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事業再生・破産・清算

【2026年施行】早期事業再生法とは|日本で導入される新しい事業再生の選択肢?施行前の先取りポイント解説

2025.12.11
2025.12.12
2026年内で施行予定の早期事業再生法とは何か。私的整理における多数決原理の導入など新しい事業再生のチャネルについてのポイントを弁護士が解説
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旭合同法律事務所
弁護士 川村将輝
【2026年施行】早期事業再生法とは|日本で導入される新しい事業再生の選択肢?施行前の先取りポイント解説というタイトルの記事のサムネイル画像

資金繰りの悪化、売上の低迷、返済負担の増大――経営が厳しい状況にある時、「倒産しかないのか」「会社を畳むしかないのか」と絶望的な気持ちになることがあるかもしれません。しかし、経営が苦しい状況でも、適切な手続きを選択すれば事業を継続し、再生できる可能性があります。

2026年に施行予定の「早期事業再生法」は、まさにそのような経営者のための新しい選択肢です。従来の民事再生や破産とは異なる、また私的整理の課題を解消するために実際に制度化したもので、より柔軟で迅速な事業再生を可能にする制度として注目されています。

本記事では、破産・事業再生の実務経験を踏まえ、早期事業再生法の仕組みから他の手続きとの違い、実際の手続きの流れ、そして利用を検討する際の重要なポイントまで、詳しく解説していきます

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本記事のポイント
  • 早期事業再生法の基本的な仕組みと制度創設の背景
  • 民事再生や事業再生ADRなど他の制度との具体的な違い
  • 手続きの流れと実務上のタイムライン
  • 利用を検討する際の3つの重要な判断ポイント
  • どのような企業・状況で活用できるのか
この記事に記載の情報は2025年12月12日時点のものです

早期事業再生法とは?

そもそも早期事業再生法とは、どのような法律でしょうか。
法制化の背景と概要を解説していきます。

立法の背景

早期事業再生法が創設された背景には、日本の中小企業が直面する深刻な経営環境の変化があります。

新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの企業が「ゼロゼロ融資」と呼ばれる実質無利子・無担保の融資を利用しました。2023年以降、これらの融資の返済が本格化し、多くの企業で資金繰りが厳しくなっています。

さらに、原材料費の高騰、人件費の上昇、円安の影響など、事業環境は一層厳しさを増しています。
帝国データバンクの調査によると、2024年の企業倒産は、2013年以来11年ぶりに1万件に迫る高水準となりました。
出典:帝国データバンク|倒産集計2024年報(1月~12月)

従来、事業再生の選択肢としては、裁判所が関与する法的整理である民事再生や会社更生と、当事者間の合意による私的整理がありました。
しかし、法的整理は手続きが重厚で時間とコストがかかり、私的整理は法的な強制力がないため債権者全員の同意が必要という課題がありました。

早期事業再生法は、この「法的整理と私的整理の中間」に位置する新しい手続きとして、2025年6月6日に成立し、同月13日に公布されました。
施行日は公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、2026年中の施行が予定されています。
参照:日本経済新聞|倒産前の債務整理、多数決で可能に 事業再生法が成立

制度の概要

早期事業再生法は、端的に表現すれば、私的整理の柔軟性を保ちながら、裁判所の一定の関与により手続きの公正性と実効性を確保する、ハイブリッド型の制度です。経済的に窮境に陥るおそれのある事業者が、事業価値の毀損や技術・人材の散逸を回避しつつ、早期に事業再生に取り組むための新たな制度基盤を整備することを目的としています。

基本的な枠組みとして、原則として債権者と債務者の話し合いによる解決を基本としながら、必要な場合のみ裁判所が決定を行う仕組みとなっています。中立的な第三者機関である指定調査確認機関として、経済産業大臣の指定を受けた認証紛争解決事業者等が手続きを進行し、専門家による公正な調査・確認を行います。

手続期間は概ね3〜6ヶ月程度での解決が想定されており、民事再生よりも短期間で決着することが期待されます。また、原則として手続きは非公開であり、信用不安の拡大を防止できる点も大きな特徴です。

早期事業再生法における事業再生の仕組みと他の制度との違い

早期事業再生法は、どのような仕組みなのでしょうか。早期事業再生法を活用した事業再生の仕組みと他の制度との違いについて分析していきます。

倒産手続きではない

まずポイントとして、早期事業再生法は「倒産手続」ではありません。これは実務上、非常に大きな意味を持ちます。

従来の民事再生や破産は、裁判所に申立てを行い、その事実が官報に公告され、帝国データバンクなどの信用調査会社のデータベースにも記録されます。「○○社が民事再生申立て」というニュースを見たことがある方も多いでしょう。これに対し、早期事業再生法による手続きは、基本的に非公開です。裁判所が関与する場合でも、その事実は原則として公表されません。

早期事業再生法は、手続が非訟事件として扱われ非公開の手続であるほか、公告がない設計となっており、こうした信用不安の連鎖を防ぎながら、債務の調整を行うことができる点に大きな意義があります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 情報統制の重要性

民事再生の申立てが公表されると、取引先が取引停止を決定し、金融機関が新規融資を停止し、顧客が離れていき、従業員が退職を考え始め、優良な事業部門まで価値が毀損するという負の連鎖が起きます。
民事再生の申立てと同時に主要取引先が一斉に取引を停止し、再生計画を遂行できなくなったケースもあります。
本来は立て直せる企業でも、「倒産手続中」というレッテルによって事業価値が急速に失われるように見られてしまうのです。

様々な選択肢とそれぞれの特徴比較

○私的整理
純粋な任意の話し合いによる私的整理があります。これは当事者間の完全な合意ベースで進められ、非公開で柔軟な解決が可能であり、コストも低く抑えられます。ただし、全債権者の同意が必要であり、法的強制力はなく、時間がかかる場合があります。債権者が少数で協力的な場合に適しています。

○事業再生ADR
事業再生ADRは、認証紛争解決事業者である事業再生実務家協会(JATP)が仲介する手続きです。裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)や産業競争力強化法等の根拠法令に基づき制度化された準則型私的整理手続の一つです。

非公開で進められ、専門家のサポートを受けられるほか、一定のエンフォースメント(法的な執行力)も認められます。ただし、全債権者の同意が必要であり、費用が高額(数百万円〜)という課題があります。債権者が比較的多いが、主要債権者の協力が見込める場合に適しています。

○民事再生
裁判所主導の法的整理です。法的強制力があり、経営者が経営を継続できるというメリットがあります。一方で、公開手続きであり、スポンサー企業の獲得が前提となる実務であり、再生計画の策定から債権者集会、議決を経て認可を得るというところまでに、時間とコストがかかり、信用毀損が大きいというデメリットもあります。

○会社更生

会社更生手続は、裁判所主導の法的整理手続きの中でも最も厳格な手続きです。

株式会社のみが対象となり、民事再生と異なり経営者は原則として退任し、裁判所が選任した管財人が会社の経営と再建を行います。担保権者を含む全ての債権者が手続きに服し、担保権の実行も禁止されるため、抜本的な再建が可能です。

法的強制力が極めて強く、債権者の多数決で再生計画が成立します。ただし、手続きが非常に重厚で時間とコストがかかり、公開手続きであるため信用毀損も大きくなります。主に大企業で、担保権も含めた抜本的な債務整理が必要な場合に適用されます。実務上は、航空会社や大手メーカーなど、事業規模が大きく社会的影響が大きい企業の再建に用いられることが多い手続きです。

私的整理が困難で、本来的に事業価値が残っている場合に適しています。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 多数決原理と非公開手続の両取り

従来の法的整理手続では、多数決原理で進めることができる一方で、手続などが公開で進められること、手続のプロセスや関与者が多いため時間と費用のコスト面がネックになることがありました。一方、私的整理手続は、手続を簡素化しつつ柔軟な解決を図ることができる反面、少数債権者の拒否権があるような実態で、解決に結びつかないことがデメリットでした。
早期事業再生法は、両方のメリットを生かし、デメリットを低減する形の制度設計となっています。

早期事業再生法の位置づけ

早期事業再生法は、この中で「私的整理と民事再生の間」に位置します。

私的整理に必要に応じた裁判所の関与を加えたものです。原則非公開で進められ、対象債権(担保権で保全されていない非保全債権)のうち議決権に係る債権総額の4分の3以上の債権額を保有している債権者の同意があれば私的整理が成立し、裁判所の認可により、同意していない対象債権者についても権利変更が可能となります。

また、担保権実行の中止命令も活用できます。一定の要件がありますが、金融機関債務が中心で、早期の解決が必要な場合に適しています。

具体的には、基本は私的整理として非公開で柔軟な解決を目指しますが、必要に応じて裁判所が関与し、担保権実行の中止や債権者の多数決での成立を実現します。事業再生ADRよりも裁判所の関与が強く、より実効性が高い一方で、民事再生よりも手続きが簡易で、非公開性が高いという特徴があります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 想定される使い分け

債権者が2〜3社で協力的な場合は純粋な私的整理を、債権者がやや多く専門家のサポートが必要な場合は事業再生ADRを、金融債権が中心で一部債権者の反対が予想される場合は早期事業再生法を、取引債権者が多数または債権者の協力が見込めない場合は民事再生を選択することが考えられます。

早期事業再生法のポイント

ここで、いくつか早期事業再生法における実務的なポイントとなると考えられる点について解説していきます。

手続の利用対象

まず、事業を営んでいることが前提となります。個人事業主や会社(株式会社、合同会社等)で、事業実態があることが必要です。

次に、金融機関等に対する債務があることが求められます。これには銀行、信用金庫、信用組合などからの借入金、政府系金融機関(日本政策金融公庫等)からの借入金、リース債務、ファクタリング債務等が含まれます。

「誠実性」があることも重要な要件です。債権者を害する目的がなく、財産状況を適切に開示でき、過去に不誠実な行為をしていないことが求められます。

さらに、事業継続の見込みがあることも必要です。債務を調整すれば事業を継続できる可能性があり、完全に事業価値が失われていないことが条件となります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 「早期」という言葉の意味

これは「手続きが早く終わる」という意味だけでなく、「まだ再生可能な早い段階で着手する」という意味も含まれています。
「もう少し早く相談してくれれば」というケースが非常に多いのです。完全に行き詰まってから相談に来られても、選択肢は限られてしまいます
「まだ何とかなりそうだが、このままでは厳しい」という段階こそが、手の打ち所なのです。

権利変更の対象債権者

早期事業再生法で調整の対象となるのは、主に金融機関等に対する金融債務です。

対象となる債権には、金融機関からの借入金、信用保証協会の保証付き融資、政府系金融機関からの借入金、リース債務、ファクタリング債務が含まれます。一方で、原則として対象外となる債権には、取引先に対する買掛金、従業員の給与・退職金、税金・社会保険料、少額債権(実務上は概ね100万円未満)があります。この点が民事再生と大きく異なります。

民事再生では全ての債権者が対象となりますが、早期事業再生法では主に金融債権のみを調整します。これは取引先との関係を維持しながら再生できることを意味します。

例えば、仕入先への支払いは通常通り継続し、外注先との取引も継続し、顧客との関係も維持できます。つまり、事業の継続に直接影響を与えない金融債務だけを調整し、事業運営は通常通り行えるのです。これが「事業を守りながら再生する」ことを可能にする重要なポイントです。

指定調査確認機関とは?

早期事業再生法の手続きは、指定調査確認機関と呼ばれる中立的な第三者機関が進行役を務めます。

指定調査確認機関の役割として、まず手続きの進行管理があります。これには債権者会議の開催、スケジュール管理、情報の取りまとめが含まれます。
次に、財務状況の調査を行います。債務者の財産・負債の調査、事業計画の実現可能性の検証、公正な立場からの評価を実施します。
さらに、再生計画案の確認として、計画の合理性の確認、公正性・衡平性の確認、債権者への説明を行います。

指定を受けることができるのは、事業再生実務家協会、各地の弁護士会が運営する紛争解決センター、その他法務大臣の指定を受けた機関です。実務上は、事業再生ADRを運営してきた実績のある機関が中心となることが想定されます。

指定調査確認機関への報酬は、事案の規模にもよりますが、概ね300万円から1,000万円程度が想定されます。これは民事再生の費用(裁判所予納金と弁護士費用で1,000万円以上が一般的)と比較すると、場合によってはコストを抑えられる可能性があります。

禁止行為

手続き中は、債務者に対していくつかの禁止行為が課されます。

財産の不当な処分として、財産を不当に安く売却すること、特定の債権者だけに優先的に弁済すること、財産を隠匿することが禁止されます。事業の重要な変更として、事業の全部または重要な一部の譲渡、重要な資産の処分、多額の借入れが制限されます。

債権者を害する行為として、担保の提供(既存債権者に不利益となる場合)や保証債務の負担が禁止されます。

これらの行為を行う場合は、指定調査確認機関の同意が必要です。

例えば、事業継続に不可欠な仕入先への支払い、従業員の給与、重要な設備のリース料などです。これらは事業継続に必要なものなので、通常は問題ありません。しかし、「ある取引先だけ特別扱いする」といった不公正な行為は認められません。判断に迷う場合は、必ず指定調査確認機関に相談することが重要です。

裁判所による関与とその形態

早期事業再生法の大きな特徴は、「私的整理だが、必要に応じて裁判所が関与する」点です。
裁判所が関与する場面として、まず担保権実行手続きの中止命令があります。銀行等が担保不動産を競売にかけようとする場合、債務者の申立てにより、裁判所が一定期間中止を命じることができます。

次に、権利変更議案に対する認可申立てに対し、裁判所による認可の判断がされます。債権者の多数(議決権総額の4分の3以上)が同意している場合、一部の反対債権者がいても、裁判所の認可を得ることにより成立させることができます。

また、必要に応じて財産の保全処分として、財産の処分を禁止する仮処分も可能です。

担保権実行中止命令は極めて重要な制度です。競売が進んでしまうと、工場や店舗を失い事業継続が不可能になり、競売での売却価格は通常の取引価格より低くなり、残債務だけが残ります。

担保権実行中止命令により、競売手続きを止めて、再生のための時間を確保できます。この間に、事業を立て直し、担保不動産を適正価格で売却したり、別の解決策を見つけたりすることが可能になります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 認可の意義

全債権者の同意を得ることは、実務上非常に困難です。1〜2社は反対する債権者が出てきます。
裁判所に認可を得ることにより、多数の債権者が同意していれば、一部の反対があっても計画を成立させることができます。これは私的整理の最大の弱点を補う意義があります。

早期事業再生法の手続の流れ

ここで、早期事業再生法を利用した場合に想定される手続のプロセスについて、概観していきます

1準備段階 弁護士に相談し、財務書類を準備する
2手続き開始段階 債権者に通知し、担保権実行の中止を求める
3調査・計画策定段階 事業を評価し、再生計画案を作成する
4債権者会議段階 債権者に計画を提示し、同意を求める
5成立・不成立の判断段階 債権者の同意を得るか、裁判所の承認を求める
6計画実行段階 弁済を開始し、事業再建策を実行する

準備段階として、まず事業再生に詳しい弁護士に相談します。この段階では、財務諸表、資金繰り表、債権者リストなどを準備し、「本当に早期事業再生法が適しているのか」を検討します。場合によっては、他の手続き(事業再生ADR、民事再生)の方が適切な場合もあります。この準備段階には通常1〜2か月程度かかることが想定されます。

手続開始段階では、指定調査確認機関に手続開始を申し出ます。同時に、全債権者に対して手続開始を通知し、この時点で債権者に対して「弁済の停止」を依頼します。担保権実行の動きがある場合は、裁判所に中止命令を申し立てます。

調査・計画策定段階では、指定調査確認機関が財産・負債の状況を詳細に調査します。同時に、事業の収益力、将来性を評価します。これらをもとに、再生計画案を作成します。具体的には、どの程度の債務を削減する必要があるか、何年間で弁済できるか、事業をどう立て直すかを検討します。

債権者会議段階では、作成した再生計画案を債権者に説明し、債権者からの質問に回答します。必要に応じて計画を修正し、最終的に債権者の同意を求めます。

権利変更議案の決議では、多数決として、議決権を有する債権者の債権総額の4分の3以上の同意があれば成立します(1名で4分の3以上がある場合は、出席債権者の過半数の同意も必要です。)。この決議において、全債権者の同意がある場合は、その時点で成立が確定することになります(後述の裁判所の認可が不要となります。)。

一部反対がある場合は、裁判所に権利変更議案の認可を申し立てます。裁判所が要件を満たすと認めれば、決定により成立します。

計画実行段階では、成立した計画に従って弁済を開始し、事業再建策も同時に実行します。定期的に指定調査確認機関に報告を行い、計画の進捗を確認します。この段階は通常数年間にわたります。

全体として、手続開始から成立まで、順調に進めば3〜6か月程度が標準的です。これは民事再生(通常6か月〜1年以上)と比較して短期間です。ただし、実務上は準備段階に時間がかかることが多く、相談から手続開始まで1〜2か月程度は見ておく必要があります。

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早期事業再生法の利用における検討ポイント3つ

最後に、早期事業再生法の施行に向けて、制度の利用において検討ポイントになる点を3つ解説していきます。

主要債権(者)の属性

前記のとおり、早期事業再生法は主に金融債権の調整を目的とした制度です。したがって、債務の大部分が金融債権である場合に適しています。

早期事業再生法が適している場合として、総債務の70%以上が金融機関からの借入金であり、債権者の大半が銀行、信用金庫、政府系金融機関であり、信用保証協会の保証付き融資が中心であり、リース債務、ファクタリング債務が主体である場合が挙げられます。

一方、早期事業再生法が適していない場合として、買掛金などの取引債務が債務の大半を占める場合、取引先に対する未払金が多額である場合、建設業で下請業者への未払いが多い場合などがあります。

例えば、総債務が2億円の製造業の場合を考えてみましょう。

ケースAとして、銀行借入が1億5,000万円、信用保証協会保証付き融資が3,000万円、リース債務が2,000万円であれば、金融債権が2億円中2億円(100%)となり、早期事業再生法が最適です。

一方、ケースBとして、銀行借入が5,000万円、買掛金が1億円、未払工事代金が5,000万円であれば、金融債権が2億円中5,000万円(25%)のみとなり、取引債権者が多数のため民事再生が適切であると考えられます。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 債権者の協力度も重要

メインバンクが協力的である場合、地域の信用金庫が中心で経営者との関係が良好である場合、政府系金融機関(日本政策金融公庫等)が債権者に含まれる場合などは、早期事業再生法はスムーズに進みやすくなります。

事業再生ADRなどとの先後関係

早期事業再生法ができる前は、私的整理の中心的手法として「事業再生ADR」がありました。両者の関係をどう考えるかは、実務上重要な問題です。

事業再生ADRが適している場合として、全債権者の同意が得られる見込みが高い場合、債権者数が比較的少ない(5〜10社程度)場合、担保権実行のリスクが低い場合、実績のある手続きを使いたい場合が挙げられます。

早期事業再生法が適している場合として、一部債権者の反対が予想される場合、担保権実行の動きがある場合、より短期間での解決が必要な場合、裁判所の関与による強制力が欲しい場合が挙げられます。

コストの比較として、事業再生ADRの費用は500万円〜2,000万円程度、早期事業再生法の費用は300万円〜1,000万円程度(想定)であり、早期事業再生法の方が場合によってはコストを抑えられる可能性があります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 手続資源の有効活用のための視点

実務上、考えられるパターンとして、事業再生ADRで開始したが一部債権者の同意が得られず、早期事業再生法に移行する場合が考えられます。
この場合、事業再生ADRの成果を無駄にせず活用でき、裁判所の関与により強制力を付与できます。また、最初から早期事業再生法を選択する場合もあります。これは債権者の反対が明らかな場合や、担保権実行が切迫している場合に適しています。

担保権の有無

担保権、特に不動産担保の扱いは、事業再生において最も重要な問題の一つです。

早期事業再生法の最大の武器の一つが、裁判所による「担保権実行中止命令」です。これは、銀行が工場の土地建物に担保権を設定しており競売を申し立てようとしている場合、競売が実行されると事業継続が不可能になる場合、しかし適切に売却すれば競売よりも高値で売れる可能性がある場合に威力を発揮します。

実務での活用例として、工場の土地建物に抵当権(債務残高8,000万円)が設定されており、銀行が競売を申し立て予定で、競売予想価格が5,000万円、通常売却なら7,000万円で売却可能な状況を考えてみましょう。この場合、担保権実行中止命令を申し立てて競売手続きを3〜6か月間停止し、その間に工場を移転して別の場所で事業継続し、不動産を7,000万円で任意売却します。これにより競売より2,000万円多く債権者に配当でき、残債務が1,000万円に圧縮されます。圧縮された債務について、再生計画で分割弁済することが可能になります。このように、担保権実行中止命令を活用することで、より有利な形で事業を再構築できる可能性があります。

逆に、無担保の借入金が中心の場合は、担保権実行中止命令は不要です。この場合、手続きはよりシンプルになります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 経営者保証ガイドラインとの兼ね合いも検討

実務上、注意が必要なのは、根抵当権が設定されている不動産、経営者個人が連帯保証人になっている場合、第三者(家族等)が物上保証人になっている場合です。これらの扱いについては、個別の事情に応じた慎重な検討が必要です。
特に、経営者個人の保証債務については、「経営者保証ガイドライン」との関係も考慮する必要があります。

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まとめ

早期事業再生法は、経営が厳しい状況にある事業者に新たな選択肢を提供する画期的な制度です。

本記事の重要ポイントを再確認すると、まず早期事業再生法は私的整理と民事再生の「中間」に位置する制度であり、非公開で進められ、必要に応じて裁判所が関与し、3〜6か月程度で解決することが期待されます。次に、金融債権を中心とした債務調整が可能であり、取引先との関係を維持しながら再生でき、事業継続に必要な支払いは継続できます。さらに、担保権実行中止命令が活用でき、競売を止めて再生のための時間を確保し、より有利な条件での債務整理が可能です。また、多数決での成立が可能であり、全債権者の同意がなくても成立でき、私的整理の最大の弱点を克服しています。

早期事業再生法は2025年6月に成立し、2026年中の施行が予定されている新しい制度ですが、施行後は実務での活用が期待されます。特に、コロナ融資の返済に苦しむ企業、金融債務が重くのしかかっている企業、まだ事業価値は残っているが債務が重い企業にとって、早期事業再生法は有力な選択肢となるでしょう。

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川村将輝
2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。
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