会社分割と事業譲渡|それぞれの違いやメリット・デメリットを解説

専門家監修記事
経営に悩む企業の選択肢として、会社分割と事業譲渡があります。『自社の事業を他社へ移す』という共通点はあるものの、相違点も多くあるため、どちらを選択すべきか十分に考える必要があります。この記事では、会社分割と事業譲渡の違いや、メリット・デメリットを解説します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
M&A・事業承継

会社内で採算がとれない事業の扱いについて、悩まれている経営者の方は多くいらっしゃると思います。 「このままでは会社が破産してしまう…」と事業破産を検討する前に、まずはM&Aの可能性を考慮してみましょう。 M&Aの代表的な手法である『会社分割』や『事業譲渡』を行うことで、経営の最適化を図ることができるかもしれません。

 

会社分割』とは、会社法に定められた組織再編行為です。 会社分割は、会社がある事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させる『吸収分割』と、1社または2社以上の会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を新たに設立する会社に承継させる「新設分割」の2種類に分類されます。

参考:会社法第二条

 

その一方で『事業譲渡』は、会社事業の全部または一部をほかの会社へ譲渡する行為です。 一部の事業を譲渡するときには『一部譲渡』と呼び、すべての事業を譲渡することを『全部譲渡』と呼びます。

参考:会社法第二条

 

このように、どちらも「事業をほかの会社に渡す」といった意味では同じですが、さまざまな手続きや特徴などが異なっています。そこで、この記事では会社分割と事業譲渡についてご説明します。

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会社分割と事業譲渡の違い

実際に、会社分割と事業譲渡はどのように異なるのでしょうか。 以下は会社分割と事業譲渡の違いを示した表です。

  会社分割 事業譲渡
権利関係 包括承継 特定承継
雇用契約の承継 法令による承継あり 個別の同意による承継
消費税 発生しない 発生する
許認可の移転 自動的に移転するものもある 再取得が必要
債権者保護手続き 債権者保護手続きあり 個別の同意が必要
簿外債務の引き継ぎリスク 引き継ぐ可能性あり 引き継ぐ可能性あり
譲渡対価 金銭や株式 金銭や株式
税務処理 税制適格の場合:譲渡損益の繰延 非税制適格の場合:時価取引として譲渡損益発生 時価取引として譲渡損益発生
登録免許税や不動産取得税 かかる(軽減措置あり) かかる(軽減措置なし)

会社分割のメリット・デメリット

ここでは、組織再編の一環として存在する『会社分割』のメリット・デメリットについて確認していきます。

メリット

会社分割における売り手側のメリットとして、以下のようなものがあります。

 

倒産リスクの分散が望める

会社はさまざまな事業が集まって経営されています。黒字を生み出す事業もあれば、赤字の事業もあるでしょう。1社に事業が集中した状態で財務状況が悪化すれば、赤字事業だけでなく会社全体にまで影響を及ぼす恐れもあります。最悪の場合には、黒字を出している優良事業があるにもかかわらず、倒産してしまうケースも想定されます。

 

そこで、会社分割で事業を分散させることによって、倒産のリスクも分散させることができるかもしれません。

 

組織の肥大化防止が望める

いくら敏腕の経営者だとしても、会社の状況をすべて把握するのは困難なことです。 知らない間に組織がどんどん肥大化し、無駄が発生している可能性があります。 例えば、採算の取れない事業や、不要な資産、必要以上に動員されている事業などを放置してしまうと、会社は生産性が向上しないまま、無意味に肥大化してしまうのです。

 

そこで、会社分割を行うことで、組織そのものを見直すきっかけが生まれます。 会社分割する際に現状を大まかに見直すことで、組織がスリム化し、円滑な会社経営のために必要なものが見えてくるはずです。

デメリット

会社分割における売り手側のデメリットとして、以下のようなものがあります。

 

税務に関する移転処理が面倒

一般的に、事業譲渡よりも会社分割の方が、税金の負担が軽くて済むとされています。しかし、どういった会社分割が課税の対象にならない『税制適格』なのか、課税の対象になる『非税制適格』なのかの判断は、知識がなければ容易ではありません。 つまり、税務に関する移転処理が非常に複雑で面倒なのです。

事業譲渡のメリット・デメリット

次に、売買契約の一種である『事業譲渡』のメリット・デメリットについて説明を行います。

メリット

事業譲渡における売り手側のメリットとしては、以下のようなものがあります。

 

譲渡財産の選択が可能

ここでいう事業とは、『一定の事業目的のために組織化され、有機的に一体として機能する財産』のことを指します。 そのため、一言で『事業』といっても、さまざまな財産が事業譲渡の対象になるのです。

 

例えば、倉庫や機械といった有形の財産だけでなく、人材や今まで培ってきたノウハウ・知的財産権、債権、取引先で契約した顧客といった無形財産も、事業譲渡の対象になります。 そして、この事業譲渡は、双方の合意により譲渡の範囲を自由に定めることができるため、自分の会社に残したい事業を選択することも可能になります。

 

残しておきたい従業員や資産の保持が可能

先述の通り、『事業』の範囲には、従業員や保有する資産も含まれ、譲渡対象範囲は個別に決められます。 「この事業は残しておきたい」「この事業は別の会社に譲渡して、自分の会社の強みである黒字の事業に集中する」といった、柔軟な対応ができるのも、事業譲渡におけるメリットの1つだといえます。

デメリット

事業譲渡における売り手側のデメリットとしては、以下のようなものがあります。

 

資産・負債に関する移転処理が面倒

事業譲渡は、会社分割のような包括的な制度を取っていないため、資産や負債を譲渡した場合には、それぞれの権利について個別の移転手続きを進めなければなりません。 例えば、債務を移転する場合は債権者の個別同意が必要です。また、許認可などは多くの場合、譲渡不可であり、譲渡先で取り直す必要があります。

 

譲渡事業と同じ事業の立ち上げが不可

事業譲渡を行うと、譲渡会社は『競業禁止』と呼ばれる責任を負うことになります。 これは会社法第21条に定められたものであり、『譲渡会社はその事業を譲渡した日から20年の間は、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、同一の事業を行ってはならない』という規定です。この20年という期間は特約によって30年に変更することも可能です。

 

ただ、会社法第21条はあくまでも任意規定であるため、双方の合意さえあれば、期間を短く定めることや、競業禁止の責任自体を負わずに済む可能性もあります。

会社分割と事業譲渡の手続きの流れ

次に、会社分割と事業譲渡の手続きの流れについてご説明します。

会社分割(新設分割手続きの流れ)

会社分割(新設分割手続きの流れ)は以下の通りです。

 

事業譲渡(売り手側)

事業譲渡における売り手側の手続きの流れは、以下の通りです。

【納得できる事業承継するには…】

「引き継いでよかった」と思える事業承継・事業譲渡をするには、事業内容に沿った契約書の作成が必要です。どのような契約書を作成すべきか、作成事例をご紹介します

会社分割や事業譲渡を弁護士に相談するメリット

経営に悩み、M&Aを実行しようと考えても、「どの手法が自分の会社にあっているか」を判断するのは容易ではありません。仮に1人で方法を決めたとしても、会社分割や事業譲渡を成功させるためには、法律や税務に関しての専門的な知識が必要不可欠です。

 

そうした場合に弁護士に相談すれば、自分の会社にあったスキームを提案してもらうことが期待できます。また、豊富な知識を持ち、さまざまな事案を取り扱ってきた弁護士であれば、経営の最適化に役立つアドバイスも行うことができるでしょう。

まとめ

『会社分割』と『事業譲渡』についてご説明してきました。経営に行き詰まった際には、いきなり事業破産を検討するのではなく、これらを検討することによって、事業を市場に残しつつ、経営状態の回復を図ることが可能となります。

 

会社分割と事業譲渡、どちらも本質的な目的は似ていますが、ところどころで相違点が存在します。 それぞれにメリットがあるので、どちらが一番、と言い切ることがはできません。 迷った際には、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

 

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開催エリア

日程

時間

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2019/07/11 (木)

10:00~16:10

帝国ホテル東京
桂の間

2019/08/06 (火)

10:00~16:10

帝国ホテル東京
桂の間

2019/10/18 (金)

10:00~16:10

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