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弁護士執筆記事
M&A・事業承継

事業譲渡で弁護士に依頼するメリット・費用・役割とは|インハウス、法務アウトソーシング及び顧問で幅広い立ち位置から経験を持つ企業法務弁護士が徹底解説

2026.6.1
2026.6.1
事業譲渡に弁護士は必要か?弁護士が担う業務・費用相場・M&A仲介との違いを企業法務専門の弁護士が解説。会社法手続のロードマップや失敗事例も紹介。
執筆弁護士
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旭合同法律事務所
弁護士 川村将輝
事業譲渡で弁護士に依頼するメリット・費用・役割とは|インハウス、法務アウトソーシング及び顧問で幅広い立ち位置から経験を持つ企業法務弁護士が徹底解説というタイトルの記事のサムネイル画像

事業譲渡を検討しているオーナー経営者の方から、「弁護士に依頼する必要があるのか」「M&A仲介会社だけでよいのでは?」というご相談をいただくことがよくあります。確かに、M&A仲介会社やFA(財務アドバイザー)はマッチングや交渉調整の面で大きな力を発揮します。

しかし、事業譲渡は会社法・民法・労働法・許認可法制が複合する高度な法的取引であり、専門的な法的リスク管理なしには、クロージング後に高額な損害賠償請求や事業価値の毀損が生じるリスクが常に潜んでいます。

本記事では、企業法務を専門とする弁護士の立場から、事業譲渡における弁護士の役割・業務内容・費用相場・会社法上の手続と、よくある失敗事例およびその防ぎ方を実務的な視点で詳しく解説します。事業譲渡の検討を始めたばかりの方から、既にプロセスが進んでいる方まで、ぜひ参考にしてください。

本記事のポイント
  • 事業譲渡に弁護士が必要な理由
  • 弁護士が担う主要業務(法務DD・契約書・許認可承継)
  • 会社法上の手続とM&Aプロセスの複合ロードマップ
  • 弁護士費用の相場と選び方のポイント
  • 弁護士活用で防げる失敗事例3選
この記事に記載の情報は2026年06月01日時点のものです

事業譲渡とは何か?弁護士が重要である理由

まずは事業譲渡に関する基本的な意味合いと、弁護士の重要性について、解説します。

事業譲渡の基本的な定義と法的特徴

事業譲渡とは、会社が一定の事業目的のために有機的に結合した財産(得意先関係・従業員・設備・ノウハウ等を含む)を他者に移転する取引をいいます。判例(最高裁判所昭和40年9月22日判決)が示した「有機的一体として機能する財産の移転」という定義が実務の基礎となっています。単なる個別財産の売買とは異なり、事業の収益力そのものを移転するという点に本質的な特徴があります。

会社法上の規律(会社法467条・21条)

事業の「全部」または「重要な一部」を譲渡する場合、会社法467条1項1号・2号により、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。「重要な一部」の判断は個々の案件で異なりますが、実務上は帳簿価額が総資産の5分の1を超える場合が目安とされています。譲渡後の競業については、特約がない限り、同一市区町村および隣接市区町村の区域内で20年間、同一の事業を行うことが禁じられます(会社法21条1項・3項)。

株式譲渡・会社分割との違い

事業譲渡は「個別承継」であり、対象となる契約・債権・債務はそれぞれ個別の移転手続が必要です。これに対し、会社分割(会社法2条29号・30号)は「包括承継」であり、設定された事業に関する権利義務は原則として一括して移転しますが、債権者保護手続(公告・催告)が必要です(会社法789条・810条)。株式譲渡との比較では、事業譲渡は簿外債務を遮断できるメリットがある一方、許認可の個別再取得が必要になるケースがあります。

現物出資型・株式対価型との使い分け

近年は、事業譲渡の対価として譲受会社の株式を受け取る株式交付(会社法774条の2以下)や事業を一体的に譲渡する現物出資型の株式譲渡のスキームも活用されています。純粋な金銭対価の事業譲渡とは税務・会計処理が異なるため、スキーム選択の段階から弁護士・税理士が連携して検討することが不可欠です。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 スキーム選択と競業避止義務の注意点

「事業の重要な一部」かどうかの判断は、帳簿価額基準だけでなく、その事業が会社の中核をなしているかという定性的判断も重要です。判断に迷う場合は事前に弁護士へご確認ください。競業避止義務の20年は「特約がなければ」のデフォルト規定です。売り手の今後の事業計画によっては、期間を短縮する特約を検討すべきです。

さらに、スキーム選択(事業譲渡・株式譲渡・会社分割)は法務・税務・許認可の三軸で比較する必要があります。早い段階での専門家への相談が、後々のコストを大幅に削減します。

なぜ事業譲渡に弁護士が必要なのか

事業譲渡が法的に複雑な理由は、複数の法律領域が同時に関係するからです。一つの案件に、会社法(手続・機関決議)、民法(契約・債権債務)、労働法(雇用契約・解雇規制)、許認可法令(業法・行政規制)、IT・情報セキュリティ(機密保持、個人情報保護)、知的財産法(商標・特許・著作権)などが重なり合い、複合的な法的分析を要します。どこかで見落としがあれば、取引全体が瓦解するリスクが生じます。

M&A仲介・FAと弁護士の役割の違い

M&A仲介会社は売り手・買い手双方を取り持つ「仲介」が主機能であり、法的なリスク分析や契約書のドラフトは業務範囲外です。また、双方代理の構造上、依頼者の利益が必ずしも最優先されない点にも注意が必要です。FAは一方当事者の財務的利益を最大化する役割ですが、法的なアドバイスは行いません。弁護士は依頼者の法的利益を守るために、法務DD・契約書ドラフト・法的交渉を専門的に担います。

法的リスクは「見えないコスト」を生む

弁護士を関与させなかった事業譲渡で多いトラブルは、①表明保証違反による損害賠償請求、②COC(チェンジオブコントロール)条項に気づかず主要取引先を失うこと、③許認可が承継できず事業価値が消失することの三つです。これらのリスクは事前の法的調査と適切な契約設計によって大幅に軽減できます。弁護士費用を「コスト」と捉えるのではなく、リスクヘッジへの「投資」として位置づけることが、事業譲渡の成功につながります

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 M&A仲介会社と弁護士の違いを理解する

「仲介会社がいれば弁護士は不要」というのは誤解です。仲介会社は法的サービスを提供する立場にありません。依頼者の利益を守る代理人として、弁護士の独自の関与が必要です。

M&A仲介会社は買い手・売り手双方から報酬を受け取る双方代理の構造です。依頼者の利益のみを守る立場の専門家として、弁護士を別途起用することを強くおすすめします。

弁護士が担う事業譲渡の主要業務

弁護士が事業譲渡案件において、どのような業務を担うでしょうか。

法務デューデリジェンス(法務DD)の実施

法務DDは、買い手がターゲット企業の法的リスクを把握するために行う調査です。事業譲渡の場合は、譲渡の「対象となる事業」に関連する法的リスクを重点的に調査します。費用と時間はかかりますが、法務DDを省略することによるリスクは、DD費用の何倍にもなることがあります。

法務DDで調査する主要項目

  • 法人基本情報: 登記・定款・株主構成・役員の就任・退任の経緯
  • 組織・ガバナンス
  • 重要契約の確認: 特に、COC(チェンジオブコントロール)条項や解除権の規定が含まれる契約には要注意です。取引先との基本契約・賃貸借契約・金融機関との融資契約等にCOC条項が潜んでいるケースが多くあります。
  • 許認可・免許の承継可否: 建設業許可・飲食業営業許可・医療介護の指定・廃棄物処理業許可等は事業価値の根幹であることが多く、承継可否の確認が必須です。
  • 知的財産権の帰属確認: 商標・特許・著作権・ドメイン
  • 訴訟・紛争・行政処分の有無および潜在的クレームの調査
  • 労務リスク: 未払残業代・ハラスメント・偽装請負等
  • IT・データガバナンス
  • コンプライアンス一般: 法令遵守体制、反社会的勢力の排除、不正防止、ビジネスモデルの適法性など

弁護士なしのDDで起きる典型的なリスク

弁護士を関与させずにDDを省略したり非専門家が対応したりするケースでは、簿外債務・偶発債務(保証債務・係争中の損害賠償リスク等)の見落としが起きやすくなります。COC条項の見落としによる主要取引先の契約解除はクロージング後に事業価値を大幅に毀損する典型的なリスクです。さらに許認可が承継できないと判明した時点でスキームの抜本的な見直しが必要になるケースもあり、取引コスト全体を大幅に引き上げる原因となります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 法務DDの優先項目と売り手の備え

DDは「費用をかけたくない」と省略しがちですが、事業規模が小さくても最低限の法務DDは必須です。特に許認可とCOC条項だけは必ず確認してください。

売り手側もDDへの備えが重要です。事業譲渡を検討し始めた段階で、自社の契約・許認可・訴訟リスクを弁護士と棚卸ししておくことをおすすめします。

DDの深度は案件規模に応じて設定します。小規模案件では優先項目を絞ったフェーズドDDも有効です。弁護士と相談してスコープを決定してください。

事業譲渡契約書のドラフト・レビュー・交渉

DDを経て、最終的なディールに進む場合には、その最終提案書としてDefinitive Agreement(以下「DA」)を買い手から売り手側に提示します。DAには、契約条件の骨格が示されます。譲渡対象資産の特定から始まり、表明保証・競業禁止・クロージング条件・補償条項まで、買い手側が取引の成否を決定づける上で重要となる条件やポイントが凝縮されています。DAの提示を経て、本格的な契約交渉に移行します。

弁護士がDAの段階から実際の事業譲渡契約書(Business Transfer Agreement)まで関わることで、一気通貫して「面」でリスクマネジメントをすることにつながります。

主要条項のポイント

  • 譲渡対象資産の特定(ポジティブリスト vs. ネガティブリスト): 「何を引き継ぐか」を明確にします。ポジティブリスト方式(引き継ぐものを列挙)とネガティブリスト方式(除外するものを列挙)では解釈上のリスクが異なるため、案件の性質に合わせた設計が必要です。
  • 表明保証条項: 譲渡会社が事業の状態について一定の事実を保証し、違反があった場合の補償義務を規定します。表明保証保険(M&A保険)の活用も近年増えています。
  • 競業禁止条項: 禁止対象となる事業の範囲・期間・地域を具体的かつ明確に規定することが紛争防止の鍵です。「同種の事業」という曖昧な表現は後々の解釈紛争を招きます。
  • クロージング前提条件(CP条項): 許認可の取得・第三者の同意・株主総会決議等を前提条件として規定し、これらが充足されない場合の解除権を付与します。
  • 補償条項(インデムニティ): 表明保証違反があった場合の補償の上限額(キャップ)・最低額(バスケット)・請求期限(生存期間)を設定します。
弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 表明保証・競業禁止・補償条項の設計ポイント

①表明保証の交渉では「できるだけ広く求める(買い手)」と「できるだけ限定する(売り手)」の利害が対立します。初期ドラフトを自ら提示することで交渉の主導権を握ることができます。

②補償条項のキャップ(上限額)は一般的に取引価格の10〜30%が目安ですが、リスクの高い案件ではより高い設定が必要です。弁護士と相談して最適な設計を行ってください。

③競業禁止条項の「同種の事業」は必ず具体的に定義してください。業種・製品・サービス・販売チャネルまで書き込むことで後々の紛争リスクを大幅に低減できます。

許認可・雇用・重要契約の承継サポート

事業譲渡では、対象事業に付随する許認可・雇用契約・重要取引契約を買い手側に承継させる手続が不可欠です。これらの承継手続に漏れがあると、クロージング後に事業が継続できなくなるリスクがあります。

許認可承継の落とし穴

許認可は原則として「事業者」に付与されているため、事業譲渡によって自動的に承継されるとは限りません。買い手が既に同種の許認可を持っている場合でも、対象事業で使用する施設・機器・人員等の要件が変わるため、行政への届出や変更手続が必要なケースがほとんどです。
許認可を得られないまま事業を継続すると行政処分(営業停止・許可取消し)のリスクがあります。建設業・飲食業・医療・介護・廃棄物処理・宅建業等は特に注意が必要です。

従業員の雇用契約移転の法的留意点

事業譲渡において従業員の雇用契約を承継する場合、個々の従業員の個別同意が必要です(民法625条1項の類推適用が通説)。労働条件(賃金・労働時間等)は原則として同一の条件で引き継ぐことが求められます。 また、従業員が一定数以上いる場合には労働組合との協議が必要となる場合があります(労働組合法7条参照)。

最も紛争になりやすいのは、労働条件の差異です。全員を同一条件で承継させる前提で特に従業員側の意思で退職するかどうかを判断させることや、人数が少なければ買い手側となる譲受会社から個々に採否判断のため選考プロセスを踏むような場合もあり、あるいは人的な体制は刷新する形で形式上全員退職→譲受会社の再雇用判断などのパターンがあります。人的資本として従業員の立場や利益を重視する考え方は増えているものの、多かれ少なかれ雇用環境や待遇の変化が生じうることから、労務紛争が発生しやすく最も交渉上難関となる要素の1つです。

重要契約のCOC条項確認と相手方同意取得

法務DDで抽出したCOC条項については、クロージング前提条件として取引先・金融機関等の事前同意を取得する手続を組み込む必要があります。同意取得の管理は弁護士が主導して行うことが多く、交渉戦略の立案から実際の交渉まで弁護士が担うことが一般的です。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 許認可・従業員・取引先の承継で外してはならないポイント

許認可の承継可否は事業価値に直結します。DDの最初期段階で確認し、承継困難な場合はスキームの見直し(会社分割への変更等)を検討してください。

従業員への説明のタイミングは非常に重要です。早すぎると情報漏洩リスク、遅すぎると退職者続出の問題が生じます。弁護士と従業員対応スケジュールを設計することをおすすめします。

主要取引先へのCOC同意取得は「秘密保持と適切な開示のバランス」が難しい局面です。弁護士が同席して説明することで、相手方の理解を得やすくなることもあります。

事業譲渡の全体ロードマップ:会社法上の手続とM&Aプロセスの複合的理解

事業譲渡について、一般的なロードマップを解説していきます。

会社法が要求する手続の全体像

事業譲渡を有効に成立させるためには、会社法が定める手続を適切に履践することが不可欠です。手続の瑕疵は取引の効力に影響を与えかねないため、弁護士のサポートが特に重要な領域です。

株主総会特別決議(会社法467条)と書類備置義務

事業の全部または重要な一部の譲渡には、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。DA締結後から効力発生日の20日前までの間に事前開示書類を本店に備え置く義務があります。また、効力発生後2ヶ月以内には事後開示書類の備置も必要です(会社法467条2項等)。これらのスケジュール管理を誤ると、手続の瑕疵として取引の有効性が争われるリスクがあります。

反対株主の株式買取請求権(会社法469条)

事業譲渡に反対した株主は、会社に対して「公正な価格」での株式の買取を請求できます(会社法469条)。買取価格について協議が整わない場合は裁判所への価格決定申立が可能です。少数株主がいる会社では、株式買取請求権の行使リスクを事前に評価しておく必要があります。

簡易・略式事業譲渡(会社法468条)

譲渡対価が譲渡会社の純資産の5分の1以下の場合は「簡易事業譲渡」として、また特別支配会社(議決権の90%以上保有)が相手方の場合は「略式事業譲渡」として、いずれも譲渡会社側の株主総会決議を省略できます。これらの要件を満たすかどうかを早期に確認することで、手続を大幅に効率化できます。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 会社法手続のスケジュール管理と少数株主対応

事前開示書類の備置義務(効力発生日の20日前から)は、DAの締結スケジュールに直接影響します。会社法上のスケジュールを逆算してDAの署名日を設定することが重要です。

少数株主がいる会社では、株式買取請求権の行使リスクを事前に評価しておくことが必要です。反対株主が出た場合の対応策を弁護士と事前に準備しておきましょう。

簡易・略式事業譲渡の要件を満たすかどうかも早期に確認が必要です。要件を満たせば株主総会の招集コストと時間を節約できます。

M&Aプロセスと会社法手続の複合ロードマップ

事業譲渡の実務プロセスは、M&A固有の交渉・契約プロセスと会社法上の機関決議・書類備置プロセスが絡み合っています。以下のフェーズで全体像を把握してください。

Phase1:初期検討・NDA締結(〜LOI締結)

売り手・買い手がマッチングし、秘密保持契約(NDA)を締結した上でインフォメーションメモランダム(IM)を受領して初期的な案件評価を行います。基本的な条件が合意できれば基本合意書(LOI)を締結し、独占交渉権と主要条件を確認します。この段階での弁護士の役割は、NDA・LOIのドラフトと独占交渉条項の設計です。

Phase2:デューデリジェンス〜DA締結

法務DD・財務DD・税務DDを並行して実施します。DD結果をもとに価格交渉・条件交渉を行い、DAを最終化します。会社法上の義務として、DA締結後に株主総会招集通知・事前開示書類の備置が開始されます。

Phase3:株主総会決議〜クロージング

必要に応じて株主総会の特別決議を経た後、CP条項(許認可・第三者同意)の充足を確認してクロージングを実行します。クロージングにおいては、対価の支払い・対象資産の移転・引渡しが一括して行われます。弁護士はクロージング当日に立ち会い、資産移転の完了を確認します。

Phase4:クロージング後の事後手続・PMI

クロージング後は、許認可の移転申請・新規取得手続、従業員への通知と個別同意取得、取引先・金融機関への通知を行います。会社法上は、効力発生後2ヶ月以内に事後開示書類を本店に備え置く義務があります。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 M&Aプロセスの各フェーズで弁護士が担う役割

LOIには法的拘束力のある条項(秘密保持・独占交渉)と非拘束的条項(価格・条件)が混在する場合があります。どの条項が拘束力を持つかを明確にしないと、後々のトラブルの原因になります。

DDとDA交渉は並行して進めることが多いため、DD結果を契約条件に迅速に反映できる体制を整えておくことが重要です。

クロージングにおける資産移転の確認は弁護士がチェックリストを作成して管理することが望ましいです。抜け漏れが後日の紛争の原因となります。

弁護士の関与タイミング別・実務上のチェックポイント

STEP1:初期検討・スキーム選択

事業譲渡を検討し始めた段階で、まず弁護士に相談すべき内容は「スキーム選択」です。事業譲渡・株式譲渡・会社分割のそれぞれについて、法的コスト・税務コスト・許認可上の制約・従業員への影響を比較した上で、最適なスキームを選択します。スキームを誤った場合、後から変更するとコストと時間が大幅に増加します。

弁護士の主な関与:スキーム比較の法的アドバイス・NDAのレビューと締結サポート・秘密保持の法的担保。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 スキーム選択とNDA締結のポイント

スキーム選択は「どれが安いか」ではなく「どれが目的に最適か」という観点で行います。税務上の有利不利だけで判断すると、法的リスクや許認可上の制約を見落とします。

M&Aの初期段階でのNDAは簡易なものが多いですが、情報交換が始まった段階で必ず締結してください。口頭での合意は法的な秘密保持として機能しません。

スキーム選択の段階から弁護士が関与することで、後工程でのやり直しを防ぎ、全体のコストを最適化できます。

STEP2:基本合意書(LOI)の締結

LOI(Letter of Intent)は、取引の主要条件を確認し、独占交渉権を設定するための文書です。LOI締結後、売り手は他の候補者との交渉を禁じられるため、LOIの内容が最終条件に近いほど売り手にとって有利です。一方、買い手はDDで新たなリスクが判明した場合に条件変更できる余地を確保しておく必要があります。

弁護士の主な関与:LOIのドラフト・独占交渉条項と拘束力範囲の設計・守秘義務の強化。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 LOI(基本合意書)の法的効力設計

LOI段階での価格・条件は「非拘束的」としつつ、独占交渉権・秘密保持は「拘束的」と明記することが標準的実務です。拘束・非拘束の区別を明確にしてください。

LOIの独占期間は通常2〜3ヶ月ですが、案件の複雑度によって調整が必要です。短すぎると十分なDDができず、長すぎると売り手の選択肢が不当に制限されます。

LOIに価格調整メカニズム(クロージング後の精算条項)の枠組みを記載しておくと、DA交渉がスムーズになります。

STEP3:デューデリジェンスの実施

DD段階は、買い手が取引リスクの全体像を把握する最重要フェーズです。財務DD(税理士・会計士)・法務DD(弁護士)・ビジネスDD(FA)が並行して実施され、それぞれの専門家が分担して調査します。弁護士は法務DDを主導するとともに、他のDD結果を統合してDA交渉に反映する役割を担います。

弁護士の主な関与:法務DDの実施・DDレポートの作成・DD結果をDA交渉に反映・リスク事項の表明保証または価格調整への組み込み。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 DDスコープの決め方とリスクの契約反映

DDで発見したリスクは必ずDAに反映させてください。リスクを把握しながら契約に織り込まなかった場合、後から主張できる権利が制限されることがあります。

小規模案件では全項目のDDは費用対効果が合わない場合があります。優先順位をつけた「スコープ限定DD」を弁護士と設計することをおすすめします。

DDで重大なリスクが発見された場合は、価格再交渉・条件変更の根拠として活用できます。リスクの定量化(損害額の見積り)も弁護士と協力して行いましょう。

STEP4:最終譲渡契約の締結・クロージング

DAの最終化・署名、株主総会決議(必要な場合)、CP条項の充足確認を経てクロージングを実行します。クロージングにおいては、弁護士立ち会いの下で資産移転の引渡確認・対価の支払確認を行います。会社法上の手続(事前開示書類の備置・株主総会招集通知等)も弁護士が主導して管理します。

弁護士の主な関与:DA最終ドラフトの作成・条項ごとの交渉・クロージング管理・会社法上の手続監督。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 クロージング当日の準備と会社法手続

クロージング当日に「想定外の条件」を要求されるケースがあります(いわゆるラストミニット交渉)。あらかじめ対応方針を弁護士と決めておくことで、冷静に対処できます。

クロージングチェックリストは弁護士が作成・管理します。特に資産移転の登録・登記が必要な不動産・車両・知財については、完了確認まで弁護士が関与すべきです。

株主総会の招集通知・議事録の作成も会社法上の要件があります。弁護士に書類作成を一元的に依頼することで、手続上のミスを防げます。

STEP5:クロージング後の対応

クロージング後も、許認可の移転申請・取引先への通知・従業員への説明・事後開示書類の備置など、重要な法的手続が続きます。表明保証保険の対応や表明保証違反への準備も、この段階からスタートします。クロージングで完了と思いがちですが、法的には事後手続の完了までが一連のプロセスです。

弁護士の主な関与:PMI初期の法務リスク管理・表明保証違反の対応準備・事後開示書類の本店備置(効力発生後2ヶ月以内)の履行確認。

弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 クロージング後の法務リスク管理

クロージング後に表明保証違反が発覚した場合、請求できる期間(生存期間)は契約で決まっています。保証期間内に違反を発見・通知できるよう、クロージング後も弁護士との連携を続けることが重要です。

従業員・取引先への通知はクロージング前後に連携して行います。情報開示のタイミングと内容を弁護士と協議して設計することで、混乱を最小化できます。

事後開示書類の備置は会社法上の義務です。期限を徒過すると過料の制裁(会社法976条)を受ける可能性があります。弁護士によるスケジュール管理を活用してください。

弁護士費用の相場と弁護士選びのポイント

では、事業譲渡に関する対応について弁護士を選ぶ場合、費用面や選び方はどのように考えるべきでしょうか。

弁護士費用の種類と相場

事業譲渡における弁護士費用は、大きく「着手金・成功報酬型」と「タイムチャージ型」の二種類に分かれます。費用体系は法律事務所によって異なるため、依頼前に見積りと費用の内訳を確認することが重要です。

着手金・成功報酬型

案件開始時に着手金を支払い、取引が成立した場合に成功報酬を追加で支払う方式です。中小規模案件では比較的取り組みやすい費用体系です。成功報酬の算定方法は事務所によって異なりますが、取引金額の一定割合(0.5〜2%程度)を設定するケースが多いです。

タイムチャージ型

弁護士の作業時間×単価(1時間あたり4〜8万円が目安)で費用を算定する方式です。大規模案件や複雑な案件では、成果物の質と量が不確定なためタイムチャージ型が採用されることが多いです。月次で費用を管理しやすいというメリットもあります。

規模別の費用目安

規模別の弁護士費用目安
案件規模 費用目安(トータル)
小規模案件(取引価格1億円以下) 50〜150万円程度
中規模案件(1億〜10億円) 200〜500万円程度
大規模案件(10億円超) 500万円以上(案件の複雑度による)
法務DD単独受任 50〜200万円が目安
弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 弁護士費用の見積りとコスト最適化

費用の見積りを依頼する際は「スコープの明確化」が重要です。法務DDのみの依頼か、DA交渉まで含むのかによって費用が大きく変わります。

「安さ」だけで弁護士を選ぶのは危険です。M&A案件の経験が浅い弁護士を選ぶと、重要なリスクを見落とすコストの方が遥かに大きくなることがあります。

費用体系は案件の性質によって使い分けることが重要です。複数の事務所から見積りを取って比較することをおすすめします。

事業譲渡に強い弁護士を選ぶ5つのポイント

事業譲渡の案件を依頼する弁護士を選ぶ際には、以下の5つのポイントで評価することをおすすめします。

  1. M&A・事業譲渡の実績(件数・規模感) ― 企業法務・M&A分野での実績が豊富な弁護士を選ぶことが大原則です。法務DDやDA交渉の実務経験がない弁護士に重要案件を依頼することは大きなリスクです。
  2. 業種専門性(許認可・労務・知財など) ― 対象事業の業種によって、許認可・労務・知財の重要度が異なります。対象業種に精通した弁護士または専門チームを持つ事務所を選ぶことが有利です。
  3. 費用体系の透明性(見積りの詳細開示) ― スコープごとの費用内訳を明確に提示してもらえる事務所を選びましょう。不透明な費用体系は後々のトラブルの原因になります。
  4. 相手方弁護士・仲介会社との連携実績 ― M&A案件では相手方弁護士との交渉能力が取引条件に直接影響します。業界内での評判や交渉実績を確認することが有効です。
  5. 売り手・買い手双方の経験 ― 双方の立場での経験を持つ弁護士は相手方の戦略を読む力があります。依頼者の立場(売り手・買い手)に応じた経験を重視してください。
弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 経験・業種知識・交渉力で弁護士を選ぶ

最初の相談時に「M&A・事業譲渡の対応件数と規模感」を必ず確認してください。経験件数は弁護士の実力を示す重要な指標です。

「インハウス弁護士としての経験」を持つ弁護士は、企業側の意思決定プロセスを熟知しているため、実務的なアドバイスが得やすい傾向があります。

複数の弁護士・法律事務所に相談して比較することをおすすめします。相性や対応の迅速さも、長期間にわたるM&Aプロセスでは重要な選択基準です。

よくある失敗事例と弁護士活用で防ぐ方法

ここでは、よくあるケースを仮想事例として想定し、弁護士活用による予防法を検討していきます。

失敗事例①:表明保証違反によるクロージング後の紛争

ある製造業の事業譲渡案件では、売り手が「一切の訴訟・紛争はない」と表明保証したにもかかわらず、クロージング後に訴訟中の労働紛争(未払残業代請求)が発覚しました。買い手は売り手に対して損害賠償を請求しましたが、「紛争の存在を認識していなかった」と売り手が主張したため、解決まで2年以上を要しました。

予防策

  • DDで訴訟・紛争・行政処分の有無を徹底調査(裁判所記録の確認、従業員へのインタビュー等)
  • 表明保証の対象事項を詳細に設定し、「知り得た・知り得べき事実」を含む広い表現とする
  • 表明保証保険(M&A保険)の活用を検討する
  • 補償条項のキャップ・生存期間を適切に設計する
弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 表明保証保険の活用と責任設計

表明保証は「違反があった場合に補償できる」ものですが、相手方が資力不足であれば実効性がありません。表明保証保険の活用も含めた包括的なリスク設計を弁護士と行ってください。

売り手側でも表明保証の内容は重要です。「知らなかった」では済まない条文設計を避けるためにも、弁護士によるDAの精査が欠かせません。

「知り得べき事実」をどの範囲で表明保証させるかは交渉上の重要な争点です。弁護士が介在することで、合理的な落とし所を見つけることができます。

失敗事例②:競業禁止条項の解釈をめぐるトラブル

ある小売業の事業譲渡では、競業禁止条項に「同種の小売事業を行わない」という表現が使われていました。クロージング後、売り手が「ネット販売は対面販売とは異なる事業」として類似商品のECサイトを開設したため、買い手との間で「競業禁止条項違反か否か」をめぐる紛争が生じました。最終的には訴訟となり、双方に多大な時間的・経済的コストが生じました。

予防策

  • 競業禁止の対象事業を、業種コード・商品カテゴリ・販売チャネル(実店舗・EC・卸売等)まで具体的に規定する
  • 禁止期間・禁止地域(都道府県・全国・特定地域等)を明確化する
  • 違反した場合の違約金条項を設ける(抑止力が生まれる)
弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 競業禁止条項の具体化と違約金設計

競業禁止条項は「できるだけ曖昧にしたい売り手」と「できるだけ広く定めたい買い手」の利害が対立します。交渉の結果として具体的な表現に落とし込むことが重要です。

会社法21条の競業避止義務(20年)は「特約がなければ」のデフォルトです。DA上の競業禁止条項はより具体的かつ強力なものを設計することが実務上の標準です。

違反の抑止力として違約金条項(損害の証明なしに一定額を請求できる)を設けることが有効です。金額設定は弁護士と相談してください。

失敗事例③:従業員・重要取引先の同意取得の失敗

ある介護事業の事業譲渡案件では、キーマンとなる介護福祉士3名がクロージング直前に「雇用条件の変更を受け入れられない」として退職しました。同時に、主要取引先(医療機関)との契約にCOC条項が含まれており、契約解除通知が届きました。結果として、譲渡後の事業の運営継続が困難となり、買い手が大幅な値引き交渉を求めるという事態に陥りました。

予防策

  • DDでCOC条項を有する契約を全件洗い出し、クロージング前に相手方の同意を取得する
  • キーマン従業員への雇用条件提示・確保をクロージング前提条件(CP条項)として規定する
  • 従業員の引き留め策(リテンションボーナス等)をDA上に組み込む
弁護士 川村将輝
弁護士 川村将輝のワンポイント解説 キーマン・COC条項・情報開示タイミングの管理

人材こそが事業価値の源泉であるサービス業・介護・ITなどの案件では、キーマン従業員の継続確保をクロージング前提条件として明記することが必須です。

COC条項の確認漏れは致命的です。基本契約・金融機関との融資契約・行政との指定契約まで、すべての重要契約を弁護士が精査する必要があります。

従業員への告知タイミングと内容は、守秘義務とのバランスを慎重に検討してください。弁護士と連携して告知計画を立案することをおすすめします。

まとめ

事業譲渡は、会社法・民法・労働法・許認可法制が複合する高度な法的取引です。M&A仲介会社やFAがマッチングや交渉調整を担う一方で、法的リスクの分析・契約書の設計・会社法上の手続管理は弁護士固有の業務領域です。両者の役割を明確に分担し、それぞれの専門性を最大限に活用することが、取引を成功させる鍵です。

弁護士は初期検討のスキーム選択から、法務DD・DA交渉・クロージング管理・PMI初期まで、一貫して依頼者の法的リスクをコントロールします。特に、会社法上の手続(株主総会決議・事前開示書類の備置・反対株主への対応)は厳格なスケジュール管理が求められ、弁護士のサポートなしには正確な対応が困難です。

弁護士費用は案件規模・依頼範囲によって異なりますが、法的リスクを見落とした場合の損失(損害賠償・訴訟費用・機会損失)と比較すれば、合理的な投資といえます。事業譲渡を検討している段階から早期に弁護士に相談することで、リスクの事前特定とコスト最適化が実現できます。まずは企業法務を専門とする弁護士への相談から始めることをおすすめします。

企業法務弁護士ナビでは、事業譲渡に詳しい弁護士を多数掲載しています。 初回相談無料やオンライン面談対応など、こだわりの条件を指定して検索することができるので、 まずは弁護士を探してみるところから始めてみましょう。

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川村将輝
2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。
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