適切な手続きを踏む必要があるため、弁護士・社会保険労務士への相談を推奨します。
STEP 5: 加入手続き・各種届出
新たに被保険者となる従業員について、年金事務所への被保険者資格取得届の提出が必要です。届出は加入要件を満たした日から原則として5日以内に行う必要があるため、施行直前の社内オペレーションに余裕を持たせる準備が求められます。
STEP 4の雇用契約書・就業規則の見直しは、不利益変更に該当すると無効化のリスクがあります。条項のサンプル文言・同意取得プロセス・代償措置の妥当性まで、労働法に詳しい弁護士に事前確認すれば、後日の労働紛争を未然に防げます。
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「106万円の壁」撤廃を機に、短時間労働者の労働条件・社会保険適用に関する規定を見直すことが望まれます。とくに就業規則の改定で労働条件の不利益変更に該当する内容(例: 福利厚生の縮小、賃金水準の事実上の引き下げ)を含む場合は、労働契約法上の手続きに細心の注意が必要です。
就業規則に短時間労働者の社会保険加入基準を明記する場合、以下のような条項例が考えられます(実際の文言は社会保険労務士・弁護士の確認のもと作成してください)。
第〇条(社会保険の適用)
週の所定労働時間が20時間以上であり、雇用見込みが2か月を超え、かつ学生でない短時間労働者は、健康保険法および厚生年金保険法の定めるところにより、社会保険の被保険者となる。会社は、被保険者資格を取得した労働者について、関係法令に基づき所定の届出を行う。
就業規則を従業員に不利益な方向に変更する場合、労働契約法第9条・第10条に基づき、原則として労働者の合意が必要であり、合意がない場合は「変更の合理性」が必要とされます。最高裁判例(第四銀行事件・最判平成9年2月28日民集51巻2号705頁等)では、就業規則の不利益変更が認められるかどうかは、変更の必要性、不利益の程度、変更内容の相当性、代償措置、労働組合との交渉状況などを総合考慮して判断するとされています。
社会保険料の事業主負担を回避する目的で、以下のような対応を取ると、後日の労働紛争・損害賠償請求・行政指導に発展するリスクがあります。弁護士の視点から、やってはいけない代表的な3パターンを整理します。
従業員の同意を得ずに労働時間を一方的に削減すると、労働契約上の労働条件の不利益変更に該当し、無効となる可能性があります。労働者からは未払い賃金(差額賃金)の請求や、慰謝料請求がなされるリスクがあります。
有期労働契約の従業員について、契約更新を拒絶する「雇い止め」を、社会保険適用を避ける目的で行うことは、労働契約法第19条に定める雇い止め法理に抵触するおそれがあります。
パート・アルバイトを「業務委託契約」「個人事業主」として扱い、雇用関係の外に置くことで社会保険適用を免れようとする対応も、実態が雇用関係であれば偽装請負として労働基準法・労働者派遣法等に抵触するリスクがあります。
本セクションで紹介した判例・法的論点は一般的な解説であり、個別の事案によって結論は異なる場合があります。具体的な対応を検討される場合は、必ず弁護士に個別にご相談ください。
労働時間の引き下げ・雇い止め・業務委託への切り替えは、いずれも実施後では取り返しがつかない労働紛争に発展します。実施前に弁護士に相談することで、法的リスクを正確に把握したうえで、合理的な代替策(合意取得・代償措置・段階的移行)を設計できます。
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社会保険料の事業主負担増を緩和するため、政府は中小企業向けの支援策・特例措置を整備しています。これらを活用することで、実質的なコスト負担を軽減できる可能性があります。
「106万円の壁」撤廃に関して、中小企業の経営者・人事担当者からよく寄せられる質問を整理します。
「106万円の壁」撤廃は、中小企業のパート・アルバイト雇用にとって大きな転換点となります。2026年10月の施行までに、以下のステップで準備を進めましょう。
中小企業がやるべき5ステップ(チェックリスト)
「106万円の壁」撤廃への対応は、社会保険手続き・労務管理・労働法務など複数の専門領域にまたがる課題です。社会保険労務士と弁護士の連携、そして経営層・現場・従業員の三方向のコミュニケーションを丁寧に組み立てることが、トラブルを未然に防ぎ、円滑な移行を実現する鍵となります。
「106万円の壁」撤廃への対応は、社会保険手続き・労務管理・労働法務など複数の専門領域にまたがります。早期に弁護士・社会保険労務士と連携し、自社のロードマップを描くことが、トラブル回避と円滑な移行の鍵です。
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編集部
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
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