株式譲渡は、会社経営権を譲渡する行為です。
基本的には、譲渡人と譲受人の合意により譲渡可能となりますが、会社法のルールに従った処理を行わないと譲渡の効力が否定されたり、会社に対抗できないということが起こり得ます。
この記事では、株式譲渡について簡単にご紹介します。必要書類や取引をする上での注意点なども解説していますので、株式譲渡を行うときの参考にしてみてください。
まずは株式の譲渡制限を確認する
会社の定款に株式の譲渡制限がついているかどうかで、株式譲渡の手続きは変わります。株式の譲渡制限とは、株式の買売に会社の承諾が必要になる取り決めのことです。
会社の定款に譲渡制限がある場合には、会社の承諾がなければ株式譲渡の効力を会社に主張することができません。
日本の非上場会社は定款に株式の譲渡制限がついているのが通常ですので、非上場会社の株を譲渡するにあたっては会社の承諾が必要になると考えるべきでしょう。株式の譲渡制限の有無については、会社の登記簿謄本で確認できます。
株式の譲渡制限の例文 |
株式譲渡の効力を会社に主張するには、株主総会の承認を受けなければならない。 |
株式譲渡の手続きの流れ
ここでは、会社の定款に譲渡制限がある非公開会社の株式譲渡の手続きの流れをご紹介します。
株式譲渡の手続きの流れ |
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①株式譲渡承認請求
株式譲渡承認請求とは、株式を取得する際にその会社の企業から承認を受けるための手続きです。決まった書式や手続はありませんが、会社に譲渡承認承諾書を提出する方法が一般的です。
譲渡する株式の種類と数、譲渡相手を記載した請求書を作成して、会社に提出してください。
<株式譲渡承認請求書(サンプル)>
株式譲渡承認請求書(サンプル)
株式会社アシロ ●●は、株式会社アシロの株式を下記の通りに譲渡する為、会社法第136条に則り、株式譲渡の承認を請求いたします。 記
1 譲渡する株式の種類及び数 平成●年●月●日 譲渡人(株主) (住所) 東京都新宿区●●●● (氏名) 匿名アシロ 印 |
②取締役会の開催(取締役会非設置会社の場合は株主総会)
株式譲渡承認請求が行われたら、取締役会(取締役会非設置会社であれば株主総会)を開催し、譲渡を承認するかどうかを判断します。
なお、これは必ずしも株式譲渡行為の前に行う必要はありません。譲渡後に取締役会(株主総会)の承諾が得られれば、譲渡の効力は会社に対抗可能です。また、会社側で株式譲渡の効力を争わないような場合は、譲渡承認決議が行われなくても、株式譲渡の効力が争われることはありません。
③株式譲渡契約の締結
株式譲渡は、譲渡人・譲受人の合意により株式を譲渡する取引行為です。そのため、当該取引行為について譲渡契約書を作成するのが一般的です。譲渡契約では、譲渡対象株の株式数、対価、その他譲渡にあたっての表明保証事項や前提事実などを合意するのが一般的です。
<株式譲渡契約書(サンプル)>
株式譲渡契約書(サンプル) 株式譲渡人である匿名太郎(以下「甲」)と、株式譲受人である匿名アシロ(以下「乙」)は、平成○年○月○日の臨時株主総会における株式譲渡承認決議に則り、甲が保有する普通株式○○株を乙に譲渡し、以下の通り契約する。 平成○年○月○日 甲 (住所)東京都新宿区○○ (氏名)匿名太郎 乙 (住所)東京都新宿区○○ (氏名)匿名アシロ |
④株主名義の書換
株式譲渡契約を締結し、譲渡が完了した場合、株式の譲渡人と譲受人は共同で会社に対して株主名簿の書換えを請求します。会社に株主の地位を主張するためには、株主帳簿に株主として記載されている必要があるからです。
なお、株式譲渡の承認を受けていない場合、当該名義書換を拒否される可能性がありますので注意しましょう。
契約書をご自身で確認していても、法的な専門知識がなければ、契約書の穴を見つけることができません。「こんな契約で譲渡するつもりではなかった…」とならないようにもリーガルチェックは不可欠でしょう。弁護士には、あなたの立場を考慮した契約書作成の作成を依頼することも可能です。
株主譲渡を無償で行う場合の手続き
無償の譲渡であっても、基本的な流れは変わりません。単に譲渡対価が0円となるだけです。
もっとも、無償譲渡の場合は贈与行為となりますので税務的な検討は必要となるでしょう。
株式譲渡の手続きに必要な書類
株式譲渡において一般的に必要となると思われる書類は以下のとおりです。
株式譲渡の必要書類 |
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上記でサンプルをいくつかご紹介しましたが、株式譲渡の書類に決まった書式はありません。なお、契約書の必要事項については以下の記事で解説していますので、詳細を確認したい場合はご参照ください。
株式譲渡を行う際の注意事項
最後に、株式譲渡の手続きを行う上での注意事項を2点ご紹介します。
株式譲渡の注意事項 |
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株券発行会社は株券交付が必要
現在は株券不発行会社が増えてきており、そのような会社の株式は譲渡人・譲受人の合意のみで株式譲渡は効力を有します。
しかし、古くからある会社で株券発行会社のままである場合、株式譲渡には株券の交付が必要です。このような場合に株券交付がないと株式譲渡の効力は否定されます。
株券発行会社か不発行会社かは、法人登記を見ればわかります。法人登記に「株券を発行する」と記載されている場合は、株券発行会社ですので上記の点に十分注意しましょう。
株式譲渡には税金が発生する
株式譲渡で譲渡益が発生した場合には、税金が発生します。譲渡益の計算方法は以下の通りです。
(1) 上場株式等に係る譲渡所得等(譲渡益)の金額の計算方法
総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=上場株式等に係る譲渡所得等の金額(2) 一般株式等に係る譲渡所得等(譲渡益)の金額の計算方法
総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=一般株式等に係る譲渡所得等の金額
譲渡益が発生した場合は、以下の税率で株式譲渡の税金の計算が行われます。
区分 |
税率 |
上場株式等に係る譲渡所得等(譲渡益) |
20%(所得税15%、住民税5%) |
一般株式等に係る譲渡所得等(譲渡益) |
20%(所得税15%、住民税5%) |
株式譲渡を無償で行う場合や、時価と大きく離れた金額で取引をする場合、税務上の問題が生じる可能性も考えられます。株式譲渡に臨む前に、税理士や顧問弁護士に相談しておくことをおすすめします。
まとめ
株式譲渡について簡単に説明しました。株式譲渡自体は単純な取引行為ですが、株式という会社の経営権を譲り受ける以上、慎重な対応を心がけたいですね。